天職はドロップ率300%の盗賊、錬金術師を騙る。

朱本来未

文字の大きさ
上 下
109 / 118

109 盗賊さん、ダンジョンマスターについて語る。

しおりを挟む
「これが例の魔物のスケッチです」
「ありがとう」
 スケッチを手に取ったヒカリさんは、各所の覚書に目を走らせ目を白黒とさせていた。
「ちょっと聞きたいのですけれど、この全長は約120m前後というのは事実なのでしょうか」
「あくまでも目測ですので、その数値はかなり大雑把なものです。ですが、誤差はそれほどでもないと思いますよ」
「ですが、これはあまりにも……下級の竜種であるワイバーンでさえ15m前後ですのに。これでは伝説上の生物である古代竜クラスの化物ではありませんか」
「ダンジョンを直に喰らうような化物ですし、不思議ではないかと」
「確かに、それはそうですわね。でも、困りましたわね。ダンジョンを丸ごと食べられしまうなんて。このままでは冒険者ギルドの運営も厳しいものになってしまいますわ」
 ダンジョンの入場料などで利益の一部を得ていた冒険者ギルドとしては、かなり困った事態なのは間違いなさそうだった。
「本日のダンジョン利用者の安否はわかっているのですか」
 話の流れでなんとなしに、そんなことを訊ねるとヒカリさんは困ったような顔をした。
「本日探索の申請を出された方は、まだ入場前でしたから無事でしたが。数日前から長期探索の申請を出してダンジョンに潜っていた有望な方々の多くは、安否不明ですわね。ただ生存は絶望的でしょうね」
「残念なことです」
「えぇ、本当に。私達はダンジョンを利用しているつもりで、それが超自然の存在であることを忘れてしまっていたのでしょうね。あれはあの魔物が餌を集めるために創り出した罠だったのかもしれませんね」
 遠い目をしたヒカリさんは、妙に悟ったような物言いをした。
「本当にそうだった可能性は確かにありますね。実際に、あの魔物はボクらが調査予定だったダンジョンに潜り込んで、新たなダンジョンを創り出していますから」
 それを聞いたヒカリさんは、目を大きく見開き、テーブルに両手を付いて身を乗り出して来た。
「それは本当ですの!」
「えぇ、サク姉の召喚獣で追跡していたらそれらしい場所で営巣し始めたらしいですから。そうだよね、サク姉」
 ボクはヒカリさんの問いに答えながら、サク姉に水を向けて話を継いだ。
「そうね。地中と空の両方で追跡してたから間違いないと思うわ。あの魔物が止まった場所の近くに魔力溜まりも見受けられたしね」
「それで、新たなダンジョンが創り出されているというのは事実なのですの?」
「私が召喚獣を介して見た限りではそうでしたね」
 サク姉がそこまで話したところで、ボクは追加情報を加える。
「サク姉の話を聞いた感じですと、例の魔物に生み出された新たな魔物は、食べられてしまったダンジョンの魔物と類似したモノみたいです。なのでもしかしたらドロップアイテムも、失われてしまったダンジョンと同じである可能性は高いです」
「その話が本当なのでしたら、すぐにでも調査に行きたいところですわね。ただあの魔物がどう動くかわからないのが怖いんですのよね。探索中にぱっくり食べられちゃうなんてことになりかねませんし」
 確かに問題はそこなんだよね。推測にしかならないけれど、あの魔物はバーガンディ周辺のダンジョンを創り出していたダンジョンマスターのようなモノだとは思う。ただなんで急に姿を現したのか理由がわからない。そんなことをすれば、これまで長い年月をかけて創り上げた環境を捨てることになってしまうわけだしね。
 ひとつ考えられるとすれば、ダンジョンを喰い破って地上に出るなり、喰らいつきに行った共同墓地の存在だった。あれを喰らったことで、あの魔物は地上で身体を構成する魔素が拡散することのないよう受肉した。
 だというのに、あの魔物は再び地下に引き籠ったのである。その辺りのことが判明しない限り、迂闊に手を出すのは危険でしかなかった。
「明後日に予定していたダンジョンの調査はどうされます?」
「現状、保留ですわね。調査依頼を出して来た領主様が、騎士隊を引き連れて自ら探索に赴くそうですしね。なので実質的に依頼はキャンセルされることになりそうですわ」
 あの事勿れ主義の領主が自ら動こうだなんて、相当に逼迫しているらしい。領内のダンジョンのことごとくが失われてしまったのだから仕方のないことかもしれないが、他に対処すべき案件もあるだろうに、領都を離れて平気なのだろうかと余計な心配をしてしまう。その辺りのことは、あとでラビィから話を聞かせてもらうしかないね。
「そうですか、わかりました。一応、例の魔物に関する情報はすべてお話ししましたが、他に何かありますか?」
「いいえ、ありませんわ。存外に多くの情報を提供していただきましたし、日を改めて謝礼の方をお持ちしますわ」
「緊急事態ですし、別にそういうのは──」
 そう言って固辞しようとしたが、口を閉ざすように手で示され、途中で言葉を遮られてしまった。
「善意で仰ってるのでしょうが、いけませんわ。きちんと対価を受け取ってもらわなければ、今後同様の依頼を受けた方が報酬を得ることを悪とされかねませんもの。緊急事態だからと言って、そのような風潮が蔓延するのは本意ではありませんでしょう?」
 そこまで言われてしまっては、断れるはずもなかった。以前、ラビィに対してボク自身が似たようなことを言っていただけに、思わず苦い笑いが溢れてしまった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

母親に家を追い出されたので、勝手に生きる!!(泣きついて来ても、助けてやらない)

いくみ
ファンタジー
実母に家を追い出された。 全く親父の奴!勝手に消えやがって! 親父が帰ってこなくなったから、実母が再婚したが……。その再婚相手は働きもせずに好き勝手する男だった。 俺は消えた親父から母と頼むと、言われて。 母を守ったつもりだったが……出て行けと言われた……。 なんだこれ!俺よりもその男とできた子供の味方なんだな? なら、出ていくよ! 俺が居なくても食って行けるなら勝手にしろよ! これは、のんびり気ままに冒険をする男の話です。 カクヨム様にて先行掲載中です。 不定期更新です。

大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです

飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。 だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。 勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し! そんなお話です。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

[鑑定]スキルしかない俺を追放したのはいいが、貴様らにはもう関わるのはイヤだから、さがさないでくれ!

どら焼き
ファンタジー
ついに!第5章突入! 舐めた奴らに、真実が牙を剥く! 何も説明無く、いきなり異世界転移!らしいのだが、この王冠つけたオッサン何を言っているのだ? しかも、ステータスが文字化けしていて、スキルも「鑑定??」だけって酷くない? 訳のわからない言葉?を発声している王女?と、勇者らしい同級生達がオレを城から捨てやがったので、 なんとか、苦労して宿代とパン代を稼ぐ主人公カザト! そして…わかってくる、この異世界の異常性。 出会いを重ねて、なんとか元の世界に戻る方法を切り開いて行く物語。 主人公の直接復讐する要素は、あまりありません。 相手方の、あまりにも酷い自堕落さから出てくる、ざまぁ要素は、少しづつ出てくる予定です。 ハーレム要素は、不明とします。 復讐での強制ハーレム要素は、無しの予定です。 追記  2023/07/21 表紙絵を戦闘モードになったあるヤツの参考絵にしました。 8月近くでなにが、変形するのかわかる予定です。 2024/02/23 アルファポリスオンリーを解除しました。

システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。

大国 鹿児
ファンタジー
輪廻転生のシステムのバグで輪廻の輪から外れちゃった! でも神様から便利なチートグッズ(笑)の詰め合わせをもらって、 他の星に転生しました!特に使命も無いなら自由気ままに生きてみよう! 主人公はチート無双するのか!? それともハーレムか!? はたまた、壮大なファンタジーが始まるのか!? いえ、実は単なる趣味全開の主人公です。 色々な秘密がだんだん明らかになりますので、ゆっくりとお楽しみください。 *** 作品について *** この作品は、真面目なチート物ではありません。 コメディーやギャグ要素やネタの多い作品となっております 重厚な世界観や派手な戦闘描写、ざまあ展開などをお求めの方は、 この作品をスルーして下さい。 *カクヨム様,小説家になろう様でも、別PNで先行して投稿しております。

誰一人帰らない『奈落』に落とされたおっさん、うっかり暗号を解読したら、未知の遺物の使い手になりました!

ミポリオン
ファンタジー
旧題:巻き込まれ召喚されたおっさん、無能で誰一人帰らない場所に追放されるも、超古代文明の暗号を解いて力を手にいれ、楽しく生きていく  高校生達が勇者として召喚される中、1人のただのサラリーマンのおっさんである福菅健吾が巻き込まれて異世界に召喚された。  高校生達は強力なステータスとスキルを獲得したが、おっさんは一般人未満のステータスしかない上に、異世界人の誰もが持っている言語理解しかなかったため、転移装置で誰一人帰ってこない『奈落』に追放されてしまう。  しかし、そこに刻まれた見たこともない文字を、健吾には全て理解する事ができ、強大な超古代文明のアイテムを手に入れる。  召喚者達は気づかなかった。健吾以外の高校生達の通常スキル欄に言語スキルがあり、健吾だけは固有スキルの欄に言語スキルがあった事を。そしてそのスキルが恐るべき力を秘めていることを。 ※カクヨムでも連載しています

強制力がなくなった世界に残されたものは

りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った 令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達 世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか その世界を狂わせたものは

処理中です...