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本編

9 地下へ

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 ホープタウンから出発して3日。ここまで朝昼晩の食事休憩以外は常に前進し、車中で仮眠を取ってまた前進。

 3日目の昼にようやく遺跡らしき建造物を視認できる距離までやって来た。
 
 だが、ここで足止め。理由は遺跡の周辺に王国軍がわんさかいるからだ。そりゃもう、わんさか。

 王国軍は簡易宿舎まで建設して、ちょっとした基地のような風景を作り上げていた。

 簡易宿舎やテントの周辺にはゴミや物資の入った箱が散乱して、洗濯物が干している場所まであった。長くこの場に駐留する男達の生活感がモロ見えである。

 そんな現場を離れた場所にあった林の中に魔導車ごと身を隠し、王国軍と王国の技師らしき者達が作業する様子を双眼鏡で覗く。

「やっぱり……」

 リーズレットが確信を持ったように、王国が見つけた遺跡とはアイアン・レディの拠点だった。

 ここは山を掘って作られた旧軍施設で、元々は放棄されていた掩体壕バンカー

 そこを徐々に改造しつつ、最終的には地下に拠点を作ったのがアイアン・レディ帝国領土内拠点バンカーの正体であった。
 
 ただ、時代が流れた結果だろうか。山は崩れて形状が変化している。

 入り口であるかまぼこ型のトンネルも半分は露出・崩壊して中にあったアイアン・レディの物資倉庫兼地下入り口がある車庫が外から見えてしまっている状態だ。

 地下のアイアン・レディ拠点をまだ見つけていないのか、王国軍に囲まれた技師達は倉庫の電子錠を開けようとしている姿が見える。

「最終的にどうしていたかしら?」

 地下の収納スペースが無くなって、資材置き場にアイアン・レディの物資も一部置いていたような? と当時を思い出す。

 失敗作の車や金属類の素材も、もしかしたら置いてあるかもしれない。

 異世界技術を駆使して作られた特殊金属も今の時代ではオーバースペックになるだろう。リーズレットは金属片1つでも渡す気は無い。

「さて、どうやって地下まで……」

 問題はどうやって地下の拠点施設まで辿り着くかだ。

 地下の入り口は倉庫の中に1つ。倉庫よりも奥側に1つ。緊急脱出路も用意してあるが、今は山が土砂崩れを起こしたであろう最も外見を変えた部分にあった。

 という事は、リーズレットが地下に行くにはあの集団の中を突っ切らなければならない。

 どうしましょうか。頬に指を当てて悩むリーズレット。

 こちらの装備はハンドガン型の魔法銃。手作り爆弾が少々。魔導車が一台。

 対し、向こうの数は技師を含めれば2000人は超えているだろう。ウジャウジャいる。

 王国軍の兵士は腕にサブマシンガン型らしき魔法銃を持ち、狼型の魔獣を従えて警備をしていた。

 リーズレットは手札が少ない。応戦も出来るが、さすがにハンドガンだけでは時間が掛かる。

 チマチマやっている間に扉のロックを解除されたら最悪だ。

 基地を見ながらルートを考えていると、サリィの耳がピクピクと動く。

「お嬢様。誰か来ます」

 獣人族の持つ鋭い聴覚がこちらに向かって来る足音を捉えた。リーズレットとサリィは魔導車から離れた場所にある茂みに身を隠した。

 やって来たのは周囲をパトロールする王国軍の兵士だった。サブマシンガン型の魔法銃を装備し、もう片方の手にはリードで繋がった狼型魔獣を連れていた。

 木の枝や落ち葉で隠しておいた魔導車を狼型魔獣が見つけて吠えた。

『ん? 魔導車?』

 王国軍兵が魔導車に近づき、ボネンネットを触って熱を確認。車体の劣化状況も併せてごく最近に停車させた物だと気付いたのだろう。

 兵士がポケットから通信機を取り出した瞬間、リーズレットは素早く茂みから飛び出した。

「な!?」

 飛び出してきたリーズレットに気付き、銃を構えようとするが腕を弾かれる。

 首に打撃を食らい、息が詰まったところを顎に横から掌底。足払いで地面に倒し、首を踏み潰して骨を折った。

 流れるように行われた行動は完全なオーバーキルである。

 主人が殺された事で魔獣も吠えようとするが、リーズレットが向けた鋭く殺意に満ちた目線を受けてすぐさま腹を見せた。

「わ、わふ~ん……」

「よろしい」

 さすが動物。人間よりも遥かに賢い。

 服従する狼魔獣を横目にリーズレットは兵士からサブマシンガン型の魔法銃とマガジンを奪う。

 ハンドガン以外の銃は手に入ったが……事態はあまり変わらない。ほんのちょっぴりマシになった程度だろう。

「んー」

 リーズレットは再び頬に指を当てて可愛らしく悩んだ。

 突破する以外に案が思い浮かばない。

「サリィ、貴方は足に自信がありまして?」

「足……かけっこですか?」

「ええ」

 リーズレットの質問にサリィは腰に手を当てながらムフンと胸を張った。

「お嬢様。私は灰狼族ですよ! かけっこには自信があります! お嬢様よりも速いんですから!」

「まぁ。そうでしたのね。頼もしいですわ」

 リーズレットはサリィの頬を撫でて微笑んだ。彼女がここまで言うなら信じよう、と作戦を決めた。

「サリィ、あの中を突っ切りますわよ」

 リーズレットは基地を指差す。

「あの中……あの王国軍がいる場所をですか?」

「ええ。入り口付近で相手の気を引きます。その隙に奥まで駆け抜けますわよ」

 リーズレットは指で走り抜けるルートをなぞってサリィに教える。

「でも、兵士がいっぱいですよ? 銃を持っていますよ?」

「大丈夫ですわ。遮蔽物を壁にして突っ切ります。邪魔者は全員、私が殺しますわよ」

 そう言って、リーズレットはサブマシンガンの銃口を上に向けながら微笑んだ。

 彼女は1度人生を全うした女性であるが、ここでもう一度初心に帰ろうと思ったのである。


-----


 リーズレットは魔導車のエンジンをスタート。アイドリング状態にしてボンネットの中に手作り爆弾を2個ぶち込んだ。

 あとはどうするか? 

 簡単だ。アクセルペダルを踏み込んだ状態で固定して基地まで突っ込ませる。

「ん? おい!? 何だ!?」

 基地の入り口付近、横っ腹から突っ込んで来る魔導車に驚く兵士達。

 中で運転しているであろう人物を撃ち殺そうと運転席を撃つが止まらない。そりゃそうだ。誰も乗ってないのだから。

 ボンネットにも命中するが、狙い所が悪く中の爆弾を射抜けなかったようだ。

 そのままの勢いで突っ込んで来た魔導車は基地の中にあった倉庫の壁に激突して大爆発を起こした。

「Foooo!!」

 入り口付近が大爆発して、警報のサイレンが鳴り響く。多くの兵士は爆発現場に走って行った。

 その隙に潜入したリーズレットとサリィは地下の入り口を目指して走る。

「なッ!? 待て! 貴様!」

「おーっほっほっほ! どけどけ、ですわよ~!」

 タタタタ、とサブマシンガンを撃って兵士の頭を潰れたミートパイの中身に変えた。

 銃声を聞いた兵士がリーズレットの姿を視認すると、追いかけながら銃を撃って来る。

 リーズレットとサリィはなるべく建物などの遮蔽物を壁にしながら進み、後ろから追って来た者はリーズレットが狩る方法で直進。

「はわわ! はわわ~!」

 銃弾が飛んで来る中を必死に走るサリィ。さすが淑女の右腕だ。素晴らしい脚力で前進を続け、獣人族が持ち合わせる野生の勘で銃弾を避ける。

「ファッキンサノバビィィィィッチッ!!」

 タンタカ、タンタカと好き放題撃って来る豚共にキレたリーズレットが手作り爆弾を投げた。

 ドカンと爆破して豚がバラバラになりながら空を舞う。

 だが、王国軍も本気を出した。軍用魔導車に取り付けられていた魔法銃式の軽機関銃をリーズレット達に向けて連射。

「チッ!」

 さすがのリーズレットも舌打ちを鳴らす。

 サブマシンガンと軽機関銃では連射力もパワーも違いすぎる。どうにか射手を撃って牽制するが、他の王国兵もリーズレットに気付き始めて続々と集まって来た。

「サリィ、GOGOGO!!」

 まだ戦闘慣れしていないサリィを先に行かせ、リーズレットは遺跡の入り口――崩壊したバンカーの壁に隠れながら応射を続ける。

「お嬢様! 奥まで来ました!」

 バンカーの奥からサリィの声が聞こえた。最奥まで辿り着いた事を確認したリーズレットは胸の谷間から最後となる手作り爆弾を取り出して投擲。

 爆発に巻き込まれた王国兵の悲鳴が響く。

 だが、1発だけではそこまで損害を与えられない。まだ生き残っている銃座でトリガーを引く軽機関銃士からの攻撃が続く。

「ワッタ、ファァァック!!」

 サブマシンガンを撃ちながら弾が飛んで来る嵐の中を走った。途中でスライディングしながら、遮蔽物を移動して奥まで辿り着く。

 今は見逃してやろう。だが、必ず殺す。そう思いながらリーズレットは地下入り口を偽装しているマンホールの蓋を開けた。

 開けると電子錠付きのハッチが現れる。中の施設が生きていれば電子錠のパスを入力すれば開く。

 開かなければ銃という名の魔法の鍵でこじ開けるしかない。

 魔法の弾がバンカーの中まで飛んできて、壁に当たる音が響く中でリーズレットは電子錠を起動する。

 ピッと音がして起動した。まだ施設は生きている。生前に設定されていたパスを入力すると、ピーと音が鳴ってロックが解除。

 だが、開くまでに時間が掛かる。

 サリィの頭を抑えて体勢を低くしつつ、壁に当たって弾ける魔法の弾を睨みながらギギギとゆっくり開くハッチを待った。

 壁に魔法の弾が直撃する音を聞きながら数分待つと、ようやくハッチが開いて地下へ続く梯子が見えた。

「サリィ! 降りますわよ!」

「はい!」

 リーズレットはサリィを先に中へ入れて降りるよう指示を出す。

 自身も中に入ってハッチを閉じた。
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