天職はドロップ率300%の盗賊、錬金術師を騙る。

朱本来未

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089 盗賊さん、報告を受ける。

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 グレンが入浴を済ませ戻って来るまでに、サク姉は夕飯を完成させていた。まだアッシュは帰って来ていなかったが、ボクらは先に食事を摂ることにした。サク姉の手によってテーブルに並べられた、見目の良い盛付けをされた料理を前に、視覚的にボクらは空腹を刺激され、それぞれ食事を始めた。味は見た目相応といった感じで、舌を満足させるのに充分な美味しさだった。プルもその味に満足しているらしく、美味しそうに料理を体内に取り込んでいた。
「サク姉、料理うまかったんだね。知らなかったよ」
「他人の分までつくることなんて滅多にないからね」
「そうなの?」
 アッシュと一緒にダンジョン攻略をしているときは、どうなのか気になったけれど、サク姉の口ぶりから愚痴混じりの返答が出てきそうな予感しかしなかったので、それを聞くのは避けた。
「私が美味しく食べられればそれでいいからね」
「ふーん。サクラ姐さん、料理は独学で学んだんで」
 ボクがサク姉と呼ぶからか、それに併せるようにグレンはサク姉を姐さん呼びするようになっていた。
「独学ってわけじゃないわ。父に教わったよの。まぁ、どうでもいいじゃないそんなこと」
 どこか忌々しげに答えるサク姉は、これ以上話す気はないとばかりに話を打ち切った。
 会話は途切れ途切れになり、静かな食卓は食器がかすかに鳴る音だけが妙に耳に付いた。全員が夕食を終えたところで、グレンには早めに休むように伝えた。グレンはボクの申し出を素直に聞き入れた。
「あんがとよ、ヒイロ。んじゃ、そうさせてもらうわ。サクラ姐さん、空き部屋は好きに使ってくれていいんで、ゆっくりしてってくれよな」
「はいはい。明日の朝から辛気臭い顔しなくて済むように、ゆっくり休みなさいよ」
「そのつもりっすよ」
 そんなやり取りを経てグレンは、のそのそと緩慢な動作で重たい身体を引き摺るように自室に下がった。テーブルに残ったままのボクは、同じようにテーブルに着いたままのサク姉に後片付けを買って出た。
「片付けはボクがやるよ」
「じゃあ、お願いしてもいいかしら」
「うん。任せといて」
 テーブルで頬杖をついたサク姉は、どこか心ここに在らずといった様子だった。どうも食事中に出た話題を引き摺っているらしい。そんなサク姉を尻目にボクは、テーブルの上にあった食器類を綺麗に片付けた。
 後片付けを済ませて、テーブルに戻るとサク姉は頬杖をついたまま、相変わらずぼんやりとしていた。そんなサク姉の指先は、無邪気に戯れようとするプルを弄んでいた。
「サク姉、大丈夫?」
「なにが?」
 返答は気のないものだった。
「なんだかボーッとしてるみたいだからさ」
「今日はいろいろあったからね。疲れたのかも」
 ため息混じりに答えるサク姉は、なにかを誤魔化すように、頬杖をついたままこてんと首を傾けた。
「もう休むんなら部屋に案内するよ」
「んー、今日はヒロちゃんの部屋に泊めてくれない」
 しばしの迷いを見せたサク姉は、そんなことを言って来た。
「ひとり用のベッドだから狭いと思うよ」
「平気平気。寝具は収納魔術の中に入ってるから」
 そこまで言われて、別段断る理由もなかったボクは、サク姉と寝室を共にすることにした。
「わかったよ。それならもう休む?」
 サク姉は首を横にふった。
「まだ大丈夫かな。例の調査結果知りたいし」
 既に19の鐘が鳴って随分と経っており、外はもう真っ暗になっていた。夕方までにはどうにかなると言っていたミンティオが、今日中に報告に来るかどうか、微妙な時間になっていた。
「もう19の鐘が鳴ったし、今日は来ないかもよ」
「それならそれでいいよ」
 それに関してサク姉は、どうでもいいといった様子で、手持ち無沙汰を紛らわすようにプルの身体をぷにぷにも揉みほぐしていた。
「そっか。それにしても聞かされてた話だと早めに片付くようなこと言ってたんだけど、なにかトラブルがあったのかな」
 などと答えながらボクは、外に意識を向けた。屋外は静まり返っていて、ひとの気配はなかった。
 だと言うのにコンコンと玄関扉がノックされ、ボクは警戒心を抱いた。
「サク姉」
 声に乗った緊張感からサク姉は、状況を察してくれたらしく、それまでの気怠げな雰囲気を消して気を引き締めていた。ボクは足音を抑えてながら玄関先に行き、外の人物に対して不満げな声音で問いかける。
「こんな時間にうちになにか用ですか」
 そんなボクの問いに応じたのは、聞き覚えのある声だった。
「すんません。夕方までに報告しに来るって言ってたんすけど、ちょっと気になることがあって確認に時間がかかっちまいまして。こんな時間になっちまいました」
 ボクは緊張を解いて、背後のサク姉に身振りで問題なかったと示した。玄関扉を開き、ミンティオを出迎える。姿を目の前にしても気配の薄いミンティオは、疲れた顔をしていたが、それ以上に苦み走った表情をしていた。
「もしかしてなにかわかったの」
 少し嫌な予感を覚えながら訊ねる。
「えぇ、まぁ、そうっすね」
 その返答は、ひどく歯切れが悪かった。
「わかったことを教えてもらえる」
「あー、そうっすね。その、非常に言いにくいんすけど。兄さんが探してた例の女性、既に死んでるっぽいっす」
 ミンティオの様子からある程度は予感していたけれど、実際に聞かされた内容にボクはズキリと胸の奥が痛んだ。
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