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059 盗賊さん、魔獣狩りに行く。
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パパとの長いやり取りで知りたいことは知れたので、今日はこのくらいで切り上げることにした。
『ありがとう、パパ。ためになったよ』
『それはなによりだね』
『じゃあ、今日はこの辺で。おやすみなさい』
『ちょっと待ってもらえるかな』
要件は済んだからと[ジェミニタブレット]を片付けようとしていたら、慌てたように返信があった。
『なんでしょうか』
『ヒイロに知らせておかないといけないことがひとつあってね』
『知らせておくことですか?』
『昨日付でサクラさんとアッシュくんがそちらに向かったんだ。到着は明後日くらいになるだろうから、彼らを出迎えてくれないかな』
想定外の知らせに困惑する。
『なぜあのふたりがこちらへ? レッドグレイヴでの業務はどうされたのです』
『彼らの仕事は基本的にダンジョンの攻略だからね。その攻略対象がある場所が、レッドグレイヴからバーガンディに変わるだけだよ。きっとヒイロの手助けになってくれるだろうと思ってね。ヒイロがダンジョンを探索するなら、あのふたりは実力的にパティーメンバーとして適任なんじゃないかな。足手纏いになることもないだろうしね』
『確かにそうかも知れませんが』
『まぁ、この異動は彼らの希望によるものだから、一緒に行動するかどうかは、そちらで話し合ってくれるかな』
『わかりました』
あのふたりと一緒に行動するならユニークスキルのことを明かすかどうか迷うところだね。彼らはボクの天職が盗賊になったってことは知っているだろうし、問題ないような気もするけれど、ユニークスキルの効果量を考えると微妙なところ。その辺りは彼らを出迎えてから決めようと、今は結論を先延ばしにすることにした。
パパからの就寝前の挨拶が返信されたので[ジェミニタブレット]をウエストポーチに戻す。それまで興味深げに盤面に浮かび上がる文字を追っていたプルは、もう終わりなのといった様子で、ぺちゃんと身体を平にしていた。
「ほら、もう寝るよ」
作業机の上で水溜りのようになったプルを掬い上げて抱えると、プルはいつものまるまるとした形に戻った。そのままベッドにまで運び、まだ入浴時の熱が残って暖かいプルを抱き枕にボクは眠りに就いた。
翌朝、早朝の日課をこなしてから、グレンの用意してくれた朝食を口にしつつ、今日の予定を話し合う。
「それでうちで学ぶ気があるガキんちょは、ここに連れて来たらいいのか?」
「そうしたいところだけど、いきなりそこまでの信用は得られるのかな」
「怪しいっちゃ、怪しいよな。今の錬金術ギルドにゃ、信用どころか実績もなにもねぇしな」
「とりあえずは孤児院を管理しているご婦人に、提案だけでもってところだろうね」
「まぁ、オレなりに手は尽くしておくぜ」
「うん、頼むよ。ボクの方は昼過ぎまでにはグラスボアを狩って戻って来るつもりだから、なにか問題があったならそのときに聞かせてくれるかな」
「あぁ、わかった。そういうことなら今日は昼用の携帯食は用意しなくてもよさそうだな」
「そうだね。もし14の鐘が鳴ってもグレンが戻れないようだったら適当な店で済ませておくよ」
「了解。そんじゃ、また昼にな」
片付けを済ませ、ボクらは錬金術ギルドを出て、一緒に領都中央の大通りまで歩き、そこからボクは南へ、グレンは西へとわかれた。
南門での身分証明は、錬金術師免許ではなく、冒険者証を提示した。今日は昨日のようにポーション関連のことに南地区を管轄してる衛兵隊が関わっているのか、確かめる必要はないからね。それに錬金術師だと下手に明かすと、バーガンディでは絡まれる可能性が高くなるだけみたいだしね。
特になんの問題もなく南門を抜けたボクは、領都の南に広がる平原を望遠魔術の『バードアイ』で視力強化して一望する。目的の魔獣らしき姿を目視したボクは、大きな個体の元へと足を向けた。
領都から充分に離れ、周囲に同じ目的で平原を訪れた他者の姿がないことを確信したボクは、ウエストポーチに向けて声をかける。
「プル、出てきていいよ」
すると待ってましたとばかりに、プルがウエストポーチからするりと出てくるなり、ボクの肩に昇ってきた。プルは広大な大自然を前にして興奮したように、身体を落ち着きなく変化させていた。
「近くでなら遊んでてもいいよ」
そんな提案をすると、プルは嬉しげに草原に飛び込もうとして、思いとどまるように中途半端な状態で身体を硬直させたかと思うと、ぷるぷると全身をふるわせ、身体を捻るようにしてボクの様子を窺ってきた。
「もしかしてボクの狩りを手伝うのを優先してくれるのかな」
そう訊ねると、プルはその通りだとばかりに身体をぷるんとふるわせた。
「ありがとう。それじゃ、プルにも手伝ってもらおうかな。これから狙う獲物は──」
プルに獲物の居場所や、攻撃する部位などを簡単に説明した。プルは一度説明を聞いただけで理解してくれた。
あとは実践とばかりにプルは、丈の長い草原に紛れるように飛び込み。なるべく草をゆらさぬよう獲物に接近していった。
周囲の雑草と似た若草色の長毛で全身が覆われたグラスボアは、プルに狙われて今にも攻撃されそうだというのに巨体を地面に横たえて怠惰に草を食んでいた。プルが身体の形状を変化させながら跳躍し、グラスボアの居た場所を一瞬にして行き過ぎる。そのときには既にプルの攻撃は終わっていた。
もそもそと草を食んでいたグラスボアは最後まで攻撃されたことに気付くことなく、すっぱりと首を斬り落とされ絶命していた。
『ありがとう、パパ。ためになったよ』
『それはなによりだね』
『じゃあ、今日はこの辺で。おやすみなさい』
『ちょっと待ってもらえるかな』
要件は済んだからと[ジェミニタブレット]を片付けようとしていたら、慌てたように返信があった。
『なんでしょうか』
『ヒイロに知らせておかないといけないことがひとつあってね』
『知らせておくことですか?』
『昨日付でサクラさんとアッシュくんがそちらに向かったんだ。到着は明後日くらいになるだろうから、彼らを出迎えてくれないかな』
想定外の知らせに困惑する。
『なぜあのふたりがこちらへ? レッドグレイヴでの業務はどうされたのです』
『彼らの仕事は基本的にダンジョンの攻略だからね。その攻略対象がある場所が、レッドグレイヴからバーガンディに変わるだけだよ。きっとヒイロの手助けになってくれるだろうと思ってね。ヒイロがダンジョンを探索するなら、あのふたりは実力的にパティーメンバーとして適任なんじゃないかな。足手纏いになることもないだろうしね』
『確かにそうかも知れませんが』
『まぁ、この異動は彼らの希望によるものだから、一緒に行動するかどうかは、そちらで話し合ってくれるかな』
『わかりました』
あのふたりと一緒に行動するならユニークスキルのことを明かすかどうか迷うところだね。彼らはボクの天職が盗賊になったってことは知っているだろうし、問題ないような気もするけれど、ユニークスキルの効果量を考えると微妙なところ。その辺りは彼らを出迎えてから決めようと、今は結論を先延ばしにすることにした。
パパからの就寝前の挨拶が返信されたので[ジェミニタブレット]をウエストポーチに戻す。それまで興味深げに盤面に浮かび上がる文字を追っていたプルは、もう終わりなのといった様子で、ぺちゃんと身体を平にしていた。
「ほら、もう寝るよ」
作業机の上で水溜りのようになったプルを掬い上げて抱えると、プルはいつものまるまるとした形に戻った。そのままベッドにまで運び、まだ入浴時の熱が残って暖かいプルを抱き枕にボクは眠りに就いた。
翌朝、早朝の日課をこなしてから、グレンの用意してくれた朝食を口にしつつ、今日の予定を話し合う。
「それでうちで学ぶ気があるガキんちょは、ここに連れて来たらいいのか?」
「そうしたいところだけど、いきなりそこまでの信用は得られるのかな」
「怪しいっちゃ、怪しいよな。今の錬金術ギルドにゃ、信用どころか実績もなにもねぇしな」
「とりあえずは孤児院を管理しているご婦人に、提案だけでもってところだろうね」
「まぁ、オレなりに手は尽くしておくぜ」
「うん、頼むよ。ボクの方は昼過ぎまでにはグラスボアを狩って戻って来るつもりだから、なにか問題があったならそのときに聞かせてくれるかな」
「あぁ、わかった。そういうことなら今日は昼用の携帯食は用意しなくてもよさそうだな」
「そうだね。もし14の鐘が鳴ってもグレンが戻れないようだったら適当な店で済ませておくよ」
「了解。そんじゃ、また昼にな」
片付けを済ませ、ボクらは錬金術ギルドを出て、一緒に領都中央の大通りまで歩き、そこからボクは南へ、グレンは西へとわかれた。
南門での身分証明は、錬金術師免許ではなく、冒険者証を提示した。今日は昨日のようにポーション関連のことに南地区を管轄してる衛兵隊が関わっているのか、確かめる必要はないからね。それに錬金術師だと下手に明かすと、バーガンディでは絡まれる可能性が高くなるだけみたいだしね。
特になんの問題もなく南門を抜けたボクは、領都の南に広がる平原を望遠魔術の『バードアイ』で視力強化して一望する。目的の魔獣らしき姿を目視したボクは、大きな個体の元へと足を向けた。
領都から充分に離れ、周囲に同じ目的で平原を訪れた他者の姿がないことを確信したボクは、ウエストポーチに向けて声をかける。
「プル、出てきていいよ」
すると待ってましたとばかりに、プルがウエストポーチからするりと出てくるなり、ボクの肩に昇ってきた。プルは広大な大自然を前にして興奮したように、身体を落ち着きなく変化させていた。
「近くでなら遊んでてもいいよ」
そんな提案をすると、プルは嬉しげに草原に飛び込もうとして、思いとどまるように中途半端な状態で身体を硬直させたかと思うと、ぷるぷると全身をふるわせ、身体を捻るようにしてボクの様子を窺ってきた。
「もしかしてボクの狩りを手伝うのを優先してくれるのかな」
そう訊ねると、プルはその通りだとばかりに身体をぷるんとふるわせた。
「ありがとう。それじゃ、プルにも手伝ってもらおうかな。これから狙う獲物は──」
プルに獲物の居場所や、攻撃する部位などを簡単に説明した。プルは一度説明を聞いただけで理解してくれた。
あとは実践とばかりにプルは、丈の長い草原に紛れるように飛び込み。なるべく草をゆらさぬよう獲物に接近していった。
周囲の雑草と似た若草色の長毛で全身が覆われたグラスボアは、プルに狙われて今にも攻撃されそうだというのに巨体を地面に横たえて怠惰に草を食んでいた。プルが身体の形状を変化させながら跳躍し、グラスボアの居た場所を一瞬にして行き過ぎる。そのときには既にプルの攻撃は終わっていた。
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