踏ん張らずに生きよう

虎島沙風

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心に冬がやってきた(㊁)

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『今の電話相手、最近付き合い始めた彼女なんだ。凄く心配性だから、もし、俺が今海結と一緒にいるって正直に言ったら絶対必要以上に心配すると思ってさ。つまり、俺は友達の海結より自分の彼女を優先した。今日遊びに誘ったのは俺の方なのに自分勝手でごめんね……。許さなくていいよ』
 風哉に彼女ができたことを全く知らなかった海結はショックのあまり言葉を失った。その後、風哉に何度か話しかけられたが、膨れっ面でガン無視した。子供モード全開の海結に対して風哉は大人で、怒ることも苛立つこともなく穏やかな笑顔で自宅まで送り届けてくれた。
『今日は海結のお陰でめちゃんこ楽しかったよ。ありがとう。多分、自分が思っているよりも疲れているだろうから今夜は早く寝るのをオススメします♪ そんじゃあ海結。また遊びに行こうね。バイバイ!』
 風哉は明るく微笑みながら早口でそう言い残すや否や、二人で帰ってきた道とは逆方向へ物凄い勢いで走り出した。予想外の行動に驚いたが、すぐに風哉は(彼曰く心配性な)彼女の元に向かったのだと察する。
 そんなに早く彼女に会いたいんだね。ひどく胸が痛んでしばらくの間ドアの前に突っ立っていたが、ふと彼女の顔が気になった。玄関先に放置している自転車に跨がって急いで風哉の後を追いかけた。顔を確認しにきたことがばれたら、風哉に性格の悪い女認定されてしまうだろう。しかし、気になって居ても立っても居られなかったのだ。
 自転車vs徒歩だからすぐに見つかると踏んでいたが、風哉の姿どころか後ろ姿すら見当たらなかった。自転車で追いかけたのに追いつけなかったことを不審に思ったが、そういえばしばらく突っ立っていたし風哉は足が速い。既に少し先にある丁字路を曲がってしまったのだとしたら姿が見つからないのも頷ける。
 やっぱり、ただの友達の私が行ってもし見つかっちゃったら、邪魔だし迷惑だよね。見つけられなかったことで冷静になり、諦めて帰ろうとした──その時だった。

『ごめんなさいッ!!』
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