踏ん張らずに生きよう

虎島沙風

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逃げて(㊀)

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「違ぇ、こいつだ。まずこいつはここに四分も遅刻してきたのにへらへら笑ってた。次に、電話で呼び出した時、テメェ……浜崎と一緒にいんのに『一人だよ』って俺に嘘を吐いた。挙げ句の果てに俺の胸倉を掴みやがった。だからこいつが俺に土下座して謝んのも心の底から反省すんのも当たり前なんだ」
「……風哉くん。赤西くんが言ったことって本当?」
 本人に話しかけたが返事はない。裕平が風哉の頭を顔全体が地面にくっつくぐらい足で押さえつけているからだ。
「裕平。足をどけてやれ」
 海結が言おうと思ったことを遥輝に先に言われて驚いて目を瞬く。
「何でだよ!?」
 裕平は声を荒らげて遥輝を睨んだが、遥輝は真顔で何も言わない。裕平はちっと舌打ちをした。それから風哉の後頭部を無言で見下ろし、やがて頭をかきむしりながら足をどかして腕を組んでそっぽを向いた。
 解放された風哉は顔を上げるとすぐに「ありがとう」と裕平に微笑みかけたが、裕平は完全に無視した。やっぱり、と言っているかのような苦笑いを浮かべた風哉はそれをそのまま海結に向けた。
「……海結。さっきの質問の答えだけどね」
「うん」
「全部本当だよ。何も間違ってない」
「嘘!?」
 風哉の返答に海結は目を見開き、裕平は勝ち誇ったように笑った。
「ほら、本人もそう言ってんだし部外者のテメェが文句言うなよ」
「でっ、でも、土下座させて頭踏むのはやりすぎでしょ!?」
「やりすぎじゃない。どんなに土下座しても頭踏まれても俺は構わない。今日最初に裕平を傷つけたのは俺の方だから」
 そう答えたのは裕平ではなく風哉だ。
「……何か理由があったんだよね?」
 海結が訊くと、風哉は怒っているようにも泣きそうにも見える複雑な表情を見せた。戸惑って何も言えずにいると、風哉は取り繕うように笑いながら海結の真正面に座った。
「ねぇ胡座じゃなくて正座しよっか。反省してないのかな?」
 苛立ちを含んだ声でそう言ったのは優護だ。
「してる! 反省してるよ!」
 風哉は早口で言ってすぐに正座した。優護は風哉を見下ろした後に耳打ちし始める。耳を澄ましても何を言っているのか聞き取れない。
 と、風哉が目を見開いてから「分かった」とはっきり答えた。それから海結に向き直り、
「どんな理由があっても人を傷つけたらいけないと思う」
 苦しそうに顔を歪めながら言った。あまりにも辛そうで胸が潰れそうなくらい痛くなる。
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