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106 盗賊さん、合流する。
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パパ宛にメッセージを送信したボクらは、ダンジョン跡地を離れ、孤児院に向かう。その途中でボクは、サク姉に寄り道を申し出た。ふたつ返事で了承を得て新たな目的地に向けて移動する。行き先はアンジーの働く食堂だったが、そこには倒壊した建物の瓦礫があるばかりだった。瓦礫の内部に魔力的な反応なく、生き埋めになっているというようなことがないことだけは察せられた。現状では、どこかに避難している可能性もあるため、アンジーがどういった状況下にあるか判断することは出来なかった。
「行こう、サク姉」
そう呼びかけて立ち去ろうとしていると、どこからか「ヒイロ」と名を呼ばれた。声の主を探して視線を巡らせると、通りに積み重なる瓦礫をどうにか乗り越えて来たらしいアンジーの姿があった。
「よかった。無事だったんだね」
「アンジーも無事そうでよかったよ」
お互いの無事をボクらは喜び合った。するとアンジーは気忙しく辺りをきょろきょろとしていた。
「グレンなら孤児院で子供達と一緒に居るよ」
「そう。あいつも無事なのね」
そこでようやくアンジーは安堵の息を漏らした。
「これから孤児院に向かうけど、アンジーも一緒に行かないかな。ここでは落ち着けないだろうし、孤児院はここらの建物と違って比較的無事だから避難するには適してるだろうからさ」
しばしの迷いを見せたアンジーだったが、最終的には同行することに同意していた。
「ただ、その前に冒険者ギルドに寄ってもいいかな。今はあそこの地下が避難所として開放されてて、お父ちゃんがそこで私のこと待ってるはずだからさ」
「わかったよ。それならお父上もご一緒にどうかな。孤児院の子達とは面識はあるんでしょう?」
「そうだね。その方がいいかも。冒険者ギルドの地下もひとで溢れかえっててパンパンだからね」
今回の被害規模を思えば当然のことかも知れなかった。
ボクらは冒険者ギルドでアンジーのお父上と合流して孤児院を目指した。見た目から熊のような印象を受ける大柄なアンジーのお父上は、寡黙か人物なようで、最初に挨拶を交わして以降はむっつりと口を引き結んでいた。
瓦礫を避けながらの道行は思った以上に時間を取られ、一般人と言っていいアンジー親子はかなり疲弊していた。体力回復効果のあるポーションでもあればよかったが、あいにくとそういったものを作製するのに必要な素材の持ち合わせはなかった。サク姉に移動用の召喚獣でも【召喚】してもらうことも考えたけれど、超大型魔物の調査に送り出した3体の召喚獣のことや、パパ宛にスケッチを届けてもらったりしてもらっていることを思えば、無理はさせられなかった。
ふたりの疲労の色もかなり濃くなった辺りで、どうにか孤児院付近にまで到着した。周辺の土地は液状化した土地の侵食を受けてベチャベチャになっていて、非常に歩き難かった。
遠目に見た孤児院では、複数の人影が屋外に出ているのがわかった。なにをしているのかと気になり、遠視魔術で確認すると、ボクが【施錠】した空気の壁を子供達がペタペタと触りながらグレンに問いかけているようだった。
「ちょっと先に行って話をつけてきますね。サク姉、あとはお願い」
「わかったわ」
サク姉の応答とほぼ同時に、ボクは大股で跳ぶように駆けて孤児院に向かった。
「グレン、こっちは問題なかったかな」
子供達に群がられたグレンは、疲れたように笑った。
「まぁ、ガキんちょどもは元気過ぎるくらいだろうな。それより、この【結界】だったか、解除してもらってもいいか。こいつらがうるさくてな」
グレンがそんな愚痴を漏らすと、子供達はグレンにぶうぶうと文句を言っていた。どうやらグレンは子供達に同年代と同じような扱いを受けているらしく、呼び捨てにされたりと、遠慮のないコミュニケーションを受けていた。
「少し下がっててもらえるかな」
そうボクがお願いすると子供達は、ほぼ初対面のボクに対してよそよそしさを発揮して、グレンを盾にするように後ろに下がった。その中にはグレンの服の裾を掴んでいる子も何人か見受けられ、彼が子供達の信頼を得ているのは一目でわかった。
ボクはスキルを発動するのに不必要な身振りを交えて、わかりやすい動作とともに空気の防壁を【解錠】した。すると子供達は「あ、消えた」「すげえ」などといったリアクションをとっていた。
そんなことをやっていると、ボクから少し遅れてアンジー親子とサク姉が到着した。それを目にした子供達は「おっちゃん!」と嬉しそうにアンジーのお父上に駆け寄っていた。お父上は突進するように出迎えて来た子供達を受け止めると、豪快に子供達を抱え上げていた。
どうやらよほど子供達に慕われているらしい。
子供達の嬉々とした声が響く中、静かにボクらの元にまでやって来たアンジーは、薄っすらと目尻に涙を滲ませて、グレンの胸元にこつんとノックするように軽く手で叩いていた。ふたりだけの空気で出来上がっていたので、ボクはそっとふたりの側を離れてサク姉と合流した。
「行こう、サク姉」
そう呼びかけて立ち去ろうとしていると、どこからか「ヒイロ」と名を呼ばれた。声の主を探して視線を巡らせると、通りに積み重なる瓦礫をどうにか乗り越えて来たらしいアンジーの姿があった。
「よかった。無事だったんだね」
「アンジーも無事そうでよかったよ」
お互いの無事をボクらは喜び合った。するとアンジーは気忙しく辺りをきょろきょろとしていた。
「グレンなら孤児院で子供達と一緒に居るよ」
「そう。あいつも無事なのね」
そこでようやくアンジーは安堵の息を漏らした。
「これから孤児院に向かうけど、アンジーも一緒に行かないかな。ここでは落ち着けないだろうし、孤児院はここらの建物と違って比較的無事だから避難するには適してるだろうからさ」
しばしの迷いを見せたアンジーだったが、最終的には同行することに同意していた。
「ただ、その前に冒険者ギルドに寄ってもいいかな。今はあそこの地下が避難所として開放されてて、お父ちゃんがそこで私のこと待ってるはずだからさ」
「わかったよ。それならお父上もご一緒にどうかな。孤児院の子達とは面識はあるんでしょう?」
「そうだね。その方がいいかも。冒険者ギルドの地下もひとで溢れかえっててパンパンだからね」
今回の被害規模を思えば当然のことかも知れなかった。
ボクらは冒険者ギルドでアンジーのお父上と合流して孤児院を目指した。見た目から熊のような印象を受ける大柄なアンジーのお父上は、寡黙か人物なようで、最初に挨拶を交わして以降はむっつりと口を引き結んでいた。
瓦礫を避けながらの道行は思った以上に時間を取られ、一般人と言っていいアンジー親子はかなり疲弊していた。体力回復効果のあるポーションでもあればよかったが、あいにくとそういったものを作製するのに必要な素材の持ち合わせはなかった。サク姉に移動用の召喚獣でも【召喚】してもらうことも考えたけれど、超大型魔物の調査に送り出した3体の召喚獣のことや、パパ宛にスケッチを届けてもらったりしてもらっていることを思えば、無理はさせられなかった。
ふたりの疲労の色もかなり濃くなった辺りで、どうにか孤児院付近にまで到着した。周辺の土地は液状化した土地の侵食を受けてベチャベチャになっていて、非常に歩き難かった。
遠目に見た孤児院では、複数の人影が屋外に出ているのがわかった。なにをしているのかと気になり、遠視魔術で確認すると、ボクが【施錠】した空気の壁を子供達がペタペタと触りながらグレンに問いかけているようだった。
「ちょっと先に行って話をつけてきますね。サク姉、あとはお願い」
「わかったわ」
サク姉の応答とほぼ同時に、ボクは大股で跳ぶように駆けて孤児院に向かった。
「グレン、こっちは問題なかったかな」
子供達に群がられたグレンは、疲れたように笑った。
「まぁ、ガキんちょどもは元気過ぎるくらいだろうな。それより、この【結界】だったか、解除してもらってもいいか。こいつらがうるさくてな」
グレンがそんな愚痴を漏らすと、子供達はグレンにぶうぶうと文句を言っていた。どうやらグレンは子供達に同年代と同じような扱いを受けているらしく、呼び捨てにされたりと、遠慮のないコミュニケーションを受けていた。
「少し下がっててもらえるかな」
そうボクがお願いすると子供達は、ほぼ初対面のボクに対してよそよそしさを発揮して、グレンを盾にするように後ろに下がった。その中にはグレンの服の裾を掴んでいる子も何人か見受けられ、彼が子供達の信頼を得ているのは一目でわかった。
ボクはスキルを発動するのに不必要な身振りを交えて、わかりやすい動作とともに空気の防壁を【解錠】した。すると子供達は「あ、消えた」「すげえ」などといったリアクションをとっていた。
そんなことをやっていると、ボクから少し遅れてアンジー親子とサク姉が到着した。それを目にした子供達は「おっちゃん!」と嬉しそうにアンジーのお父上に駆け寄っていた。お父上は突進するように出迎えて来た子供達を受け止めると、豪快に子供達を抱え上げていた。
どうやらよほど子供達に慕われているらしい。
子供達の嬉々とした声が響く中、静かにボクらの元にまでやって来たアンジーは、薄っすらと目尻に涙を滲ませて、グレンの胸元にこつんとノックするように軽く手で叩いていた。ふたりだけの空気で出来上がっていたので、ボクはそっとふたりの側を離れてサク姉と合流した。
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追記
2023/07/21 表紙絵を戦闘モードになったあるヤツの参考絵にしました。
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2024/02/23
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