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107 盗賊さん、孤児院を修繕する。
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「サク姉、あの魔物の様子はどう?」
「さっき営巣してるかもって言ったと思うけど、それで間違いなかったみたい。どんどんダンジョンが形作られていってるわ。新たに魔物も大量に生み出されてるし、取り込んだダンジョンの魔素を材料にしてるみたい」
それを聞いて、ボクはサク姉にひとつ質問をした。
「新たに生み出された魔物の中に、スライムやゴーレムっぽいのっている?」
「よくわかったね。生み出されてるのは、その手の魔物が多いね」
返って来た答えは、ボクの予想を裏付けるものだった。どうやら超大型魔物は[モンスターキューブ]と同じ能力を持っているらしい。
「階層が深くなりすぎて、そろそろ覗き見るのも難しいかも……」
そういった矢先にサク姉は「あっ」と声を漏らし、召喚獣との接続が途切れたのを表情で示していた。
「でも、これでダンジョン資源の問題は解決させられなくもないみたいだけど、あの魔物の脅威自体はそのままなんだよね」
「そもそも、あの魔物が地下に引きこもった理由もわからないのよね」
ボクらはふたりして深々と考え込んだが、これといった考えも浮かばず唸るばかりだった。
情報の足りていない現状では、考えるだけ無駄だと判断したボクらは、破損した孤児院の対処を先に済ませることにした。勝手に手を出すわけにもいかなかったので、管理人である老婦人に修繕を申し出るとふたつ返事で了承してもらえた。
【奪取】による孤児院の再構築をするため、一度みんなには外に出てもらう。あまり時間をかける意味もないので、手早く修復すると再度【施錠】した。これで超大型魔物に直接攻撃でもされない限り、倒壊することはないはず。
「やっぱりすごいもんだね、錬金術ってのは」
ボクの修繕作業を見て、そんな感想を漏らしたのは老婦人だった。
「以前もどこかで錬金術を?」
「あたしじゃなく、あたしの母親が昔話してくれたんさ。ここの城壁や、うちの田んぼで育ててた米を用意してくれたのも錬金術師だったって話でね。うちが長いこと不自由なく暮らせたのも、その錬金術師のおかげってわけさ」
「その錬金術師って──」
ここでは珍しい錬金術師の素性を訊ねようとすると、老婦人は言葉を被せるようにして答えた。
「あの坊ちゃんの曾祖父さんのことさね」
「田畑を格安で貸してくださったのは、それが理由なのでしょうか」
そんなボクの質問に老婦人は首を横に振った。
「うんにゃ、単純に空いてたから貸しただけさね。まぁ、それも台無しになってしまったみたいだがね」
そう言った老婦人は、液状化してドロドロになった土地に目を向けていた
「米なら育てられるだろうけど、そちらさんはそうじゃなかったんだろう」
「えぇ、花畑をつくって養蜂でもと思っていたんですが」
「実際は違うんじゃないのかい?」
老婦人は、ボクがカモフラージュで用意する予定だった物を容易に看破していた。このひと相手に誤魔化しても無駄だろうなと感じたボクは、本当の目的を話すことにした。
「薬草を栽培出来ないかと思ったんですよ、ここの畑で」
「また妙なことを考えるもんだね。そんなことしなくとも外でいくらでも採れるだろうに」
「自分で採りに行くのなら、別にそれはそれでもよいのですが、ここの子供達にポーション作製を教えようかと思ってまして。それならいっそのこと薬草も自前で用意出来るようになればと思っただけですよ。ここの子供達は、元々農家の子供達がほとんどだと聞いてましたので、その手の天職になる可能性が高いですからね」
「米の代わりに今度は薬草をってことかい」
老婦人は疲れたように深く息を吐いた。
「まぁ、こんな状況になってしまった今となっては、それも難しくなっちゃいましたけどね」
「気にすることはないさね。別にあたしらが頼んだわけじゃないんでね」
「差し出がましいとは思ったんですけどね。ここの子達が冒険者としての適性がなかったとしても、それにかまわずダンジョンに行くようなるよりはいいかと思ったんですが」
「あたしもそうは思うがね。ままならないもんさね。まぁ、その気持ちだけは受け取っておくよ。それと──」
それまでボクとだけ言葉を交わしていた老婦人は、サク姉の方に視線を向けた。
「うちのバカ娘を呼び戻してくれたのは、お前さんなっだってね。礼を言っておくよ」
「彼女が自分で選択したことですよ」
サク姉は困った顔で、そう応じていた。
「まぁ、なんだい。最後に面と向かって話が出来てよかったよ」
そう言った老婦人の言葉尻は心なしか震えていた。ユウヒさんが自身の置かれた状況を話したのか、老婦人が察したのかまではわからない。それでも近くに訪れる別れに、どうにか折り合いをつけようとしているようだった。そんな老婦人に対して返す言葉は見つからなかったのか、サク姉は眉尻を下げて、口を引き結んでいた。
「さっき営巣してるかもって言ったと思うけど、それで間違いなかったみたい。どんどんダンジョンが形作られていってるわ。新たに魔物も大量に生み出されてるし、取り込んだダンジョンの魔素を材料にしてるみたい」
それを聞いて、ボクはサク姉にひとつ質問をした。
「新たに生み出された魔物の中に、スライムやゴーレムっぽいのっている?」
「よくわかったね。生み出されてるのは、その手の魔物が多いね」
返って来た答えは、ボクの予想を裏付けるものだった。どうやら超大型魔物は[モンスターキューブ]と同じ能力を持っているらしい。
「階層が深くなりすぎて、そろそろ覗き見るのも難しいかも……」
そういった矢先にサク姉は「あっ」と声を漏らし、召喚獣との接続が途切れたのを表情で示していた。
「でも、これでダンジョン資源の問題は解決させられなくもないみたいだけど、あの魔物の脅威自体はそのままなんだよね」
「そもそも、あの魔物が地下に引きこもった理由もわからないのよね」
ボクらはふたりして深々と考え込んだが、これといった考えも浮かばず唸るばかりだった。
情報の足りていない現状では、考えるだけ無駄だと判断したボクらは、破損した孤児院の対処を先に済ませることにした。勝手に手を出すわけにもいかなかったので、管理人である老婦人に修繕を申し出るとふたつ返事で了承してもらえた。
【奪取】による孤児院の再構築をするため、一度みんなには外に出てもらう。あまり時間をかける意味もないので、手早く修復すると再度【施錠】した。これで超大型魔物に直接攻撃でもされない限り、倒壊することはないはず。
「やっぱりすごいもんだね、錬金術ってのは」
ボクの修繕作業を見て、そんな感想を漏らしたのは老婦人だった。
「以前もどこかで錬金術を?」
「あたしじゃなく、あたしの母親が昔話してくれたんさ。ここの城壁や、うちの田んぼで育ててた米を用意してくれたのも錬金術師だったって話でね。うちが長いこと不自由なく暮らせたのも、その錬金術師のおかげってわけさ」
「その錬金術師って──」
ここでは珍しい錬金術師の素性を訊ねようとすると、老婦人は言葉を被せるようにして答えた。
「あの坊ちゃんの曾祖父さんのことさね」
「田畑を格安で貸してくださったのは、それが理由なのでしょうか」
そんなボクの質問に老婦人は首を横に振った。
「うんにゃ、単純に空いてたから貸しただけさね。まぁ、それも台無しになってしまったみたいだがね」
そう言った老婦人は、液状化してドロドロになった土地に目を向けていた
「米なら育てられるだろうけど、そちらさんはそうじゃなかったんだろう」
「えぇ、花畑をつくって養蜂でもと思っていたんですが」
「実際は違うんじゃないのかい?」
老婦人は、ボクがカモフラージュで用意する予定だった物を容易に看破していた。このひと相手に誤魔化しても無駄だろうなと感じたボクは、本当の目的を話すことにした。
「薬草を栽培出来ないかと思ったんですよ、ここの畑で」
「また妙なことを考えるもんだね。そんなことしなくとも外でいくらでも採れるだろうに」
「自分で採りに行くのなら、別にそれはそれでもよいのですが、ここの子供達にポーション作製を教えようかと思ってまして。それならいっそのこと薬草も自前で用意出来るようになればと思っただけですよ。ここの子供達は、元々農家の子供達がほとんどだと聞いてましたので、その手の天職になる可能性が高いですからね」
「米の代わりに今度は薬草をってことかい」
老婦人は疲れたように深く息を吐いた。
「まぁ、こんな状況になってしまった今となっては、それも難しくなっちゃいましたけどね」
「気にすることはないさね。別にあたしらが頼んだわけじゃないんでね」
「差し出がましいとは思ったんですけどね。ここの子達が冒険者としての適性がなかったとしても、それにかまわずダンジョンに行くようなるよりはいいかと思ったんですが」
「あたしもそうは思うがね。ままならないもんさね。まぁ、その気持ちだけは受け取っておくよ。それと──」
それまでボクとだけ言葉を交わしていた老婦人は、サク姉の方に視線を向けた。
「うちのバカ娘を呼び戻してくれたのは、お前さんなっだってね。礼を言っておくよ」
「彼女が自分で選択したことですよ」
サク姉は困った顔で、そう応じていた。
「まぁ、なんだい。最後に面と向かって話が出来てよかったよ」
そう言った老婦人の言葉尻は心なしか震えていた。ユウヒさんが自身の置かれた状況を話したのか、老婦人が察したのかまではわからない。それでも近くに訪れる別れに、どうにか折り合いをつけようとしているようだった。そんな老婦人に対して返す言葉は見つからなかったのか、サク姉は眉尻を下げて、口を引き結んでいた。
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