天職はドロップ率300%の盗賊、錬金術師を騙る。

朱本来未

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079 盗賊さん、考察する。

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 決着がついたようなので、ボクはアッシュに歩み寄り、ウエストポーチから自作の特殊ポーションを取り出して手渡した。その際に小声でアッシュに気になっていたことを一方的に告げる。
「アッシュ。後でヒカリさんと手合わせしてわかったことを教えてくれないかな」
 それだけ言ったボクは、アッシュの言葉を待たずにヒカリさんの元に足を進めた。
「彼はヒカリさんのお眼鏡にかないましたか」
「えぇ、今回お願いする調査任務を任せられるだけの実力は、充分に有していると思いますね」
「では、この3人で調査に向かうということでよろしいのでしょうか」
 そう訊ねるとヒカリさんは、しばし考え込むように視線を右下に向けて黙り込んでから、ボクに視線を戻して軽く首を横にふった。
「いえ、もうひとり用意するつもりです。まだ出発までは日数がありますしね。それまでに適任者が見つからなければ、そのときはあなた方にお任せします」
「わかりました。では、そのように。あとは彼らの冒険者証の発行をお願いしたいのですが」
 ヒカリさんは、すっかり忘れていたといった表情を見せた。
「そうでしたわね。これは冒険者登録試験って建前で行う予定だったんですよね。あのふたりには、すっかり説明もなにもかも忘れちゃってましたが」
「その辺りは大丈夫です。ここに来るまでにボクの方からそれとなく伝えておきましたから」
「そう、なのね。助かったわ」
 自身のうっかりに慌てていたヒカリさんだったけれど、ボクの言葉を聞いて胸をなでおろしていた。
「彼らの冒険者証の発行って、どのくらい時間かかりますか。それなりに時間がかかるようでしたら昼食を摂ってから改めてお伺いしますが」
「冒険者証への記載内容は既に把握してるからすぐに用意出来るわ。上の食事スペースで待っててもらえるかしら。今日の昼食は報酬の一部として、お詫びも兼ねて私が奢りますから」
「そういうことでしたら遠慮なくいただかせていただきます」
 厚意を受ける旨を告げると、ヒカリさんは上着のポケットから手帳サイズの冊子を取り出し、ぴりぴりと3枚の色付き紙片を切り取ってボクに差し出してきた。
 手触りのよい厚めの赤い紙片を受け取り、紙面に目を落とすと『日替わり』と緑色のインクで判が押されていた。
 この紙をどうか使えばいいのかわからず、説明が記載されていないかと裏面を確認してみる。だが裏面には特になにも記載されていなかった。そんなボクの様子から、使用法がわからないと察したらしいヒカリさんは、説明を加えてくれた。
「その食券を給仕の子に渡せば、食事を運んできてくれるんですよ」
「そう使うんですね、ありがとうございます」
「じゃあ、私は手続きを済ませてきますので、ゆっくり食事を摂っていてください」
 それだけ言うとヒカリさんは、使用した双剣を片付けて一足先に練武場を後にした。

 ヒカリさんを見送ったボクは、ふたりに目を移した。するとアッシュはボクの渡したポーションで回復していたようだけれど、その場に立って破損したロングソードを調べていた。
 そしてサク姉はというとなにか気になることがあったのか、ヒカリさんが片付けた双剣を手に取ってなにやら調べていた。
 そんな様子から、どうもふたりはボクと同様にヒカリさんとアッシュの手合わせで感じた違和感を探ろうとしているようだった。
「アッシュ、なにかわかった?」
「いや、なにもわからないな。なにをどうしたらこんなことになるんだ。私のスキルは無効化されたわけでもないというのに、相手は全くの無傷だなんてな。サクラ、そっちの破損状況はどうだ」
 水を向けられたサク姉は、手にしていた2本の片刃の直剣のうち1本を大きく放り投げた。
「自分の目で確かめてみなよ」
 ゆるやかな放物線を描いて飛んで来た直剣を、アッシュはこともなげに掴み取り、その剣身に視線を走らせた。ボクも一緒になって直剣を眺めてみたけれど、使い古されて多少の傷は目立つが、真新しい傷や破損は見当たらなかった。
「武器に魔力をまとわせていたのは間違いないが、どんなスキルが使われていたのかまるで検討が付かない。『アースグレイヴ』を切り裂いた方法も理解不能だしな」
 一瞬にして切り裂かれた前後左右から同時に襲い来る複数の土の槍は、超高速の剣技でどうにかしたわけでないのだけは間違いなかった。
「剣技系のスキルではなさそうだよね」
「そうだな。『剣豪』や『剣聖』などといった天職なのかもしれないと思って『インセクトアイ』で視覚情報の密度を上げて技を見極めようと、視認することだけに努めたが、剣が振るわれたのは一度だけだったよ」
「もしかしたらヒカリさんって、戦闘職ですらないのかもね」
 ヒカリさんのこれまでの言動から、なんとなくそう感じた。
「あれだけの腕で?」
「たぶんね。なんて言ったらいいのかな。アッシュが天職を『聖騎士』だって明かしたときの反応から、ヒカリさんが天職に関してなんらかの劣等感のようなものを抱いてるような印象を受けてさ。それに剣を扱う天職なら、ボクらが誰ひとりとして使用されたスキルが判別出来ないってのは変な気がするんだよね」
「その可能性。なくは、ないのか」
 不可思議な事実を前に理解が及ばないながらも、アッシュはボクの意見にそれなりの理解を示した。
「アッシュは『聖騎士』だし、剣技系のスキルは未修得だったとしても、ひと通り判別出来るんじゃないの」
「どうだろうな。あれが剣技系のスキルだったとしても、特定の天職専用スキルだった場合はわからないだろうね。だが、彼女の剣技はあまりにも無駄が多かったから、ヒイロが言うように本来は剣を扱う天職ではないというのは正解かもしれないな」
 アッシュの指摘にボクは、ヒカリさんが行動に移る前に必ず双剣を擦り合わせていた様子が脳裏に浮かんだ。あれがスキル発動に必要な動作だったのは疑いようがない。
「気にはなるが、今の私らにはこれ以上の答えは出せそうもないな」
「だね。お腹も空いてきたし、上に行って食事にしようか」
 ボクの提案を受けたふたりは、それに同意した。長いこと話し込んでいたボクらは、ヒカリさんから随分と遅れて練武場を後にした。
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