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076 盗賊さん、競走に巻き込まれる。
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「サクラ、これ収納出来るかな」
アッシュは手の中で弄んでいた【施錠】された空気の球を、サク姉に放って渡していた。投げ渡されたのは不可視の球だというのに、サク姉は取り落とすことなく掴み取った。それからすぐにサク姉は収納魔術を発動させ、空気の球を収納していた。
「問題なく収納出来るみたい」
「私の魔力を一切受け付けなかったから魔術の影響を受けないのかとも思ったけど、そうでもないみたいだね」
このまま放っておくと、ふたりはいつまでもボクのスキルを検証し続けそうだったので、ここら辺で一旦切り上げてもらうことにした。
「スキルの検証ならいつでも手伝うから、とりあえず移動しない。ふたりにはちょっと付き合って欲しいところもあるし」
「それはありがたいね。それで付き合って欲しいところっていうのは?」
「バーガンディまでまだそこそこ距離があるし、歩きながら話すよ」
「了解。それじゃ、街道まで戻る最短のルートを教えてもらえるかな、サクラ」
「はいはい」
アッシュの頼みに、面倒だという顔を隠そうともしないサク姉は、新たに召喚した空色の鳥を上空に飛ばしてボクらの現在地を俯瞰しながら街道まで案内してくれた。ほどなく街道にまで戻ったボクらは、それまでサク姉の集中を乱さないようにと控えていた会話を解禁した。その最初の口火を切ったのはアッシュだった。
「それで私達に付き合って欲しいところってどこなのかな?」
「冒険者ギルドだよ。ダンジョン攻略を生業にしてるふたりって、冒険者登録してたりするのかな」
そんなボクの疑問に対してサク姉が応えた。
「私達は領主様直属のダンジョン攻略部隊の所属だから、冒険者ギルドとは無関係だよ」
冒険者ギルドが王家直属の組織だから、パパは独自の攻略部隊を用意したのかな。
「それなら冒険者登録しても問題なさそうだね」
「問題はないけど、必要なことなのかな」
「バーガンディでは、冒険者ギルドの許可を取ってからしかダンジョンに入れないんだよ」
「それは面倒ね」
「あぁ、それで私達を冒険者ギルドに」
「それもあるけど、ボクがふたりを推薦したんだよ。新たに発見されたダンジョンの調査任務にね。なんでも未確定の新ダンジョンの情報だから秘密裏に調査をしたいらしくってね。知名度のない実力者を募ってるそうなんだ」
「そういったことは領主の仕事じゃないのかな。ダンジョンの資源が領都の収入に直結するんだから」
そんなアッシュの指摘にボクは苦笑する。
「その領主からの依頼なんだよ。あそこの領主は事なかれ主義だから、自分の主導で下手を打ちたくないんだろうさ」
「こう言っちゃなんだけど、ろくでもない予感しかしないね」
「まぁね。でも、ボクはこの件に関わらざるを得ないんだよね。ダンジョンを発見したのはボクだし、冒険者ギルドでも目を付けられちゃったからね」
「そういうことね。それなら私達がヒロちゃんとパーティーを組んで調査するのが無難な選択かもね。その件で私達のバーガンディでの実績と信頼を得られるし、ある程度の立場は保証されることになるでしょうしね。今後の立ち回りを考えたら受けない手はないかもね」
「私も同意見かな」
ふたりが了承してくれて、ひとまず安心する。
「助かるよ。ふたりに断られた場合のことをなにも考えてなかったからね」
「ヒロちゃんの頼みなら断ったりしないよ」
「ありがとう、サク姉」
「そういうことなら先を急ぎましょうか」
そう言ったサク姉は即座に魔力を練り上げ、両腕を突き出すようにして召喚の体勢に入った。
「【召喚】『ウーリーライノー』」
大きな空間のゆらぎの中からサク姉の召喚に応じて現れたのは、モコモコとした羊のような毛をまとった二本角の獣だった。その体躯は、昨日プルが狩ったグラスボアと比較しても見劣りしないほどの大きさを誇っていた。サク姉は慣れた様子で、その召喚獣に騎乗するとボクに手を差し出して来た。
「さ、ヒロちゃんも乗って」
ボクは一瞬の戸惑いを抱きながらも、サク姉の手を取った。するとひと息でモコモコとした毛並みをした召喚獣の背に引き上げられ、サク姉の前に座らされた。
「アッシュは自力でついて来れるよね」
「ちょうどいい運動になるよ」
「なんならこの子と競走してみる?」
「望むところだね」
「言ったね。なら遠慮はしないよ」
「もちろんさ」
その後、しばし無言のまま黒い笑みを浮かべて視線を交わし合っていたふたりは、なんの合図もなしに同時にスタートを切った。
急激な加速に体勢を崩しそうになったボクは、背後に座るサク姉に支えられて事なきを得た。
「ヒロちゃん、しっかりつかまっててね」
その言葉に従ってボクは、召喚獣の背に張り付くように腕を回した。ズシンズシンと一定のリズムで駆ける召喚獣は、土煙を巻き上げながら街道を爆走していく。
そんな召喚獣に競争を持ちかけられたアッシュはというと、一歩一歩を大きく跳躍するように駆けながら真横を並走していた。
ふたりは一進一退を繰り返しながらバーガンディが、遠く目視で確認出来る場所にまで至った。
ボクはそこでふたりに対して勝負の中断を呼びかけた。
これから受けることになる依頼のことを考えると、変に目立たれては少し困ったことになると判断しての行動だった。
勝負で熱くなっているふたりにボクの声が届くか怪しいところだったけれど、彼らはどうにか足を止めてくれた。
勝負に水を差された形となったふたりだけれど、別段気にした様子はなく。
「今回の勝負なお預けってことね」
「そうなるね」
なんて会話を交わしていた。
アッシュは手の中で弄んでいた【施錠】された空気の球を、サク姉に放って渡していた。投げ渡されたのは不可視の球だというのに、サク姉は取り落とすことなく掴み取った。それからすぐにサク姉は収納魔術を発動させ、空気の球を収納していた。
「問題なく収納出来るみたい」
「私の魔力を一切受け付けなかったから魔術の影響を受けないのかとも思ったけど、そうでもないみたいだね」
このまま放っておくと、ふたりはいつまでもボクのスキルを検証し続けそうだったので、ここら辺で一旦切り上げてもらうことにした。
「スキルの検証ならいつでも手伝うから、とりあえず移動しない。ふたりにはちょっと付き合って欲しいところもあるし」
「それはありがたいね。それで付き合って欲しいところっていうのは?」
「バーガンディまでまだそこそこ距離があるし、歩きながら話すよ」
「了解。それじゃ、街道まで戻る最短のルートを教えてもらえるかな、サクラ」
「はいはい」
アッシュの頼みに、面倒だという顔を隠そうともしないサク姉は、新たに召喚した空色の鳥を上空に飛ばしてボクらの現在地を俯瞰しながら街道まで案内してくれた。ほどなく街道にまで戻ったボクらは、それまでサク姉の集中を乱さないようにと控えていた会話を解禁した。その最初の口火を切ったのはアッシュだった。
「それで私達に付き合って欲しいところってどこなのかな?」
「冒険者ギルドだよ。ダンジョン攻略を生業にしてるふたりって、冒険者登録してたりするのかな」
そんなボクの疑問に対してサク姉が応えた。
「私達は領主様直属のダンジョン攻略部隊の所属だから、冒険者ギルドとは無関係だよ」
冒険者ギルドが王家直属の組織だから、パパは独自の攻略部隊を用意したのかな。
「それなら冒険者登録しても問題なさそうだね」
「問題はないけど、必要なことなのかな」
「バーガンディでは、冒険者ギルドの許可を取ってからしかダンジョンに入れないんだよ」
「それは面倒ね」
「あぁ、それで私達を冒険者ギルドに」
「それもあるけど、ボクがふたりを推薦したんだよ。新たに発見されたダンジョンの調査任務にね。なんでも未確定の新ダンジョンの情報だから秘密裏に調査をしたいらしくってね。知名度のない実力者を募ってるそうなんだ」
「そういったことは領主の仕事じゃないのかな。ダンジョンの資源が領都の収入に直結するんだから」
そんなアッシュの指摘にボクは苦笑する。
「その領主からの依頼なんだよ。あそこの領主は事なかれ主義だから、自分の主導で下手を打ちたくないんだろうさ」
「こう言っちゃなんだけど、ろくでもない予感しかしないね」
「まぁね。でも、ボクはこの件に関わらざるを得ないんだよね。ダンジョンを発見したのはボクだし、冒険者ギルドでも目を付けられちゃったからね」
「そういうことね。それなら私達がヒロちゃんとパーティーを組んで調査するのが無難な選択かもね。その件で私達のバーガンディでの実績と信頼を得られるし、ある程度の立場は保証されることになるでしょうしね。今後の立ち回りを考えたら受けない手はないかもね」
「私も同意見かな」
ふたりが了承してくれて、ひとまず安心する。
「助かるよ。ふたりに断られた場合のことをなにも考えてなかったからね」
「ヒロちゃんの頼みなら断ったりしないよ」
「ありがとう、サク姉」
「そういうことなら先を急ぎましょうか」
そう言ったサク姉は即座に魔力を練り上げ、両腕を突き出すようにして召喚の体勢に入った。
「【召喚】『ウーリーライノー』」
大きな空間のゆらぎの中からサク姉の召喚に応じて現れたのは、モコモコとした羊のような毛をまとった二本角の獣だった。その体躯は、昨日プルが狩ったグラスボアと比較しても見劣りしないほどの大きさを誇っていた。サク姉は慣れた様子で、その召喚獣に騎乗するとボクに手を差し出して来た。
「さ、ヒロちゃんも乗って」
ボクは一瞬の戸惑いを抱きながらも、サク姉の手を取った。するとひと息でモコモコとした毛並みをした召喚獣の背に引き上げられ、サク姉の前に座らされた。
「アッシュは自力でついて来れるよね」
「ちょうどいい運動になるよ」
「なんならこの子と競走してみる?」
「望むところだね」
「言ったね。なら遠慮はしないよ」
「もちろんさ」
その後、しばし無言のまま黒い笑みを浮かべて視線を交わし合っていたふたりは、なんの合図もなしに同時にスタートを切った。
急激な加速に体勢を崩しそうになったボクは、背後に座るサク姉に支えられて事なきを得た。
「ヒロちゃん、しっかりつかまっててね」
その言葉に従ってボクは、召喚獣の背に張り付くように腕を回した。ズシンズシンと一定のリズムで駆ける召喚獣は、土煙を巻き上げながら街道を爆走していく。
そんな召喚獣に競争を持ちかけられたアッシュはというと、一歩一歩を大きく跳躍するように駆けながら真横を並走していた。
ふたりは一進一退を繰り返しながらバーガンディが、遠く目視で確認出来る場所にまで至った。
ボクはそこでふたりに対して勝負の中断を呼びかけた。
これから受けることになる依頼のことを考えると、変に目立たれては少し困ったことになると判断しての行動だった。
勝負で熱くなっているふたりにボクの声が届くか怪しいところだったけれど、彼らはどうにか足を止めてくれた。
勝負に水を差された形となったふたりだけれど、別段気にした様子はなく。
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