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066 盗賊さん、栽培計画を立てる。
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笑顔ではあっても、どこか不安定さを感じさせるユーナちゃんの精神状態に、少し出しゃばった提案をする。
「ユーナちゃん。今日は、ここにお泊まりする?」
するとユーナちゃんは、一瞬だけ喜色満面になったが、すぐにしゅんとした表情になり、首を横にふった。
「ううん。新しいお家でママが帰ってくるの待ってないといけないから帰る」
ユーナちゃんの顔はどこか寂しそうで、その表情はお母さんがもう戻ってくることはないと、心のどこかで悟っているようでもあった。
「そっか。それなら仕方ないね」
「またここに遊びに来ていい?」
「うん、好きなときに来ていいよ」
今のユーナちゃんにとって都合のよい答えを返しながら、錬金術ギルドに常駐して彼女を出迎えてくれる魔物は居ないだろうかと考えていた。
だがすぐに考えを改めて、信用出来る人間に任せた方が手っ取り早いと考え直した。
その後、ユーリくんが目を覚ますまでユーナちゃんの話し相手を務め、15の鐘が鳴った辺りでグレンに頼んでふたりを孤児院に送ってもらった。
ボクも同行しようかとも思ったけれど、アンジーとグレンのふたりに任せることにして今回は控えることにした。
子供達を送ったグレンが錬金術ギルドに戻って来たのは18の鐘が鳴る少し前のことだった。グレンの性格的に寄り道や無駄話をすることはないだろうから、孤児院で多少話し込んだ上で、アンジーも送ってきたとしても、往復でこれだけの時間がかかるとなると、子供達には距離的に辛いものがあるかもしれない。
「おかえり、あのお土産は喜んでもらえたかな」
「あぁ、あすこのガキんちょども、今日はご馳走だってはしゃいでたぜ」
「それはよかった。そう言えば聞いてなかったけど、子供達は何人くらい居たの」
「んあー、今日うちに来たふたり入れて13人だったかな」
「思ったより居るんだね」
「まぁ、近々ひとり立ちするってのも居るらしいけどな」
「冒険者?」
「あぁ、天職が戦闘職だったらしくてな。所属するパーティーを見つかって、ある程度安定して依頼を受けられるようになったって言ってたな」
「そうなんだね。やっぱり冒険者になる子が多いのかな」
「かもな。あの孤児院に引き取られた子供の大半が迷宮遺児みたいだしな」
「迷宮遺児?」
聞き慣れない単語だったので思わず口に出した。
「冒険者の親をダンジョンで亡くした子供のことさ。ここでの孤児の大半は、ほとんどそれだな。まぁ、あの孤児院の場合は、元はあそこで雇われてた農家の子供達らしいけどな」
「お米が売れなくなったから冒険者に成らざるを得なかったってことか」
「あぁ、そのこともあって地主のばーさんは子供達を引き取ったみたいだな」
孤児院が出来た経緯を知り、領主が把握していなかったのもその辺りに理由があるのだろうかと考えると同時に、その存在を知っていた執事の出自が気になった。
もしかしたら彼は、孤児院の関係者なのかも知れない。その辺りのことはラビィを通じて調べようと頭の隅にメモをした。
「ダンジョン産の作物の影響を受けない物が、他にもあればこんなことにはなってなかっただろうにね」
「こればっかりは、ままならねぇもんさ」
グレンはやるせないため息を吐いた。
「今後はボクらの研究次第で、それも解消出来るかもしれないね」
「そうだな。大々的に薬草栽培出来るようになりゃ、元々農家だった大人を呼び戻すなりして子供達を守れるかもしんねぇしな」
「だね。それで畑の方は借りれそうだったかな」
「あぁ、問題なくな。今じゃもう空き地と変わんねぇから、水田ひとつ年間銀貨6枚でかまわねえってよ」
「その水田の広さってどれくらいなのかな」
「確か1000㎡っつってたかな。それが基準らしいぜ」
「空いてる水田はいくつくらいあるの?」
「10以上はあったんじゃねぇかな」
「じゃあ、それ全部借りようか」
「全部か。割り引いてもらってっから払えない額じゃねぇとは思うが、大丈夫か」
「問題ないよ。しばらくの間は薬草栽培をカモフラージュする必要もあるしさ」
「カモフラージュっつったってなに栽培する気なんだ」
「花かな」
グレンは変な物でも見るような目をボクに向けて来た。
「花ぁ? 売りもんになんねぇんじゃねぇか」
「いいんだよ。なに作ったってここじゃ売れないんだからさ。それに下手に野菜なんか作る方が不自然だよ」
「そりゃそうかもしんねぇが」
「まぁ、あわよくば養蜂出来たらなって思わなくもないんだけどね」
「養蜂って、あれか。蜂飼い慣らして蜂蜜つくらせようってやつ」
「うん。まぁ、表向きはそんな感じで行こうって話だよ。本当に出来るとは思ってないよ。それを主目的だと周りに思い込ませればそれでいいんだしね」
「あぁ、そういうことか」
都合よく虫を操れる天職持ちでもいれば話は変わってくるんだろうけど、それを口にしても仕方ないと胸の内に留めた。元々の目的は薬草栽培であって、養蜂じゃないしね。
「ユーナちゃん。今日は、ここにお泊まりする?」
するとユーナちゃんは、一瞬だけ喜色満面になったが、すぐにしゅんとした表情になり、首を横にふった。
「ううん。新しいお家でママが帰ってくるの待ってないといけないから帰る」
ユーナちゃんの顔はどこか寂しそうで、その表情はお母さんがもう戻ってくることはないと、心のどこかで悟っているようでもあった。
「そっか。それなら仕方ないね」
「またここに遊びに来ていい?」
「うん、好きなときに来ていいよ」
今のユーナちゃんにとって都合のよい答えを返しながら、錬金術ギルドに常駐して彼女を出迎えてくれる魔物は居ないだろうかと考えていた。
だがすぐに考えを改めて、信用出来る人間に任せた方が手っ取り早いと考え直した。
その後、ユーリくんが目を覚ますまでユーナちゃんの話し相手を務め、15の鐘が鳴った辺りでグレンに頼んでふたりを孤児院に送ってもらった。
ボクも同行しようかとも思ったけれど、アンジーとグレンのふたりに任せることにして今回は控えることにした。
子供達を送ったグレンが錬金術ギルドに戻って来たのは18の鐘が鳴る少し前のことだった。グレンの性格的に寄り道や無駄話をすることはないだろうから、孤児院で多少話し込んだ上で、アンジーも送ってきたとしても、往復でこれだけの時間がかかるとなると、子供達には距離的に辛いものがあるかもしれない。
「おかえり、あのお土産は喜んでもらえたかな」
「あぁ、あすこのガキんちょども、今日はご馳走だってはしゃいでたぜ」
「それはよかった。そう言えば聞いてなかったけど、子供達は何人くらい居たの」
「んあー、今日うちに来たふたり入れて13人だったかな」
「思ったより居るんだね」
「まぁ、近々ひとり立ちするってのも居るらしいけどな」
「冒険者?」
「あぁ、天職が戦闘職だったらしくてな。所属するパーティーを見つかって、ある程度安定して依頼を受けられるようになったって言ってたな」
「そうなんだね。やっぱり冒険者になる子が多いのかな」
「かもな。あの孤児院に引き取られた子供の大半が迷宮遺児みたいだしな」
「迷宮遺児?」
聞き慣れない単語だったので思わず口に出した。
「冒険者の親をダンジョンで亡くした子供のことさ。ここでの孤児の大半は、ほとんどそれだな。まぁ、あの孤児院の場合は、元はあそこで雇われてた農家の子供達らしいけどな」
「お米が売れなくなったから冒険者に成らざるを得なかったってことか」
「あぁ、そのこともあって地主のばーさんは子供達を引き取ったみたいだな」
孤児院が出来た経緯を知り、領主が把握していなかったのもその辺りに理由があるのだろうかと考えると同時に、その存在を知っていた執事の出自が気になった。
もしかしたら彼は、孤児院の関係者なのかも知れない。その辺りのことはラビィを通じて調べようと頭の隅にメモをした。
「ダンジョン産の作物の影響を受けない物が、他にもあればこんなことにはなってなかっただろうにね」
「こればっかりは、ままならねぇもんさ」
グレンはやるせないため息を吐いた。
「今後はボクらの研究次第で、それも解消出来るかもしれないね」
「そうだな。大々的に薬草栽培出来るようになりゃ、元々農家だった大人を呼び戻すなりして子供達を守れるかもしんねぇしな」
「だね。それで畑の方は借りれそうだったかな」
「あぁ、問題なくな。今じゃもう空き地と変わんねぇから、水田ひとつ年間銀貨6枚でかまわねえってよ」
「その水田の広さってどれくらいなのかな」
「確か1000㎡っつってたかな。それが基準らしいぜ」
「空いてる水田はいくつくらいあるの?」
「10以上はあったんじゃねぇかな」
「じゃあ、それ全部借りようか」
「全部か。割り引いてもらってっから払えない額じゃねぇとは思うが、大丈夫か」
「問題ないよ。しばらくの間は薬草栽培をカモフラージュする必要もあるしさ」
「カモフラージュっつったってなに栽培する気なんだ」
「花かな」
グレンは変な物でも見るような目をボクに向けて来た。
「花ぁ? 売りもんになんねぇんじゃねぇか」
「いいんだよ。なに作ったってここじゃ売れないんだからさ。それに下手に野菜なんか作る方が不自然だよ」
「そりゃそうかもしんねぇが」
「まぁ、あわよくば養蜂出来たらなって思わなくもないんだけどね」
「養蜂って、あれか。蜂飼い慣らして蜂蜜つくらせようってやつ」
「うん。まぁ、表向きはそんな感じで行こうって話だよ。本当に出来るとは思ってないよ。それを主目的だと周りに思い込ませればそれでいいんだしね」
「あぁ、そういうことか」
都合よく虫を操れる天職持ちでもいれば話は変わってくるんだろうけど、それを口にしても仕方ないと胸の内に留めた。元々の目的は薬草栽培であって、養蜂じゃないしね。
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