天職はドロップ率300%の盗賊、錬金術師を騙る。

朱本来未

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075 盗賊さん、検証される。

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「まんまとヒイロの思惑通りに動かされてしまったようだね。私に模擬剣を持たせなかったのも、これを狙ってのことかな」
「不満?」
 今の手合わせに関して、端的に消化不良だったかを問うと、アッシュはちいさく頭をふった。
「たとえそうじゃなかったとしても、似た状況を持ち込まれてただろうからね。しかし、魔術職ではないとの先入観で目を曇らされていたようだ。ヒイロが属性持ちだとは思わなかったよ」
 どうやらアッシュは、ボクが稀に居ると噂される単一の属性のみ扱える人間だと思われたらしい。空気を固めたり、投擲したりとしていたので風属性を操っていたと思われたのかな。
「ヒイロ、ひとつ聞かせて欲しい。初手で私を牽制するのに使った不発の魔術はなんだったのかな。ただ円柱状に魔力が配置されていたようだが」
 ボクはどう説明するか迷ったけれど、手合わせを見守っていたサク姉から言葉が飛んで来た。
「アッシュ。最初のあれ、不発ってわけじゃないよ」
 見ればサク姉は、不可視の柱が残っている場所に移動して、ペシペシと柱を叩いて見せていた。どうやらサク姉もアッシュと同じような疑問を感じて、直接調べていたらしい。
「空気を固めたものなのかな。それにしては強度がかなりの物みたいだけど。避けないで押し通ろうとしたら、これにぶつかってたかもね。発動時にこそ、魔力反応はあったけど、魔力供給が途切れた今もここに残っているのはどういう理屈なんだろうね。設置型の魔術なら魔力が残ってなきゃ変だし」
 魔力反応が残っていないのに、どうしてなにか残っていると判断されたのか気になり、率直に訊ねた。
「なんでそこになにか残っていると思われたんです」
「今は風がないからわかりにくいけど、この辺りだけ魔素のかすかな動きすら完全に途絶えてるからね。それにヒイロがアッシュに投擲した不可視の球らしきものが、消滅せずに跳ねてふたつ目のちいさなくぼみつくってるのが見えたから、柱の方もなにか残ってるんじゃないかと思ったんだよ」
 瞬間的な判断を強いられる状況下にあったアッシュと違って、外から対峙するボクらの動きを観察していたサク姉は、冷静にボクのスキルを分析していたらしい。
 サク姉の話を耳にしながらアッシュは柱の残る場所に移動すると、投擲痕をたどって圧縮された空気の球を拾い上げていた。
「これは魔素密度が高いね。周辺の空気を圧縮したものだと思えばいいのかな」
 空気の球を握りながらアッシュは魔力を流し込もうとしていたけれど、一切反応がないことに首を傾げていた。
「本当になんなのだろうね、これは。私の魔力を一切受け付けないようだし、ただの空気を押し固めたにしては強度が高過ぎる」
 そう言いながらアッシュは手と中の球を握り潰そうと力を加えていた。
「なんて説明したらいいんだろう。それは全部、魔術じゃなくてボクのスキルでつくった物だよ」
「ヒロちゃんの天職って、盗賊でいいんだよね?」
「うん、そうだよ」
「盗賊にこんなスキルがあったなんて聞いたことないんだけど、もしかしてユニークスキルかなにかなの」
 実際どうなのかボクには判断しかねた。ボクは他の盗賊がどんなスキルの使い方をするかなんて知らないしね。それにユニークスキルはユニークスキルで、ドロップ率が300%加算されるなんて、通常ではあり得ない数値を叩き出しているものだから、他のスキルに影響を与えていないとも言い切れなかった。
「どうなんだろう。ボクも天職を得たばかりだから、今はなんとも言い切れないよ。それに同じ天職持ちの人間がどんなスキルの使い方をしてるかもわからないしね」
「そういえばヒロちゃん、天職を授かったばかりだったね」
 気になる事が解消出来なかったからか、サク姉は困惑したような顔をしていた。
「ヒイロ。これはどのくらい今の状態を維持され続けるのかくらいはわかるかな」
 手にした不可視の球を観察しながアッシュは問いかけて来た。
「今ボクにわかってる限りだと、スキルを解除するまではそのままだと思うよ」
「かなり破格の性能だね。天職によって示されたスキル名はなんなのかな」
「ボクは【施錠】って呼んでるけど。実際のスキル名はわからないかな」
 ボクの回答を耳にしたアッシュは、普段通りのにこにことした表情の中に驚きを滲ませた。
「それって、独自にスキルを生み出したってことかな」
「生み出したってほどのことじゃないと思うよ。盗賊スキルに【解錠】っていうのがあるから、それを使用する際の魔力的な流れを逆転させてるだけだしね」
「スキルを魔力操作のみで再現するなんて、余程魔力操作に長けてないと出来ない芸当だね。しかも、それを逆転させるとなるとなおのことね」
 どういうわけかアッシュの声は喜びに満ちていた。
「それなら試しに、そこに残っている柱全てに対して【解錠】を使用してみてくれないかな」
「あぁ、うん」
 ボクは笑顔のアッシュに気圧されながら了承すると、この場に創り出した円柱全てを【解錠】した。
「それも魔力操作でスキルを再現したのかな」
「そうだね」
「やはりそうなのか。スキルを複数同時発動したようだったからもしかしたらとは思っていたが、よもやそんな事が可能だったとはね」
 ボクにはアッシュがなぜそんな反応をするのか理解出来なかった。
「それって、なにか変なの?」
 そんなボクの疑問に対して答えてくれたのは、しばらく考え込むように押し黙っていたサク姉だった。
「ヒロちゃん。スキルって、複数同時発動させることなんて出来ないんだよ」
「サク姉も小鳥を複数同時に召喚してなかった?」
「あれは4羽で1組の召喚獣だっただけだよ。だから別に複数同時発動させたわけじゃないよ」
 なにが違うのだろうかと首を傾げたくなったけれど、そういうものなのだろうとボクは余計なことは口にしなかった。
「なんにしても、私達がヒイロのところに来たのは正解だったようだね」
 総括するようにアッシュがそう言うと、サク姉もそれに同意していた。
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