66 / 118
066 盗賊さん、栽培計画を立てる。
しおりを挟む
笑顔ではあっても、どこか不安定さを感じさせるユーナちゃんの精神状態に、少し出しゃばった提案をする。
「ユーナちゃん。今日は、ここにお泊まりする?」
するとユーナちゃんは、一瞬だけ喜色満面になったが、すぐにしゅんとした表情になり、首を横にふった。
「ううん。新しいお家でママが帰ってくるの待ってないといけないから帰る」
ユーナちゃんの顔はどこか寂しそうで、その表情はお母さんがもう戻ってくることはないと、心のどこかで悟っているようでもあった。
「そっか。それなら仕方ないね」
「またここに遊びに来ていい?」
「うん、好きなときに来ていいよ」
今のユーナちゃんにとって都合のよい答えを返しながら、錬金術ギルドに常駐して彼女を出迎えてくれる魔物は居ないだろうかと考えていた。
だがすぐに考えを改めて、信用出来る人間に任せた方が手っ取り早いと考え直した。
その後、ユーリくんが目を覚ますまでユーナちゃんの話し相手を務め、15の鐘が鳴った辺りでグレンに頼んでふたりを孤児院に送ってもらった。
ボクも同行しようかとも思ったけれど、アンジーとグレンのふたりに任せることにして今回は控えることにした。
子供達を送ったグレンが錬金術ギルドに戻って来たのは18の鐘が鳴る少し前のことだった。グレンの性格的に寄り道や無駄話をすることはないだろうから、孤児院で多少話し込んだ上で、アンジーも送ってきたとしても、往復でこれだけの時間がかかるとなると、子供達には距離的に辛いものがあるかもしれない。
「おかえり、あのお土産は喜んでもらえたかな」
「あぁ、あすこのガキんちょども、今日はご馳走だってはしゃいでたぜ」
「それはよかった。そう言えば聞いてなかったけど、子供達は何人くらい居たの」
「んあー、今日うちに来たふたり入れて13人だったかな」
「思ったより居るんだね」
「まぁ、近々ひとり立ちするってのも居るらしいけどな」
「冒険者?」
「あぁ、天職が戦闘職だったらしくてな。所属するパーティーを見つかって、ある程度安定して依頼を受けられるようになったって言ってたな」
「そうなんだね。やっぱり冒険者になる子が多いのかな」
「かもな。あの孤児院に引き取られた子供の大半が迷宮遺児みたいだしな」
「迷宮遺児?」
聞き慣れない単語だったので思わず口に出した。
「冒険者の親をダンジョンで亡くした子供のことさ。ここでの孤児の大半は、ほとんどそれだな。まぁ、あの孤児院の場合は、元はあそこで雇われてた農家の子供達らしいけどな」
「お米が売れなくなったから冒険者に成らざるを得なかったってことか」
「あぁ、そのこともあって地主のばーさんは子供達を引き取ったみたいだな」
孤児院が出来た経緯を知り、領主が把握していなかったのもその辺りに理由があるのだろうかと考えると同時に、その存在を知っていた執事の出自が気になった。
もしかしたら彼は、孤児院の関係者なのかも知れない。その辺りのことはラビィを通じて調べようと頭の隅にメモをした。
「ダンジョン産の作物の影響を受けない物が、他にもあればこんなことにはなってなかっただろうにね」
「こればっかりは、ままならねぇもんさ」
グレンはやるせないため息を吐いた。
「今後はボクらの研究次第で、それも解消出来るかもしれないね」
「そうだな。大々的に薬草栽培出来るようになりゃ、元々農家だった大人を呼び戻すなりして子供達を守れるかもしんねぇしな」
「だね。それで畑の方は借りれそうだったかな」
「あぁ、問題なくな。今じゃもう空き地と変わんねぇから、水田ひとつ年間銀貨6枚でかまわねえってよ」
「その水田の広さってどれくらいなのかな」
「確か1000㎡っつってたかな。それが基準らしいぜ」
「空いてる水田はいくつくらいあるの?」
「10以上はあったんじゃねぇかな」
「じゃあ、それ全部借りようか」
「全部か。割り引いてもらってっから払えない額じゃねぇとは思うが、大丈夫か」
「問題ないよ。しばらくの間は薬草栽培をカモフラージュする必要もあるしさ」
「カモフラージュっつったってなに栽培する気なんだ」
「花かな」
グレンは変な物でも見るような目をボクに向けて来た。
「花ぁ? 売りもんになんねぇんじゃねぇか」
「いいんだよ。なに作ったってここじゃ売れないんだからさ。それに下手に野菜なんか作る方が不自然だよ」
「そりゃそうかもしんねぇが」
「まぁ、あわよくば養蜂出来たらなって思わなくもないんだけどね」
「養蜂って、あれか。蜂飼い慣らして蜂蜜つくらせようってやつ」
「うん。まぁ、表向きはそんな感じで行こうって話だよ。本当に出来るとは思ってないよ。それを主目的だと周りに思い込ませればそれでいいんだしね」
「あぁ、そういうことか」
都合よく虫を操れる天職持ちでもいれば話は変わってくるんだろうけど、それを口にしても仕方ないと胸の内に留めた。元々の目的は薬草栽培であって、養蜂じゃないしね。
「ユーナちゃん。今日は、ここにお泊まりする?」
するとユーナちゃんは、一瞬だけ喜色満面になったが、すぐにしゅんとした表情になり、首を横にふった。
「ううん。新しいお家でママが帰ってくるの待ってないといけないから帰る」
ユーナちゃんの顔はどこか寂しそうで、その表情はお母さんがもう戻ってくることはないと、心のどこかで悟っているようでもあった。
「そっか。それなら仕方ないね」
「またここに遊びに来ていい?」
「うん、好きなときに来ていいよ」
今のユーナちゃんにとって都合のよい答えを返しながら、錬金術ギルドに常駐して彼女を出迎えてくれる魔物は居ないだろうかと考えていた。
だがすぐに考えを改めて、信用出来る人間に任せた方が手っ取り早いと考え直した。
その後、ユーリくんが目を覚ますまでユーナちゃんの話し相手を務め、15の鐘が鳴った辺りでグレンに頼んでふたりを孤児院に送ってもらった。
ボクも同行しようかとも思ったけれど、アンジーとグレンのふたりに任せることにして今回は控えることにした。
子供達を送ったグレンが錬金術ギルドに戻って来たのは18の鐘が鳴る少し前のことだった。グレンの性格的に寄り道や無駄話をすることはないだろうから、孤児院で多少話し込んだ上で、アンジーも送ってきたとしても、往復でこれだけの時間がかかるとなると、子供達には距離的に辛いものがあるかもしれない。
「おかえり、あのお土産は喜んでもらえたかな」
「あぁ、あすこのガキんちょども、今日はご馳走だってはしゃいでたぜ」
「それはよかった。そう言えば聞いてなかったけど、子供達は何人くらい居たの」
「んあー、今日うちに来たふたり入れて13人だったかな」
「思ったより居るんだね」
「まぁ、近々ひとり立ちするってのも居るらしいけどな」
「冒険者?」
「あぁ、天職が戦闘職だったらしくてな。所属するパーティーを見つかって、ある程度安定して依頼を受けられるようになったって言ってたな」
「そうなんだね。やっぱり冒険者になる子が多いのかな」
「かもな。あの孤児院に引き取られた子供の大半が迷宮遺児みたいだしな」
「迷宮遺児?」
聞き慣れない単語だったので思わず口に出した。
「冒険者の親をダンジョンで亡くした子供のことさ。ここでの孤児の大半は、ほとんどそれだな。まぁ、あの孤児院の場合は、元はあそこで雇われてた農家の子供達らしいけどな」
「お米が売れなくなったから冒険者に成らざるを得なかったってことか」
「あぁ、そのこともあって地主のばーさんは子供達を引き取ったみたいだな」
孤児院が出来た経緯を知り、領主が把握していなかったのもその辺りに理由があるのだろうかと考えると同時に、その存在を知っていた執事の出自が気になった。
もしかしたら彼は、孤児院の関係者なのかも知れない。その辺りのことはラビィを通じて調べようと頭の隅にメモをした。
「ダンジョン産の作物の影響を受けない物が、他にもあればこんなことにはなってなかっただろうにね」
「こればっかりは、ままならねぇもんさ」
グレンはやるせないため息を吐いた。
「今後はボクらの研究次第で、それも解消出来るかもしれないね」
「そうだな。大々的に薬草栽培出来るようになりゃ、元々農家だった大人を呼び戻すなりして子供達を守れるかもしんねぇしな」
「だね。それで畑の方は借りれそうだったかな」
「あぁ、問題なくな。今じゃもう空き地と変わんねぇから、水田ひとつ年間銀貨6枚でかまわねえってよ」
「その水田の広さってどれくらいなのかな」
「確か1000㎡っつってたかな。それが基準らしいぜ」
「空いてる水田はいくつくらいあるの?」
「10以上はあったんじゃねぇかな」
「じゃあ、それ全部借りようか」
「全部か。割り引いてもらってっから払えない額じゃねぇとは思うが、大丈夫か」
「問題ないよ。しばらくの間は薬草栽培をカモフラージュする必要もあるしさ」
「カモフラージュっつったってなに栽培する気なんだ」
「花かな」
グレンは変な物でも見るような目をボクに向けて来た。
「花ぁ? 売りもんになんねぇんじゃねぇか」
「いいんだよ。なに作ったってここじゃ売れないんだからさ。それに下手に野菜なんか作る方が不自然だよ」
「そりゃそうかもしんねぇが」
「まぁ、あわよくば養蜂出来たらなって思わなくもないんだけどね」
「養蜂って、あれか。蜂飼い慣らして蜂蜜つくらせようってやつ」
「うん。まぁ、表向きはそんな感じで行こうって話だよ。本当に出来るとは思ってないよ。それを主目的だと周りに思い込ませればそれでいいんだしね」
「あぁ、そういうことか」
都合よく虫を操れる天職持ちでもいれば話は変わってくるんだろうけど、それを口にしても仕方ないと胸の内に留めた。元々の目的は薬草栽培であって、養蜂じゃないしね。
0
お気に入りに追加
142
あなたにおすすめの小説
大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです
飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。
だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。
勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し!
そんなお話です。

【完結】あなたに知られたくなかった
ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。
5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。
そんなセレナに起きた奇跡とは?

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

少し冷めた村人少年の冒険記
mizuno sei
ファンタジー
辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。
トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。
優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。
[鑑定]スキルしかない俺を追放したのはいいが、貴様らにはもう関わるのはイヤだから、さがさないでくれ!
どら焼き
ファンタジー
ついに!第5章突入!
舐めた奴らに、真実が牙を剥く!
何も説明無く、いきなり異世界転移!らしいのだが、この王冠つけたオッサン何を言っているのだ?
しかも、ステータスが文字化けしていて、スキルも「鑑定??」だけって酷くない?
訳のわからない言葉?を発声している王女?と、勇者らしい同級生達がオレを城から捨てやがったので、
なんとか、苦労して宿代とパン代を稼ぐ主人公カザト!
そして…わかってくる、この異世界の異常性。
出会いを重ねて、なんとか元の世界に戻る方法を切り開いて行く物語。
主人公の直接復讐する要素は、あまりありません。
相手方の、あまりにも酷い自堕落さから出てくる、ざまぁ要素は、少しづつ出てくる予定です。
ハーレム要素は、不明とします。
復讐での強制ハーレム要素は、無しの予定です。
追記
2023/07/21 表紙絵を戦闘モードになったあるヤツの参考絵にしました。
8月近くでなにが、変形するのかわかる予定です。
2024/02/23
アルファポリスオンリーを解除しました。

システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。
大国 鹿児
ファンタジー
輪廻転生のシステムのバグで輪廻の輪から外れちゃった!
でも神様から便利なチートグッズ(笑)の詰め合わせをもらって、
他の星に転生しました!特に使命も無いなら自由気ままに生きてみよう!
主人公はチート無双するのか!? それともハーレムか!?
はたまた、壮大なファンタジーが始まるのか!?
いえ、実は単なる趣味全開の主人公です。
色々な秘密がだんだん明らかになりますので、ゆっくりとお楽しみください。
*** 作品について ***
この作品は、真面目なチート物ではありません。
コメディーやギャグ要素やネタの多い作品となっております
重厚な世界観や派手な戦闘描写、ざまあ展開などをお求めの方は、
この作品をスルーして下さい。
*カクヨム様,小説家になろう様でも、別PNで先行して投稿しております。
誰一人帰らない『奈落』に落とされたおっさん、うっかり暗号を解読したら、未知の遺物の使い手になりました!
ミポリオン
ファンタジー
旧題:巻き込まれ召喚されたおっさん、無能で誰一人帰らない場所に追放されるも、超古代文明の暗号を解いて力を手にいれ、楽しく生きていく
高校生達が勇者として召喚される中、1人のただのサラリーマンのおっさんである福菅健吾が巻き込まれて異世界に召喚された。
高校生達は強力なステータスとスキルを獲得したが、おっさんは一般人未満のステータスしかない上に、異世界人の誰もが持っている言語理解しかなかったため、転移装置で誰一人帰ってこない『奈落』に追放されてしまう。
しかし、そこに刻まれた見たこともない文字を、健吾には全て理解する事ができ、強大な超古代文明のアイテムを手に入れる。
召喚者達は気づかなかった。健吾以外の高校生達の通常スキル欄に言語スキルがあり、健吾だけは固有スキルの欄に言語スキルがあった事を。そしてそのスキルが恐るべき力を秘めていることを。
※カクヨムでも連載しています

あなたがそう望んだから
まる
ファンタジー
「ちょっとアンタ!アンタよ!!アデライス・オールテア!」
思わず不快さに顔が歪みそうになり、慌てて扇で顔を隠す。
確か彼女は…最近編入してきたという男爵家の庶子の娘だったかしら。
喚き散らす娘が望んだのでその通りにしてあげましたわ。
○○○○○○○○○○
誤字脱字ご容赦下さい。もし電波な転生者に貴族の令嬢が絡まれたら。攻略対象と思われてる男性もガッチリ貴族思考だったらと考えて書いてみました。ゆっくりペースになりそうですがよろしければ是非。
閲覧、しおり、お気に入りの登録ありがとうございました(*´ω`*)
何となくねっとりじわじわな感じになっていたらいいのにと思ったのですがどうなんでしょうね?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる