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064 盗賊さん、孤児院の現状を知る。
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食事の後片付けが終わると、おいしい食事で満腹になった子供達はうつらうつらとし始めた。
「お昼寝する?」
「うん」
ユーナちゃんはそう答えたけれど、ユーリくんは目を瞬かせながら眠気に抗おうとしていた。
「客間で寝かせてくるね」
ユーナちゃんを抱え上げ、以前ラビィを介抱した部屋に運んでベッドに寝かしつけた。ホールに戻るとユーリくんはテーブルに突っ伏して眠っていた。するとグレンが「オレが運ぶ」と申し出てユーリくんを空き部屋まで運んで行った。
アンジーとふたりきりになり、ボクは彼女に質問を投げかけた。
「孤児院、どんな様子だったのかな。畑の世話したりしてるからある程度は自給自足してるみたいだけど」
「あそこの畑は、ほとんど気休めみたいな規模だよ。あの家って大地主だったんだけど、今じゃ小規模な畑と水田をひとつずつしか使ってないしね」
「人手不足で休耕地になってるってこと?」
「ううん、違うよ。私達が生まれる前くらいから穀物や野菜ってダンジョンで採れるようになったからね。栽培してもまともに値がつかないんだ」
「それだと農家は大打撃だろうね」
「城壁外の村なんかだと物々交換でどうにかなってるみたいだけど、ここだとどうにもならないみたい。ただダンジョンでは採れないお米なんかは、3年前まで売れなくはなかったんだけど、王都から来た学者さんに、お米はとある病気の原因だって取り囃されたことがあってからは、買い手がつかなくなっちゃったんだよね。その煽りを1番に受けたのが、孤児院を管理してる家ね。あそこって多くの水田を抱えてたからさ」
「その病気って?」
「うーん、詳細まではよく覚えてないんだよね。ただ学者さんの言った症状が出てた患者さんが、昔から少なからず出てたってのもあって、多くのひとが信じちゃったんだよね。王都から来た高明な学者さんの言うことだからってさ。しかもその病気の初期症状が出てた人達が、学者さんが用意した食事改善案に従ったおかげか体調が良くなったらしくって、結果的にそれが事実として広まっちゃったみたい」
「売れなくなったっていうお米って、毒ではないんだよね?」
「毒なんかじゃないよ。ヒイロもうちの食堂で食べたことあるしさ。皿に盛られた白い粒の山覚えてないかな。あれがそうだよ」
「もう売り物としてつくられてないのかと思ってたよ」
「ううん。孤児院で少しだけだけどつくられてるよ。私とお父ちゃんも毎年田植えの手伝いに行ってるしさ。その手伝いの代わりとして収穫されたお米を一部うちに卸してもらってるんだ。うちのメニューって、お米とセットみたいなところがあってさ。どうしても確保したいからって、お父ちゃんが直に頼みに行ったんだよね。お客さんの中にも、病気になるかもしれないって思ってても、たまにお米食べたいって注文する人いるしね」
「じゃあ、アンジーって孤児院の子達とは前から面識あったの」
「うん、そうだよ」
「あぁ、だからユーナちゃん達を任せてもらえたんだね」
「あの子と顔を合わせたのは初めてだけどね」
「ボクらと一緒の馬車でここに来たばかりだしね。しかし、助かったよ。アンジーがグレンに付き添ってくれて」
「もしかして私と一緒に行くようにって提案したのヒイロ?」
「そう、なるのかな」
ボクの返答を聞いたアンジーは、なんとも言えない複雑そうな顔をした。
「ま、いっか。あいつに頼られたことには違いないし」
「余計なことしちゃったかな」
「そんなことないよ。ヒイロに言われなきゃ、グレンのやつ私に頼ろうなんて考えなかっただろうしさ」
「オレがどうかしたのか?」
急に割り込んで来たグレンの声に、はにかんで頬をほんのりと赤くしたアンジーの表情が一瞬にして強張った。
「別に」
少し刺々しい声音で、アンジーはグレンの疑問を一蹴した。
「そうか」
「そうよ」
しばしの沈黙の中で、グレンは椅子に腰を下ろした。ボクはふたりの間に漂う空気を入れ替えるために、別の話題を提供することにした。
「グレン、ユーリくんは?」
「完全に寝入っちまってるぜ。あの年齢だとやっぱ錬金術を教えるのは難しいんじゃねぇか」
「魔力循環で体力が底上げされたなら変わってくると思うよ。だけど今は体力的に仕方ない面もあるんじゃないかな。孤児院の置かれている状況を聞く限り、食事も充分に摂れてるか微妙なところだしね」
「余程腹減ってやがったのか、無言でガツガツ食ってたしな、あのガキんちょ」
「他の子も似たり寄ったりな感じなんだろうね」
「まぁな。畑仕事してるから余計にかもしんねぇが」
「そういうことならさ、グレン。あの子達を送って行くときに、あの肉持ってってくれないかな。まだ40㎏くらい余裕であるし、魔力循環の訓練も兼ねてさ」
「そりゃ別に構わねぇがよ。ヒイロは送ってやんねぇのか」
「グレンも知ってるだろう。ボクが嫌厭されてるってさ」
そう答えるとグレンは苦々しい顔を浮かべた。
「それなんだけどよ、気にすることねぇぜ。あっこにヒイロを嫌厭してやがった当の本人はいねぇからな」
忌々しいとばかりにグレンは、そう吐き捨てた。
「お昼寝する?」
「うん」
ユーナちゃんはそう答えたけれど、ユーリくんは目を瞬かせながら眠気に抗おうとしていた。
「客間で寝かせてくるね」
ユーナちゃんを抱え上げ、以前ラビィを介抱した部屋に運んでベッドに寝かしつけた。ホールに戻るとユーリくんはテーブルに突っ伏して眠っていた。するとグレンが「オレが運ぶ」と申し出てユーリくんを空き部屋まで運んで行った。
アンジーとふたりきりになり、ボクは彼女に質問を投げかけた。
「孤児院、どんな様子だったのかな。畑の世話したりしてるからある程度は自給自足してるみたいだけど」
「あそこの畑は、ほとんど気休めみたいな規模だよ。あの家って大地主だったんだけど、今じゃ小規模な畑と水田をひとつずつしか使ってないしね」
「人手不足で休耕地になってるってこと?」
「ううん、違うよ。私達が生まれる前くらいから穀物や野菜ってダンジョンで採れるようになったからね。栽培してもまともに値がつかないんだ」
「それだと農家は大打撃だろうね」
「城壁外の村なんかだと物々交換でどうにかなってるみたいだけど、ここだとどうにもならないみたい。ただダンジョンでは採れないお米なんかは、3年前まで売れなくはなかったんだけど、王都から来た学者さんに、お米はとある病気の原因だって取り囃されたことがあってからは、買い手がつかなくなっちゃったんだよね。その煽りを1番に受けたのが、孤児院を管理してる家ね。あそこって多くの水田を抱えてたからさ」
「その病気って?」
「うーん、詳細まではよく覚えてないんだよね。ただ学者さんの言った症状が出てた患者さんが、昔から少なからず出てたってのもあって、多くのひとが信じちゃったんだよね。王都から来た高明な学者さんの言うことだからってさ。しかもその病気の初期症状が出てた人達が、学者さんが用意した食事改善案に従ったおかげか体調が良くなったらしくって、結果的にそれが事実として広まっちゃったみたい」
「売れなくなったっていうお米って、毒ではないんだよね?」
「毒なんかじゃないよ。ヒイロもうちの食堂で食べたことあるしさ。皿に盛られた白い粒の山覚えてないかな。あれがそうだよ」
「もう売り物としてつくられてないのかと思ってたよ」
「ううん。孤児院で少しだけだけどつくられてるよ。私とお父ちゃんも毎年田植えの手伝いに行ってるしさ。その手伝いの代わりとして収穫されたお米を一部うちに卸してもらってるんだ。うちのメニューって、お米とセットみたいなところがあってさ。どうしても確保したいからって、お父ちゃんが直に頼みに行ったんだよね。お客さんの中にも、病気になるかもしれないって思ってても、たまにお米食べたいって注文する人いるしね」
「じゃあ、アンジーって孤児院の子達とは前から面識あったの」
「うん、そうだよ」
「あぁ、だからユーナちゃん達を任せてもらえたんだね」
「あの子と顔を合わせたのは初めてだけどね」
「ボクらと一緒の馬車でここに来たばかりだしね。しかし、助かったよ。アンジーがグレンに付き添ってくれて」
「もしかして私と一緒に行くようにって提案したのヒイロ?」
「そう、なるのかな」
ボクの返答を聞いたアンジーは、なんとも言えない複雑そうな顔をした。
「ま、いっか。あいつに頼られたことには違いないし」
「余計なことしちゃったかな」
「そんなことないよ。ヒイロに言われなきゃ、グレンのやつ私に頼ろうなんて考えなかっただろうしさ」
「オレがどうかしたのか?」
急に割り込んで来たグレンの声に、はにかんで頬をほんのりと赤くしたアンジーの表情が一瞬にして強張った。
「別に」
少し刺々しい声音で、アンジーはグレンの疑問を一蹴した。
「そうか」
「そうよ」
しばしの沈黙の中で、グレンは椅子に腰を下ろした。ボクはふたりの間に漂う空気を入れ替えるために、別の話題を提供することにした。
「グレン、ユーリくんは?」
「完全に寝入っちまってるぜ。あの年齢だとやっぱ錬金術を教えるのは難しいんじゃねぇか」
「魔力循環で体力が底上げされたなら変わってくると思うよ。だけど今は体力的に仕方ない面もあるんじゃないかな。孤児院の置かれている状況を聞く限り、食事も充分に摂れてるか微妙なところだしね」
「余程腹減ってやがったのか、無言でガツガツ食ってたしな、あのガキんちょ」
「他の子も似たり寄ったりな感じなんだろうね」
「まぁな。畑仕事してるから余計にかもしんねぇが」
「そういうことならさ、グレン。あの子達を送って行くときに、あの肉持ってってくれないかな。まだ40㎏くらい余裕であるし、魔力循環の訓練も兼ねてさ」
「そりゃ別に構わねぇがよ。ヒイロは送ってやんねぇのか」
「グレンも知ってるだろう。ボクが嫌厭されてるってさ」
そう答えるとグレンは苦々しい顔を浮かべた。
「それなんだけどよ、気にすることねぇぜ。あっこにヒイロを嫌厭してやがった当の本人はいねぇからな」
忌々しいとばかりにグレンは、そう吐き捨てた。
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