踏ん張らずに生きよう

虎島沙風

文字の大きさ
上 下
16 / 29

触れんな(㊃)

しおりを挟む
 その後、裕平はため息を漏らしながら風哉の胸倉から手を離すと、馬乗りをやめて立ち上がった。下敷きになっていた風哉はようやく解放される。裕平はそのまま風哉の顔を見向きもせずに、
「おい冗談だよな!?」
 怒鳴りながら優護の左隣まで走っていった。
「なぁ、今日は踏んだり蹴ったりなんだぞ。あいつに胸倉掴まれるし、浜崎の腕を掴んでた手を無理矢理外された時だって結構痛かったし……。可哀想な俺に慰めアイス買ってくれよ」
「慰めアイス~? 嫌だよ。漫画買うお金が足りなくなるし」
「おいおい。友達と漫画どっちが大事なんだよ?」
「漫画」
「そっ、即答すんな! 少しは迷え!!」
 優護と裕平が意外にも仲良さそうに会話しながら去っていく。
 と、その様子を黙って見ていた遥輝が静かに歩き始めた。良かった帰るんだ。海結はほっと息を吐くと、急いで風哉のところに駆け寄って手を差し伸べた。
「大丈夫……?」
「うん!」
 風哉は元気よく頷いて、「ありがとう」と言いながら海結の手を掴んで立ち上がる。裕平に三度殴打されてできた生々しい傷──赤く腫れた頰と端が切れて血が滲んだ唇が痛々しい。海結は見るのが辛くて堪らず目を逸らした。何もできない自分が憎い。
「どういたしまして!」
 せめて明るい声を出して精一杯微笑んだ。
「あっ!」
 突然風哉が声を上げたので心臓がキュッとなる。
「ちょっと待って遥輝!!」
 どうやら海結の作り笑顔に気づいた訳ではないらしい。
 風哉に呼び止められた本人は、ぴくりと反応して立ち止まったが振り返らない。なぜか優護と裕平が振り返り、真顔で数秒見詰めてきた。それから二人で何か小声で話した後に、前に向き直って再び歩き出した。
「何で呼び止めるの?」
 遥輝を呼び止める理由が分からなかった海結は風哉の耳元でそう囁く。
「そのまま行かせた方が絶対いいよ」
 恐怖心と焦燥感から自ずと尖った声が出た。
「大丈ブイ!」
 風哉はピースサインを出しながら得意げに言い切った。何がどう『大丈ブイ!』なのか教えて欲しい。説明を求めようと思って口を開いたが、いつの間にか遥輝が振り返りこちらに近づいてきていた。
 もし遥輝が殴りかかってきたらどうしよう。考えただけで恐ろしくて思わず風哉の左腕をぎゅっと掴む。ふと頭のてっぺんに温もりと重みを感じて確認すると、風哉が手を置いていた。
「風哉くん?」
 首を傾げると軽く撫でられる。
「海結が恐れているようなことは起きないよ。万が一起きても俺が絶対に守るから安心して」
「──俺に何か用か?」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

男装部?!

猫又うさぎ
青春
男装女子に抱かれたいっ! そんな気持ちを持った ただの女好き高校生のお話です。 〇登場人物 随時更新。 親松 駿(おやまつ しゅん) 3年 堀田 優希(ほった ゆうき) 3年 松浦 隼人(まつうら はやと) 3年 浦野 結華(うらの ゆいか) 3年 櫻井 穂乃果(さくらい ほのか) 3年 本田 佳那(ほんだ かな) 2年 熊谷 澪(くまがや れい) 3年 𝐧𝐞𝐰 委員会メンバー 委員長 松浦 隼人(まつうら はやと)3年 副委員長 池原 亮太(いけはら ゆうた)3年 書記   本田 佳那(ほんだ かな)2年 頑張ってます。頑張って更新するのでお待ちくださいっ!

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

男子高校生の休み時間

こへへい
青春
休み時間は10分。僅かな時間であっても、授業という試練の間隙に繰り広げられる会話は、他愛もなければ生産性もない。ただの無価値な会話である。小耳に挟む程度がちょうどいい、どうでもいいお話です。

黄昏は悲しき堕天使達のシュプール

Mr.M
青春
『ほろ苦い青春と淡い初恋の思い出は・・  黄昏色に染まる校庭で沈みゆく太陽と共に  儚くも露と消えていく』 ある朝、 目を覚ますとそこは二十年前の世界だった。 小学校六年生に戻った俺を取り巻く 懐かしい顔ぶれ。 優しい先生。 いじめっ子のグループ。 クラスで一番美しい少女。 そして。 密かに想い続けていた初恋の少女。 この世界は嘘と欺瞞に満ちている。 愛を語るには幼過ぎる少女達と 愛を語るには汚れ過ぎた大人。 少女は天使の様な微笑みで嘘を吐き、 大人は平然と他人を騙す。 ある時、 俺は隣のクラスの一人の少女の名前を思い出した。 そしてそれは大きな謎と後悔を俺に残した。 夕日に少女の涙が落ちる時、 俺は彼女達の笑顔と 失われた真実を 取り戻すことができるのだろうか。

あしたのアシタ

ハルキ4×3
青春
都市部からかなり離れた小さな町“明日町”この町の私立高校では20年前に行方不明になった生徒の死体がどこかにあるという噂が流れた。

機械娘の機ぐるみを着せないで!

ジャン・幸田
青春
 二十世紀末のOVA(オリジナルビデオアニメ)作品の「ガーディアンガールズ」に憧れていたアラフィフ親父はとんでもない事をしでかした! その作品に登場するパワードスーツを本当に開発してしまった!  そのスーツを娘ばかりでなく友人にも着せ始めた! そのとき、トラブルの幕が上がるのであった。

山の上高校御馬鹿部

原口源太郎
青春
山の上にぽつんとたたずむ田舎の高校。しかしそこは熱い、熱すぎる生徒たちがいた。

一人用声劇台本

ふゎ
恋愛
一人用声劇台本です。 男性向け女性用シチュエーションです。 私自身声の仕事をしており、 自分の好きな台本を書いてみようという気持ちで書いたものなので自己満のものになります。 ご使用したい方がいましたらお気軽にどうぞ

処理中です...