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耳糞溜まってんじゃないの!?(㊂)
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「みっ!?」
裕平は素っ頓狂な声を上げた。
「みっ、み、耳糞って……、」
それから呆然とした表情で黒縁眼鏡のブリッジを中指で三度押し上げながら呟いて、「ちゃんとしてるわ!!」と怒鳴った。
「何なんだよお前……。急にゲームの邪魔しにきて高ぇ声でぎゃあぎゃあ騒ぐし、しまいにゃただの悪口言ってきやがっ──なっ!?」
と、今まで動かなかった風哉が唐突に裕平の右足を掴んで押しのけた。恐らく、裕平が海結の悪口にショックを受けたことで頭を踏みつける力が弱まったのだろう。裕平がバランスを崩してよろけて倒れたが、海結は加害者の裕平より被害者の風哉の方が心配だった。
「風哉くん大丈夫!?」
急くように尋ねると風哉はゆっくりと顔を上げて海結の方に目を向けた。
「……本当に、海結?」
「うん海結だよ! 大丈夫……?」
風哉は土、葉、小枝などで汚れている髪と顔で「うん」と答えた。
「大丈夫だよ。大丈夫だから早く逃げて」
「逃げてって……。何言ってんの? 私は逃げないよ。必ず救ける」
「海結の方こそ何言ってんの? 俺を必ず助ける? 俺は助けなんて求めてない」
風哉が苛立ったような表情で言ってきたので驚きのあまり心臓が止まりそうになった。
「……大丈夫だよ。海結。心配しないで。俺が悪いんだ。俺が裕平に酷いことをしたから謝ってたとこ──、」
「あっ!」
「えっ?」
風哉の真後ろで裕平が足を振り上げていることに気づいて”危ない”と伝えようとしたのだが、間に合わなかった。裕平が再び風哉の頭を踏んづけてそれと同時にゔわ゙ッという呻き声が聞こえた。
「……ふうやくん」
海結は信じられなくて悲しくて許せなくて気づいた時には既に両目から涙が零れ落ちていた。
「おい誰が顔上げていいって言ったんだ!? あ゙!?」
「もうゆーへい、最後まで言わせてあげなよー! ふうちゃんが可哀想じゃん」
優護が遠足の準備をしている小学生のようなワクワクした表情を浮かべながらわざとらしく言った。言い終わるとすぐに微笑みながらスマートフォンをいじり始める。
ふうちゃん、とは誰のことだろうかと少し考えて、風哉のあだ名だとピンときた。
「いやこれでも待ってやった方だわ。でもさすがに長すぎて待てねぇから踏んだ」
裕平は風哉の後頭部をスニーカーの踵で軽く叩いて、
「しばらく反省しろよ」
「反省?」
海結は指で涙を拭いながら裕平を睨みつけた。
「反省すんのはあんたたちの方なんじゃないの?」
裕平は素っ頓狂な声を上げた。
「みっ、み、耳糞って……、」
それから呆然とした表情で黒縁眼鏡のブリッジを中指で三度押し上げながら呟いて、「ちゃんとしてるわ!!」と怒鳴った。
「何なんだよお前……。急にゲームの邪魔しにきて高ぇ声でぎゃあぎゃあ騒ぐし、しまいにゃただの悪口言ってきやがっ──なっ!?」
と、今まで動かなかった風哉が唐突に裕平の右足を掴んで押しのけた。恐らく、裕平が海結の悪口にショックを受けたことで頭を踏みつける力が弱まったのだろう。裕平がバランスを崩してよろけて倒れたが、海結は加害者の裕平より被害者の風哉の方が心配だった。
「風哉くん大丈夫!?」
急くように尋ねると風哉はゆっくりと顔を上げて海結の方に目を向けた。
「……本当に、海結?」
「うん海結だよ! 大丈夫……?」
風哉は土、葉、小枝などで汚れている髪と顔で「うん」と答えた。
「大丈夫だよ。大丈夫だから早く逃げて」
「逃げてって……。何言ってんの? 私は逃げないよ。必ず救ける」
「海結の方こそ何言ってんの? 俺を必ず助ける? 俺は助けなんて求めてない」
風哉が苛立ったような表情で言ってきたので驚きのあまり心臓が止まりそうになった。
「……大丈夫だよ。海結。心配しないで。俺が悪いんだ。俺が裕平に酷いことをしたから謝ってたとこ──、」
「あっ!」
「えっ?」
風哉の真後ろで裕平が足を振り上げていることに気づいて”危ない”と伝えようとしたのだが、間に合わなかった。裕平が再び風哉の頭を踏んづけてそれと同時にゔわ゙ッという呻き声が聞こえた。
「……ふうやくん」
海結は信じられなくて悲しくて許せなくて気づいた時には既に両目から涙が零れ落ちていた。
「おい誰が顔上げていいって言ったんだ!? あ゙!?」
「もうゆーへい、最後まで言わせてあげなよー! ふうちゃんが可哀想じゃん」
優護が遠足の準備をしている小学生のようなワクワクした表情を浮かべながらわざとらしく言った。言い終わるとすぐに微笑みながらスマートフォンをいじり始める。
ふうちゃん、とは誰のことだろうかと少し考えて、風哉のあだ名だとピンときた。
「いやこれでも待ってやった方だわ。でもさすがに長すぎて待てねぇから踏んだ」
裕平は風哉の後頭部をスニーカーの踵で軽く叩いて、
「しばらく反省しろよ」
「反省?」
海結は指で涙を拭いながら裕平を睨みつけた。
「反省すんのはあんたたちの方なんじゃないの?」
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