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本編
31 魔法少女を絶対殺したい淑女
しおりを挟む内部で起きた爆発は炎と黒煙を夜空に向かって巻き上げた。
同時に燃える倉庫の屋根が吹き飛び、辛うじて形を残していた壁も遂に崩れてしまう。
燃える倉庫の内部から体を丸めて飛び出して来たのは赤いドレスを着たリーズレットだった。
ゴロゴロと地面を転がり、ドレスを汚しながらも体勢を整えて完全に炎に包まれた倉庫を見る。
リーズレットの目の前にはあるのは炎の塊と言っていいだろう。倉庫の壁は完全に崩れ、全てが燃え尽きようとしていた。
腹の下でファイアクラスターマインが爆発した魔法少女はどうなったのだろうか。相手の死亡確認が出来ていないリーズレットはその場で燃える倉庫を見続ける。
最後まで倒れずに耐えていた柱が遂に力尽きた。内側に倒れた柱が地面に当たると、炎の柱と大量の火の子が夜空を背景に舞う。
全身に防御魔法を施せる魔法少女も流石に死んだだろうか。数分待っても反応が無く、この戦いに終止符が打たれたかと思われたその時。
炎の中に影が見えた。
のそのそと動くそれは炎の外まで歩き出て、影の正体が魔法少女マキである事をリーズレットに示す。
「こ、この……!」
マジカルビッチは生きていた。
だが、着ていた白いブラウスは大半が焼け焦げて、中に着ていたワンピースタイプのインナーとボロボロになったミニスカート姿。
華奢な体には灰と煤で汚した黒い跡と、若干の切り傷が。どうやら着ていた服にもある程度の耐性はあったようだ。
絞められていた右腕が痛むのか、左手を右腕の肘部分に添えながらゆっくりと歩きながらリーズレットへの悪態を漏らす。
「まぁ。あの爆発にも耐えられますのね。やはり、直接額に銃弾をぶち込まなければ死なないのかしら?」
炎の中から現れたマキへ再びアイアン・レディを向けるリーズレット。
防御魔法というのは確かに強力で厄介だ。だが、全てを無効化して術者を無傷に……とはいかない様子。
「この、クソ女! よくも――」
お気に入りの服をボロボロにしてくれたな、とマキが言い切る前にリーズレットはアイアン・レディのトリガーを引いた。
「ひゃあ! ちょっと! 聞きなさいよ!」
マキは飛んできた銃弾を防御魔法で受け止めながら声を荒げるが、
「おーっほっほっほ! もっと愉快な声を聴かせて下さいましィー! 踊れ、踊れェですわよォ!!」
リーズレットはマキの人生2周目ババア煽りをまだ根に持っている……というよりは、殺すまで許す気はないようだ。
リロードしたアイアン・レディのトリガーを引きまくり、ダメージを与えられなくとも狂気と恐怖を着実に与えていく。
対し、マキの方はスティックを紛失してしまって遠距離攻撃が出来ない状況。
人体発火の攻撃手段もあるが、あれは相手の体に触れていないと使えない。
防御魔法は発動しているので銃をバンバン撃って来る中を行くのは可能だが、また体術で痛い思いをしたくないという考えがチラついて躊躇してしまう。
「もう、鬱陶しい!」
故に彼女は逃げを選んだ。
マキは左腕を空へ向ける。
すると、空間が割れて中から箒が現れる。箒に跨ったマキは宙に浮かび、リーズレットを見下ろした。
「今日のところはこれで勘弁してあげる! 次は絶対にお姉様を殺すから!」
一度退いて、次に会う時はもっと戦う為の魔導具を用意してから臨もう。
空飛ぶ箒で飛んで逃げるという圧倒的な手段を持っているからこそ、一方的な考えを相手に押し付けられる……はずだった。
「ざっけんじゃねえですわよッ! コロスゥ!! 絶対にコロスゥ!!」
まさか空を飛んで逃げるなんて、神が許してもリーズレット様は許さない。
浮いているマキに向かって乱射するリーズレット。
空中を動き回って弾を躱すマキだったが、箒の端っこに銃弾が掠る。
「あッ!?」
掠った事でバランスを崩し、落ちそうになったマキが慌ててバランスを取る。
どうやら空飛ぶ箒には防御魔法は適応されないようだ。ならば、あれを破壊できれば……と思うが、ハンドガンでは少々厳しい。
何か手はないか、と考えているとププーと魔導車のクラクションが聞こえた。
「お嬢様~!」
音の方向に顔を向ければキャンピングカーを運転するサリィがいた。
彼女は運転できなかったはずだ。しかし、健気にもリーズレットの力になろうとロビィの助言を聞きながら運転している様子。
リーズレットへと向かう途中、ハンドル捌きやスピード感覚が荒くて建物にぶつかった。
だが、特殊合金製の車体には傷一つ付かない。むしろ建物の方が派手にぶっ壊れた。
「良いところに来ましたわ! サリィ、あの空飛ぶビッチを追えまして!?」
「はいですぅ!」
「スピードをガンガン出しなさい! 建物にいくらぶつかっても壊れはしませんわよ!」
「はい! 頑張ります!」
リーズレットが助手席に乗り込みながらそう言うと、運転席でハンドルを握るサリィはニコニコ笑顔で頷いた。
すると、サリィは言われた通りにアクセル全開。ドア・ノッカーを起動して建物を粉砕しながら大回りに転回してマキを追い始めた。
「ロビィ、アンチ・マジック・バレット――『AMB』はございまして!?」
アンチ・マジック・バレット――それは防御魔法で銃弾を無効化する対魔法使い用に開発された特殊弾。
嘗て、転生者を多く抱え込んでいた帝国が作り出した特殊弾であるが、時代が進むと同時に対火器用防御魔法の位置を確立した防御魔法への対抗策としてアイアン・レディでも生産を行っていたのだが……。
『申し訳ありません。AMBは現在在庫切れです。あれはDr.アルテミスでなければ作れませんので』
ロビィにインストールされたソフトウェアとキャンピングカーに搭載された汎用弾生産用の魔導具では作れず、在庫が無いと告げられる。
作れないのではしょうがない。リーズレットは別の手段に切り替える。
「ならば、あのマジカルビッチを叩き落としますわ! 連射できる武器をお寄越しなさい!」
『ウィ、レディ』
箒に乗ったマキはメインストリート沿いに北上。
それを追うサリィもメインストリートに躍り出る。躍り出た時に店の前にあった屋台をぶっ壊し、路肩に止まっていた馬車の荷台を吹き飛ばす。
軽い事故が起きても止まらない。暴走する魔導車はメインストリートのど真ん中を走り始めた。
『レディ、こちらを』
最中、ロビィが持ち出したのはミニガンだった。
受け取ったリーズレットは「よいしょ」と窓に尻を乗せて身を乗り出しながらミニガンを構える。
車内に残した足で器用にバランスを取りながら銃身を空にいるマキへ向けた。
「マジカルビッチがァー!! 堕ちろってんですわよォー!!」
ヒュィィィンと回転してアイドリングを始める銃身。アイドリングが終わるととんでもない量の弾がマキに向かって放たれた。
「嘘でしょ!?」
地上から放たれた銃弾を空中でロールしながら躱すマキ。その姿は護衛艦の対空射撃を避ける戦闘機のようだ。
しかし、運悪く箒の先端に一撃喰らってしまう。ダメージを受けた箒は飛行不能にはならなかったものの、煙を上げながら高度が徐々に落ちていく。
「おーっほっほっほ!! 見てごらんなさい!! マジカルビッチが愛用する空飛ぶコケシのケツから煙が出ていますわよォ!!」
「ああ、もうッ!」
高度が落ちて、最終的な高度がリーズレット達とほぼ水平になったマキ。だが、スピードは落ちていないので、まだ距離があるのが不幸中の幸いか。
一方的に後ろから撃たれ続けるマキにイライラが募る。そんな彼女の前にバリケードを設置しつつ、装甲魔導車を停車させて道を塞ぐ連邦軍が見えた。
恐らくマギアクラフト連邦支部が事情を知って連邦政府に要請したのだろう。
「魔法少女殿! ここは我々がッ! 官邸までの道を封鎖します!」
マギアクラフトが軍を操るなど造作ない。連邦政府を代表する大統領は多額の支援してくれるマギアクラフトを守る義務があるのだから。
マキは道を塞ぐ連邦軍の間をすり抜け、すれ違いざまに連邦軍指揮官が叫んだ言葉通りに大統領官邸がある方向へ向かう。
すり抜けた先にはメインストリートの北側にある官邸まで、続々と現れた軍人と装甲魔導車で封鎖されていくのが見えた。
後ろを振り返れば魔法銃を構えてリーズレットを撃とうとする軍人達の姿や、装甲魔導車に装備されている機関銃が稼働する動きが見える。
これほどの分厚い封鎖態勢だ。流石のリーズレットも足止めされて追って来れまい、と安堵の息を吐く。
あとは官邸まで逃げてから軍の支援を受けつつ、マギアクラフトの本部まで帰還すれば良い。再び顔を前に向けた時――後方で大爆発が起きた。
「え!?」
後ろを振り返れば道を封鎖しているはずの装甲魔導車と軍人が、爆発と共に宙を舞っているではないか。
1度だけではなくドカン、ドカン、と何度も爆発が繰り返される。
「ファァァック!! 邪魔ですわよ、クソブタァァァッ!!」
怒気の含まれたリーズレットの声に引かれて視線を向ければ、彼女の手にあったミニガンがロケットランチャーに替わっていた。
「あはは! 運転って楽しいですね~!」
加えて、横転した装甲魔導車の車体にドア・ノッカーを突き刺した状態でアクセル全開爆走前進する笑顔のサリィ。
車体前方に突き刺さった装甲魔導車が地面で削られて火花を散らし、ブルトーザーのように軍人と封鎖に使っているバリケードや魔導車を薙ぎ倒しているではないか。
「コロスゥ!! 絶対にぶっ殺しますわよ、ビィィィィッチ!!」
道の封鎖なんてもので淑女は止まらない。止められない。
ロケットランチャーの弾がメインストリートを封鎖する障害物を吹き飛ばし、生き残った有象無象共をサリィが轢き殺していく。
まさに地獄。今、ベレイア連邦首都は地獄に変わった。
「もういやあああ!!」
執念深いリーズレットの雄叫びを聞いたマキの心は今にも折れそうだ。
彼女は涙目になりながら大統領官邸へ飛ぶのであった。
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