天職はドロップ率300%の盗賊、錬金術師を騙る。

朱本来未

文字の大きさ
上 下
97 / 118

097 盗賊さん、成人の儀に疑念を抱く。

しおりを挟む
 ユウヒさんが落ち着くのを待ってから、サク姉は彼女に優しく声をかけた。
「あなたに残された時間は、もうあまりないわ。明日の夜には、消えてしまう。だから心残りを解消してしまいましょうか。おそらくこれが最後のチャンスになるでしょうからね」
 再召喚が可能かどうかについてサク姉は言及しなかった。でも、サク姉はボクにそれをさせる気はないのだと雰囲気から伝わって来ていた。
「えぇ、そうね。もう死んでしまったんだもの。恐れるものはもうないわ。本当なら生きているうちに死ぬ気でやればよかったんでしょうけどね。後悔しても遅いのよね」
「まだ全て終わってしまったわけじゃないわ。後悔するにはまだ早いわ」
「そうね。そうよね。ありがとう……まだ、お名前を伺ってなかったわね。聞かせてもらってもいいかしら」
「サクラ。サクラ・イーゼレクトよ」
「そう。サクラさんと言うのね。あなたの未来が明るいことを、あの世から祈ってるわ」
「祈るのなら私ではなく、あなたの娘さんのことを祈ってあげて」
「もちろんよ。その上で、あなたの幸せを祈りたかったのよ。私にとってあなたは特別な恩人だから」
「さぁ、時間も限られてるし、娘さんのところに行ってあげて。孤児院までは私が送るから」
 そう言ったサク姉は、ボクに目配せした。ボクはそれに頷きを返した。するとサク姉は、ユウヒさんの背を押して地上に上がって行った。

 ふたりの背を見送り、しばらく地下に止まっていると、いつの間にか姿を消していたサク姉の召喚獣である黒猫がボクの足元に擦り寄って来ていた。
 ボクは黒猫を抱えて自室に向かった。ベッドに腰掛けて鐘ひとつ分くらいの時間をぼんやりと過ごしていると、部屋の扉がノックされた。するとボクの膝の上で丸くなっていた黒猫が、ぱっと目を覚ましてとことこと扉の前に歩いていく。
「開いてるよ」
 端的なボクの返答に応じて扉は開かれ、その向こうから姿を見せたのはサク姉だった。
「おかえり、サク姉」
「ただいま」
「ごめん。なんだかボクの尻拭いさせちゃったみたいだね」
「別にいいわよ。私がそうしたかっただけだから。それにあんな想定外なトラブルなんて、誰にも予測出来ないわ」
「理由、わかる?」
 ボクの漠然とした質問を受けたサク姉は、足元にいる黒猫を抱き抱えてボクの横に腰を下ろした。
「なんとなくはね。と言うか、完全に仮説でしかないんだけど、それでもいいならね」
「聞かせて」
 ボクの返答を得たサク姉は、一拍置いてから話し始めた。
「考えられる可能性のひとつは、私の天職が本当は『召喚術師』じゃないってこと」
「それって変じゃない? 成人の儀で『召喚術師』って[天命啓示版トゥプシマティ]に記述されたんでしょう」
「私達の解釈では、確かに『召喚術師』と記されたと言っていいけれど、それはあくまでも[天命啓示版トゥプシマティ]に表示された文字列を私達が翻訳したものでしかない。だから本来は全く別の意味を持った言葉が記されてたのかもしれないってことよ。天職は[天命啓示版トゥプシマティ]に表示された文字列と、発現した能力の性質を結びつけて、それに見合った単語を後付けしたものがほとんどだからね」
 [天命啓示版トゥプシマティ]は、クルガル大山岳地帯に太古の昔から存在している大迷宮エクル神殿でドロップしたのが最初だって聞いたことがある。その[天命啓示版トゥプシマティ]に表示される文字列だと思われてるものは、精緻で複雑な紋章の羅列でしかないから、誤読されたまま今に伝わっていても不思議ではないのかな。だとしたらボクの『盗賊』も全く別の意味を持った内容である可能性もあるのかもしれない。
「それが可能性のひとつってことは、他にもなにかあるの?」
「そっちはヒロちゃんが、無個性化した魔力で他職のスキルを発動させたことでスキルとして不具合が起きたか。使用したスキルが『召喚術師』の【召喚】ではなく、『死霊術師』の【降霊】だったって場合ね」
「サク姉は、どっちの方が可能性が高いと思う?」
 太腿の上で眠る黒猫をなでながら、しばし黙考したサク姉は端的に答えた。
「後者かな」
「なぜ?」
「単純に天職から得られる知識が、成人の儀で判定されて伝えられた天職の内容と合致しているからかな。スキルの名称なんかが最たる例じゃない。私のスキル【召喚】は、その単語がスキル名として脳裏に浮かぶもの。ヒロちゃんもそうでしょう」
「確かにそれはそうだね」
 サク姉が言うように、ボクは天職知識から【奪取】や【解錠】【投擲】【隠密】などのスキル知識を得ていた。だけれどボクは、それらに対してなんとも言えない引っ掛かりを覚えていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

母親に家を追い出されたので、勝手に生きる!!(泣きついて来ても、助けてやらない)

いくみ
ファンタジー
実母に家を追い出された。 全く親父の奴!勝手に消えやがって! 親父が帰ってこなくなったから、実母が再婚したが……。その再婚相手は働きもせずに好き勝手する男だった。 俺は消えた親父から母と頼むと、言われて。 母を守ったつもりだったが……出て行けと言われた……。 なんだこれ!俺よりもその男とできた子供の味方なんだな? なら、出ていくよ! 俺が居なくても食って行けるなら勝手にしろよ! これは、のんびり気ままに冒険をする男の話です。 カクヨム様にて先行掲載中です。 不定期更新です。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです

飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。 だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。 勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し! そんなお話です。

システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。

大国 鹿児
ファンタジー
輪廻転生のシステムのバグで輪廻の輪から外れちゃった! でも神様から便利なチートグッズ(笑)の詰め合わせをもらって、 他の星に転生しました!特に使命も無いなら自由気ままに生きてみよう! 主人公はチート無双するのか!? それともハーレムか!? はたまた、壮大なファンタジーが始まるのか!? いえ、実は単なる趣味全開の主人公です。 色々な秘密がだんだん明らかになりますので、ゆっくりとお楽しみください。 *** 作品について *** この作品は、真面目なチート物ではありません。 コメディーやギャグ要素やネタの多い作品となっております 重厚な世界観や派手な戦闘描写、ざまあ展開などをお求めの方は、 この作品をスルーして下さい。 *カクヨム様,小説家になろう様でも、別PNで先行して投稿しております。

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

[鑑定]スキルしかない俺を追放したのはいいが、貴様らにはもう関わるのはイヤだから、さがさないでくれ!

どら焼き
ファンタジー
ついに!第5章突入! 舐めた奴らに、真実が牙を剥く! 何も説明無く、いきなり異世界転移!らしいのだが、この王冠つけたオッサン何を言っているのだ? しかも、ステータスが文字化けしていて、スキルも「鑑定??」だけって酷くない? 訳のわからない言葉?を発声している王女?と、勇者らしい同級生達がオレを城から捨てやがったので、 なんとか、苦労して宿代とパン代を稼ぐ主人公カザト! そして…わかってくる、この異世界の異常性。 出会いを重ねて、なんとか元の世界に戻る方法を切り開いて行く物語。 主人公の直接復讐する要素は、あまりありません。 相手方の、あまりにも酷い自堕落さから出てくる、ざまぁ要素は、少しづつ出てくる予定です。 ハーレム要素は、不明とします。 復讐での強制ハーレム要素は、無しの予定です。 追記  2023/07/21 表紙絵を戦闘モードになったあるヤツの参考絵にしました。 8月近くでなにが、変形するのかわかる予定です。 2024/02/23 アルファポリスオンリーを解除しました。

(完結)魔王討伐後にパーティー追放されたFランク魔法剣士は、超レア能力【全スキル】を覚えてゲスすぎる勇者達をザマアしつつ世界を救います

しまうま弁当
ファンタジー
魔王討伐直後にクリードは勇者ライオスからパーティーから出て行けといわれるのだった。クリードはパーティー内ではつねにFランクと呼ばれ戦闘にも参加させてもらえず場美雑言は当たり前でクリードはもう勇者パーティーから出て行きたいと常々考えていたので、いい機会だと思って出て行く事にした。だがラストダンジョンから脱出に必要なリアーの羽はライオス達は分けてくれなかったので、仕方なく一階層づつ上っていく事を決めたのだった。だがなぜか後ろから勇者パーティー内で唯一のヒロインであるミリーが追いかけてきて一緒に脱出しようと言ってくれたのだった。切羽詰まっていると感じたクリードはミリーと一緒に脱出を図ろうとするが、後ろから追いかけてきたメンバーに石にされてしまったのだった。

強制力がなくなった世界に残されたものは

りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った 令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達 世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか その世界を狂わせたものは

処理中です...