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073 盗賊さん、困らされる。
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「サク姉、あの洞窟の中は」
ボクは当然の疑問をサク姉にぶつけた。
「調べてないよ。上空からじゃ岩陰になってて見えてなかったしね」
街道から外れたこんな場所で野営する人間には少しばかり心当たりがあった。
「もしかしたら野盗の拠点として使われていた可能性がありますので、調査をお願いしてもいいですか。最近、この辺りで出没していた野盗の大半は討伐されたのですが、逃げ延びたのが少なからず居ましたので」
「いいよ。お姉さんに任せといて」
軽く承ってくれたサク姉は、数羽の蝙蝠を【召喚】して洞窟の中に放った。その様子を黙って見ていたアッシュは、タイミングを見計らってサク姉に声をかけた。
「サクラ。私の武器を頼めるかな」
「集中したいから、もう少し待って欲しいんだけど」
「待ってる間、手持ち無沙汰なのはどうにもね」
「わざわざ収納から出さなくても、あなたって魔術で武器を用意出来るでしょ」
「あー、そうじゃないよ。頼んでるのは模擬剣の方だよ。ここまで来たのは元々そういう話だったじゃないか」
当初の目的以外は興味ないといった振る舞いのアッシュの様子に、サク姉は呆けたような表情をした。
「え、今、この状況でやろうっていうの? あなた、本当にバカなんじゃないの」
「ひどい言われようだね」
「あなたは強い相手以外眼中にないのかもしれないけど、場の空気くらいは少しは読んでくれない」
「私は自分の心に正直に生きるよう心がけてるからね」
自分の意見を変える気のないらしいアッシュは、苦言を呈されても、常に浮かべているにこにことした表情を崩すことはなかった。それでも自身の意見が通ることがないと理解したのか、一応譲歩する気にはなったらしい。
「仕方ないですね。調査が済むまでは待ちますよ」
「何様よ」
サク姉は吐き捨てるように言って、洞窟内の調査に意識を戻した。それから間もなくして、サク姉は眉を顰めた。
「ちょっとまずいかもしれないわね」
「なにを見つけられたのですか」
「ここ、もしかしたらダンジョンに成りかけてるかもしれない。しかも、元々は野生動物が巣として使ってたみたいで、その動物のほとんどが魔物に変貌してるっぽい」
「動物の種類はなんです」
「蝙蝠ね。しかも吸血するタイプの」
最悪な情報にボクもサク姉と同様に眉を顰めた。魔獣と違って魔物化した生物は、ダンジョンの魔物とも全くの別物で、肉体が魔素を取り込むことでどこまでも凶悪な進化をしてしまう。だからこそ魔素が豊富に含まれた血液を主食とする生物が魔物化した場合、その進化速度は他と段違いに早いと考えられる。
「獲物になったものの残骸とか残されてませんか」
「それが1番の問題なんだけど、さっきヒロちゃんが言ってた野盗が餌にされた可能性が高いかも。この奥に見窄らしい格好をした人の遺体がいくつか転がってるから、ここで焚き火してた人間がそのまま餌食になったんでしょうね」
「状況的にかなりまずいですね。もうかなり進化してしまっているのではないですか」
「調査に行かせた子達に駆除を試みてもらってるけど、魔物化した個体相手には攻撃が通りそうもないわ。しかも、一体だけ特殊な進化をしてるのもいるし」
サク姉からもたらされた洞窟内部の情報から今後の対策をどうするか話し合おうとしていると、さっきまで興味なさげだったアッシュがひとりで洞窟内に乗り込もうと足を進めていた。
「私が直接乗り込んで駆除してくるよ。これ以上待ってるのも飽きたからね」
そう言ったアッシュは『ディバインソード』と『ディバインシールド』の魔術で武具を創り出すなり、洞窟へと向けて駆け出した。
「ちょっと、アッシュ」
独断専行しようとするアッシュを呼び止めようとサク姉が声を上げたけれど、それを無視するように彼は洞窟に突入して行った。
「あのバカ、本当になに考えてんのよ」
「なにも考えてないんだと思います」
「……確かにそうかもね。あー、もう。面倒なことばっかり起こしてなんなの。仕事じゃなかったら今すぐにでもパーティー解消したい」
一頻り不満を吐き出したサク姉は、一度深く目をつぶってから、ゆっくりとまぶたを押したあげた。そのときにはもう荒れた気持ちの整理は付いたようだった。
気持ちを切り替えたサク姉は、洞窟に単独で突入してしまったアッシュを支援すべく、新たな【召喚】を行使した。サク姉の手で新たに呼び出されたのは、全身の羽毛が真っ黒なフクロウだった。目も黒一色なので、フクロウのいる場所だけが、ぽっかりと穴が空いて景色が切り取られているようだった。
サク姉は【召喚】した黒フクロウに、大量の魔力を注ぎ込むと短く指示を下した。
「行け」
命令を受けた黒フクロウは、大きな翼を広げて少ない羽ばたきで音もなく飛翔し、アッシュの後を追って洞窟に侵入して行った。
ボクは黒フクロウを操るのに集中するサク姉を守るように周囲の警戒に務めた。しばらくすると黒フクロウはアッシュと合流したのか、サク姉は時折り黒フクロウの目を通して見た光景に対して毒突いていた。
しばらくしてサク姉は、緊張を解くように深い息を吐いた。
「どうやら魔物化した対象の殲滅が完了したようね」
やがて黒フクロウに導かれるようにして洞窟から出て来たアッシュは、人間大をした醜悪な容貌の魔物化したコウモリらしきモノを引き摺っていた。
ボクは当然の疑問をサク姉にぶつけた。
「調べてないよ。上空からじゃ岩陰になってて見えてなかったしね」
街道から外れたこんな場所で野営する人間には少しばかり心当たりがあった。
「もしかしたら野盗の拠点として使われていた可能性がありますので、調査をお願いしてもいいですか。最近、この辺りで出没していた野盗の大半は討伐されたのですが、逃げ延びたのが少なからず居ましたので」
「いいよ。お姉さんに任せといて」
軽く承ってくれたサク姉は、数羽の蝙蝠を【召喚】して洞窟の中に放った。その様子を黙って見ていたアッシュは、タイミングを見計らってサク姉に声をかけた。
「サクラ。私の武器を頼めるかな」
「集中したいから、もう少し待って欲しいんだけど」
「待ってる間、手持ち無沙汰なのはどうにもね」
「わざわざ収納から出さなくても、あなたって魔術で武器を用意出来るでしょ」
「あー、そうじゃないよ。頼んでるのは模擬剣の方だよ。ここまで来たのは元々そういう話だったじゃないか」
当初の目的以外は興味ないといった振る舞いのアッシュの様子に、サク姉は呆けたような表情をした。
「え、今、この状況でやろうっていうの? あなた、本当にバカなんじゃないの」
「ひどい言われようだね」
「あなたは強い相手以外眼中にないのかもしれないけど、場の空気くらいは少しは読んでくれない」
「私は自分の心に正直に生きるよう心がけてるからね」
自分の意見を変える気のないらしいアッシュは、苦言を呈されても、常に浮かべているにこにことした表情を崩すことはなかった。それでも自身の意見が通ることがないと理解したのか、一応譲歩する気にはなったらしい。
「仕方ないですね。調査が済むまでは待ちますよ」
「何様よ」
サク姉は吐き捨てるように言って、洞窟内の調査に意識を戻した。それから間もなくして、サク姉は眉を顰めた。
「ちょっとまずいかもしれないわね」
「なにを見つけられたのですか」
「ここ、もしかしたらダンジョンに成りかけてるかもしれない。しかも、元々は野生動物が巣として使ってたみたいで、その動物のほとんどが魔物に変貌してるっぽい」
「動物の種類はなんです」
「蝙蝠ね。しかも吸血するタイプの」
最悪な情報にボクもサク姉と同様に眉を顰めた。魔獣と違って魔物化した生物は、ダンジョンの魔物とも全くの別物で、肉体が魔素を取り込むことでどこまでも凶悪な進化をしてしまう。だからこそ魔素が豊富に含まれた血液を主食とする生物が魔物化した場合、その進化速度は他と段違いに早いと考えられる。
「獲物になったものの残骸とか残されてませんか」
「それが1番の問題なんだけど、さっきヒロちゃんが言ってた野盗が餌にされた可能性が高いかも。この奥に見窄らしい格好をした人の遺体がいくつか転がってるから、ここで焚き火してた人間がそのまま餌食になったんでしょうね」
「状況的にかなりまずいですね。もうかなり進化してしまっているのではないですか」
「調査に行かせた子達に駆除を試みてもらってるけど、魔物化した個体相手には攻撃が通りそうもないわ。しかも、一体だけ特殊な進化をしてるのもいるし」
サク姉からもたらされた洞窟内部の情報から今後の対策をどうするか話し合おうとしていると、さっきまで興味なさげだったアッシュがひとりで洞窟内に乗り込もうと足を進めていた。
「私が直接乗り込んで駆除してくるよ。これ以上待ってるのも飽きたからね」
そう言ったアッシュは『ディバインソード』と『ディバインシールド』の魔術で武具を創り出すなり、洞窟へと向けて駆け出した。
「ちょっと、アッシュ」
独断専行しようとするアッシュを呼び止めようとサク姉が声を上げたけれど、それを無視するように彼は洞窟に突入して行った。
「あのバカ、本当になに考えてんのよ」
「なにも考えてないんだと思います」
「……確かにそうかもね。あー、もう。面倒なことばっかり起こしてなんなの。仕事じゃなかったら今すぐにでもパーティー解消したい」
一頻り不満を吐き出したサク姉は、一度深く目をつぶってから、ゆっくりとまぶたを押したあげた。そのときにはもう荒れた気持ちの整理は付いたようだった。
気持ちを切り替えたサク姉は、洞窟に単独で突入してしまったアッシュを支援すべく、新たな【召喚】を行使した。サク姉の手で新たに呼び出されたのは、全身の羽毛が真っ黒なフクロウだった。目も黒一色なので、フクロウのいる場所だけが、ぽっかりと穴が空いて景色が切り取られているようだった。
サク姉は【召喚】した黒フクロウに、大量の魔力を注ぎ込むと短く指示を下した。
「行け」
命令を受けた黒フクロウは、大きな翼を広げて少ない羽ばたきで音もなく飛翔し、アッシュの後を追って洞窟に侵入して行った。
ボクは黒フクロウを操るのに集中するサク姉を守るように周囲の警戒に務めた。しばらくすると黒フクロウはアッシュと合流したのか、サク姉は時折り黒フクロウの目を通して見た光景に対して毒突いていた。
しばらくしてサク姉は、緊張を解くように深い息を吐いた。
「どうやら魔物化した対象の殲滅が完了したようね」
やがて黒フクロウに導かれるようにして洞窟から出て来たアッシュは、人間大をした醜悪な容貌の魔物化したコウモリらしきモノを引き摺っていた。
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