天職はドロップ率300%の盗賊、錬金術師を騙る。

朱本来未

文字の大きさ
上 下
114 / 118

114 盗賊さん、集合住宅もどきをつくる。

しおりを挟む
 スライムダンジョン跡地には、ぽつぽつとだがひとの姿があった。ボクはひと目を避けて、物陰に一度隠れてから認識阻害の腕輪を装着してからダンジョン跡地に歩み寄った。
 なぜダンジョンとしての機能が失われた場所に居るのかと不思議に思って、ダンジョン跡地の大穴を覗き込んでいたひとりの男に声をかけた。
「ここでなにをしてるんです?」
 ボクの声を耳にして振り返った男は、どんよりとした雰囲気をまとっており、表情はひどく優れなかった。
「人探しさ」
 男は短く、それだけ答えた。その答えでおおよそ察することが出来た。彼の仲間は新階層が発見されたばかりのスライムダンジョンの探索に出ていたのだろう。男は深いため息を吐き、再度大穴に視線を向けてからちいさく首を振ると、とぼとぼとこの場を離れて行った。
 今の男と似た雰囲気をまとった人物が、他にも居て容易に作業を始められない状況だった。それでも時間も差し迫っていたので、ボクは彼らにかまわず大穴の中へと飛び込む。大穴外周の細かな凹凸を頼りに、とんとんとリズムよく最下層にまで降りて行く。途中、頭上から呼び戻そうとする声がいくつか上がったが、聞き流した。
 最下層に降り立ったボクは周囲を見渡し、上からの視線から逃れられそうな横穴を探した。するとちょうどよいくぼみを見つけ、そこに踏み込んで頭上からの視線から逃れた。
 あとは予定通りの作業を進めることにして、手始めに幅1mの廊下を大穴の外周に沿って創り出す。そこから等間隔に縦横5m・高さ2.5mの空間を【奪取】で創り出し、各面が崩れたりしないように【施錠】した。扉をどうするか迷ったが、簡素な造りの扉を設けた。最下層の処理を完了させ、次は1階層上に登るための階段を数カ所用意する。そこからは流れ作業で、最下層でやったのと同じ手順で居住空間の予定地を整備していった。
 本当なら排水なんかの水回りも整えたかったけれど、そこまで手間をかけていたら時間が足りないし、なにより不自然だったので、入居者それぞれ独自に対応してもらうことにした。
 最終的に階層は8階で全部で192部屋になった。あとは大穴を覗き込んでいた人達に、この空間を発見してもらわなければならない。大穴外周の縁をぐるっと巡る廊下は影になっていて、頭上からは見えない。
 作業を目撃されたら困るからね。
 それも作業が終わった今は問題がないので、ボクは頭上からも廊下が確認出来るようにと、落下防止程度の高さに調整した手摺壁だけを残して、トンネル上になっていた廊下の壁の一部を【奪取】した。
 それに気付いたらしい人達からのどよめきが聞こえた。ボクは適当な部屋に入り、姿を隠してから地上へと繋がる階段を物陰から創り出した。そんなダンジョン跡地の変化に、行方不明者を探しに来ていた人達はおっかなびっくりといった様子で、階段を降りて来ているようだった。数人が降り、簡単な探索を始めたところで、ボクらそれなとなく彼らに混じった。
 適当に誰かを探すフリをしながら、彼らが最下層まで至るのを見守った。行方不明者を発見出来なかった彼らは、肩を落とすものが大半だったが、中にはボクが用意した空き部屋を拠点にして新たな変化が訪れる可能性などを待つつもりの者も出てきていた。
 また一部の冒険者は、スライムダンジョンの変化を冒険者ギルドに報告に行くようだった。作業開始からどの程度の時間が経ったかわからないが、あのふたりに頼んだ噂もほぼ同時刻で広まっているころだろう。

 それなりに時間が経つと、冒険者や行方不明者の知人らしき人達が集まって来た。それらに混じってサク姉達から噂を聞いたらしいひともちらほらと見受けられた。
 これだけひとが集まれば、もう大丈夫だろうと地上に上がる。軽く周囲を見渡すとすぐにサク姉とラビィの姿を見つけた。ボクは彼女らの元に歩み寄り、とりあえずの一時凌ぎが成功したことを静かに喜びあった。
 あとは成り行きに任せることにして、徐々にひとが集まりつつあるスライムダンジョン跡地をボクらは立ち去った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです

飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。 だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。 勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し! そんなお話です。

母親に家を追い出されたので、勝手に生きる!!(泣きついて来ても、助けてやらない)

いくみ
ファンタジー
実母に家を追い出された。 全く親父の奴!勝手に消えやがって! 親父が帰ってこなくなったから、実母が再婚したが……。その再婚相手は働きもせずに好き勝手する男だった。 俺は消えた親父から母と頼むと、言われて。 母を守ったつもりだったが……出て行けと言われた……。 なんだこれ!俺よりもその男とできた子供の味方なんだな? なら、出ていくよ! 俺が居なくても食って行けるなら勝手にしろよ! これは、のんびり気ままに冒険をする男の話です。 カクヨム様にて先行掲載中です。 不定期更新です。

【完結】あなたに知られたくなかった

ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。 5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。 そんなセレナに起きた奇跡とは?

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。

大国 鹿児
ファンタジー
輪廻転生のシステムのバグで輪廻の輪から外れちゃった! でも神様から便利なチートグッズ(笑)の詰め合わせをもらって、 他の星に転生しました!特に使命も無いなら自由気ままに生きてみよう! 主人公はチート無双するのか!? それともハーレムか!? はたまた、壮大なファンタジーが始まるのか!? いえ、実は単なる趣味全開の主人公です。 色々な秘密がだんだん明らかになりますので、ゆっくりとお楽しみください。 *** 作品について *** この作品は、真面目なチート物ではありません。 コメディーやギャグ要素やネタの多い作品となっております 重厚な世界観や派手な戦闘描写、ざまあ展開などをお求めの方は、 この作品をスルーして下さい。 *カクヨム様,小説家になろう様でも、別PNで先行して投稿しております。

[鑑定]スキルしかない俺を追放したのはいいが、貴様らにはもう関わるのはイヤだから、さがさないでくれ!

どら焼き
ファンタジー
ついに!第5章突入! 舐めた奴らに、真実が牙を剥く! 何も説明無く、いきなり異世界転移!らしいのだが、この王冠つけたオッサン何を言っているのだ? しかも、ステータスが文字化けしていて、スキルも「鑑定??」だけって酷くない? 訳のわからない言葉?を発声している王女?と、勇者らしい同級生達がオレを城から捨てやがったので、 なんとか、苦労して宿代とパン代を稼ぐ主人公カザト! そして…わかってくる、この異世界の異常性。 出会いを重ねて、なんとか元の世界に戻る方法を切り開いて行く物語。 主人公の直接復讐する要素は、あまりありません。 相手方の、あまりにも酷い自堕落さから出てくる、ざまぁ要素は、少しづつ出てくる予定です。 ハーレム要素は、不明とします。 復讐での強制ハーレム要素は、無しの予定です。 追記  2023/07/21 表紙絵を戦闘モードになったあるヤツの参考絵にしました。 8月近くでなにが、変形するのかわかる予定です。 2024/02/23 アルファポリスオンリーを解除しました。

【完結】そして、誰もいなくなった

杜野秋人
ファンタジー
「そなたは私の妻として、侯爵夫人として相応しくない!よって婚約を破棄する!」 愛する令嬢を傍らに声高にそう叫ぶ婚約者イグナシオに伯爵家令嬢セリアは誤解だと訴えるが、イグナシオは聞く耳を持たない。それどころか明らかに犯してもいない罪を挙げられ糾弾され、彼女は思わず彼に手を伸ばして取り縋ろうとした。 「触るな!」 だがその手をイグナシオは大きく振り払った。振り払われよろめいたセリアは、受け身も取れないまま仰向けに倒れ、頭を打って昏倒した。 「突き飛ばしたぞ」 「彼が手を上げた」 「誰か衛兵を呼べ!」 騒然となるパーティー会場。すぐさま会場警護の騎士たちに取り囲まれ、彼は「違うんだ、話を聞いてくれ!」と叫びながら愛人の令嬢とともに連行されていった。 そして倒れたセリアもすぐさま人が集められ運び出されていった。 そして誰もいなくなった。 彼女と彼と愛人と、果たして誰が悪かったのか。 これはとある悲しい、婚約破棄の物語である。 ◆小説家になろう様でも公開しています。話数の関係上あちらの方が進みが早いです。 3/27、なろう版完結。あちらは全8話です。 3/30、小説家になろうヒューマンドラマランキング日間1位になりました! 4/1、完結しました。全14話。

処理中です...