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072 盗賊さん、再会する。
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ミンティオを見送ったボクは、もう東門を出るかどうかとしばし迷った。まだ10の鐘がなるかどうかといったところなのである。ふたりを城壁外で待つには少し早過ぎる気もしたけれど、最終的にボクは早めに外で待つことにした。
そうと決めて東門で身分証を提示しようとしたところ、ボクは足止めを喰らった。というのも現在東門で出入者のチェックに当たっていたのが、以前ボクからポーションを没収した中年の衛兵だったからである。
「その背嚢の中身を見せろ」
「残念ですがポーション瓶は入ってませんよ」
目の前の人物の横柄な態度に反抗的な態度をとって見せると、彼は頭頂部まで真っ赤にする勢いで頭に血を昇らせていた。
「いいからいう通りにしろ」
「領都外への持ち出しには制限はなかったと思うのですが」
「うるさいっ。今はそうなってるんだよ」
「あまりそういうことを繰り返されてますと、ご自身の立場を悪くしますよ」
そう言いながら周囲を見渡すような仕草をして見せる。するとボクらを遠巻きに観察する人々が囁き合っていた。その様子に多少怯んだ中年の衛兵だったが、引く気はないようだった。
仕方ないので、ボクは空の背嚢の口を大きく開けて中身を見せ付けた。
「この通り背嚢は空ですよ。満足されましたか」
「ふんっ。しっかりと確認させてもらったからな。もし帰りに不審物を持ち込むようなら前回同様に没収させてもらうぞ」
「かまいませんよ。そんな予定はないですからね」
背嚢を背負い直していると、中年の衛兵は負け惜しみでも言うようにぼやいた。
「あまり調子に乗らんことだな」
彼の怨嗟に満ちた眼差しを背に受けながら、ボクは東門を抜けた。そのままボクはレッドグレイヴ方面に真っ直ぐ足を進めた。
東門の出入者チェックの担当が彼のままだと、ふたりが東門を通る場合に厄介なことになりそうな気がしたからである。
あのふたりがレッドグレイヴから持ち込む品次第では、無茶な言い分を通して強引に没収されてしまいそうだった。そうならないようにボクは、ふたりを出迎えるのは、東門から離れた場所で行うことにした。
魔力循環で身体能力を底上げし、街道を駆ける。鐘ひとつ分くらい駆け抜けた辺りで、遠くに人影があるのが目に入った。『バートアイ』で確認すると、それは見知った見目の良い長身の男女ふたり組だった。彼らもボクの接近に気付いたらしく、大きく手を振っていた。
ほどなく彼らと合流したボクは、再開の言葉を口にするより前に、ふたり組の女性の方にがしりと力強く抱擁された。
「サク姉、ひさしぶり」
「ひどいよ、ヒロちゃん。私達が仕事に出てる間にいなくなっちゃうなんて」
「仕方ありませんよ。ボクにとっても急なことでしたから」
「じゃあ、やっぱりヒロちゃんの天職って『盗賊』だったの?」
「えぇ、そうです」
元々察していただろうし、隠し立てしても遠からず知られることになるだろうから、サク姉の疑問を間髪入れずに肯定した。
「それより聞きたいのですが、おふたりはここまで徒歩で来られたのですか」
「そうだよ。馬車使うより、走った方が速いからね」
「それにしてはかなり身軽なようですが、荷物はどうされたのです」
軽く見たところ、ふたりは空間拡張を施されたアイテムなどを身に付けている様子はなかった。
「私には独自の収納魔術があるから、手ぶらでも平気なの」
などとやりとりをしていると、少し寂しげにアッシュが声をかけてきた。
「私には聞いてくれないのかい」
「サク姉に聞けば事足りますから」
「私に対しては相変わらず素っ気ないね。そこまで嫌われるようなことしたかな」
「えぇ、アッシュにその自覚はないようですが」
「私のことも兄と呼んでくれてもいいんだよ」
いつものように嫌味を言ったが、的外れな言葉が返って来た。
「嫌です」
「悲しいことだね」
きっぱりと断るとアッシュはやれやれとでも言いたげに、見せつけるようにして肩をすくめた。
「それじゃあ、いつものそろそろいいかな」
ボクは当て付けのように深いため息を吐いてみせた。
「街道でやるのはどうかと思いますよ」
「それもそうだね。サクラ、この辺りにちょうどいい空き地ないかな」
「あなたって本当にバカよね。まぁ、ヒロちゃんの勇姿が観れるからいいんだけど」
アッシュに対して呆れたとの表情を隠しもしないサク姉が『召喚』と短い詠唱とともに中空に手を翳す。すると中空に4つのゆらぎが生じ、そのゆらぎはやがて実体を持った小鳥へと変じた。なにもない空間から突如出現した小鳥たちは、サク姉の簡単な身振りに従って四方に飛び去るようにして散っていった。小鳥達に指示を下したサク姉は左目をつぶって、そのまぶたの上に伸ばした右手の人差し指と中指の腹を添えた。
それから間を置かず、片目をつぶっていたサク姉が短く告げた。
「見つけた、こっちよ」
そう言ったサク姉は、目を開くと街道脇の雑木林に迷いなく早足で踏み込んで行く。その後にボクとアッシュは続いた。サク姉に先導されながら長いこと足を進めると、やがて地肌の露出した拓けた場所に出た。
軽く辺りを見渡すと、正面にそびえる切り立った岩壁には洞穴がひとつぽっかりと口を開けており、その手前にある広場の中央付近には誰かが焚き火をしたような跡が残っていた。
そうと決めて東門で身分証を提示しようとしたところ、ボクは足止めを喰らった。というのも現在東門で出入者のチェックに当たっていたのが、以前ボクからポーションを没収した中年の衛兵だったからである。
「その背嚢の中身を見せろ」
「残念ですがポーション瓶は入ってませんよ」
目の前の人物の横柄な態度に反抗的な態度をとって見せると、彼は頭頂部まで真っ赤にする勢いで頭に血を昇らせていた。
「いいからいう通りにしろ」
「領都外への持ち出しには制限はなかったと思うのですが」
「うるさいっ。今はそうなってるんだよ」
「あまりそういうことを繰り返されてますと、ご自身の立場を悪くしますよ」
そう言いながら周囲を見渡すような仕草をして見せる。するとボクらを遠巻きに観察する人々が囁き合っていた。その様子に多少怯んだ中年の衛兵だったが、引く気はないようだった。
仕方ないので、ボクは空の背嚢の口を大きく開けて中身を見せ付けた。
「この通り背嚢は空ですよ。満足されましたか」
「ふんっ。しっかりと確認させてもらったからな。もし帰りに不審物を持ち込むようなら前回同様に没収させてもらうぞ」
「かまいませんよ。そんな予定はないですからね」
背嚢を背負い直していると、中年の衛兵は負け惜しみでも言うようにぼやいた。
「あまり調子に乗らんことだな」
彼の怨嗟に満ちた眼差しを背に受けながら、ボクは東門を抜けた。そのままボクはレッドグレイヴ方面に真っ直ぐ足を進めた。
東門の出入者チェックの担当が彼のままだと、ふたりが東門を通る場合に厄介なことになりそうな気がしたからである。
あのふたりがレッドグレイヴから持ち込む品次第では、無茶な言い分を通して強引に没収されてしまいそうだった。そうならないようにボクは、ふたりを出迎えるのは、東門から離れた場所で行うことにした。
魔力循環で身体能力を底上げし、街道を駆ける。鐘ひとつ分くらい駆け抜けた辺りで、遠くに人影があるのが目に入った。『バートアイ』で確認すると、それは見知った見目の良い長身の男女ふたり組だった。彼らもボクの接近に気付いたらしく、大きく手を振っていた。
ほどなく彼らと合流したボクは、再開の言葉を口にするより前に、ふたり組の女性の方にがしりと力強く抱擁された。
「サク姉、ひさしぶり」
「ひどいよ、ヒロちゃん。私達が仕事に出てる間にいなくなっちゃうなんて」
「仕方ありませんよ。ボクにとっても急なことでしたから」
「じゃあ、やっぱりヒロちゃんの天職って『盗賊』だったの?」
「えぇ、そうです」
元々察していただろうし、隠し立てしても遠からず知られることになるだろうから、サク姉の疑問を間髪入れずに肯定した。
「それより聞きたいのですが、おふたりはここまで徒歩で来られたのですか」
「そうだよ。馬車使うより、走った方が速いからね」
「それにしてはかなり身軽なようですが、荷物はどうされたのです」
軽く見たところ、ふたりは空間拡張を施されたアイテムなどを身に付けている様子はなかった。
「私には独自の収納魔術があるから、手ぶらでも平気なの」
などとやりとりをしていると、少し寂しげにアッシュが声をかけてきた。
「私には聞いてくれないのかい」
「サク姉に聞けば事足りますから」
「私に対しては相変わらず素っ気ないね。そこまで嫌われるようなことしたかな」
「えぇ、アッシュにその自覚はないようですが」
「私のことも兄と呼んでくれてもいいんだよ」
いつものように嫌味を言ったが、的外れな言葉が返って来た。
「嫌です」
「悲しいことだね」
きっぱりと断るとアッシュはやれやれとでも言いたげに、見せつけるようにして肩をすくめた。
「それじゃあ、いつものそろそろいいかな」
ボクは当て付けのように深いため息を吐いてみせた。
「街道でやるのはどうかと思いますよ」
「それもそうだね。サクラ、この辺りにちょうどいい空き地ないかな」
「あなたって本当にバカよね。まぁ、ヒロちゃんの勇姿が観れるからいいんだけど」
アッシュに対して呆れたとの表情を隠しもしないサク姉が『召喚』と短い詠唱とともに中空に手を翳す。すると中空に4つのゆらぎが生じ、そのゆらぎはやがて実体を持った小鳥へと変じた。なにもない空間から突如出現した小鳥たちは、サク姉の簡単な身振りに従って四方に飛び去るようにして散っていった。小鳥達に指示を下したサク姉は左目をつぶって、そのまぶたの上に伸ばした右手の人差し指と中指の腹を添えた。
それから間を置かず、片目をつぶっていたサク姉が短く告げた。
「見つけた、こっちよ」
そう言ったサク姉は、目を開くと街道脇の雑木林に迷いなく早足で踏み込んで行く。その後にボクとアッシュは続いた。サク姉に先導されながら長いこと足を進めると、やがて地肌の露出した拓けた場所に出た。
軽く辺りを見渡すと、正面にそびえる切り立った岩壁には洞穴がひとつぽっかりと口を開けており、その手前にある広場の中央付近には誰かが焚き火をしたような跡が残っていた。
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