踏ん張らずに生きよう

虎島沙風

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逃げて(㊁)

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「じゃ、じゃあ!」
 早く話題を変えなきゃ、と話し出したら少しどもってしまい顔が熱くなる。何とか心を落ち着かせながら「質問を変えてもいい?」と尋ねると、
「うんいいよ。何でも質問して」
 風哉はいつもと変わらない笑顔を浮かべたが、そう見えるだけで安心させるために無理して笑っているのかもしれない。
「ありがとう」
 海結はお礼を言うと裕平に目を向けた。見張るためか、ずっと風哉の真横に立っているが、一応遥輝の命令に従って風哉の頭を踏もうとはしない。
 その一方で、優護は完全に傍観者になっていてスマートフォンに夢中だ。うっすらと微笑んでいてとても不気味である。
 遥輝の姿を探すと、裕平たちから少し離れた場所にあるクヌギの木に寄りかかるようにして立っていた。顔を窺うとすぐに気づかれてしまったが、無表情で見つめ返されただけで何も言われなかった。
 海結は風哉に視線を戻して、鼻から酸素をゆっくり吸い込んでから口を開く。
「ねぇ。この三人は風哉くんの友達なの?」
 返答を聞く前から友人ではないと確信していたが、風哉は一度瞬きした後に「うん」と笑顔で頷いた。
「友達だよ。仲のいい」
「じゃあ何で私に『逃げて』って言ったの? 本当に友達だったらそんなこと言うのおかしくない?」
「別におかしくないよ。さっき、海結の後ろで蜂が飛んでるのが見えて、刺されたら危ないと思ったから咄嗟に『逃げて』って言っただけで、この三人から逃げてなんて俺は一言も言ってないよ」
「そっか……。蜂がいて危険な場所なら何で風哉くんは全然逃げようとしないの? それって……逃げたら赤西くんたちにもっと酷いことされるから?」
「違うよ。俺がちゃんと謝ったらみんなで遊ぶつもりだからだよ」
 風哉がにこりと微笑みながら返事をした直後に裕平が苛立った様子でため息を吐いた。
「本当に嘘吐きだなテメェは。長間風哉は俺たちに虐められている。これは紛れもない真実だ」
「真実じゃないよ海結。裕平の言葉じゃなくて俺の言葉を信じて。俺は虐められてないし本当に大丈夫だから先に帰って。お願い」
「嘘吐き野郎。そんなに彼女に知られたくないのかよ」
 彼女って誰のことだろう。疑問に思っていたら裕平が海結をじっと見詰めてきたので、海結は怖いと慄いたが負けじと睨みつける。
「なっ、何?」
「テメェはここに来てからずっとその場で騒いでるだけで、俺たちの方に一㎝も近づいてねぇよな?」
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