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084 盗賊さん、新たな可能性を示される。
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ボクの肩にぴょこんとプルが移動するのを名残惜しそうに見ながら、サク姉は新たな研究要素を求めてボクに問う。
「ヒロちゃん。スキルを使って出来ることは、これで全部なのかな」
「あとは……【奪取】で錬金術師の【合成】と似たことを出来るくらいですね。錬金術ギルドの建物も薬草や魔素と合成させた物ですしね」
「無茶苦茶ね。その【合成】もどきを、今見せてもらうことって出来る?」
「いいですよ。少し待ってもらえますか。今から実演しますので」
ボクはウエストポーチから薬瓶・薬草・水の[アイテムキューブ]を取り出した。必要な素材を揃えたボクは、手始めに薬瓶の中に水を注ぎ込み、ポーション作製の準備を整えた。
「それでは早速やっていきますね」
「それを合成するとなると、ポーションなのかしか」
「えぇ、そうですね」
そう応じながらボクは、薬草と空気中の魔素を薬瓶の中の水と混ぜ合わせるようにして、薬瓶の中に【奪取】で引き寄せた。直後に生成されたのは、淡く蛍光色の光を放つ液体だった。
「これで完成です」
「確かに錬金術師の【合成】と似てなくはないけど、効率は段違いにこちらが上ね」
「それって、さっき冒険者ギルドで私が使った物と同じなのかな」
「そうですよ」
「通りで効きが良いわけだ。薬草のスキルを損なうこともなく、その上で副作用のない純粋な魔素を、液中に無駄なく溶け込ませられているんだからね」
「そういえばそうね」
「ヒイロ。ひとつ頼みたいのだが、魔素を結晶化することは可能か」
「試すだけ試してみますが【施錠】しなかった場合、すぐに霧散してしまうと思いますよ」
「いや、案外いけるんじゃないかな。ヒロちゃんのユニークスキルが魔素の物質化を促す物だったならね」
そんなサク姉の声を受けて、ボクはアッシュの頼みを実行すべく、空気中の魔素だけを【奪取】で手元に引き寄せた。するとサク姉が予想した通り、魔素の物質化自体は成功した。ただ成功はしたが、それはあまりにも脆かった。
立方体の形に押し固めた魔素は、ボクの手が触れた瞬間、あっけなく砕け散ってしまった。
「ポーションと同じように、なにか混ぜ合わせる分には問題ないみたいだけど、純粋に魔素だけだとダメみたいだね」
「そうか。不純物の一切ない魔結晶を生成出来るんじゃないかと思ったが、そう簡単にはいかないか。残念ではあるが、ヒイロのそのスキルでなら宝石辺りに魔素を【合成】することで魔結晶自体はつくれそうだね」
「それって、なにに使うの? 使い捨ての魔術強化くらいにしか使えなくないかな」
「魔力の属性変換だよ」
ボクの中では魔結晶って、それを構成する高密度の魔素を消費することで魔術を強化するものだという認識しかなかっただけに、アッシュの言っていることの意味がわからず首を傾げてしまう。
「アッシュは自力で属性変換出来るよね。魔結晶って魔石と違って属性も付与されてないから属性変換もなにもないと思うんだけど」
「それでいいんだよ。ヒイロは魔石で属性変換された魔力がどういった性質を持っているか考えたことはないか」
「魔石で属性変換されることで得られる性質? それぞれが持つ固有の魔力性質が画一化されるから、逆に性質もなにもないように思えるんだけど」
質問内容を咀嚼するようにつぶやくボクの発言を耳にしたアッシュは、満足げに笑みを深くした。
「そうそれで正解だよ。魔石を使って属性変換すると魔力が無個性化されるのさ。ポーション作製などに魔石が利用されてるのも、薬草固有の魔力を無個性な魔力を流し込むことで、溶液全体の魔力を均一化してスキルの抽出を促しているわけだしね」
「それだと錬金術師の魔力には固有の性質がないように思えますが」
「それは違うよ。彼らは単に魔力の性質が魔草と近いんだよ。だから魔石を必要としないのさ。ヒイロは錬金術師以外が、魔石を用いずにポーション作製しているのを見たことはあったかな」
レッドグレイヴにあった錬金工房の思い返してみても、基本的に魔石を使ったポーション作製しか教わっていなかったので、その辺りのことは記憶になかった。
「記憶にはないけど、魔術職の人間の方がポーションの出来がよかったことだけは覚えているよ」
「あぁ、それは単純に属性変換される際に生じるロスが少ないからだよ。無属性を水属性に変換するのと、水属性を水属性のまま個性だけを消去して出力するのとでは、違いが出ても仕方がないだろう」
「そういうことか。納得したよ。それで、それはわかったけど、無属性の魔力を無個性化することで得られるメリットってなに?」
「これは私の推測に過ぎないんだが、天職による魔力的な性質が存在しなければ、逆にどんな天職のスキルも使用可能になるんじゃないかと思ってね。それを確かめてみたかったのさ。魔力の流れだけを再現しても発動しないことだけは既に証明されてるから、他に発動しない要因があるとしたらそれくらいしか思いつかなかったからね」
「それで魔結晶を生成したがってたんだね」
「そういうことだよ。まぁ、ヒイロなら【施錠】した純度100%の魔結晶を利用することで今すぐにでも検証出来そうだけどね」
そう言って、アッシュはボクに期待の眼差しを向けて来ていた。
「ヒロちゃん。スキルを使って出来ることは、これで全部なのかな」
「あとは……【奪取】で錬金術師の【合成】と似たことを出来るくらいですね。錬金術ギルドの建物も薬草や魔素と合成させた物ですしね」
「無茶苦茶ね。その【合成】もどきを、今見せてもらうことって出来る?」
「いいですよ。少し待ってもらえますか。今から実演しますので」
ボクはウエストポーチから薬瓶・薬草・水の[アイテムキューブ]を取り出した。必要な素材を揃えたボクは、手始めに薬瓶の中に水を注ぎ込み、ポーション作製の準備を整えた。
「それでは早速やっていきますね」
「それを合成するとなると、ポーションなのかしか」
「えぇ、そうですね」
そう応じながらボクは、薬草と空気中の魔素を薬瓶の中の水と混ぜ合わせるようにして、薬瓶の中に【奪取】で引き寄せた。直後に生成されたのは、淡く蛍光色の光を放つ液体だった。
「これで完成です」
「確かに錬金術師の【合成】と似てなくはないけど、効率は段違いにこちらが上ね」
「それって、さっき冒険者ギルドで私が使った物と同じなのかな」
「そうですよ」
「通りで効きが良いわけだ。薬草のスキルを損なうこともなく、その上で副作用のない純粋な魔素を、液中に無駄なく溶け込ませられているんだからね」
「そういえばそうね」
「ヒイロ。ひとつ頼みたいのだが、魔素を結晶化することは可能か」
「試すだけ試してみますが【施錠】しなかった場合、すぐに霧散してしまうと思いますよ」
「いや、案外いけるんじゃないかな。ヒロちゃんのユニークスキルが魔素の物質化を促す物だったならね」
そんなサク姉の声を受けて、ボクはアッシュの頼みを実行すべく、空気中の魔素だけを【奪取】で手元に引き寄せた。するとサク姉が予想した通り、魔素の物質化自体は成功した。ただ成功はしたが、それはあまりにも脆かった。
立方体の形に押し固めた魔素は、ボクの手が触れた瞬間、あっけなく砕け散ってしまった。
「ポーションと同じように、なにか混ぜ合わせる分には問題ないみたいだけど、純粋に魔素だけだとダメみたいだね」
「そうか。不純物の一切ない魔結晶を生成出来るんじゃないかと思ったが、そう簡単にはいかないか。残念ではあるが、ヒイロのそのスキルでなら宝石辺りに魔素を【合成】することで魔結晶自体はつくれそうだね」
「それって、なにに使うの? 使い捨ての魔術強化くらいにしか使えなくないかな」
「魔力の属性変換だよ」
ボクの中では魔結晶って、それを構成する高密度の魔素を消費することで魔術を強化するものだという認識しかなかっただけに、アッシュの言っていることの意味がわからず首を傾げてしまう。
「アッシュは自力で属性変換出来るよね。魔結晶って魔石と違って属性も付与されてないから属性変換もなにもないと思うんだけど」
「それでいいんだよ。ヒイロは魔石で属性変換された魔力がどういった性質を持っているか考えたことはないか」
「魔石で属性変換されることで得られる性質? それぞれが持つ固有の魔力性質が画一化されるから、逆に性質もなにもないように思えるんだけど」
質問内容を咀嚼するようにつぶやくボクの発言を耳にしたアッシュは、満足げに笑みを深くした。
「そうそれで正解だよ。魔石を使って属性変換すると魔力が無個性化されるのさ。ポーション作製などに魔石が利用されてるのも、薬草固有の魔力を無個性な魔力を流し込むことで、溶液全体の魔力を均一化してスキルの抽出を促しているわけだしね」
「それだと錬金術師の魔力には固有の性質がないように思えますが」
「それは違うよ。彼らは単に魔力の性質が魔草と近いんだよ。だから魔石を必要としないのさ。ヒイロは錬金術師以外が、魔石を用いずにポーション作製しているのを見たことはあったかな」
レッドグレイヴにあった錬金工房の思い返してみても、基本的に魔石を使ったポーション作製しか教わっていなかったので、その辺りのことは記憶になかった。
「記憶にはないけど、魔術職の人間の方がポーションの出来がよかったことだけは覚えているよ」
「あぁ、それは単純に属性変換される際に生じるロスが少ないからだよ。無属性を水属性に変換するのと、水属性を水属性のまま個性だけを消去して出力するのとでは、違いが出ても仕方がないだろう」
「そういうことか。納得したよ。それで、それはわかったけど、無属性の魔力を無個性化することで得られるメリットってなに?」
「これは私の推測に過ぎないんだが、天職による魔力的な性質が存在しなければ、逆にどんな天職のスキルも使用可能になるんじゃないかと思ってね。それを確かめてみたかったのさ。魔力の流れだけを再現しても発動しないことだけは既に証明されてるから、他に発動しない要因があるとしたらそれくらいしか思いつかなかったからね」
「それで魔結晶を生成したがってたんだね」
「そういうことだよ。まぁ、ヒイロなら【施錠】した純度100%の魔結晶を利用することで今すぐにでも検証出来そうだけどね」
そう言って、アッシュはボクに期待の眼差しを向けて来ていた。
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