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067 盗賊さん、噂話を聞く。
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話が一区切りついたところで、グレンが晩御飯の用意をするために席を立つ。手伝いを申し出たけれど、ひとりで大丈夫だとやんわりと断られた。
ボクは待っている間やることもなかったので、ウエストポーチに隠れたままのプルに出て来ても大丈夫だと伝えた。するとすぐにプルはウエストポーチの中から這い出して来た。
しばらくプルと戯れていると、グレンが料理を運んで来た。一度では運びきれないのは明らかなので、それくらいは手伝わせてもらった。
テーブルに並ぶ晩御飯は3人分あり、グレンはプルの分も用意してくれていた。
「プルにも気を遣ってくれてありがとう」
「そいつも錬金術ギルドの一員だしな。当然だろ。なぁ、プル」
既に食事に触手を伸ばしていたプルは、グレンに名を呼ばれ、もちろんとでも言いたげにぷるんと身体をゆらした。
プルのおかげで空気が和んだところだったけれど、ボクは一時的に遠ざけていた話題を持ちかける。
「グレン。さっき遮った話だけど、改めて聞かせてもらえるかな」
「さっき?」
一瞬、なんのことか思い当たらなかったらしいグレンは、頭の上に疑問符を浮かべていたけれど、すぐになんのことか思い至ったらしく、顔を顰めた。
「あの子の母親のことか」
「うん。あのひと、危険だと思われる人物というか、あの場合ボクのことなんだけど。ユーナちゃんをボクから遠ざけるような振る舞いをしてたのに、ユーナちゃんひとり残して居なくなったってのは変だと思ってさ」
「まぁ、オレもはっきりとわかってるわけじゃねぇが。アンジーが言うには、他人の前でだけはいい母親像を演じてただけなんじゃねぇかって話だったな」
想像の域を出ない話に、アンジーの女の勘ってやつなのかと、それを確かめるようにグレンに問う。
「なにか根拠があってのことなのかな」
「アンジーのやつ食堂で働いてんだろ。だからか客の噂話がいろいろと耳に入ってくるんだとよ。んで、あの母親のことなんかもな」
「どんな噂?」
「あぁ、まぁ、昔の話らしいんだけどな。あのひと、婚約者が居たらしいんだが、全く別の魔術職の男とレッドグレイヴに駆け落ちしたらしいんだよ。向こうでなにがあったかまではわかんねぇが、子供が邪魔になったのか自分の母親にそれを押し付けに来たって噂になってたみたいだな」
前半部分はともかくとして、後半の内容のほとんどは事情も知らない第三者による妄想のようで、事実とは言えないようなものだった。
「あのひと自身は魔術職じゃなかったのかな」
「そこまではわかんねぇな」
パパに頼んでレッドグレイヴの住民登録関係を当たれば、その辺りの事情は調べられるかな。勝手に他人の家の事情に首を突っ込むのはどうかと思うけど、ユーナちゃんをあのまま放って置くのはどうかと思うしね。
「孤児院の御婦人はなにか言ってた?」
「オレもあの母親のことは覚えてたからよ、なんであの子がここにいるのかって聞いてみたんだよ。そしたら我が娘ながら育児責任を放棄して嘆かわしいとかって愚痴ってたな」
その発言内容からユーナちゃんの母親が、もうユーナちゃんを迎えに来ることはないんじゃないかと思えた。
「大体の事情はわかったよ。それで、その当の本人がどこに行ったかは」
「わかんねぇな。自分の子供押し付けてすぐにどっかに姿を消したらしい」
「そう。その後の足取りを追うのは難しそうだね」
「探す必要なんてねぇんじゃねぇか。自分の子供を捨てるような親なんてよ」
「そうかもしれないね。でも、ユーナちゃんは母親を待ってる。だからどんな親だったとして、もう一度会わせてあげたいんだよ。余計なお世話だってのは、わかっていてもね」
それにそこまで薄情な母親だったとは思えないだよね。ユーナちゃんを守ろうと彼女からボクに向けられた敵意は本物だったし、そこに嘘はなかったような気がしてならなかったからね。
「そういうもんか」
「二度と会わないにしても、最後の別れくらいは必要なんじゃないかと思ってね。そうじゃないと折り合いをつけるのは難しいだろ」
いつか帰って来てくれるかもしれないって、かすかな希望に縋って不毛に待ち続けていたら心が摩耗してしまいそうだしね。それがまだ幼い子供ならなおのことね。
「ヒイロの考えはわかった。だがよ、オレにはその考え方はわかんねぇし、これに関しちゃこれ以上は手を出す気はねぇぜ」
「あぁ、わかってるよ。たぶんこれはボクのわがままなんだろうからね」
母親というものが、ボクにとって大きな意味を持っているからそう感じてしまうのかもしれない。重くなった空気を追い払うように、ぱしんと手を打ち鳴らした。
「それじゃ、食事も片付いたし、今日の話し合いは終わりにしようか」
「だな」
「片付けはボクの方でやっておくよ」
「あぁ、じゃあ、頼むぜ」
そう言ったグレンは自分の分の食器類を台所に運んで行ったので、ボクはその後に続いた。食器を置いたグレンは軽く手をあげて、あとは任せたとばかりに引き上げて行った。それを見送ったボクは、一緒について来たプルと一緒に食器類を洗いながら、心の奥底で澱む表現し難い気持ちを整理した。
ボクは待っている間やることもなかったので、ウエストポーチに隠れたままのプルに出て来ても大丈夫だと伝えた。するとすぐにプルはウエストポーチの中から這い出して来た。
しばらくプルと戯れていると、グレンが料理を運んで来た。一度では運びきれないのは明らかなので、それくらいは手伝わせてもらった。
テーブルに並ぶ晩御飯は3人分あり、グレンはプルの分も用意してくれていた。
「プルにも気を遣ってくれてありがとう」
「そいつも錬金術ギルドの一員だしな。当然だろ。なぁ、プル」
既に食事に触手を伸ばしていたプルは、グレンに名を呼ばれ、もちろんとでも言いたげにぷるんと身体をゆらした。
プルのおかげで空気が和んだところだったけれど、ボクは一時的に遠ざけていた話題を持ちかける。
「グレン。さっき遮った話だけど、改めて聞かせてもらえるかな」
「さっき?」
一瞬、なんのことか思い当たらなかったらしいグレンは、頭の上に疑問符を浮かべていたけれど、すぐになんのことか思い至ったらしく、顔を顰めた。
「あの子の母親のことか」
「うん。あのひと、危険だと思われる人物というか、あの場合ボクのことなんだけど。ユーナちゃんをボクから遠ざけるような振る舞いをしてたのに、ユーナちゃんひとり残して居なくなったってのは変だと思ってさ」
「まぁ、オレもはっきりとわかってるわけじゃねぇが。アンジーが言うには、他人の前でだけはいい母親像を演じてただけなんじゃねぇかって話だったな」
想像の域を出ない話に、アンジーの女の勘ってやつなのかと、それを確かめるようにグレンに問う。
「なにか根拠があってのことなのかな」
「アンジーのやつ食堂で働いてんだろ。だからか客の噂話がいろいろと耳に入ってくるんだとよ。んで、あの母親のことなんかもな」
「どんな噂?」
「あぁ、まぁ、昔の話らしいんだけどな。あのひと、婚約者が居たらしいんだが、全く別の魔術職の男とレッドグレイヴに駆け落ちしたらしいんだよ。向こうでなにがあったかまではわかんねぇが、子供が邪魔になったのか自分の母親にそれを押し付けに来たって噂になってたみたいだな」
前半部分はともかくとして、後半の内容のほとんどは事情も知らない第三者による妄想のようで、事実とは言えないようなものだった。
「あのひと自身は魔術職じゃなかったのかな」
「そこまではわかんねぇな」
パパに頼んでレッドグレイヴの住民登録関係を当たれば、その辺りの事情は調べられるかな。勝手に他人の家の事情に首を突っ込むのはどうかと思うけど、ユーナちゃんをあのまま放って置くのはどうかと思うしね。
「孤児院の御婦人はなにか言ってた?」
「オレもあの母親のことは覚えてたからよ、なんであの子がここにいるのかって聞いてみたんだよ。そしたら我が娘ながら育児責任を放棄して嘆かわしいとかって愚痴ってたな」
その発言内容からユーナちゃんの母親が、もうユーナちゃんを迎えに来ることはないんじゃないかと思えた。
「大体の事情はわかったよ。それで、その当の本人がどこに行ったかは」
「わかんねぇな。自分の子供押し付けてすぐにどっかに姿を消したらしい」
「そう。その後の足取りを追うのは難しそうだね」
「探す必要なんてねぇんじゃねぇか。自分の子供を捨てるような親なんてよ」
「そうかもしれないね。でも、ユーナちゃんは母親を待ってる。だからどんな親だったとして、もう一度会わせてあげたいんだよ。余計なお世話だってのは、わかっていてもね」
それにそこまで薄情な母親だったとは思えないだよね。ユーナちゃんを守ろうと彼女からボクに向けられた敵意は本物だったし、そこに嘘はなかったような気がしてならなかったからね。
「そういうもんか」
「二度と会わないにしても、最後の別れくらいは必要なんじゃないかと思ってね。そうじゃないと折り合いをつけるのは難しいだろ」
いつか帰って来てくれるかもしれないって、かすかな希望に縋って不毛に待ち続けていたら心が摩耗してしまいそうだしね。それがまだ幼い子供ならなおのことね。
「ヒイロの考えはわかった。だがよ、オレにはその考え方はわかんねぇし、これに関しちゃこれ以上は手を出す気はねぇぜ」
「あぁ、わかってるよ。たぶんこれはボクのわがままなんだろうからね」
母親というものが、ボクにとって大きな意味を持っているからそう感じてしまうのかもしれない。重くなった空気を追い払うように、ぱしんと手を打ち鳴らした。
「それじゃ、食事も片付いたし、今日の話し合いは終わりにしようか」
「だな」
「片付けはボクの方でやっておくよ」
「あぁ、じゃあ、頼むぜ」
そう言ったグレンは自分の分の食器類を台所に運んで行ったので、ボクはその後に続いた。食器を置いたグレンは軽く手をあげて、あとは任せたとばかりに引き上げて行った。それを見送ったボクは、一緒について来たプルと一緒に食器類を洗いながら、心の奥底で澱む表現し難い気持ちを整理した。
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