天職はドロップ率300%の盗賊、錬金術師を騙る。

朱本来未

文字の大きさ
上 下
81 / 118

081 盗賊さん、打ち明ける。

しおりを挟む
「ふたりに見せたい物があるんだけど、ちょっとついて来てくれないかな」
「いいよ。案内してくれる」
 サク姉はボクに先んじて席を立った。アッシュもそれに続くように腰を上げた。
「判断が早くて助かるよ」
「私達が気になってることに関することなんでしょう。だったら迷う必要なんてないからね」
 ふたりを引き連れてボクは地下工房に移動した。ボクのスキルや[アイテムキューブ]・[マジックキューブ]のことをふたりに明かすにしても、グレンがいつ帰ってくるかわからないしね。グレンはボクが【アイテムボックス】のユニークスキル持ちだと勘違いしているけれど、ボクの天職が『盗賊』だとは知らない。だからグレンにはそのまま勘違いしてもらっていた方が、ボクとしては都合が立ち回りやすいので、なるべくそれを知られるような状況は避けたかった。

「なにもない部屋ね」
 地下工房に足を踏み入れたサク姉は、開口一番にそう口走った。
「冒険者ギルドでは話を逸らしたけど、元々ここには錬金術ギルドの工房として使われてたらしいんだ。ただ前ギルドマスターの死後から現在のギルド管理者に権限が移って間もないころ、と言っても管理者は不在だったんだけど、その管理者が戻ってくるまでの間に、ここにあった錬金術の器具類は元ギルド員達に全て持ち去られてしまったらしくてね。こんな有様になってしまったってわけさ」
「随分と信用がなかったんだね。そのギルドマスター」
「どうなんだろう。権力者層からは煙たがられてようだけれどね。その理由がなにかまでは、ボクも知らないんだよね」
 錬金術ギルドの事情を話していると、サク姉が「あっ」となにかを思い出したのか声を漏らした。
「どうしたの、サク姉」
 そう訊ねるとサク姉は、収納魔術からなにやら一冊の冊子を取り出した。
「これ、ルベウスさんからヒロちゃんに渡しといてって持たされてたんだ」
「パパから?」
 全く話の流れと関係なさそうなのに、なぜ今それを渡してきたのだろうと思いながら冊子を受けるとる。表紙や裏表紙にはなんの記載もなく、内容は窺い知れない。なので冊子の中身をぱらぱらと流し見てみると、どこか見覚えのある物が所々に図として載っていた。
 その多くは、ここバーガンディで目にした物だった。それは料理だったり、魔導具だったりで、記載内容に一貫性はなかった。ただそれが誰によって記された物であるかは推測出来た。
「これ、この錬金術ギルドの創設者が遺した物みたいですね」
「そうなの? ヒロちゃんが外遊中は錬金術師として勉学に励んでいるようだから、その参考資料として渡しておいてくれって持たされてただけだったんだけど」
「えぇ、パパがここのギルド創設者は、元々レッドグレイヴ領お抱えの錬金術師だったと聞きましたので、間違いないかと」
「へぇ、ここと関連のある物だったのね」
「バーガンディで普及していないものや、ボクの知識にもないものも記載されているようですし、資料としてかなり使えそうです」
「それはよかったわ」
 などと当初の予定からかなり逸脱した話を展開していると、アッシュが口を挟んできた。
「それはそうとヒイロ。私達をここに案内したのは、このギルドの成り立ちを説明するためだったのかな」
「あぁ、ごめん。少し話題が逸脱しすぎていたね。今、奥に案内するよ」
「奥?」
 疑問符を浮かべるアッシュの声を耳にしながら、壁の一部を扉状に【奪取】して、奥の部屋に続く開口部を設けた。【奪取】した壁の一部は[アイテムキューブ]化して手の中に握り込んだ。
「見せたかったのは、この奥だよ」
 ふたりの方に視線を移しながら告げる。それを受けたふたりはなんとも言い難い複雑な表情を浮かべていた。アッシュはサク姉と視線を交わして、ちいさく頷き合うと口を開いた。
「それも天職のスキルなのかな」
「そうだね。【奪取】で壁の一部を盗み取った感じかな」
「それにしては盗み取った対象が、ヒイロの手元にはないようだが」
「それならここに」
 そう言ってボクは手の中の[アイテムキューブ]を、ふたりに見えるように差し出した。
「ちょっと見せてもらうよ」
 アッシュはボクの手の平に載せられた[アイテムキューブ]をつまみ取ると、淡く青みを帯びた半透明な立方体の中に、扉状に切り取られた壁の一部が格納されているのを自身の目で確認していた。
「ヒイロ独自の収納魔術なのかな。【奪取】で壁の一部を盗み取るというのは、天職の性質的に理解出来なくはないが、スキルで盗み取った物がなぜこのような状態に変化しているのかは、全く理解が及ばないな」
 [アイテムキューブ]を手に困惑するアッシュに、ボクは[アイテムキューブ]の作製手順と使用したスキルの説明をした。けれどアッシュは意味がわからないとでも言いたげな顔をしていた。
「それとその[アイテムキューブ]には、物を縮小化して格納するだけじゃなく、別の利用法があるんだ。それを見せるから、この奥に来てもらえるかな」
 ボクはふたりを招くようにして先に壁の穴を潜り、ふたりとも後に続いたのを確認してから[アイテムキューブ]に魔力を注ぎ込む。そして扉型に切り取られた壁の一部をふたつほど複製して見せた。
「こうやってボクが魔力を注ぎ込んでやれば、空気中の魔素を原料にして[アイテムキューブ]に格納された物を複製出来るんだ」
 そう説明を添えながら、ボクは複製したうちのひとつで壁の穴を塞いだ。それを見ていたふたりは、ぽかんとした様子で言葉を失っていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

母親に家を追い出されたので、勝手に生きる!!(泣きついて来ても、助けてやらない)

いくみ
ファンタジー
実母に家を追い出された。 全く親父の奴!勝手に消えやがって! 親父が帰ってこなくなったから、実母が再婚したが……。その再婚相手は働きもせずに好き勝手する男だった。 俺は消えた親父から母と頼むと、言われて。 母を守ったつもりだったが……出て行けと言われた……。 なんだこれ!俺よりもその男とできた子供の味方なんだな? なら、出ていくよ! 俺が居なくても食って行けるなら勝手にしろよ! これは、のんびり気ままに冒険をする男の話です。 カクヨム様にて先行掲載中です。 不定期更新です。

大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです

飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。 だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。 勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し! そんなお話です。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

[鑑定]スキルしかない俺を追放したのはいいが、貴様らにはもう関わるのはイヤだから、さがさないでくれ!

どら焼き
ファンタジー
ついに!第5章突入! 舐めた奴らに、真実が牙を剥く! 何も説明無く、いきなり異世界転移!らしいのだが、この王冠つけたオッサン何を言っているのだ? しかも、ステータスが文字化けしていて、スキルも「鑑定??」だけって酷くない? 訳のわからない言葉?を発声している王女?と、勇者らしい同級生達がオレを城から捨てやがったので、 なんとか、苦労して宿代とパン代を稼ぐ主人公カザト! そして…わかってくる、この異世界の異常性。 出会いを重ねて、なんとか元の世界に戻る方法を切り開いて行く物語。 主人公の直接復讐する要素は、あまりありません。 相手方の、あまりにも酷い自堕落さから出てくる、ざまぁ要素は、少しづつ出てくる予定です。 ハーレム要素は、不明とします。 復讐での強制ハーレム要素は、無しの予定です。 追記  2023/07/21 表紙絵を戦闘モードになったあるヤツの参考絵にしました。 8月近くでなにが、変形するのかわかる予定です。 2024/02/23 アルファポリスオンリーを解除しました。

システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。

大国 鹿児
ファンタジー
輪廻転生のシステムのバグで輪廻の輪から外れちゃった! でも神様から便利なチートグッズ(笑)の詰め合わせをもらって、 他の星に転生しました!特に使命も無いなら自由気ままに生きてみよう! 主人公はチート無双するのか!? それともハーレムか!? はたまた、壮大なファンタジーが始まるのか!? いえ、実は単なる趣味全開の主人公です。 色々な秘密がだんだん明らかになりますので、ゆっくりとお楽しみください。 *** 作品について *** この作品は、真面目なチート物ではありません。 コメディーやギャグ要素やネタの多い作品となっております 重厚な世界観や派手な戦闘描写、ざまあ展開などをお求めの方は、 この作品をスルーして下さい。 *カクヨム様,小説家になろう様でも、別PNで先行して投稿しております。

誰一人帰らない『奈落』に落とされたおっさん、うっかり暗号を解読したら、未知の遺物の使い手になりました!

ミポリオン
ファンタジー
旧題:巻き込まれ召喚されたおっさん、無能で誰一人帰らない場所に追放されるも、超古代文明の暗号を解いて力を手にいれ、楽しく生きていく  高校生達が勇者として召喚される中、1人のただのサラリーマンのおっさんである福菅健吾が巻き込まれて異世界に召喚された。  高校生達は強力なステータスとスキルを獲得したが、おっさんは一般人未満のステータスしかない上に、異世界人の誰もが持っている言語理解しかなかったため、転移装置で誰一人帰ってこない『奈落』に追放されてしまう。  しかし、そこに刻まれた見たこともない文字を、健吾には全て理解する事ができ、強大な超古代文明のアイテムを手に入れる。  召喚者達は気づかなかった。健吾以外の高校生達の通常スキル欄に言語スキルがあり、健吾だけは固有スキルの欄に言語スキルがあった事を。そしてそのスキルが恐るべき力を秘めていることを。 ※カクヨムでも連載しています

強制力がなくなった世界に残されたものは

りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った 令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達 世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか その世界を狂わせたものは

処理中です...