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065 盗賊さん、新たなダンジョンの情報を得る。
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「グレン、詳しい話はあの子達を帰してから聞かせてもらえるかな」
激しい感情を発露させるグレンの気を落ち着けるように、そう告げると彼は目をつぶって何度か深い息を吐いた。
「そうだな。今ここですべき話じゃねぇな」
「それより聞きたいことがあるんだけど、孤児院が所有してる土地って、今は手付かずなのかな」
「あぁ、放置されて荒れ放題だけどな」
「土地を手放してるわけじゃないんなら、一部土地を借りて薬草栽培の実験に使わせてもらえないかな。最初は敷地内に家庭菜園の規模を想定してたけど、それだけ広い土地が空いてるんなら使わない手はないしね」
「確かに、あんだけの土地があんなら頼むだけ頼んでみるか。ただそんなもん栽培してんのが知られて、部外者に狙われるかもしんねぇのが心配ではあるな。あっこには子供しかいねぇからな」
「一応、一般的な作物と混ぜて栽培して他人の目を欺くつもりではいるけど、それだけだと確かに心許ないかもね」
グレンと言う通り、薬草の栽培に成功したとしても1番の問題はそこだった。夜通し監視してくれる自律型のゴーレムでも用意出来ればと考えて、ふと思い付くものがあった。
「話は変わるけど、グレン。この辺りでゴーレムが出現するダンジョンはないかな」
「なんだ唐突に。あ、もしかして畑に砕いて撒く用に土の魔石が必要ってことか」
「それもあるけど、ちょっと試したいことがあってね。まぁ、上手くいく保証はないんだけどね」
「そうか。んで、ゴーレムの出るダンジョンだったか。それなら北西部にあるダンジョンがそうだな。街の水源にもなってるダンジョンなんだが、そこに出てくる魔物の大半がゴーレムと似たようなもんだな」
「ゴーレムと似た魔物?」
「あぁ、リビングポットって魔物で、土で出来た動物みてぇな姿なんだが、その背中が植木鉢みてぇになってて野菜なんかが生えてんだよ」
「それって野菜がドロップするっていうダンジョンのことなのかな」
「ん、知ってたのか」
「さっきアンジーに、野菜がドロップするダンジョンがあるって聞いたんだよ」
「そういうことか。あっこって基本的に野菜しかドロップしねぇし、土の魔石はほとんど期待出来ねぇと思うぜ。たまーにリビングポットを守ってる護衛みてぇなやつがいるんだが、そいつは土の魔石をドロップすることがあるらしいけどな」
グレンの話を聞いた限りだと、捕獲するならその魔物かな。ゴーレムと見た目が似てるんなら、孤児院の畑を守る目的で、その魔物を居座らせてもそこまで問題にされることも少ないだろうしね。
ボクがゴーレムをつくって操ってたのは、衛兵隊にも知られてるから誤魔化しも難しくはないはず。
ただ目的の魔物の出現率が高くないようだからプルのようにダンジョン外に連れ出すには、かなりの労力を要することになりそうだね。
「そのダンジョンの詳しい場所、教えてもらってもいいかな」
「いいぜ。ちょっと待っててくれるか。書くもん持ってくるからよ」
席を立ったグレンは、紙と筆記具を手にすぐ戻って来ると、簡略化した領都の地図を描き、ダンジョンのある位置にバツ印を付けた。
「ここだな。まぁ、この付近で迷っても流れてる水路を遡ってきゃ最終的に行き着くから迷うことはないと思うぜ」
「ありがとう。明日……は、難しいから明後日にでも行ってみるよ」
ボクとしては明日にでも行きたかったが、パパからサクラとアッシュのふたりを出迎えるように頼まれてるしね。
「なんか予定があんのか?」
「ボクより少し遅れてレッドグレイヴを出発した知人が到着するのが明日の予定なんだ。その出迎えだよ。ここにも顔を見せるかもしれないけど、いいかな」
「別にかまわねぇぜ。なんならここに泊まってもらってもな。部屋も余ってるしよ」
「助かるよ」
「いいってことよ。ヒイロにはなにかと助けられてるしな」
そこで一旦会話が途切れ、ただただボクらの話を聞くに徹していたアンジーが口を開いた。
「この辺りでひと息入れるのに、お茶しない?」
「あぁ、少し喉渇いちまったかもな。オレが淹れてくるよ」
そう言うなりグレンが席を立つ。それを追うようにアンジーも腰を上げた。
「手伝うよ。私が提案したんだからさ」
「悪ぃな」
仲睦まじい様子のふたりを見送り、椅子の背もたれに身体を預け、天井を見上げながら深く息を吐いた。
戻って来たふたりと共にお茶を飲み、静かなひとときを味わっていると、遠くで扉が開閉される音がした。子供達のどちらかが目を覚ましたらしい。
「ふたりはゆっくりしてて、ちょっと子供達の様子を見てくるよ」
テーブルを離れ、客間へと続く廊下を覗き込むとユーナちゃんが扉に手を掛けた状態で、落ち着きなく周囲をきょろきょろと見回していた。その表情は不安に染まっており、今にも泣き出しそうになっていた。
そんなユーナちゃんにボクは咄嗟に声を掛けた。
「ユーナちゃん、おはよう」
するとユーナちゃんは、ぱたぱたと駆けて来てボクに体当たりするように抱き着いて来た。
「よかった。ヒロくんいた」
「ボクはちゃんとここにいるよ」
ユーナちゃんと目線を合わせるようにと彼女を抱え上げると、不安に染まっていた表情を綻ばせて「うん」と元気な返事と共に笑顔を見せてくれた。
激しい感情を発露させるグレンの気を落ち着けるように、そう告げると彼は目をつぶって何度か深い息を吐いた。
「そうだな。今ここですべき話じゃねぇな」
「それより聞きたいことがあるんだけど、孤児院が所有してる土地って、今は手付かずなのかな」
「あぁ、放置されて荒れ放題だけどな」
「土地を手放してるわけじゃないんなら、一部土地を借りて薬草栽培の実験に使わせてもらえないかな。最初は敷地内に家庭菜園の規模を想定してたけど、それだけ広い土地が空いてるんなら使わない手はないしね」
「確かに、あんだけの土地があんなら頼むだけ頼んでみるか。ただそんなもん栽培してんのが知られて、部外者に狙われるかもしんねぇのが心配ではあるな。あっこには子供しかいねぇからな」
「一応、一般的な作物と混ぜて栽培して他人の目を欺くつもりではいるけど、それだけだと確かに心許ないかもね」
グレンと言う通り、薬草の栽培に成功したとしても1番の問題はそこだった。夜通し監視してくれる自律型のゴーレムでも用意出来ればと考えて、ふと思い付くものがあった。
「話は変わるけど、グレン。この辺りでゴーレムが出現するダンジョンはないかな」
「なんだ唐突に。あ、もしかして畑に砕いて撒く用に土の魔石が必要ってことか」
「それもあるけど、ちょっと試したいことがあってね。まぁ、上手くいく保証はないんだけどね」
「そうか。んで、ゴーレムの出るダンジョンだったか。それなら北西部にあるダンジョンがそうだな。街の水源にもなってるダンジョンなんだが、そこに出てくる魔物の大半がゴーレムと似たようなもんだな」
「ゴーレムと似た魔物?」
「あぁ、リビングポットって魔物で、土で出来た動物みてぇな姿なんだが、その背中が植木鉢みてぇになってて野菜なんかが生えてんだよ」
「それって野菜がドロップするっていうダンジョンのことなのかな」
「ん、知ってたのか」
「さっきアンジーに、野菜がドロップするダンジョンがあるって聞いたんだよ」
「そういうことか。あっこって基本的に野菜しかドロップしねぇし、土の魔石はほとんど期待出来ねぇと思うぜ。たまーにリビングポットを守ってる護衛みてぇなやつがいるんだが、そいつは土の魔石をドロップすることがあるらしいけどな」
グレンの話を聞いた限りだと、捕獲するならその魔物かな。ゴーレムと見た目が似てるんなら、孤児院の畑を守る目的で、その魔物を居座らせてもそこまで問題にされることも少ないだろうしね。
ボクがゴーレムをつくって操ってたのは、衛兵隊にも知られてるから誤魔化しも難しくはないはず。
ただ目的の魔物の出現率が高くないようだからプルのようにダンジョン外に連れ出すには、かなりの労力を要することになりそうだね。
「そのダンジョンの詳しい場所、教えてもらってもいいかな」
「いいぜ。ちょっと待っててくれるか。書くもん持ってくるからよ」
席を立ったグレンは、紙と筆記具を手にすぐ戻って来ると、簡略化した領都の地図を描き、ダンジョンのある位置にバツ印を付けた。
「ここだな。まぁ、この付近で迷っても流れてる水路を遡ってきゃ最終的に行き着くから迷うことはないと思うぜ」
「ありがとう。明日……は、難しいから明後日にでも行ってみるよ」
ボクとしては明日にでも行きたかったが、パパからサクラとアッシュのふたりを出迎えるように頼まれてるしね。
「なんか予定があんのか?」
「ボクより少し遅れてレッドグレイヴを出発した知人が到着するのが明日の予定なんだ。その出迎えだよ。ここにも顔を見せるかもしれないけど、いいかな」
「別にかまわねぇぜ。なんならここに泊まってもらってもな。部屋も余ってるしよ」
「助かるよ」
「いいってことよ。ヒイロにはなにかと助けられてるしな」
そこで一旦会話が途切れ、ただただボクらの話を聞くに徹していたアンジーが口を開いた。
「この辺りでひと息入れるのに、お茶しない?」
「あぁ、少し喉渇いちまったかもな。オレが淹れてくるよ」
そう言うなりグレンが席を立つ。それを追うようにアンジーも腰を上げた。
「手伝うよ。私が提案したんだからさ」
「悪ぃな」
仲睦まじい様子のふたりを見送り、椅子の背もたれに身体を預け、天井を見上げながら深く息を吐いた。
戻って来たふたりと共にお茶を飲み、静かなひとときを味わっていると、遠くで扉が開閉される音がした。子供達のどちらかが目を覚ましたらしい。
「ふたりはゆっくりしてて、ちょっと子供達の様子を見てくるよ」
テーブルを離れ、客間へと続く廊下を覗き込むとユーナちゃんが扉に手を掛けた状態で、落ち着きなく周囲をきょろきょろと見回していた。その表情は不安に染まっており、今にも泣き出しそうになっていた。
そんなユーナちゃんにボクは咄嗟に声を掛けた。
「ユーナちゃん、おはよう」
するとユーナちゃんは、ぱたぱたと駆けて来てボクに体当たりするように抱き着いて来た。
「よかった。ヒロくんいた」
「ボクはちゃんとここにいるよ」
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