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2章

第56話 次の旅へ

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 鎮静の儀式から二日後、遂に俺達は旅を再開することとなった。

 俺とシエルが準備を終え、ララの家を出るとダークエルフ達に囲まれる。

 彼らからは助力への礼を告げられ、仲良くなった面々と握手を交わしていく。

 彼らとの挨拶を終えると、最後にララが封筒を差し出した。

「これが手紙だ。これを渡せば力になってくれると思う」

「ララ、色々ありがとう」

 隣国『マーレン王国』に住む二人目の子孫への紹介状代わりとなる手紙を受け取り、ジャケットの内ポケットへと仕舞い込んだ。

「本当に集落は大丈夫か?」

 旅を続ける気ではあるが、度重なる被害を受けた集落が心配なのも事実。

 集落の状態が落ち着くまで滞在する気でもあったのだが、逆にララから「早く旅を終わらせろ」と言われてしまった。

「問題無い。もうすぐケンスケも顔を出すだろう」

 弟子である彼をコキ使いつつ、今回の襲撃に関する謎を解くと彼女は言った。

 彼女の言う『謎』とは、傭兵達の襲撃に関することである。

「魔法が無力化された理由と森で迷わなかった理由……。これらは早急に解き明かさねばな」

 これらの謎を解く鍵はアロッゾが所持していた物の中にあるだろう、と彼女は睨んでいるようだ。

 実際、鎮静の儀式が終わってから所持品を改めて調べ始めると数点の遺物を所持していたことも判明した。

 彼女は知り合いにも助力を乞い、これら遺物の謎を解明していくという。

「シエル、練習を怠るな。何か困ったことがあれば、いつでも戻って来ていいからな?」

「ララ、感謝致しますわ」

 二人は笑顔を浮かべたあと、互いに抱きしめ合った。

 これで本当にお別れだ。

 色々と想定外な事件が起きたものの、集落での生活は悪くなかった。

 むしろ、穏やかで快適だった日々の方が多かったと思う。

 ……全てが終わった時、俺はどうなっているだろうか? 穏やかな日々が送れるようになっているだろうか?

 だとしたら、長閑な田舎でゆっくり生きるのも悪くないと思う。

 そんなことを考えていると、シエルと別れの挨拶を終えたララの顔が俺に向けられる。

 彼女は片方の口角を上げ、釘を刺すように言うのだ。

「ルーク、約束を忘れるなよ」

「……ああ」

 あの日以降、彼女が迫って来ることは無くなった。

 ただ、今回のように度々「約束」について口にする。

 彼女が「早く旅を終わらせろ」と言ったのも、これに関係しているのだろう。

 男としては名誉なことであるが……。

「じゃあ、行くよ」

 過った間違えを振り切るように、俺はララに「また」と告げた。

「ああ、またな」

 いつかの再会を約束して、俺達は案内役と共に歩き出す。

 森の西側出口で案内役と別れ、再び俺とシエルの二人旅が始まる。

「次はマーレン王国でしたわね?」

「ああ、今日は国境手前の街まで行こうか」

 越境前に街で準備を行い、それから越境する。

 これはトーワ王国を出た時と変わらない流れだ。

「越境後は南下するよ。目的地である『バイス領』まで何日掛かりそうかも調べようか」

 次の目的地はマーレン王国南部にあるバイス領だ。

 そこにはポアンと旅を共にした三人目の仲間、元盗賊であるロジーの子孫が住んでいるという。

 ララとは数年に一度近状報告を行う仲ということで、彼女から受け取った手紙を渡すついでに情報を得るつもりだ。

「ただ、気になるのは……。ロジーの子孫は領主だったという話なんだよな」

 元盗賊のロジーもキキと同じく、ポアンと別れてからは故郷に戻った。

 そこで故郷の復興を行い、その功績を認められて貴族位を賜る。故郷の土地を治める領主となったようなのだが。

「ロジーの家名は『モルテン』だが、今は『バイス』という家名に変わっている」

「土地を治める領主が変わったのはどうしてなのでしょう?」

「さぁ……?」

 そこが分からない。

「でも、普通は貴族位を捨てることなんてしないんじゃないか?」

「そうですわね。貴族は自分達の家を守るために必死ですもの」

 ララも近状報告の手紙に『貴族位は捨てた』という簡単な報告を受けただけらしいし。

 貴族から平民に戻ったことには、何か理由があるのだろうか?

「下位貴族なんて必死ですわよ。それこそ、貴族位を剥奪されないために何でもしますわ」

 シエルは何度も「あり得ない」と口にする。

 彼女の心境を考えれば、ロジーの子孫がとった行動は心底理解できないだろう。

「まぁ、行ってみれば分かるか」

 ララの協力を得て新たな情報も得られたことだし、次で大きく進展させたい。

 期待を胸にしつつ、街道を西へ向かい続ける。

「最後に刺身が食べたかったですわ」

「ああ、確かに。名残惜しいね」

 ヴェルリ王国と同じく大きな港を有するマーレン王国でも刺身が食えるのだろうか?

「ただ、次の街は川魚料理が有名らしいよ」

「それは是非食べないといけませんわね」

 シエルは目を輝かせつつ、持っていた杖を大きく掲げた。

「マーレン王国でも美味しい物をたくさん食べますわよー!」

 君、旅の目的が料理巡りになっていない?

 そうは思いつつも、俺も「食うぞー!」と大きく腕を上げた。


 ◇ ◇


 同日、ヴェルリ王国王都にケンスケの姿があった。

 彼はルークと別れたあと、闇商人の情報を追って北上していたのだが、途中でルークからの伝言を受け取ったことで進路を変更。

 再び南下してリョクレンの森を目指す。

 途中で魔物の討伐を行いながら王都に立ち寄ったのだが、王都でもちょっとした騒動に巻き込まれてしまう。

 一緒にいたフェネリが不良冒険者に絡まれ、ナンパされ、やり返したフェネリと乱闘になって……と、喧嘩に発展した。

 街中で派手に暴れたフェネリは騎士に逮捕されそうになってしまうが、ここでケンスケ達を助ける人物が現れたのだ。

 二人を助けた人物の名は『ネロ』という青年だった。

 後ろで結んだ白髪が特徴的な、ケンスケと同年代と思われる冒険者だ。

 彼はボコボコにされた冒険者を指差し、騎士に「こいつらは他の冒険者から金品を奪っていた」と証言。

 悪事がバレた冒険者は騎士に連行され、フェネリは逆に「ご協力ありがとうございます」と感謝されることになった。

「いや、本当に助かったよ」

「いえいえ」

 ケンスケは証言してくれたネロに感謝の印と食事を奢り、三人で食事を楽しんでいた。

 食事中、話題となるのは「ネロ」についてだろう。

 ケンスケは彼について色々質問していき、彼の素性を明らかにしていく。

「へぇー! 大陸の北東からここまで!」

 ネロの年齢はケンスケと同じ十八歳であり、同い年とわかってお互いに打ち解けていく。

 そして、彼の出身が大陸北東にあるレギム王国出身であることが分かった。

 ただ、彼は出身地について特に細かく明かした。

「僕はレギム王国人じゃなく、サティナ人だよ」

 侵略国の人間ではなく、侵略されたことで飲み込まれた元サティナ王国人であるということをかなり強調した。

 あんな蛮族国家と一緒にしないでくれ、と眉間に深い皺を寄せながら。

「……冒険者なんだよね?」

 彼の強い不快感を感じ取ったケンスケは雰囲気を変えようと話を進めると、ネロは表情を戻しながら頷いた。

「うん。去年から冒険者として活動しているんだ」

「へぇ。遺物目当て?」

 冒険者にも種類がある。

 それを明確にしようとケンスケが問うと――

「いや、腕を磨くついでかな。僕は強くなるため冒険者になったんだ」

 剣や魔法の腕を磨き、将来的には安定した給与を貰える騎士になりたい。そういった目標を持つ冒険者も珍しくはない。

 武者修行のつもりで旅を続け、十分に強くなったと思ったら故郷に帰るってパターンだ。

 彼もその一人なのかと思われたが、どうにも違うらしい。

「僕はね、仇を討つために強くなりたいんだ」

「仇?」

「そう。父さんを殺した男を殺すためにね」

 そう言ったネロの表情は笑顔だった。

 至極当然のように、それが当たり前のように「仇を殺す」と口にするのだ。

 声音と態度から察するに、恨みや怒り、相手に抱く負の感情を抱きすぎた結果の『笑顔』とも思える。 

 あまりにも狂気的、内から漏れ出る恐怖を感じ取ったのか、ケンスケは口を半開きにしながら固まってしまう。

「……仇とは誰だ?」

 代わりに問うたのはフェネリだった。

 彼女が問うと、ネロは瞳の奥に黒い闇を澱ませながら言う。

「レギムの黒い獣。レギム王国騎士団第一部隊の隊長、レオンだよ」

 彼は自身の手で『獣』を殺すため、国を出る決心をしたのだと明かした。
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