104 / 118
104 盗賊さん、手分けする。
しおりを挟む
地面の陥没跡から超大型魔物の後を追うのは容易だったが、今は追ったところで得られるものは少ないと、直接の追跡は後回しにした。それにある程度の行き先の検討は付いている。超大型魔物が南南東に進路をとっていたことから、先日ボクが発見したダンジョンに向かった可能性が高かった。
「サク姉、追跡は?」
「大丈夫、きちんと追わせてるわ。地中と空との両方でね」
「たぶんボクらが明後日調査予定だったダンジョンに向かったと思う。もしそこから移動するようだったら改めて教えて」
「わかったわ。それより、これからどうする?」
「一度、孤児院に戻ろうかな。【施錠】した空気の殻の中に閉じ込めたままだしね」
「そういえばそうだったわね。錬金術ギルドの様子は確認してなくても平気?」
「あっちも建物事態は【施錠】してたから問題ないはず。それよりも急ぎ仕事で半端な状態のまま【施錠】しちゃった孤児院を修復しておきたいところだね」
「時間な余裕はなかったんだし仕方ないわよ。それよりも魔力の方は大丈夫なの。かなり消費しちゃってると思うんだけど」
「それなら平気だよ。今、ここら一帯の魔素濃度が高まってるからね。魔力回復の速度は通常の比じゃないくらいに効率よく行えてるからさ。サク姉もそうじゃない?」
「んー、どうかな。私の身体はそれほど魔素を効率よく魔力に変換出来ないみたいだからね」
上空で今後の方針を固めていると地上から声をかけられた。視線を地上に向けると、見知った顔がいくつか目に入った。
「サク姉、降りよう。一応、非常事態は去ったし、これ以上目立つのはまずそうだしさ」
「それもそうね」
大災害に見舞われ、自身の生存や身の回りの人間の状況を把握するのに注力していた人々も、災厄の根源となっていたモノが去った以上は、野次馬根性を発揮するものが少なからず出てくる頃合いでもあった。
そんな状況下にあっても、なんのしがらみもなく、興味本位に原因を探ろうと動き回っている人物も少なからず存在していた。
地上に降り立ったボクらはアンズーから降り、サク姉はアンズーを南南東に向けて単独で飛翔させていた。
「アッシュ、状況の把握はどの程度出来てる?」
ボクに問いかけられたアッシュは、さっぱりだと示すように肩をすくめてみせた。
「全くだね。大地が突き上げられるような衝撃に襲われたとき、冒険者ギルドに居たんだが、住人はみな混乱するばかりだったからね。ここでも珍しい現象だったらしい。地震と呼ばれる自然災害なのかとも思ったが、違ったようだね」
ボクはアッシュの斜め後ろに控えるようにして立つ細身の男性に、ちらりと視線を向ける。それに気付いたアッシュは、彼の紹介をする。
「あぁ、彼はノイト・ナトリアルト氏。昨晩、意気投合してね。夜通し意見交換をしていたんだ」
「ご紹介に預かりましたノイト・ナトリアルトです。以後お見知り置きを」
うやうやしく一礼した男性は、線が細く華奢で肉体労働とは縁遠そうな身体付きをしていた。
「ボクはヒイロ。アッシュ、彼とは古い馴染みだよ」
「私はサクラ。そいつとは同僚みたいなものね」
素性の知れない人物相手に、ボクとサク姉は簡素な自己紹介をさっさと済ませた。
「アッシュ、冒険者ギルドが今回の件の調査に乗り出すようなことは?」
「今のところまだだったが、ここの様子を見る限りだと、そうも言ってられないだろうね。ダンジョンが失われてしまったんだから」
「かもね。北部にあるスライムダンジョンと北西部の野菜などがドロップしていたダンジョンも破壊されたようだしね」
「噂に聞くダンジョンイーターってやつなのかな」
「どうかな。なぜか2番目に襲われたの共同墓地だったんだよね」
「なんだってそんな場所を」
「さぁ、ボクにはわからないけど、タラッサ聖教のひとならなにか知ってるんじゃないかな。あそこは公共設備とはいってもタラッサ聖教の施設だったようだし、地下に宗教的な意味合いのある特殊なアイテムでも保管してたのかも」
遺砂を取り込んだ可能性が高いという話は、ノイトの手前では伏せた。ノイトの立ち位置をいまいち掴みかねて対応に困る。
「ありそうな話だ」
「そういうことでしたら僕が調べてきましょうか」
そう申し出て来たのはノイトだった。
「頼めるかな」
「えぇ、かまいませんよ。以前からタラッサ聖教には興味がありましたが、なかなかきっかけがなく、門戸を叩くことが出来ませんでしたからね」
アッシュと二言三言交わしたノイトは、あっさりとこの場から立ち去っていった。そのふたりのやり取りからは、長い月日を経た関係を思わせた。
「出会ったばかりで、随分と親しいようだけど、素性を明かしたりはしてないよね?」
「まさか。ありえないさ。彼とは知的好奇心を刺激し合う同志というだけのことだよ」
「まぁ、アッシュの友好関係のことは置いておくとして、冒険者ギルドの被害状況は?」
「周辺の建物が倒壊してる中で、全くの無事だよ。あの副ギルド長がなんらかのスキルでどうにかしていたようだね」
もうあの副ギルド長が得体の知れない力を使うのはわかりきっているので、そこまでの驚きはなかった。
「それならアッシュは冒険者ギルドに向かってくれないかな。今回の原因となった魔物のスケッチと簡単な特徴や使用していた能力などを書き添えておくから、それを副ギルド長に渡してもらえないかな」
「あぁ、わかったよ」
快い返事をもらったので、ボクはウエストポーチから植物紙と筆記具を取り出して、ささっと超大型魔物の姿を描いていった。
「サク姉、追跡は?」
「大丈夫、きちんと追わせてるわ。地中と空との両方でね」
「たぶんボクらが明後日調査予定だったダンジョンに向かったと思う。もしそこから移動するようだったら改めて教えて」
「わかったわ。それより、これからどうする?」
「一度、孤児院に戻ろうかな。【施錠】した空気の殻の中に閉じ込めたままだしね」
「そういえばそうだったわね。錬金術ギルドの様子は確認してなくても平気?」
「あっちも建物事態は【施錠】してたから問題ないはず。それよりも急ぎ仕事で半端な状態のまま【施錠】しちゃった孤児院を修復しておきたいところだね」
「時間な余裕はなかったんだし仕方ないわよ。それよりも魔力の方は大丈夫なの。かなり消費しちゃってると思うんだけど」
「それなら平気だよ。今、ここら一帯の魔素濃度が高まってるからね。魔力回復の速度は通常の比じゃないくらいに効率よく行えてるからさ。サク姉もそうじゃない?」
「んー、どうかな。私の身体はそれほど魔素を効率よく魔力に変換出来ないみたいだからね」
上空で今後の方針を固めていると地上から声をかけられた。視線を地上に向けると、見知った顔がいくつか目に入った。
「サク姉、降りよう。一応、非常事態は去ったし、これ以上目立つのはまずそうだしさ」
「それもそうね」
大災害に見舞われ、自身の生存や身の回りの人間の状況を把握するのに注力していた人々も、災厄の根源となっていたモノが去った以上は、野次馬根性を発揮するものが少なからず出てくる頃合いでもあった。
そんな状況下にあっても、なんのしがらみもなく、興味本位に原因を探ろうと動き回っている人物も少なからず存在していた。
地上に降り立ったボクらはアンズーから降り、サク姉はアンズーを南南東に向けて単独で飛翔させていた。
「アッシュ、状況の把握はどの程度出来てる?」
ボクに問いかけられたアッシュは、さっぱりだと示すように肩をすくめてみせた。
「全くだね。大地が突き上げられるような衝撃に襲われたとき、冒険者ギルドに居たんだが、住人はみな混乱するばかりだったからね。ここでも珍しい現象だったらしい。地震と呼ばれる自然災害なのかとも思ったが、違ったようだね」
ボクはアッシュの斜め後ろに控えるようにして立つ細身の男性に、ちらりと視線を向ける。それに気付いたアッシュは、彼の紹介をする。
「あぁ、彼はノイト・ナトリアルト氏。昨晩、意気投合してね。夜通し意見交換をしていたんだ」
「ご紹介に預かりましたノイト・ナトリアルトです。以後お見知り置きを」
うやうやしく一礼した男性は、線が細く華奢で肉体労働とは縁遠そうな身体付きをしていた。
「ボクはヒイロ。アッシュ、彼とは古い馴染みだよ」
「私はサクラ。そいつとは同僚みたいなものね」
素性の知れない人物相手に、ボクとサク姉は簡素な自己紹介をさっさと済ませた。
「アッシュ、冒険者ギルドが今回の件の調査に乗り出すようなことは?」
「今のところまだだったが、ここの様子を見る限りだと、そうも言ってられないだろうね。ダンジョンが失われてしまったんだから」
「かもね。北部にあるスライムダンジョンと北西部の野菜などがドロップしていたダンジョンも破壊されたようだしね」
「噂に聞くダンジョンイーターってやつなのかな」
「どうかな。なぜか2番目に襲われたの共同墓地だったんだよね」
「なんだってそんな場所を」
「さぁ、ボクにはわからないけど、タラッサ聖教のひとならなにか知ってるんじゃないかな。あそこは公共設備とはいってもタラッサ聖教の施設だったようだし、地下に宗教的な意味合いのある特殊なアイテムでも保管してたのかも」
遺砂を取り込んだ可能性が高いという話は、ノイトの手前では伏せた。ノイトの立ち位置をいまいち掴みかねて対応に困る。
「ありそうな話だ」
「そういうことでしたら僕が調べてきましょうか」
そう申し出て来たのはノイトだった。
「頼めるかな」
「えぇ、かまいませんよ。以前からタラッサ聖教には興味がありましたが、なかなかきっかけがなく、門戸を叩くことが出来ませんでしたからね」
アッシュと二言三言交わしたノイトは、あっさりとこの場から立ち去っていった。そのふたりのやり取りからは、長い月日を経た関係を思わせた。
「出会ったばかりで、随分と親しいようだけど、素性を明かしたりはしてないよね?」
「まさか。ありえないさ。彼とは知的好奇心を刺激し合う同志というだけのことだよ」
「まぁ、アッシュの友好関係のことは置いておくとして、冒険者ギルドの被害状況は?」
「周辺の建物が倒壊してる中で、全くの無事だよ。あの副ギルド長がなんらかのスキルでどうにかしていたようだね」
もうあの副ギルド長が得体の知れない力を使うのはわかりきっているので、そこまでの驚きはなかった。
「それならアッシュは冒険者ギルドに向かってくれないかな。今回の原因となった魔物のスケッチと簡単な特徴や使用していた能力などを書き添えておくから、それを副ギルド長に渡してもらえないかな」
「あぁ、わかったよ」
快い返事をもらったので、ボクはウエストポーチから植物紙と筆記具を取り出して、ささっと超大型魔物の姿を描いていった。
0
お気に入りに追加
142
あなたにおすすめの小説

母親に家を追い出されたので、勝手に生きる!!(泣きついて来ても、助けてやらない)
いくみ
ファンタジー
実母に家を追い出された。
全く親父の奴!勝手に消えやがって!
親父が帰ってこなくなったから、実母が再婚したが……。その再婚相手は働きもせずに好き勝手する男だった。
俺は消えた親父から母と頼むと、言われて。
母を守ったつもりだったが……出て行けと言われた……。
なんだこれ!俺よりもその男とできた子供の味方なんだな?
なら、出ていくよ!
俺が居なくても食って行けるなら勝手にしろよ!
これは、のんびり気ままに冒険をする男の話です。
カクヨム様にて先行掲載中です。
不定期更新です。
大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです
飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。
だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。
勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し!
そんなお話です。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

少し冷めた村人少年の冒険記
mizuno sei
ファンタジー
辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。
トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。
優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。
[鑑定]スキルしかない俺を追放したのはいいが、貴様らにはもう関わるのはイヤだから、さがさないでくれ!
どら焼き
ファンタジー
ついに!第5章突入!
舐めた奴らに、真実が牙を剥く!
何も説明無く、いきなり異世界転移!らしいのだが、この王冠つけたオッサン何を言っているのだ?
しかも、ステータスが文字化けしていて、スキルも「鑑定??」だけって酷くない?
訳のわからない言葉?を発声している王女?と、勇者らしい同級生達がオレを城から捨てやがったので、
なんとか、苦労して宿代とパン代を稼ぐ主人公カザト!
そして…わかってくる、この異世界の異常性。
出会いを重ねて、なんとか元の世界に戻る方法を切り開いて行く物語。
主人公の直接復讐する要素は、あまりありません。
相手方の、あまりにも酷い自堕落さから出てくる、ざまぁ要素は、少しづつ出てくる予定です。
ハーレム要素は、不明とします。
復讐での強制ハーレム要素は、無しの予定です。
追記
2023/07/21 表紙絵を戦闘モードになったあるヤツの参考絵にしました。
8月近くでなにが、変形するのかわかる予定です。
2024/02/23
アルファポリスオンリーを解除しました。

システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。
大国 鹿児
ファンタジー
輪廻転生のシステムのバグで輪廻の輪から外れちゃった!
でも神様から便利なチートグッズ(笑)の詰め合わせをもらって、
他の星に転生しました!特に使命も無いなら自由気ままに生きてみよう!
主人公はチート無双するのか!? それともハーレムか!?
はたまた、壮大なファンタジーが始まるのか!?
いえ、実は単なる趣味全開の主人公です。
色々な秘密がだんだん明らかになりますので、ゆっくりとお楽しみください。
*** 作品について ***
この作品は、真面目なチート物ではありません。
コメディーやギャグ要素やネタの多い作品となっております
重厚な世界観や派手な戦闘描写、ざまあ展開などをお求めの方は、
この作品をスルーして下さい。
*カクヨム様,小説家になろう様でも、別PNで先行して投稿しております。
誰一人帰らない『奈落』に落とされたおっさん、うっかり暗号を解読したら、未知の遺物の使い手になりました!
ミポリオン
ファンタジー
旧題:巻き込まれ召喚されたおっさん、無能で誰一人帰らない場所に追放されるも、超古代文明の暗号を解いて力を手にいれ、楽しく生きていく
高校生達が勇者として召喚される中、1人のただのサラリーマンのおっさんである福菅健吾が巻き込まれて異世界に召喚された。
高校生達は強力なステータスとスキルを獲得したが、おっさんは一般人未満のステータスしかない上に、異世界人の誰もが持っている言語理解しかなかったため、転移装置で誰一人帰ってこない『奈落』に追放されてしまう。
しかし、そこに刻まれた見たこともない文字を、健吾には全て理解する事ができ、強大な超古代文明のアイテムを手に入れる。
召喚者達は気づかなかった。健吾以外の高校生達の通常スキル欄に言語スキルがあり、健吾だけは固有スキルの欄に言語スキルがあった事を。そしてそのスキルが恐るべき力を秘めていることを。
※カクヨムでも連載しています

強制力がなくなった世界に残されたものは
りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った
令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達
世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか
その世界を狂わせたものは
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる