61 / 118
061 盗賊さん、先輩冒険者に教えを乞う。
しおりを挟む
プルにはウエストポーチに入ってもらい、南門を目指す。途中、ウィードウルフと遭遇したけれど[パラライズパウダー](襲撃者撃退時に判明した効果から勝手に名付けた)で麻痺させ、無視して先を急いだ。素材として狩ってもよかったが、栽培実験に使う魔獣の血液には、血中魔素濃度が比較的低い草食魔獣の方が適しているので、今のところ使い所がなかったというのも大きく、狩る必要性が感じられなかった。
何事もなく南門にたどり着いて身分証を提示する。確認してくれた衛兵は、ボクが城門外へと出るときにチェックしてくれた人物と同じだったらしく、手ぶらのボクを見て「もう少し粘ればフレイルラビットの1羽くらいは狩れたんじゃないか?」などと言っていた。
どうやら狩りに出て、なにも狩れずに戻って来たと思われてしまったらしい。[アイテムキューブ]のことを明かすわけにもいかないので、苦笑しながら適当に言い訳することにした。
「いやぁ、グラスボアを狙ってたんですけど、ウィードウルフが寄って来てそれどころじゃなくなっちゃったんですよ」
「ひとりでそんな大物狩る気だったのか。あいつら草食ってるときは、うすっとろいが下手な攻撃して仕留めきれないと、目の色変えてしつこく追って来るからな。本気で走られると人間の足で逃げ切れる速度じゃない上に、あの巨体だから追い回されたらひとたまりもないぞ」
「あはは、肝に銘じておきます」
困ったときにグレンがたまにやる仕草を真似て、後ろ頭を掻きながらそう言ってから、ボクは南門を後にした。
しばらく歩いていると12の鐘が鳴る。どうやら時間的に丁度よかったようだ。そのまま寄り道することなく、錬金術ギルドまで帰ろうと思ったけれど、中心街に差し掛かったとき、冒険者ギルドがごった返しているのが目に入った。昼時だというのに混んでいて違和感を覚えたボクは、冒険者ギルドに少し立ち寄ることにした。ギルド内はざわざわとしており、なにかあったらしいのは間違いないようだった。
ボクは近くにいた適当な人物に声をかけ、なにがあったのかを訊ねた。
「こんな時間にひと集まってますけど、なにがあったか知ってます?」
「あ、知らねぇのか。昨日の晩にスライムダンジョンで新しい階層が発見されたんだとよ。しかも異常な量のスライムでダンジョンが溢れ返ってて集団暴走を起こしかけてたらしいぜ」
「大丈夫だったんですか、それ」
なにも知らないふりをして訊ねる。
「なんでも昨日破格の報酬で緊急依頼が出されたらしくってな。ほとんど狩り尽くされたらしいぜ。オレもその場に居りゃ、稼がせてもらえたかも知れねぇのによ。失敗したぜ」
「それって新人でも参加出来ましたかね」
「そりゃ難しいだろうな。条件がランク3以上だったって話だったからな」
未だにランクのことを知らなかったボクは、この際に聞くことにした。
「そのランクっていうのはどうやって上げるんです」
「お前、知らねぇのか」
「いやぁ、恥ずかしながらつい最近冒険者になったばかりでして」
苦笑しながら自分の冒険者証を取り出して、先輩冒険者に見せる。
「星なしかぁ、んじゃ仕方ねぇかもな」
「星なし?」
「冒険者証の下のとこに星型の印があんだろ。ランクが上がると、その星に色が付けられんだよ」
示された箇所に目を向けるとボクの冒険者証下部に、星印の窪みが7つ並んでいた。
「ほれ、これがオレの冒険者証な」
そう言って差し出された先輩冒険者の冒険者証下部に並んだ星は、左から順に色が入っており、赤・橙・黄・緑となっていた。
「これはランク4ってことですか」
「そういうことだな。ギルドの依頼受けねぇでダンジョンに潜ってばっかだとランクは上がんねぇから注意な。まぁ、ダンジョン産のアイテムを買い取りに出しまくってランクを上げるって手もなくはねぇが、アイテムドロップ率を考えると厳しいな」
「そのランクって上がるといいことあるんですか」
「あぁ、ダンジョン探索申請するときに深層まで潜る許可が出やすいだとか。あとは高額の外部依頼を優先的に受けられるようになるな」
「そうなんですね。それでなんですけど、アイテムの買い取りってどこでやってるんですかね」
「そんなことも知れねぇで冒険者になったのか。もしかして憧れだけでなった口か?」
「はぁ、そんなところですね」
どことなく後輩っぽさを感じさせる衛兵のミンティオがやっていたように、へらりとした曖昧な表情で肯定すると先輩冒険者は、あきれたように頭をふった。
「まぁ、そいつを否定はしねぇがよ。少しは下調べくらいした方がいいぜ。いつか痛い目に遭いたくなきゃな」
「はい、今後はそうします」
「返事だけは一丁前だな。が、悪いことじゃねぇ。んで、アイテムの買い取り窓口の場所だったな。それならギルド裏手にある煉瓦造りの倉庫みてぇな建物がそうだ。今の時間なら空いてんじゃねぇかな。15の鐘以降は混み出すからよ、その辺考えて行くといいぜ」
「わかりました。説明、ありがとうございます」
「おうよ。なんか困ったことあったら、また聞いてくれや」
「そのときはよろしくお願いします……先輩」
一応先刻見せてもらった冒険者証で名前はわかっていたが、名乗られてはいないので彼の名を呼ばすに、ボクは先輩と呼ぶことでお茶を濁した。するとその様子から察したらしい先輩冒険者は、名乗ってくれた。
「ん、あぁ、オレはビル・バンドッグってんだ。よろしくな」
差し出された皮の分厚くなった厳つい手を、ボクは握り返しながらなのを名乗った。
「ボクはヒイロです。ビル先輩」
何事もなく南門にたどり着いて身分証を提示する。確認してくれた衛兵は、ボクが城門外へと出るときにチェックしてくれた人物と同じだったらしく、手ぶらのボクを見て「もう少し粘ればフレイルラビットの1羽くらいは狩れたんじゃないか?」などと言っていた。
どうやら狩りに出て、なにも狩れずに戻って来たと思われてしまったらしい。[アイテムキューブ]のことを明かすわけにもいかないので、苦笑しながら適当に言い訳することにした。
「いやぁ、グラスボアを狙ってたんですけど、ウィードウルフが寄って来てそれどころじゃなくなっちゃったんですよ」
「ひとりでそんな大物狩る気だったのか。あいつら草食ってるときは、うすっとろいが下手な攻撃して仕留めきれないと、目の色変えてしつこく追って来るからな。本気で走られると人間の足で逃げ切れる速度じゃない上に、あの巨体だから追い回されたらひとたまりもないぞ」
「あはは、肝に銘じておきます」
困ったときにグレンがたまにやる仕草を真似て、後ろ頭を掻きながらそう言ってから、ボクは南門を後にした。
しばらく歩いていると12の鐘が鳴る。どうやら時間的に丁度よかったようだ。そのまま寄り道することなく、錬金術ギルドまで帰ろうと思ったけれど、中心街に差し掛かったとき、冒険者ギルドがごった返しているのが目に入った。昼時だというのに混んでいて違和感を覚えたボクは、冒険者ギルドに少し立ち寄ることにした。ギルド内はざわざわとしており、なにかあったらしいのは間違いないようだった。
ボクは近くにいた適当な人物に声をかけ、なにがあったのかを訊ねた。
「こんな時間にひと集まってますけど、なにがあったか知ってます?」
「あ、知らねぇのか。昨日の晩にスライムダンジョンで新しい階層が発見されたんだとよ。しかも異常な量のスライムでダンジョンが溢れ返ってて集団暴走を起こしかけてたらしいぜ」
「大丈夫だったんですか、それ」
なにも知らないふりをして訊ねる。
「なんでも昨日破格の報酬で緊急依頼が出されたらしくってな。ほとんど狩り尽くされたらしいぜ。オレもその場に居りゃ、稼がせてもらえたかも知れねぇのによ。失敗したぜ」
「それって新人でも参加出来ましたかね」
「そりゃ難しいだろうな。条件がランク3以上だったって話だったからな」
未だにランクのことを知らなかったボクは、この際に聞くことにした。
「そのランクっていうのはどうやって上げるんです」
「お前、知らねぇのか」
「いやぁ、恥ずかしながらつい最近冒険者になったばかりでして」
苦笑しながら自分の冒険者証を取り出して、先輩冒険者に見せる。
「星なしかぁ、んじゃ仕方ねぇかもな」
「星なし?」
「冒険者証の下のとこに星型の印があんだろ。ランクが上がると、その星に色が付けられんだよ」
示された箇所に目を向けるとボクの冒険者証下部に、星印の窪みが7つ並んでいた。
「ほれ、これがオレの冒険者証な」
そう言って差し出された先輩冒険者の冒険者証下部に並んだ星は、左から順に色が入っており、赤・橙・黄・緑となっていた。
「これはランク4ってことですか」
「そういうことだな。ギルドの依頼受けねぇでダンジョンに潜ってばっかだとランクは上がんねぇから注意な。まぁ、ダンジョン産のアイテムを買い取りに出しまくってランクを上げるって手もなくはねぇが、アイテムドロップ率を考えると厳しいな」
「そのランクって上がるといいことあるんですか」
「あぁ、ダンジョン探索申請するときに深層まで潜る許可が出やすいだとか。あとは高額の外部依頼を優先的に受けられるようになるな」
「そうなんですね。それでなんですけど、アイテムの買い取りってどこでやってるんですかね」
「そんなことも知れねぇで冒険者になったのか。もしかして憧れだけでなった口か?」
「はぁ、そんなところですね」
どことなく後輩っぽさを感じさせる衛兵のミンティオがやっていたように、へらりとした曖昧な表情で肯定すると先輩冒険者は、あきれたように頭をふった。
「まぁ、そいつを否定はしねぇがよ。少しは下調べくらいした方がいいぜ。いつか痛い目に遭いたくなきゃな」
「はい、今後はそうします」
「返事だけは一丁前だな。が、悪いことじゃねぇ。んで、アイテムの買い取り窓口の場所だったな。それならギルド裏手にある煉瓦造りの倉庫みてぇな建物がそうだ。今の時間なら空いてんじゃねぇかな。15の鐘以降は混み出すからよ、その辺考えて行くといいぜ」
「わかりました。説明、ありがとうございます」
「おうよ。なんか困ったことあったら、また聞いてくれや」
「そのときはよろしくお願いします……先輩」
一応先刻見せてもらった冒険者証で名前はわかっていたが、名乗られてはいないので彼の名を呼ばすに、ボクは先輩と呼ぶことでお茶を濁した。するとその様子から察したらしい先輩冒険者は、名乗ってくれた。
「ん、あぁ、オレはビル・バンドッグってんだ。よろしくな」
差し出された皮の分厚くなった厳つい手を、ボクは握り返しながらなのを名乗った。
「ボクはヒイロです。ビル先輩」
0
お気に入りに追加
142
あなたにおすすめの小説

母親に家を追い出されたので、勝手に生きる!!(泣きついて来ても、助けてやらない)
いくみ
ファンタジー
実母に家を追い出された。
全く親父の奴!勝手に消えやがって!
親父が帰ってこなくなったから、実母が再婚したが……。その再婚相手は働きもせずに好き勝手する男だった。
俺は消えた親父から母と頼むと、言われて。
母を守ったつもりだったが……出て行けと言われた……。
なんだこれ!俺よりもその男とできた子供の味方なんだな?
なら、出ていくよ!
俺が居なくても食って行けるなら勝手にしろよ!
これは、のんびり気ままに冒険をする男の話です。
カクヨム様にて先行掲載中です。
不定期更新です。

【完結】あなたに知られたくなかった
ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。
5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。
そんなセレナに起きた奇跡とは?
大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです
飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。
だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。
勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し!
そんなお話です。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

少し冷めた村人少年の冒険記
mizuno sei
ファンタジー
辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。
トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。
優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。
大国 鹿児
ファンタジー
輪廻転生のシステムのバグで輪廻の輪から外れちゃった!
でも神様から便利なチートグッズ(笑)の詰め合わせをもらって、
他の星に転生しました!特に使命も無いなら自由気ままに生きてみよう!
主人公はチート無双するのか!? それともハーレムか!?
はたまた、壮大なファンタジーが始まるのか!?
いえ、実は単なる趣味全開の主人公です。
色々な秘密がだんだん明らかになりますので、ゆっくりとお楽しみください。
*** 作品について ***
この作品は、真面目なチート物ではありません。
コメディーやギャグ要素やネタの多い作品となっております
重厚な世界観や派手な戦闘描写、ざまあ展開などをお求めの方は、
この作品をスルーして下さい。
*カクヨム様,小説家になろう様でも、別PNで先行して投稿しております。
[鑑定]スキルしかない俺を追放したのはいいが、貴様らにはもう関わるのはイヤだから、さがさないでくれ!
どら焼き
ファンタジー
ついに!第5章突入!
舐めた奴らに、真実が牙を剥く!
何も説明無く、いきなり異世界転移!らしいのだが、この王冠つけたオッサン何を言っているのだ?
しかも、ステータスが文字化けしていて、スキルも「鑑定??」だけって酷くない?
訳のわからない言葉?を発声している王女?と、勇者らしい同級生達がオレを城から捨てやがったので、
なんとか、苦労して宿代とパン代を稼ぐ主人公カザト!
そして…わかってくる、この異世界の異常性。
出会いを重ねて、なんとか元の世界に戻る方法を切り開いて行く物語。
主人公の直接復讐する要素は、あまりありません。
相手方の、あまりにも酷い自堕落さから出てくる、ざまぁ要素は、少しづつ出てくる予定です。
ハーレム要素は、不明とします。
復讐での強制ハーレム要素は、無しの予定です。
追記
2023/07/21 表紙絵を戦闘モードになったあるヤツの参考絵にしました。
8月近くでなにが、変形するのかわかる予定です。
2024/02/23
アルファポリスオンリーを解除しました。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる