102 / 118
102 盗賊さん、脅威を目の当たりにする。
しおりを挟む
土砂が噴き上がるのと時を同じくして、大地の鳴動は静まった。だが、それで異常事態が終息するわけでもなく、さらなる異常現状がバーガンディを襲うこととなった。
その原因を上空から逸早く目視したらしいサク姉が、新たに【召喚】した小鳥をボクの肩に止まらせ、小鳥を通じてボクに状況を伝えて来た。
『超大型魔物出現。周辺地域を手当たり次第に液状化していってるわ。このまま放置すれば、この辺りも泥の中に沈むことになる』
サク姉の端的な報告を受けたボクは、半球状に【施錠】した地面に再度魔力を流し込み、内部を空洞にしてもしもの時に備えて浮力を与えた。
その作業を付かず離れずの距離で子供達と見守っていたグレンに対して、彼が今出来ることを頼む。
「グレン、子供達一緒に孤児院の中に避難しててくれるかな。これから孤児院周辺に【結界】を張るから中の方が外よりも安全になるからさ」
ボクは【結界】などと適当な名称を付けながら、簡単に説明をした。それを受けたグレンは無言で頷き、子供達の背を押しながら孤児院の中へと入るよう促していた。余計な会話を交わすことなく、頼みに応じてくれたことに内心で感謝する。ボクは肩に乗る小鳥を通じてサク姉に上空から降りてもらうよう告げた。すると上空で待機していたアンズーに跨ったのをサク姉は、すぐさま舞い降りた。
「サク姉。ここを離れる前に空気を防壁として【施錠】するから、ボクの魔力が浸透している領域の外ギリギリの位置まで飛んでくれないかな」
「それじゃ、乗って」
サク姉に腕を引かれ、手早くアンズーの背に乗り、上空へと舞い上がる。ちょうど良い位置に静止してくれたので、ボクは時間を無駄にしないように作業に取り掛かる。
孤児院の周辺を覆う半球状の層になるように魔力を形成して流し込み、固めた地面と併せて球体になるように【施錠】した。そのままでは窒息の恐れがあったので、細かな空気穴を上部に複数開けることで対処した。
「済んだよ。それで超大型魔物っていうのは、今どこに」
「液状化の範囲を広げながら北東部を目指して直進してる」
その言葉を受けてボクは、遠視魔術『バートアイ』を発動して報告にあった方角に視線を向けた。すると山羊の上半身と魚類のような下半身を持つ数十mはあろうかという巨大な魔物が、なんの迷いも見せずに地面を液状化しながら直進していた。進行方向にあったはずの城壁は、既に泥の中に没していた。さらにその先に視線を移すと、そこにあったのは昨夜訪れたばかりの共同墓地だった。
「共同墓地に向かってる?」
「みたいね。他のものに全く興味も示してないところを見ると、あそこになにかあるのかしら」
「先回り出来る?」
「液状化で行動範囲を広げながらの進行だからすぐに追い抜けるだろうけど、あまり近付くのは危険じゃないかしら」
「危険は承知の上だよ。ことまま見送るのは、今以上の危険を招くような気がするんだよね」
「それはそうだろうけど、あまりにも危険だと私が判断した場合は、即刻離脱するからね」
「ありがとう。それでお願い」
「じゃ、飛ばすよ」
サク姉のその言葉が合図となり、アンズーは大きく広げた翼で空気を叩いて急加速した。共同墓地との距離は一気に縮まった。
そこへ、超大型魔物の方から大音声が響き渡った。それは音だけにはとどまらず、衝撃を伴った空気の塊が超大型魔物と共同墓地との間にあったものを、ことごとく吹き飛ばした。それは超大型魔物が放った咆哮の直線上にあった共同墓地も同様で、建物は完全にバラバラに破壊されていた。
当然ながら共同墓地に接近すべく飛行していたボクらも、その被害を受けることとなった。空気が混ぜっ返されて、アンズーは一時的に飛行不能になり、墜落しかけたが、どうにか地面に叩きつけられる前に、持ち前の姿勢制御力で空中に留まることに成功していた。
「たったひと吠えであの威力。人間がどうこう出来るレベルの存在じゃないね、あれは」
「そうね。これ以上の接近は、まず無理ね。羽虫みたいに撃ち落とされるだけならまだしも、衝撃波でバラバラになりかねないわ」
離れた位置で超大型魔物の動向を探っていると、その身体から魔素が霧散していくときに放たれる光が散っているのが目に入った。
「あの魔物、無理にダンジョン外に出たのはいいけど、身体を維持出来るだけの魔素が維持出来ずに崩壊を始めてるね」
「あんなものが当たり前に地上を闊歩するなんて事態は避けられそうね。そのまま勝手に自滅してくれるといいけど……それまでにどれだけの被害が出るかわかったものではないわね」
遠からず事態は終息するだろうと胸をなで下ろしたボクらは、超大型魔物が自壊するまでの動向を確認すべく、視線を追随させた。
やがて共同墓地跡にまで到達した超大型魔物は、液状化した地面に潜ったかと思うと、短くはない時間を経てから地下の遺体安置所を食い破って再び地上に姿を見せた。
ただ、その身体にはさっきまでの霧散する魔素のきらめきはなく、新たにさっきまでは存在していなかった異常な魔力が超大型魔物の内部で渦巻いているのが感じ取れた。
その原因を上空から逸早く目視したらしいサク姉が、新たに【召喚】した小鳥をボクの肩に止まらせ、小鳥を通じてボクに状況を伝えて来た。
『超大型魔物出現。周辺地域を手当たり次第に液状化していってるわ。このまま放置すれば、この辺りも泥の中に沈むことになる』
サク姉の端的な報告を受けたボクは、半球状に【施錠】した地面に再度魔力を流し込み、内部を空洞にしてもしもの時に備えて浮力を与えた。
その作業を付かず離れずの距離で子供達と見守っていたグレンに対して、彼が今出来ることを頼む。
「グレン、子供達一緒に孤児院の中に避難しててくれるかな。これから孤児院周辺に【結界】を張るから中の方が外よりも安全になるからさ」
ボクは【結界】などと適当な名称を付けながら、簡単に説明をした。それを受けたグレンは無言で頷き、子供達の背を押しながら孤児院の中へと入るよう促していた。余計な会話を交わすことなく、頼みに応じてくれたことに内心で感謝する。ボクは肩に乗る小鳥を通じてサク姉に上空から降りてもらうよう告げた。すると上空で待機していたアンズーに跨ったのをサク姉は、すぐさま舞い降りた。
「サク姉。ここを離れる前に空気を防壁として【施錠】するから、ボクの魔力が浸透している領域の外ギリギリの位置まで飛んでくれないかな」
「それじゃ、乗って」
サク姉に腕を引かれ、手早くアンズーの背に乗り、上空へと舞い上がる。ちょうど良い位置に静止してくれたので、ボクは時間を無駄にしないように作業に取り掛かる。
孤児院の周辺を覆う半球状の層になるように魔力を形成して流し込み、固めた地面と併せて球体になるように【施錠】した。そのままでは窒息の恐れがあったので、細かな空気穴を上部に複数開けることで対処した。
「済んだよ。それで超大型魔物っていうのは、今どこに」
「液状化の範囲を広げながら北東部を目指して直進してる」
その言葉を受けてボクは、遠視魔術『バートアイ』を発動して報告にあった方角に視線を向けた。すると山羊の上半身と魚類のような下半身を持つ数十mはあろうかという巨大な魔物が、なんの迷いも見せずに地面を液状化しながら直進していた。進行方向にあったはずの城壁は、既に泥の中に没していた。さらにその先に視線を移すと、そこにあったのは昨夜訪れたばかりの共同墓地だった。
「共同墓地に向かってる?」
「みたいね。他のものに全く興味も示してないところを見ると、あそこになにかあるのかしら」
「先回り出来る?」
「液状化で行動範囲を広げながらの進行だからすぐに追い抜けるだろうけど、あまり近付くのは危険じゃないかしら」
「危険は承知の上だよ。ことまま見送るのは、今以上の危険を招くような気がするんだよね」
「それはそうだろうけど、あまりにも危険だと私が判断した場合は、即刻離脱するからね」
「ありがとう。それでお願い」
「じゃ、飛ばすよ」
サク姉のその言葉が合図となり、アンズーは大きく広げた翼で空気を叩いて急加速した。共同墓地との距離は一気に縮まった。
そこへ、超大型魔物の方から大音声が響き渡った。それは音だけにはとどまらず、衝撃を伴った空気の塊が超大型魔物と共同墓地との間にあったものを、ことごとく吹き飛ばした。それは超大型魔物が放った咆哮の直線上にあった共同墓地も同様で、建物は完全にバラバラに破壊されていた。
当然ながら共同墓地に接近すべく飛行していたボクらも、その被害を受けることとなった。空気が混ぜっ返されて、アンズーは一時的に飛行不能になり、墜落しかけたが、どうにか地面に叩きつけられる前に、持ち前の姿勢制御力で空中に留まることに成功していた。
「たったひと吠えであの威力。人間がどうこう出来るレベルの存在じゃないね、あれは」
「そうね。これ以上の接近は、まず無理ね。羽虫みたいに撃ち落とされるだけならまだしも、衝撃波でバラバラになりかねないわ」
離れた位置で超大型魔物の動向を探っていると、その身体から魔素が霧散していくときに放たれる光が散っているのが目に入った。
「あの魔物、無理にダンジョン外に出たのはいいけど、身体を維持出来るだけの魔素が維持出来ずに崩壊を始めてるね」
「あんなものが当たり前に地上を闊歩するなんて事態は避けられそうね。そのまま勝手に自滅してくれるといいけど……それまでにどれだけの被害が出るかわかったものではないわね」
遠からず事態は終息するだろうと胸をなで下ろしたボクらは、超大型魔物が自壊するまでの動向を確認すべく、視線を追随させた。
やがて共同墓地跡にまで到達した超大型魔物は、液状化した地面に潜ったかと思うと、短くはない時間を経てから地下の遺体安置所を食い破って再び地上に姿を見せた。
ただ、その身体にはさっきまでの霧散する魔素のきらめきはなく、新たにさっきまでは存在していなかった異常な魔力が超大型魔物の内部で渦巻いているのが感じ取れた。
0
お気に入りに追加
142
あなたにおすすめの小説

母親に家を追い出されたので、勝手に生きる!!(泣きついて来ても、助けてやらない)
いくみ
ファンタジー
実母に家を追い出された。
全く親父の奴!勝手に消えやがって!
親父が帰ってこなくなったから、実母が再婚したが……。その再婚相手は働きもせずに好き勝手する男だった。
俺は消えた親父から母と頼むと、言われて。
母を守ったつもりだったが……出て行けと言われた……。
なんだこれ!俺よりもその男とできた子供の味方なんだな?
なら、出ていくよ!
俺が居なくても食って行けるなら勝手にしろよ!
これは、のんびり気ままに冒険をする男の話です。
カクヨム様にて先行掲載中です。
不定期更新です。
大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです
飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。
だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。
勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し!
そんなお話です。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。
大国 鹿児
ファンタジー
輪廻転生のシステムのバグで輪廻の輪から外れちゃった!
でも神様から便利なチートグッズ(笑)の詰め合わせをもらって、
他の星に転生しました!特に使命も無いなら自由気ままに生きてみよう!
主人公はチート無双するのか!? それともハーレムか!?
はたまた、壮大なファンタジーが始まるのか!?
いえ、実は単なる趣味全開の主人公です。
色々な秘密がだんだん明らかになりますので、ゆっくりとお楽しみください。
*** 作品について ***
この作品は、真面目なチート物ではありません。
コメディーやギャグ要素やネタの多い作品となっております
重厚な世界観や派手な戦闘描写、ざまあ展開などをお求めの方は、
この作品をスルーして下さい。
*カクヨム様,小説家になろう様でも、別PNで先行して投稿しております。

少し冷めた村人少年の冒険記
mizuno sei
ファンタジー
辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。
トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。
優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。
[鑑定]スキルしかない俺を追放したのはいいが、貴様らにはもう関わるのはイヤだから、さがさないでくれ!
どら焼き
ファンタジー
ついに!第5章突入!
舐めた奴らに、真実が牙を剥く!
何も説明無く、いきなり異世界転移!らしいのだが、この王冠つけたオッサン何を言っているのだ?
しかも、ステータスが文字化けしていて、スキルも「鑑定??」だけって酷くない?
訳のわからない言葉?を発声している王女?と、勇者らしい同級生達がオレを城から捨てやがったので、
なんとか、苦労して宿代とパン代を稼ぐ主人公カザト!
そして…わかってくる、この異世界の異常性。
出会いを重ねて、なんとか元の世界に戻る方法を切り開いて行く物語。
主人公の直接復讐する要素は、あまりありません。
相手方の、あまりにも酷い自堕落さから出てくる、ざまぁ要素は、少しづつ出てくる予定です。
ハーレム要素は、不明とします。
復讐での強制ハーレム要素は、無しの予定です。
追記
2023/07/21 表紙絵を戦闘モードになったあるヤツの参考絵にしました。
8月近くでなにが、変形するのかわかる予定です。
2024/02/23
アルファポリスオンリーを解除しました。


【完結】そして、誰もいなくなった
杜野秋人
ファンタジー
「そなたは私の妻として、侯爵夫人として相応しくない!よって婚約を破棄する!」
愛する令嬢を傍らに声高にそう叫ぶ婚約者イグナシオに伯爵家令嬢セリアは誤解だと訴えるが、イグナシオは聞く耳を持たない。それどころか明らかに犯してもいない罪を挙げられ糾弾され、彼女は思わず彼に手を伸ばして取り縋ろうとした。
「触るな!」
だがその手をイグナシオは大きく振り払った。振り払われよろめいたセリアは、受け身も取れないまま仰向けに倒れ、頭を打って昏倒した。
「突き飛ばしたぞ」
「彼が手を上げた」
「誰か衛兵を呼べ!」
騒然となるパーティー会場。すぐさま会場警護の騎士たちに取り囲まれ、彼は「違うんだ、話を聞いてくれ!」と叫びながら愛人の令嬢とともに連行されていった。
そして倒れたセリアもすぐさま人が集められ運び出されていった。
そして誰もいなくなった。
彼女と彼と愛人と、果たして誰が悪かったのか。
これはとある悲しい、婚約破棄の物語である。
◆小説家になろう様でも公開しています。話数の関係上あちらの方が進みが早いです。
3/27、なろう版完結。あちらは全8話です。
3/30、小説家になろうヒューマンドラマランキング日間1位になりました!
4/1、完結しました。全14話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる