天職はドロップ率300%の盗賊、錬金術師を騙る。

朱本来未

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085 盗賊さん、他職種のスキルを再現する。

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「他職種のスキルを再現するにしても、サク姉の【召喚】みたいに、継続的に繊細な魔力操作を必要とするものは難しいんじゃないかな」
「かもしれないね。でも【召喚】なんかは、ヒイロがダンジョンで使役した魔物を[モンスターキューブ]で複製するなりして代用出来るんだから、使い切りのスキルなんかがいいんじゃないかな」
「そうなってくると戦闘系のスキルとかになるのかな」
「試しに私が普段使っているスキルを再現してみてくれないか。何度か目にしているから魔力の流れなんかは把握しているだろう」
「そうだね。それなら──」
 アッシュの仮説を確かめるため、ボクは魔結晶を持っていない状態で一旦『聖騎士』スキルを模倣することにした。試しに模倣するのは、効果のわかりやすい【シールドバッシュ】を選んだ。
 腕の延長線上に魔力を放出して盾状に形成した物を用意し、それをアッシュの動作を真似るように腕と一緒に障壁として突き出すと同時に、接触した対象を吹き飛ばすようなイメージを意識しながら【シールドバッシュ】の魔力の流れを再現した。しかし、なんの効果も発現されることもなく、ただただ魔力が垂れ流されるだけに終わった。
 スキルが不発したのを確かめたボクは、空気中の魔素だけを【奪取】して、結晶化した物を手の中に創り出して【施錠】した。それを左手に強く握り込み、魔力を流し込む。すると魔石を使用したときと似たような属性変換の反応を感じ取ることが出来た。ボクは魔術を扱うときと同じような感覚で、無個性化された無属性の魔力を操作して、さっきと全く同じ手順で【シールドバッシュ】を再現した。すると今度は、魔力で形成した盾のような障壁が空気を押し出すような感触があり、突き出した盾の真正面に軽い衝撃を伴って突風を巻き起こした。
「成功でいいのかな?」
「本当に上手くいくとはね。だが無手のまま盾スキルを使うとは思わなかったよ」
「スキルってそういうものなんじゃないの。魔術と一緒でさ」
 ボクは本心からそう思って返答したのだが、アッシュは苦笑していた。そんなアッシュの内心を代弁するようにサク姉が説明してくれた。
「ヒロちゃん。特殊な効果のない技能系スキルは、あくまでも魔力を消費することで天職から技術的な能力を動作補助といった形で引き出すものだよ」
「それって、天職がなくても鍛錬を積めば技術的なことは習得可能ってことだよね。それだと天職が存在してる意味があまりなさそうだけど」
「それはそうだけど技術を習得するのに必要な経験を、一瞬で得られると思えば充分有用なことでしょう。長期間に渡って時間を費やす必要がないんだから」
「それは確かに」
「でしょう。それを踏まえて上で、さっきヒロちゃんがやったことってスキルの再現というより、スキルの魔術化って言えばいいのかな。明らかに別のスキルだったんじゃないかな」
 サク姉の考察を聞いたアッシュは、くつくつと笑った。その反応に気分を害したサク姉は、刺々しくアッシュに言葉を投げかけた。
「今、私笑われるようなこと言った?」
「いや、すまない。ただヒイロのやることに途中で口を挟まなくてよかったと思ってね。サクラや私の中にあった常識をヒイロが知らなかったからこそ、さっきのあれが成功したんだろうからね」
 アッシュの発言内容に一応納得したのか、サク姉は苛立ちを鎮めていた。
「まぁ、そう言えなくもないのかな。案外私達って、既存の常識に縛られ過ぎてるのかもね」
「その常識に縛られたスキルから私らも脱却するには、天職に頼らない精緻な魔力操作が必要なようだけどね」
「魔術を使い慣れたあなたなら、すぐにでも扱えるようになりそうだけど」
「いや、そうでもないよ。私の魔術も天職に魔力操作を委ねてるものだからね。そう考えると、あの副ギルド長のスキルも、ヒイロと同じで天職任せではない魔力操作による賜物なのかもしれないね」
 冒険者ギルドの地下でアッシュが副ギルド長のスキルに抱いていた印象が、ボクとはかなりズレたもののように感じていた理由はそこにあったらしい。
「なんにしても自力での魔力操作の精度を上げるのは急務だね」
「そうね。今のままだと実力不足もいいところだしね」
 頷き合うふたりは次なる目標を定めて強く決意を固めていた。
「ボクに手伝えることはあるかな」
「多種多様な魔物の捕獲かな」
 そう言ったのはサク姉だった。
「必要なのは素材?」
「そうじゃないよ。言葉通りよ。私の【召喚】は、あくまでも魔力で生物を再現してるものだから、召喚対象の生物の身体の構造や生態を知っておく必要があるの。だからこれまで討伐したことのある魔獣や動物しか召喚出来なかった。でも、ヒロちゃんがダンジョンで魔物を捕獲してくれれば、今後は魔物も召喚可能になるかもしれないんだよ」
「洞窟で魔物化した蝙蝠を回収してたのは、それが理由?」
「そういうこと」
「わかったよ。アッシュはなにかある?」
「私の方はそうだね。やはり高純度の魔結晶かな。まだ諦め切れないからね」
 そんなアッシュの頼みに、ボクはひとつ思い付くことがあり、左手の中に握り込んだままだった魔結晶に魔力を注ぎ込んだ。その魔力を利用して、ボクは【奪取】と【施錠】を用いて改めて魔結晶を生成した。それをアッシュに手渡す。
「無個性化した魔力で創ってみたんだけど、どうかな」
 新たに生成したばかりの魔結晶を受け取ったアッシュは、魔力を流し込み、その魔力が魔力変換されたのを感じ取ると歓喜を隠し切れないとばかりに笑みを深くしていた。
「まさか不純物の一切ない魔結晶が手に入るとはね。感謝するよ、ヒイロ。これで私の研究も捗りそうだよ」
「どういたしまして」
 アッシュの喜びように気圧されるようにして、ボクはそんな言葉だけ返すに留めた。
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