天職はドロップ率300%の盗賊、錬金術師を騙る。

朱本来未

文字の大きさ
上 下
60 / 118

060 盗賊さん、解体する。

しおりを挟む
 プルが狩ったグラスボアの鮮度が落ちないうちに、ボクは【奪取】で血液だけを分離して手早く[アイテムキューブ]に格納してから、他の部位を別途まとめて別の[アイテムキューブ]に格納した。
 さっきのグラスボアの大きさなら体重は余裕で6tくらいはあるだろうし、あの手の大型魔獣なら体重の10%くらいが血液だとレッドグレイヴの魔獣解体担当者に聞いたから、採取出来た血液量は大体600kgくらいかな。
 薬草の栽培実験に使用するなら、充分な量を確保出来た。それに「アイテムキューブ]に格納したから複製も可能なはず。それを確かめるように[アイテムキューブ]に魔力を流し込むとぼたぼたと赤い液体が滴り始めた。ただ水を格納した[アイテムキューブ]とは比較にならないほどに生成量は少なく、必要な魔力量は多かった。この様子だと複製するのに消費される魔素の量も水とは比べ物にならないと考えて間違いはなさそうだ。
 ボクが雑な検証をしていると、プルがガサガサと音を立てながら草を掻き分けてボクの足元にまで戻って来ていた。ボクは手の中の[アイテムキューブ]をウエストポーチにしまい込んで、足元のプルを抱え上げる。
「ありがとう、プル。プルのおかげで狩りはすぐに終わったよ」
 体表面をなでながら成果を褒めてあげると、プルは嬉しそうにぷるぷると身体をふるわせた。
「まだお昼までは時間もあるし、思いっきり遊んで来てもいいよ」
 プルは「本当?」とでも言いたげにボクを見上げるような仕草を取っていたので、頷いてあげると喜び勇んで草原の中に飛び込んで行く。その姿を前にボクは付け加えるように注意事項を伝えた。
「ボク以外の人間には見つからないようにするんだよ」
 その声はきちんと届いたらしく、プルはボクに見えるように草むらから飛び上がって、身体をぽよぽよとさせ、なにかを訴える動作をしたかと思うと、再び草むらの中に姿を隠してしまった。
 ガサガサと草原を掻き分ける音が遠去かって行く。プルとは魔力的に繋がっているので、迷子になることはないはず。
 プルが満足して戻って来るまでの間、ボクはどう暇を潰したものかな。狩りはプルが一瞬で終わらせてしまったので、やることがなくなっちゃったんだよね。狩れたのも大物だったし、追加で獲物を得る必要はないしね。
 だったらグラスボアを解体するのもありかな。お肉は4t以上はあるだろうから孤児院やアンジーの働いてる食堂にお裾分けしたいしね。とてもじゃないけど、ボクとグレンのふたりだけでは消費しきれないもんね。
 問題は解体中のグラスボアの臭いを嗅ぎ付けて、彼らを捕食しているらしいウィードウルフが寄って来ることくらい。しばしどう対処したものかと考え、ボクは強引な解決方法を取ることにした。
 魔力をボクを中心に10m四方の地中深くにまで流し込む。そこからは錬金術ギルドの地下空間をつくったときと同じ要領で、簡易の解体部屋を地下に用意した。入口は地下空間の角になる位置に空け、再度【奪取】と【施錠】を用いて壁際に階段を設置した。階段を半ばまで降てから、他人に発見されて困らないように入口は小型動物の巣穴として偽装した。穴の大きさからプルも出入り可能だろうし、ひと通りの下準備は整ったと思っていいかな。
 解体部屋の床に降り立ったボクは、ウエストポーチからグラスボアが格納された「アイテムキューブ]を取り出した。それに魔力を流し込んでみたけれど、複製が出現する様子はない。やはりというべきか複製するのに必要な魔力も魔素も全然足りていないようだった。
 血液を複製したときの推測が概ね間違っていないと確認が取れたので[アイテムキューブ]を【解錠】して、格納されていたグラスボアを床の上に出現させた。
 体長6m以上はあるグラスボアの巨体を前に、ボクは空気を【施錠】して解体道具を創り出した。血液は全て【奪取】で抜いているので、そこまで汚れないはず。多少汚れたとしても、解体後に汚れだけ【奪取】してやればいいかとそのまま進めることにした。

 魔力を帯びて頑丈な分厚い皮膚を切り開き、手始めに汚物の詰まった内臓などを【奪取】で取り除き[アイテムキューブ]に格納するなどして悪臭を封じ込めた。その後は順調に解体は進み、蓄積魔力量の多い内臓を選り分け、【奪取】で皮膚と脂肪を分離してから、枝肉を部位ごとに丁寧に切り分けていった。最後に残った骨は、保存し易い形状に【奪取】で変化させて一塊にした。
 単純な手作業だけでやっていたらかなりの時間を要したであろう解体作業は、スキルを活用したことで、あっという間に終わった。額に浮かぶ汗を手の甲で拭ってから、全身の汚れを【奪取】で除去したボクは、解体作業に使用した道具類を【解錠】して空気に戻した。

 解体を終えて一休みしていると、大自然を満喫したらしいプルが近付いて来るのを感じ取ったので、ボクは解体部屋から地上に出る。そして解体部屋の中に汚物と消化器官などが詰まった[アイテムキューブ]を放り込み、解体部屋と一緒に【解錠】して埋め立てた。痕跡を入念に消してからボクは、ご機嫌なプルと合流した。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです

飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。 だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。 勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し! そんなお話です。

【完結】あなたに知られたくなかった

ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。 5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。 そんなセレナに起きた奇跡とは?

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る

マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息 三歳で婚約破棄され そのショックで前世の記憶が蘇る 前世でも貧乏だったのなんの問題なし なによりも魔法の世界 ワクワクが止まらない三歳児の 波瀾万丈

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

[鑑定]スキルしかない俺を追放したのはいいが、貴様らにはもう関わるのはイヤだから、さがさないでくれ!

どら焼き
ファンタジー
ついに!第5章突入! 舐めた奴らに、真実が牙を剥く! 何も説明無く、いきなり異世界転移!らしいのだが、この王冠つけたオッサン何を言っているのだ? しかも、ステータスが文字化けしていて、スキルも「鑑定??」だけって酷くない? 訳のわからない言葉?を発声している王女?と、勇者らしい同級生達がオレを城から捨てやがったので、 なんとか、苦労して宿代とパン代を稼ぐ主人公カザト! そして…わかってくる、この異世界の異常性。 出会いを重ねて、なんとか元の世界に戻る方法を切り開いて行く物語。 主人公の直接復讐する要素は、あまりありません。 相手方の、あまりにも酷い自堕落さから出てくる、ざまぁ要素は、少しづつ出てくる予定です。 ハーレム要素は、不明とします。 復讐での強制ハーレム要素は、無しの予定です。 追記  2023/07/21 表紙絵を戦闘モードになったあるヤツの参考絵にしました。 8月近くでなにが、変形するのかわかる予定です。 2024/02/23 アルファポリスオンリーを解除しました。

システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。

大国 鹿児
ファンタジー
輪廻転生のシステムのバグで輪廻の輪から外れちゃった! でも神様から便利なチートグッズ(笑)の詰め合わせをもらって、 他の星に転生しました!特に使命も無いなら自由気ままに生きてみよう! 主人公はチート無双するのか!? それともハーレムか!? はたまた、壮大なファンタジーが始まるのか!? いえ、実は単なる趣味全開の主人公です。 色々な秘密がだんだん明らかになりますので、ゆっくりとお楽しみください。 *** 作品について *** この作品は、真面目なチート物ではありません。 コメディーやギャグ要素やネタの多い作品となっております 重厚な世界観や派手な戦闘描写、ざまあ展開などをお求めの方は、 この作品をスルーして下さい。 *カクヨム様,小説家になろう様でも、別PNで先行して投稿しております。

誰一人帰らない『奈落』に落とされたおっさん、うっかり暗号を解読したら、未知の遺物の使い手になりました!

ミポリオン
ファンタジー
旧題:巻き込まれ召喚されたおっさん、無能で誰一人帰らない場所に追放されるも、超古代文明の暗号を解いて力を手にいれ、楽しく生きていく  高校生達が勇者として召喚される中、1人のただのサラリーマンのおっさんである福菅健吾が巻き込まれて異世界に召喚された。  高校生達は強力なステータスとスキルを獲得したが、おっさんは一般人未満のステータスしかない上に、異世界人の誰もが持っている言語理解しかなかったため、転移装置で誰一人帰ってこない『奈落』に追放されてしまう。  しかし、そこに刻まれた見たこともない文字を、健吾には全て理解する事ができ、強大な超古代文明のアイテムを手に入れる。  召喚者達は気づかなかった。健吾以外の高校生達の通常スキル欄に言語スキルがあり、健吾だけは固有スキルの欄に言語スキルがあった事を。そしてそのスキルが恐るべき力を秘めていることを。 ※カクヨムでも連載しています

処理中です...