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112 盗賊さん、相談される。
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救助活動をひと段落させ、ボクとサク姉は南西部で衛兵隊員達と別れた。錬金術ギルドに戻ったボクらは、長風呂で疲れを溶かし、早々と眠りに就いた。
翌朝、ボクらは再び救助活動に手を貸し、昼までに召喚獣を使ったバーガンディ全土の生存者の探索を終えた。それ以上は生存者の反応は拾えなかったので、ボクらは救助活動を継続して行う衛兵隊員達とは別れた。多少引き止められはしたけれど、善意による協力者として混ざっていたこともあり、離脱することを特に咎められることはなかった。その代わりに作業の合間にボクらが聞かされていた愚痴は、領主直属の騎士隊に対するものばかりだった。災害時に全く関係のない土地へと貴重な食料を大量に持ち出して、領主とともに遠征していくのを昨日の昼間に目にした衛兵隊員隊が文句を言っていた。その怒りは他の隊員達にも伝播して、どんどんと広がっているのが少し気になった。
最後に探索した南東部を離れ、冒険者ギルドのある中央部へと足を運ぶ。すると安い仕立ての服を身にまとったラビィが、中央部の広場で所在なく立ち尽くしてボクらを待っていた。ボクらの姿を目にしたラビィは、それまで暗くしていた表情を明るいものに変えてボクらの元に駆け寄ってきた。
「よかった。心当たりのある場所を回ったのですが見つからなくて、ここで待ってたんですが行き違いにならなくてよかったです」
「なにかあった?」
「なにかあったと言いますか。これからあると言いますか」
歯切れの悪いラビィの物言いに首を傾げる。
「ここでは言えないようなこと?」
「そう、ですね。ひとの耳のないところで落ち着いて話が出来ればいいのですが」
「それなら錬金術ギルドに行きましょうか」
「あ、はい」
落ち着きのないラビィを引き連れて、ボクらは錬金術ギルドに戻った。いつものテーブルで話をしてもよかったが、念のために地下工房へと足を運んだ。扉を【施錠】してラビィに周囲には誰もいないことを告げると、強張らせていた肩をすとんと落とした。そんなラビィはへなへなと今にも床に座り込んでしまいそうなほど脚に力が入っていないようだった。
「それで、どうしたの」
しばし逡巡したラビィは、意を決したように重々しく口を開いた。
「お父様が騎士隊を引き連れて領都を出たことはご存知ですか?」
「えぇ、そこら中で噂話になってるくらいだからね」
「それがきっかけと言うわけじゃないんですが、どうもグランツさんがこれを機に武装蜂起するつもりのようなんです」
「グランツさんというと衛兵隊長の?」
ラビィはこくこくと頷いた。
「そうです。うちで働いてるひとらと結託してたみたいで、お父様が不在のうちにアイテム倉庫にあるものを大量に持ち出されて……えっと、お父様と面会したときに同室していた執事の方を覚えてますか」
「えぇ、彼がその手引きをしていたの」
「そうみたいです。お父様は後ろ暗いことを私に隠しているのはわかりきっていたましたので、ヒイロさんをお招きして以降に遠くの音を拾うアイテムを邸中に仕掛けたのですが、それを介して今回の計画を耳にすることになったんです。と言っても、既に計画は実行されつつあるみたいなんですけど」
領主に対する不平不満の感情が、衛兵隊を通じて領都中にばら撒かれているたのはそれが理由だったのかと遅まきながら気付かされる。おそらく例の魔物による災害で、生活環境が著しく低下した避難民達の不平不満の感情の矛先を領主に向けさせ、それを利用するつもりなのだろう。一度怒りの感情に火がついてしまえば収拾をつけるのは難しい。かと言ってそれを解消させる手立てもないに等しかった。
どう動くべきかと考え込んでいると、サク姉が口をはさんできた。
「ヒロちゃん。このままここに居るのは危険なんじゃない。確実に武力による政変に巻き込まれることになるわよ」
「そうだね。もう止めるのは難しいんじゃないかな。下手をしたら政変に便乗して弱い立場の人達に対して暴力行為や略奪行為が横行するかも」
そんな言葉を交わしているとラビィが顔を青ざめさせいた。
「ラビィ。わかってるとは思うけど、しばらくは認識阻害の腕輪は絶対に外しちゃダメだよ」
その理由はラビィも察しているらしく、認識阻害の腕輪を着けた手首を、ぎゅっと握っていた。
「今、暴動を起こしても災害で受けた被害が改善されるわけでもないでしょうに。どうするつもりなんでしょうね」
「そんなことは二の次なんでしょうね。領主を追い落とすには絶好の機会には違いないもの」
短い沈黙を挟み、ボクはラビィに訊ねた。
「領主邸の現在の状況はどうなってるの?」
「既に占拠されてます。私に変化した[シェイプシフター]も人質になっちゃってますし」
「よく抜け出せたね」
「昔からこっそり邸を抜け出したりしてたから、誰にも知られてない抜け道をいくつか知ってたんです。それを使ってどうにか……」
どうやらラビィは普段からの行動に救われたらしい。
「実行犯を鎮圧するだけなら簡単だけど、遠からず扇動された一般の人達が出て来てもおかしくない状況なんだよね」
長い時間をかけて領主に対する不満は蓄積されて来てるし、印象を覆すのは難しい。それに扇動しているのは被災者の救助活動にあたっていた衛兵隊員達なのである。領民がどちらに着くかなど、考えるまでもなくわかりきったことだった。
翌朝、ボクらは再び救助活動に手を貸し、昼までに召喚獣を使ったバーガンディ全土の生存者の探索を終えた。それ以上は生存者の反応は拾えなかったので、ボクらは救助活動を継続して行う衛兵隊員達とは別れた。多少引き止められはしたけれど、善意による協力者として混ざっていたこともあり、離脱することを特に咎められることはなかった。その代わりに作業の合間にボクらが聞かされていた愚痴は、領主直属の騎士隊に対するものばかりだった。災害時に全く関係のない土地へと貴重な食料を大量に持ち出して、領主とともに遠征していくのを昨日の昼間に目にした衛兵隊員隊が文句を言っていた。その怒りは他の隊員達にも伝播して、どんどんと広がっているのが少し気になった。
最後に探索した南東部を離れ、冒険者ギルドのある中央部へと足を運ぶ。すると安い仕立ての服を身にまとったラビィが、中央部の広場で所在なく立ち尽くしてボクらを待っていた。ボクらの姿を目にしたラビィは、それまで暗くしていた表情を明るいものに変えてボクらの元に駆け寄ってきた。
「よかった。心当たりのある場所を回ったのですが見つからなくて、ここで待ってたんですが行き違いにならなくてよかったです」
「なにかあった?」
「なにかあったと言いますか。これからあると言いますか」
歯切れの悪いラビィの物言いに首を傾げる。
「ここでは言えないようなこと?」
「そう、ですね。ひとの耳のないところで落ち着いて話が出来ればいいのですが」
「それなら錬金術ギルドに行きましょうか」
「あ、はい」
落ち着きのないラビィを引き連れて、ボクらは錬金術ギルドに戻った。いつものテーブルで話をしてもよかったが、念のために地下工房へと足を運んだ。扉を【施錠】してラビィに周囲には誰もいないことを告げると、強張らせていた肩をすとんと落とした。そんなラビィはへなへなと今にも床に座り込んでしまいそうなほど脚に力が入っていないようだった。
「それで、どうしたの」
しばし逡巡したラビィは、意を決したように重々しく口を開いた。
「お父様が騎士隊を引き連れて領都を出たことはご存知ですか?」
「えぇ、そこら中で噂話になってるくらいだからね」
「それがきっかけと言うわけじゃないんですが、どうもグランツさんがこれを機に武装蜂起するつもりのようなんです」
「グランツさんというと衛兵隊長の?」
ラビィはこくこくと頷いた。
「そうです。うちで働いてるひとらと結託してたみたいで、お父様が不在のうちにアイテム倉庫にあるものを大量に持ち出されて……えっと、お父様と面会したときに同室していた執事の方を覚えてますか」
「えぇ、彼がその手引きをしていたの」
「そうみたいです。お父様は後ろ暗いことを私に隠しているのはわかりきっていたましたので、ヒイロさんをお招きして以降に遠くの音を拾うアイテムを邸中に仕掛けたのですが、それを介して今回の計画を耳にすることになったんです。と言っても、既に計画は実行されつつあるみたいなんですけど」
領主に対する不平不満の感情が、衛兵隊を通じて領都中にばら撒かれているたのはそれが理由だったのかと遅まきながら気付かされる。おそらく例の魔物による災害で、生活環境が著しく低下した避難民達の不平不満の感情の矛先を領主に向けさせ、それを利用するつもりなのだろう。一度怒りの感情に火がついてしまえば収拾をつけるのは難しい。かと言ってそれを解消させる手立てもないに等しかった。
どう動くべきかと考え込んでいると、サク姉が口をはさんできた。
「ヒロちゃん。このままここに居るのは危険なんじゃない。確実に武力による政変に巻き込まれることになるわよ」
「そうだね。もう止めるのは難しいんじゃないかな。下手をしたら政変に便乗して弱い立場の人達に対して暴力行為や略奪行為が横行するかも」
そんな言葉を交わしているとラビィが顔を青ざめさせいた。
「ラビィ。わかってるとは思うけど、しばらくは認識阻害の腕輪は絶対に外しちゃダメだよ」
その理由はラビィも察しているらしく、認識阻害の腕輪を着けた手首を、ぎゅっと握っていた。
「今、暴動を起こしても災害で受けた被害が改善されるわけでもないでしょうに。どうするつもりなんでしょうね」
「そんなことは二の次なんでしょうね。領主を追い落とすには絶好の機会には違いないもの」
短い沈黙を挟み、ボクはラビィに訊ねた。
「領主邸の現在の状況はどうなってるの?」
「既に占拠されてます。私に変化した[シェイプシフター]も人質になっちゃってますし」
「よく抜け出せたね」
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どうやらラビィは普段からの行動に救われたらしい。
「実行犯を鎮圧するだけなら簡単だけど、遠からず扇動された一般の人達が出て来てもおかしくない状況なんだよね」
長い時間をかけて領主に対する不満は蓄積されて来てるし、印象を覆すのは難しい。それに扇動しているのは被災者の救助活動にあたっていた衛兵隊員達なのである。領民がどちらに着くかなど、考えるまでもなくわかりきったことだった。
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