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087 盗賊さん、親交を深める。
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地下から出てホールに戻ると、アッシュは冒険者ギルドに行く旨だけを告げて、すぐさま出かけてしまった。残されたボクとサク姉は、別段なにをするでもなく、テーブルで温かいお茶を飲みながら雑談に興じていた。そこにノックが響き、ひとりの訪問者が訪ねて来た。ボクはそれを出迎えるべく、サク姉をテーブルに留まらせて玄関扉に向かいながら、外の人物に声をかけた。
「開いてるよ」
その声が届いたのか、訪問者は慎重に玄関扉を開き、そっとギルド内を覗き込んできた。その顔には見覚えがあった。
「いらっしゃい、ラビィ。今日は来たんだね」
そう言うとメイド服姿のラビィは、不満を表すように眉根を寄せていた。
「今日は、じゃありません。昨日も来たのですが、誰もいらっしゃらなかったんじゃないですか」
「そうだったの。まぁ、うちってギルド員ふたりしかいないから、仕方ないかもね。今はギルドの立て直しであちこち駆け回ってるから、ここを不在にしがちだしね。しばらくはそんな調子になるだろうから合鍵渡しておこうか」
「それは仕方ないかもしれませんね。ですが、よいのですか?」
「ボクは別にかまわないとは思ってるんだけど。一応、現在のここの管理者から許可をもらってからでもいいかな」
「それでかまいません。だって、私が押しかけてるようなものですし」
「そう、それならそういうことで。それよりここで立ち話続けるのも変だし、中に入ったらどうかな」
玄関扉に手をかけたままなかなか入って来ようとしないラビィに、入るよう促す。するとラビィは遠慮がちにギルド内に足を踏み入れた。
「お茶用意するから座って待っててくれる」
テーブルまで案内して、椅子をひいて座るよう勧めた。ラビィは戸惑いながらもサク姉の対面に腰を下ろした。ボクは肩に乗っかったプルをラビィの前に下ろして、彼女の相手を頼んだ。プルは任せてとばかりに、ぷくりと身体を膨らませてからぷるんとふるえた。
熱いお茶を入れて台所から戻ると、ラビィはプルを通じてサク姉との距離感をはかりながら談笑していた。
ラビィの前にお茶を置き、ボクも椅子に腰を下ろした。
「ふたりで、なんの話をしてたの?」
そう訊ねるとサク姉が答えてくれた。
「ヒロちゃんの昔話を少しね」
「他になにか話題なかったの」
「初対面の相手との共通の話題って、中立ちなったひとの話になりがちじゃないかな。一番無難だもの」
「身も蓋もない言い方するね」
サク姉と遠慮のないやり取りをしていると、ラビィはくすりと笑っていた。
「おふたりは仲がよろしいんですね」
「まぁ、同郷の生まれで付き合いも長いからね。半ば姉みたいなものだよ」
「うらやましいです。私はひとりっ子ですし、歳の近い友人も身近には居ませんでしたから」
ラビィの口ぶりから心底うらやましいと言っているのが伝わって来た。
「それなら私がお姉ちゃんになってあげようか」
「本当ですか。うれしいです。サクラお姉様」
「お姉様、お姉様かぁ。なんかちょっとそれは違うかな。呼ぶならお姉ちゃんって、呼んでくれるかな」
サク姉が妙な注文を付けていると、ラビィはそれに応えようと気合いに満ちた表情をしていた。
「そういうことでしたら……お、お姉ちゃん」
呼び慣れない呼称にラビィは、頰を赤らめながらサク姉をお姉ちゃん呼びしていた。それを受けたサク姉は、うんうんと首肯しながら満足げに微笑んでいた。
「うんうん、いいね。かわいい子にお姉ちゃんって呼ばれるのは満足度が高いね」
「相変わらずだね、サク姉」
「ヒロちゃんも強情だよね。頑なにお姉ちゃんって、呼んでくれないし」
「いくら姉みたいなものだって言っても、そう呼ぶのはちょっと憚られるからね。これでも妥協してサク姉って呼んでるんだから、それで満足して欲しいかな」
「仕方ないなぁ。それで我慢してあげるよ」
その後は3人で取り止めのない会話に花を咲かせた。
時間はあっという間に過ぎ去り、17の鐘が鳴る。日は西に傾き、空は茜色に染まっていた。充分にラビィと親交を深めたサク姉は、今日はここに泊まって行かないかと誘っていた。
「そうしたいのは山々なのですが、私も帰らないといけませんし、今回は遠慮させていただきますね。またの機会がありましたら、どうにか都合をつけますので、そのときはよろしくお願いします」
「そっか。そうだね。残念だけど、また今度ね」
「はい。いずれ必ず。では、私はそろそろお暇しますね」
帰宅しようと椅子から腰を上げたラビィに伝え忘れていたことを伝えるべく口を開く。
「ラビィ。3日後からしばらくボクらはここを空けることになるから覚えておいて」
「遠出ですか?」
「ボクが見つけたダンジョンの調査だよ。結局、ボクが冒険者ギルドから出された調査依頼を受けることになってね」
「あぁ、あのとき話していらしたものですね」
「そういうことだからよろしくね」
「はい。わかりました。明日、明後日はどうなのでしょうか」
明日は北西部にある野菜を産出するダンジョンに行きたいところ。薬草栽培予定の畑を護らせるゴーレムもどきを確保したいからね。明後日は念のために空けておくとして、ダンジョン調査前の予定を最終的にどうするか決定するのは、ミンティオが持ってくるユーナちゃんのお母さんに関する情報次第かな。
「明日はたぶん不在だろうけど、明後日は予定を空けておくつもりだよ。ダンジョン調査の準備もあるだろうからね」
「でしたら明後日お伺いしても大丈夫ですか?」
「問題ないよ。準備といっても大してやることもないしね。そのときに錬金術の基礎的なことを教えるよ」
「それでは楽しみにしておきますね。お邪魔しました」
予定を確認してラビィは、浮かれた様子で一礼すると錬金術ギルドを後にした。
「開いてるよ」
その声が届いたのか、訪問者は慎重に玄関扉を開き、そっとギルド内を覗き込んできた。その顔には見覚えがあった。
「いらっしゃい、ラビィ。今日は来たんだね」
そう言うとメイド服姿のラビィは、不満を表すように眉根を寄せていた。
「今日は、じゃありません。昨日も来たのですが、誰もいらっしゃらなかったんじゃないですか」
「そうだったの。まぁ、うちってギルド員ふたりしかいないから、仕方ないかもね。今はギルドの立て直しであちこち駆け回ってるから、ここを不在にしがちだしね。しばらくはそんな調子になるだろうから合鍵渡しておこうか」
「それは仕方ないかもしれませんね。ですが、よいのですか?」
「ボクは別にかまわないとは思ってるんだけど。一応、現在のここの管理者から許可をもらってからでもいいかな」
「それでかまいません。だって、私が押しかけてるようなものですし」
「そう、それならそういうことで。それよりここで立ち話続けるのも変だし、中に入ったらどうかな」
玄関扉に手をかけたままなかなか入って来ようとしないラビィに、入るよう促す。するとラビィは遠慮がちにギルド内に足を踏み入れた。
「お茶用意するから座って待っててくれる」
テーブルまで案内して、椅子をひいて座るよう勧めた。ラビィは戸惑いながらもサク姉の対面に腰を下ろした。ボクは肩に乗っかったプルをラビィの前に下ろして、彼女の相手を頼んだ。プルは任せてとばかりに、ぷくりと身体を膨らませてからぷるんとふるえた。
熱いお茶を入れて台所から戻ると、ラビィはプルを通じてサク姉との距離感をはかりながら談笑していた。
ラビィの前にお茶を置き、ボクも椅子に腰を下ろした。
「ふたりで、なんの話をしてたの?」
そう訊ねるとサク姉が答えてくれた。
「ヒロちゃんの昔話を少しね」
「他になにか話題なかったの」
「初対面の相手との共通の話題って、中立ちなったひとの話になりがちじゃないかな。一番無難だもの」
「身も蓋もない言い方するね」
サク姉と遠慮のないやり取りをしていると、ラビィはくすりと笑っていた。
「おふたりは仲がよろしいんですね」
「まぁ、同郷の生まれで付き合いも長いからね。半ば姉みたいなものだよ」
「うらやましいです。私はひとりっ子ですし、歳の近い友人も身近には居ませんでしたから」
ラビィの口ぶりから心底うらやましいと言っているのが伝わって来た。
「それなら私がお姉ちゃんになってあげようか」
「本当ですか。うれしいです。サクラお姉様」
「お姉様、お姉様かぁ。なんかちょっとそれは違うかな。呼ぶならお姉ちゃんって、呼んでくれるかな」
サク姉が妙な注文を付けていると、ラビィはそれに応えようと気合いに満ちた表情をしていた。
「そういうことでしたら……お、お姉ちゃん」
呼び慣れない呼称にラビィは、頰を赤らめながらサク姉をお姉ちゃん呼びしていた。それを受けたサク姉は、うんうんと首肯しながら満足げに微笑んでいた。
「うんうん、いいね。かわいい子にお姉ちゃんって呼ばれるのは満足度が高いね」
「相変わらずだね、サク姉」
「ヒロちゃんも強情だよね。頑なにお姉ちゃんって、呼んでくれないし」
「いくら姉みたいなものだって言っても、そう呼ぶのはちょっと憚られるからね。これでも妥協してサク姉って呼んでるんだから、それで満足して欲しいかな」
「仕方ないなぁ。それで我慢してあげるよ」
その後は3人で取り止めのない会話に花を咲かせた。
時間はあっという間に過ぎ去り、17の鐘が鳴る。日は西に傾き、空は茜色に染まっていた。充分にラビィと親交を深めたサク姉は、今日はここに泊まって行かないかと誘っていた。
「そうしたいのは山々なのですが、私も帰らないといけませんし、今回は遠慮させていただきますね。またの機会がありましたら、どうにか都合をつけますので、そのときはよろしくお願いします」
「そっか。そうだね。残念だけど、また今度ね」
「はい。いずれ必ず。では、私はそろそろお暇しますね」
帰宅しようと椅子から腰を上げたラビィに伝え忘れていたことを伝えるべく口を開く。
「ラビィ。3日後からしばらくボクらはここを空けることになるから覚えておいて」
「遠出ですか?」
「ボクが見つけたダンジョンの調査だよ。結局、ボクが冒険者ギルドから出された調査依頼を受けることになってね」
「あぁ、あのとき話していらしたものですね」
「そういうことだからよろしくね」
「はい。わかりました。明日、明後日はどうなのでしょうか」
明日は北西部にある野菜を産出するダンジョンに行きたいところ。薬草栽培予定の畑を護らせるゴーレムもどきを確保したいからね。明後日は念のために空けておくとして、ダンジョン調査前の予定を最終的にどうするか決定するのは、ミンティオが持ってくるユーナちゃんのお母さんに関する情報次第かな。
「明日はたぶん不在だろうけど、明後日は予定を空けておくつもりだよ。ダンジョン調査の準備もあるだろうからね」
「でしたら明後日お伺いしても大丈夫ですか?」
「問題ないよ。準備といっても大してやることもないしね。そのときに錬金術の基礎的なことを教えるよ」
「それでは楽しみにしておきますね。お邪魔しました」
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