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本編
39 淑女によるレクチャー 1
しおりを挟むリリィガーデン軍と合流したリーズレット達とコスモスが拘束されていた者達を開放した後、コスモスによるリーズレットの紹介が始まった。
「こちら……伝説の淑女であるリーズレット様です」
コスモスがそう紹介するが、ほとんどの者は信じない。いや、信じられないという表現が正しいか。
建国の母達が残した前時代の歴史に登場するリーズレットという名の淑女は200年以上前に死んだ存在だ。
死人が生き返るなどあり得ない。
「転生しましたのよ」
この言い分に対しても同様だ。転生者という存在は前時代では発見されていたものの、現代ではまだ未確認な存在だった。
だが、彼等は実際自分の目でリーズレットが敵兵を一瞬で始末する姿を目撃している。事実と荒唐無稽な説明が入り混じり、どちらが正しいのか判断がつかない。
「本当に本人なのか?」
そんな中、ブライアンはそっと小声でコスモスに問う。
「ええ。グロリア様の事を知っていました。髪の色や傷まで言い当てたので本物以外あり得ません」
グロリアの映った写真を見た事があるのはコスモスの家族、それと王室の人間だけ。
もしもリーズレットが本物と騙った一般市民であったり、敵兵が偽装している……なんて事は限りなく低い。
「どちらにせよ、王城に行けばわかる事です」
王城にいる女王と面会し、王室が守ってきた遺産へ続く扉が開けられれば。
「まぁ、そうだが……。まずはここをどうにかしなきゃならん」
空を支配していたドラゴンは殺せたものの、砦を一時的に占拠した敵兵によって味方が処刑されてしまった。東部戦線におけるリリィガーデン軍の数はもう1/4程度まで減ってしまっている。
「ブルーチームは……」
「……すまん」
特に敵から脅威の対象とされていたブルーチームは真っ先に処刑され、今や生き残っているのはコスモスだけ。
ブラックチームもドラゴンとの戦闘と処刑によって、ブライアンを含め3人しか残っていない。
「まずは情報を整理しましょう」
一時的に戦線離脱していたコスモスは次の行動に移る為にも状況整理から始めようと提案。
そこにリーズレットも参加する形となった。
「こちらの数は300程度。先にある丘を確保して連邦軍の基地に対して有利な地形を得るのが任務でした」
リリィガーデン軍が東部戦線で行っていた作戦内容を何も知らぬリーズレットに説明。
300名というとても少ない数で丘を確保したとしても、連邦軍が再び準備を整えてやって来れば抑えきれない。
自軍の増援を待とうにも時間は無く、同時に南北戦線を維持するのに人員を割いている事もあって簡単には望めない。
さて、どうすれば良いか。ディスカッションがスタートした瞬間、リーズレットが口を開いた。
「何を言っておりますの? 丘を確保せずに連邦軍の基地を襲撃した方が話が早いではありませんか」
そもそも、話し合いをする意味があるのか? と言いたげにリーズレットは答えを出した。
「え? でも、連邦軍の基地には我々の10倍以上の兵士と兵器が……」
「だからどうかしまして?」
数の差を口にして難しいのでは、と言った軍人に首を傾げるリーズレット。
「だからって……我々を、我々の仲間を無駄死にさせるつもりですか!?」
さすがにカチンときたのか、軍人は声を荒げて反論する。
彼の意見は現代においての戦術論としては尤もな意見だろう。戦争において数の差というのは大きな要因となる。
だが、リーズレットにとってそれは言い訳にしか聞こえなかった。
「そう。では、貴方はここでガタガタ震えていなさい。無駄に死にたくないと泣き喚いていればよろしくてよ」
反論した軍人に対して、リーズレットは「やれやれ」と首を振る。
「祖国の為に死ねる者だけ私に着いて来なさい。私欲ではない他の何かの為に戦う事を無駄と言わない者だけ着いて来なさい」
彼女は真剣な表情で言葉を続ける。
「無駄死にかどうかは貴方達が決める事ではなくってよ。他人が貴方達の行動を見て、聞いて、決める事ですわ」
祖国の為に戦って、愛すべき者達の為に戦って、それを無駄死にだと言う者がいるだろうか。
そんな事を言う輩は、そもそも違う。範囲外のクソ野郎に過ぎない。耳を傾ける価値すらない愚者である。
「常に前へ。貴方達の国を作った女性達はそう言っていたのではなくて? 私は彼女達にそう教えましたわよ」
淑女たる者、常に前へ。
伝説の淑女が見習い淑女達へ教えた言葉の1つ。建国の母達が残した伝説に登場する最初の一文。
「恐れるな、地獄を創れ……」
ブライアンが最初の一文に続く、次の文章を口にするとリーズレットはニコリと笑う。
「よくできました。貴方はよきジェントルマンになれそうですわね」
「ハッ! 恐縮です、マム!」
ブライアンの体と口は自然に動き、敬礼と礼を行った。
「私がレクチャーして差し上げましょう。理想的な地獄の創り方を」
さぁ、教えてあげよう。前時代で彼女が敵国に対して行って来た常套手段を。
-----
リリィガーデン王国とベレイア連邦の国境先にある連邦基地。
最前線を支える要であり、多くの物資や兵器が運び込まれる場所。広さもあって、最前線に派兵された連邦兵士達が生活を行う唯一の場である。
基地周辺は常に警戒されており、多くの連邦兵が基地周辺1キロ圏内を巡回していた。
それは今日も変わらない。4人1組の隊が四方向を交代制で見回って、敵の襲撃に備えている。
では、まずはステップ1。
「西側、異常なし」
巡回する兵士の1人が決められたルートを巡回し終えると、通信機で基地へ連絡を送った。
「さぁ、戻ってシャワーを浴びよう」
「あ~。腹が減ったぜ」
あとは基地へ戻るだけ。
戻ったら熱いシャワーを浴びて、飯を食いながら一杯飲む。最前線に派兵された兵士達の唯一の楽しみだ。
「補給が終わったらまた前線に行くんだろ?」
「ああ、ドラゴンが堕ちたって話だ。奴等、新しい兵器でも作ったのか?」
「全く、こんな戦争はさっさと終わりに――」
雑談しながら基地へと足を向け始めた時、仲間の1人が何かを言いかけた。
「あ? なんだ……よ?」
先ほどまで声を発していた仲間が見当たらない。4人1組の隊がいつの間にか3人に。
「警戒し――むぐぅ!?」
消えた仲間を目で探していた連邦兵は背後から口を押さえられ、背中に硬い物を押し付けられた。
横目で仲間を見ると、横にいた他の2人も同様に拘束されているのが映る。
「喋るな。ここで死にたくなければ黙って歩け」
背後から聞こえる声は男のもの。次いで、撃鉄を起こす音が聞こえる。
背中に当てられている物が銃であると分かった3人の連邦兵はブラックチームのメンバーに腕を拘束され、基地から離れた場所に連行された。
「確保しました」
「よろしい」
4人の連邦兵が連れて来られたのは森の中。顔を向けると他の連邦兵――同じく巡回任務に出ていた別の隊の4人が拘束されているではないか。
ブラックチームが連邦兵から通信機を奪い、リーズレットの前に跪かせた。
「俺達は屈しない!」
「情報なんて吐かないぞ!」
彼等は連邦軍の内部事情を得る為に尋問されると思ったのだろう。
だが、違う。彼等の前で「んふふ」と笑ったリーズレットが考えている事は別の事だ。
「ええ。構いません。別に情報なんていりませんわ」
「え? じゃあ――」
何の為に?
そう疑問を抱いた連邦兵にリーズレットは顔を近づけて言った。
「爆弾になってもらいますわ」
彼女はコスモスから遠隔起動装置が埋め込まれた爆弾を受け取ると、まずは3人の口の中に突っ込んだ。
「むぐぅー!」
腕を拘束された連邦兵は自分の口に詰め込まれた爆弾を取り出すことができない。
その状態で彼らを立たせ、リーズレットは彼等に言った。
「さぁ。残り時間は少ないですわよ。基地にいるお仲間に解除してもらいなさい?」
彼等のケツを蹴り上げて、基地へと走らせる。
そう。ラインハルト王国で見せたロイヤルファッキンボムと同じ方法だ。
ロイヤルじゃない分、数を多く用意できるのがこちらの利点である。
「走って行きましたね」
リーズレットの隣に立ったコスモスとブライアンが敵兵を見送ると、
「では、私達も向かいましょう。ああ、走らなくて結構。私達は優雅に向かいますわよ」
敵兵を追いかけようとしたリリィガーデン軍を手で制止して、あくまでもゆっくりと後を追えば良いと言った。
何たって向かう先はわかっている。彼等が基地に入った瞬間に間に合えばよい。
リーズレット達は拘束している残りの5人を連れて基地が見える場所まで向かう。
すると、丁度走らせた3人が基地の中に入って行く光景が見えた。
基地の中からは「大丈夫か!?」と心配する声が聞こえる。仲間が拘束された者達を見つけたのだろう。
「はい、ここでドーン!」
基地の中でボン、ボン、ボン、と3連続の爆発が起きた。
瞬間、敵兵の悲鳴と戸惑う叫び声が聞こえて空には黒煙が上がる。
ワーワー、ギャーギャー叫ぶ中に泣き叫ぶような声と発狂するような声すらも含まれていた。
そりゃそうだ。
走って来た仲間が爆発する光景を目の前で見れば誰でも「これは悪夢だ」と叫ぶだろう。
巻き込まれて誰かが負傷すれば猶更だ。
「おーっほっほっほ! 豚共の汚い悲鳴がよく聞こえますわね! さぁ、まだまだいきますわよォ!」
リーズレットは爆弾を受け取ると更に3人の口へと突っ込んでケツを蹴り上げる。
自分達も基地の中で爆発させられるのか、と結果を知る連邦兵の足は動かない。
「ほら、走って下さいまし。それともここで死にたいのかしら? 基地に行けば仲間が助けてくれる可能性がございましてよ?」
「う、むぐうー!」
口に爆弾を突っ込まれた連邦兵は僅かに残された希望に縋るように走り出す。
全力ダッシュで基地に入って行ったところで――
「はい、残念ですわねェ!」
再び3連続の爆発音と同時に、基地から聞こえる悲鳴の量が増えた。
だが、彼等の悪夢は終わらない。
「次は場所を変えますわよ」
最後の2発は場所を変えて。
今まで西側からだったのを、基地南側に位置を変えて再度走らせる。
警戒していた西側とは別方向で再び仲間が目の前で爆裂。基地の中は混乱と恐怖に飲み込まれ、連邦兵達の精神は確実にダメージを負っていた。
「おーっほっほっほ! やはりファッキンボムは使い易くてたまりませんわァー!」
敵への恐怖支配。これまで2つの国で行って、見事に敵を打ち砕いたリーズレットの常套手段。
「……あはは」
「なんと……」
容赦無い作戦で基地の中を混乱させるリーズレットにコスモスとブライアンは口角を引き攣らせた。
笑うリーズレットに合わせるのが精いっぱい。一般兵の中には「イカれている」と感想を抱いた者も少なくはない。
生温い戦争をするリリィガーデン軍に地獄を創る為のファーストステップを披露すると、リーズレットの高笑いにぶるりと誰もが身を震わせた。
「さぁ、豚共が混乱している今がチャンスですわよ」
ファッキンボムで敵を恐怖のどん底に叩き落したら、いよいよ次の段階。ステップ2の開幕である。
リーズレットはリリィガーデン軍に銃を持て、と命令した。
「さぁ、貴方達! 地獄のパーティー会場は用意しましたわよ! 祖国の為に死になさいッ! 死ぬ前に最低でも10人は殺してから死になさいッ! 貴方達が全員死んでも、残った豚は私が責任を持って殺してあげますわよッ!」
銃を手にしたリリィガーデン軍を率いて先頭を走るリーズレットは両手に持った手榴弾のピンを口で抜く。
「おーっほっほっほ! さぁ、さぁ! 殺せッ! 殺せですわよッ! パーティータァァァイムッ!!」
基地の中に手榴弾を放り投げ、アイアン・レディを抜いたリーズレットは基地の中へ突撃していくのであった。
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