95 / 118
095 盗賊さん、命を冒涜する。
しおりを挟む
スキルの動作確認が済んだボクは、当初の目的を果たすことにする。
「サク姉。これからボクはひとの命を冒涜することなるけど、召喚対象が暴走した場合は手を借りてもいいかな」
「……正直、手を貸したくないし、止めたいけど、止めたってやるんでしょ。私としては時が解決してくれるのを待つ方がいいとは思うんだけどね。親に捨てられたってことを今は受け入れられなくても、いつかは割り切れるだろうからね。急がせる必要はないんじゃないかな」
説得するのは無駄だろうと半ば諦めたように、サク姉はそんなことを言った。
「たぶんあの子もそう思ってるだろうね。だからその認識を変えたいんだ」
そんなボクの返答を耳にしたサク姉は、さっきまでとは打って変わって顔を険しくした。
「それって、まさかとは思うけど母親の死を受け入れさせるってこと? 別れを告げさせるって言ってたのは、そういうことなの」
「そうだよ」
「死を知らせるくらいなら、捨てられたけど、何処かで生きてるかも知れないって、思ってた方がマシなんじゃないの。下手をしたら塞ぎ込んじゃうかもしれないよ」
説得を諦めていたサク姉は、考えを改めたのか、なるべく感情的にならないように言葉を並べ立てた。
「それでも事実を知らないままでいるよりは、いいんじゃないかな」
ボクの意思が固いとみると、サク姉は責めるように諌めてくる。
「ヒロちゃんの価値観ではそうだろうけど、他の人も同じように考えるわけじゃないんだよ。わかってる?」
サク姉の指摘は最もだとは思う。それでもこの件に関してボクは引き下がれない。ユーナちゃんのお母さんが、単純に子供を孤児院に押し付けて行方をくらましただけなら、そんな選択はしなかった。でも、実際には愛されているのがわかった以上は、それをユーナちゃんには知っておいて欲しかった。
「よくわかってるよ。これはボクの自己満足だってね。でも、親から愛されてなかったと思い続けるよりは、いいんじゃないかな」
「捨てたことには変わりないよ」
「だとしてもユーナちゃんには、生きていて欲しいとは願っていたんだから、それを言葉で伝えたいんだ。本人の言葉でね。まぁ、その言葉はボクがでっち上げることになるんだけどさ」
「どちらにとっても、ひどいことをするね。望んでないだろうにさ。死者の尊厳を冒涜して、呪われても知らないよ」
「全て承知の上だよ」
サク姉は完全にお手上げだと言いたげに、ちいさく首をふった。
「無責任なことだけはしないでね」
「もしものときはボクが引き取るよ」
「軽率な発言だね。ひとりとりを育てるのは、そう容易なことじゃないよ」
「わかってるよ。ボクひとりでは難しいってことくらいはね」
じっとサク姉の瞳を見据えて告げると、サク姉は観念したとばかりに、ひらひらと手を振った。
「はいはい、わかったわよ。ふたりに料理を教えるって言ってたしね。その子が自立するまで、多少のことなら手を貸すわよ」
「ありがとう、サク姉」
「その代わり、今夜は愚痴に付き合ってもらうからね。寝不足になっても文句言わないでよ」
「いいよ。朝までだってかまわないよ」
「後悔することになるかもよ」
「それならそれでいいよ。サク姉の手が借りられるならね」
「そう」
対立的な空気は霧散して、ボクの計画を実行するのに際して、半ば有耶無耶にする形でサク姉の同意を得た。
「じゃあ、計画の前に召喚対象の動作や反応を確かめさせてもらうね」
「途中で無理そうだと感じたら即座に【召喚】は破棄しなさいよ。そのときは、この計画を実行せずにお蔵入りにしてもらうよ」
「前提条件が成り立たなきゃ、計画を実行しようもないしね。そのときは素直に諦めるよ」
ボクは、そんなことを口にしながらも、どうしてだか失敗するとは思えなかった。
記憶に刻みこまれたユーナちゃんのお母さんの遺体の情報を引っ張り出し、脳内で損傷部位をボクの肉体を構成する情報と比較しながら補修する。完全に補修された姿を脳内で正確に描けるようになり、ボクは【召喚】を実行すべく魔結晶を握って、在らん限りの魔力を放出した。
遅々とした進みで人型に形成される魔力を、より正確にユーナちゃんのお母さんと違わぬ形に整えることに注力した。完璧な人型状態にまで練り上げた魔力を操作しながら擬似生命を与える中枢を植え付けるのに併せて、ボクは【召喚】を実行した。
周辺の魔素が一気に消費されるのが肌でわかる。ボクから切り離された人型の魔力は、次第に実体化していき、やがて生きた人間と見分けの付かぬ魔法生物が、この世に生み出された。
直立する人型魔法生物は、身じろぎすることなく、じっとしていたが、力を失ったように地面に崩れ落ちる。失敗してしまったかと思ったが、人型魔法生物は崩れ落ち際に地面に打ち付けた身体の痛みに耐えかねたように呻き声を上げた。緩慢な動作で身体を起こそうとする。やがて身体を起こした生前と見分けの付かぬ姿をしたユーナちゃんのお母さんは、地面に座り込んだ状態で呆然としていた。
「なんで……死んだはずじゃ」
放心したようにそうつぶやくと、自身の首に手をあてがったりしていた。しばらくして垂れていた頭を上げ、目の前に立つボクに鋭い眼差しを向けてきた。そしてボクを責め立てるように刺々しい声を張り上げた。
「あなたが私の邪魔をしたの。望まれてもいないのに、人助けでもしたつもり」
明らかに生きていたときと地続きの記憶を持っているとしか思えない反応に困惑した。ボクはサク姉に目を向ける。するとサク姉も目の前で起きている事態に対して困惑しているようだった。
「サク姉。これからボクはひとの命を冒涜することなるけど、召喚対象が暴走した場合は手を借りてもいいかな」
「……正直、手を貸したくないし、止めたいけど、止めたってやるんでしょ。私としては時が解決してくれるのを待つ方がいいとは思うんだけどね。親に捨てられたってことを今は受け入れられなくても、いつかは割り切れるだろうからね。急がせる必要はないんじゃないかな」
説得するのは無駄だろうと半ば諦めたように、サク姉はそんなことを言った。
「たぶんあの子もそう思ってるだろうね。だからその認識を変えたいんだ」
そんなボクの返答を耳にしたサク姉は、さっきまでとは打って変わって顔を険しくした。
「それって、まさかとは思うけど母親の死を受け入れさせるってこと? 別れを告げさせるって言ってたのは、そういうことなの」
「そうだよ」
「死を知らせるくらいなら、捨てられたけど、何処かで生きてるかも知れないって、思ってた方がマシなんじゃないの。下手をしたら塞ぎ込んじゃうかもしれないよ」
説得を諦めていたサク姉は、考えを改めたのか、なるべく感情的にならないように言葉を並べ立てた。
「それでも事実を知らないままでいるよりは、いいんじゃないかな」
ボクの意思が固いとみると、サク姉は責めるように諌めてくる。
「ヒロちゃんの価値観ではそうだろうけど、他の人も同じように考えるわけじゃないんだよ。わかってる?」
サク姉の指摘は最もだとは思う。それでもこの件に関してボクは引き下がれない。ユーナちゃんのお母さんが、単純に子供を孤児院に押し付けて行方をくらましただけなら、そんな選択はしなかった。でも、実際には愛されているのがわかった以上は、それをユーナちゃんには知っておいて欲しかった。
「よくわかってるよ。これはボクの自己満足だってね。でも、親から愛されてなかったと思い続けるよりは、いいんじゃないかな」
「捨てたことには変わりないよ」
「だとしてもユーナちゃんには、生きていて欲しいとは願っていたんだから、それを言葉で伝えたいんだ。本人の言葉でね。まぁ、その言葉はボクがでっち上げることになるんだけどさ」
「どちらにとっても、ひどいことをするね。望んでないだろうにさ。死者の尊厳を冒涜して、呪われても知らないよ」
「全て承知の上だよ」
サク姉は完全にお手上げだと言いたげに、ちいさく首をふった。
「無責任なことだけはしないでね」
「もしものときはボクが引き取るよ」
「軽率な発言だね。ひとりとりを育てるのは、そう容易なことじゃないよ」
「わかってるよ。ボクひとりでは難しいってことくらいはね」
じっとサク姉の瞳を見据えて告げると、サク姉は観念したとばかりに、ひらひらと手を振った。
「はいはい、わかったわよ。ふたりに料理を教えるって言ってたしね。その子が自立するまで、多少のことなら手を貸すわよ」
「ありがとう、サク姉」
「その代わり、今夜は愚痴に付き合ってもらうからね。寝不足になっても文句言わないでよ」
「いいよ。朝までだってかまわないよ」
「後悔することになるかもよ」
「それならそれでいいよ。サク姉の手が借りられるならね」
「そう」
対立的な空気は霧散して、ボクの計画を実行するのに際して、半ば有耶無耶にする形でサク姉の同意を得た。
「じゃあ、計画の前に召喚対象の動作や反応を確かめさせてもらうね」
「途中で無理そうだと感じたら即座に【召喚】は破棄しなさいよ。そのときは、この計画を実行せずにお蔵入りにしてもらうよ」
「前提条件が成り立たなきゃ、計画を実行しようもないしね。そのときは素直に諦めるよ」
ボクは、そんなことを口にしながらも、どうしてだか失敗するとは思えなかった。
記憶に刻みこまれたユーナちゃんのお母さんの遺体の情報を引っ張り出し、脳内で損傷部位をボクの肉体を構成する情報と比較しながら補修する。完全に補修された姿を脳内で正確に描けるようになり、ボクは【召喚】を実行すべく魔結晶を握って、在らん限りの魔力を放出した。
遅々とした進みで人型に形成される魔力を、より正確にユーナちゃんのお母さんと違わぬ形に整えることに注力した。完璧な人型状態にまで練り上げた魔力を操作しながら擬似生命を与える中枢を植え付けるのに併せて、ボクは【召喚】を実行した。
周辺の魔素が一気に消費されるのが肌でわかる。ボクから切り離された人型の魔力は、次第に実体化していき、やがて生きた人間と見分けの付かぬ魔法生物が、この世に生み出された。
直立する人型魔法生物は、身じろぎすることなく、じっとしていたが、力を失ったように地面に崩れ落ちる。失敗してしまったかと思ったが、人型魔法生物は崩れ落ち際に地面に打ち付けた身体の痛みに耐えかねたように呻き声を上げた。緩慢な動作で身体を起こそうとする。やがて身体を起こした生前と見分けの付かぬ姿をしたユーナちゃんのお母さんは、地面に座り込んだ状態で呆然としていた。
「なんで……死んだはずじゃ」
放心したようにそうつぶやくと、自身の首に手をあてがったりしていた。しばらくして垂れていた頭を上げ、目の前に立つボクに鋭い眼差しを向けてきた。そしてボクを責め立てるように刺々しい声を張り上げた。
「あなたが私の邪魔をしたの。望まれてもいないのに、人助けでもしたつもり」
明らかに生きていたときと地続きの記憶を持っているとしか思えない反応に困惑した。ボクはサク姉に目を向ける。するとサク姉も目の前で起きている事態に対して困惑しているようだった。
0
お気に入りに追加
142
あなたにおすすめの小説
大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです
飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。
だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。
勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し!
そんなお話です。

【完結】あなたに知られたくなかった
ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。
5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。
そんなセレナに起きた奇跡とは?

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る
マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息
三歳で婚約破棄され
そのショックで前世の記憶が蘇る
前世でも貧乏だったのなんの問題なし
なによりも魔法の世界
ワクワクが止まらない三歳児の
波瀾万丈

少し冷めた村人少年の冒険記
mizuno sei
ファンタジー
辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。
トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。
優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。
[鑑定]スキルしかない俺を追放したのはいいが、貴様らにはもう関わるのはイヤだから、さがさないでくれ!
どら焼き
ファンタジー
ついに!第5章突入!
舐めた奴らに、真実が牙を剥く!
何も説明無く、いきなり異世界転移!らしいのだが、この王冠つけたオッサン何を言っているのだ?
しかも、ステータスが文字化けしていて、スキルも「鑑定??」だけって酷くない?
訳のわからない言葉?を発声している王女?と、勇者らしい同級生達がオレを城から捨てやがったので、
なんとか、苦労して宿代とパン代を稼ぐ主人公カザト!
そして…わかってくる、この異世界の異常性。
出会いを重ねて、なんとか元の世界に戻る方法を切り開いて行く物語。
主人公の直接復讐する要素は、あまりありません。
相手方の、あまりにも酷い自堕落さから出てくる、ざまぁ要素は、少しづつ出てくる予定です。
ハーレム要素は、不明とします。
復讐での強制ハーレム要素は、無しの予定です。
追記
2023/07/21 表紙絵を戦闘モードになったあるヤツの参考絵にしました。
8月近くでなにが、変形するのかわかる予定です。
2024/02/23
アルファポリスオンリーを解除しました。

システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。
大国 鹿児
ファンタジー
輪廻転生のシステムのバグで輪廻の輪から外れちゃった!
でも神様から便利なチートグッズ(笑)の詰め合わせをもらって、
他の星に転生しました!特に使命も無いなら自由気ままに生きてみよう!
主人公はチート無双するのか!? それともハーレムか!?
はたまた、壮大なファンタジーが始まるのか!?
いえ、実は単なる趣味全開の主人公です。
色々な秘密がだんだん明らかになりますので、ゆっくりとお楽しみください。
*** 作品について ***
この作品は、真面目なチート物ではありません。
コメディーやギャグ要素やネタの多い作品となっております
重厚な世界観や派手な戦闘描写、ざまあ展開などをお求めの方は、
この作品をスルーして下さい。
*カクヨム様,小説家になろう様でも、別PNで先行して投稿しております。
誰一人帰らない『奈落』に落とされたおっさん、うっかり暗号を解読したら、未知の遺物の使い手になりました!
ミポリオン
ファンタジー
旧題:巻き込まれ召喚されたおっさん、無能で誰一人帰らない場所に追放されるも、超古代文明の暗号を解いて力を手にいれ、楽しく生きていく
高校生達が勇者として召喚される中、1人のただのサラリーマンのおっさんである福菅健吾が巻き込まれて異世界に召喚された。
高校生達は強力なステータスとスキルを獲得したが、おっさんは一般人未満のステータスしかない上に、異世界人の誰もが持っている言語理解しかなかったため、転移装置で誰一人帰ってこない『奈落』に追放されてしまう。
しかし、そこに刻まれた見たこともない文字を、健吾には全て理解する事ができ、強大な超古代文明のアイテムを手に入れる。
召喚者達は気づかなかった。健吾以外の高校生達の通常スキル欄に言語スキルがあり、健吾だけは固有スキルの欄に言語スキルがあった事を。そしてそのスキルが恐るべき力を秘めていることを。
※カクヨムでも連載しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる