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058 盗賊さん、国の成り立ちを知る。
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『さて、ここラーム王国の成り立ちについてだけれど、いつ建国されたのかは厳密にはわからないと言っていい』
『どういうことです?』
『元々はラーム王国ではなく、その前身はラーム連合と呼ばれるダンジョンを中心に発展した11の都市国家からなる共同体だったんだ』
『王家はどこから出てきたんです。連合国のひとつが暴挙に出たのですか?』
『王家を名乗っているクリムゾン家の出自はわかっていない流浪の民だったという話だね。彼らはラーム連合を結成するきっかけとなった約300年前の大災厄の折に、傭兵としてカーマイン領に雇用されていたらしい』
『そこまでわかっていながら王家として祭り上げれた切っ掛けはなんなのでしょうか』
『大災厄の原因だと言われている大魔獣、今だと魔王と呼んだ方が通りが良いかな。それを討伐する際に、クリムゾン家の人間が授かった天職のスキルが、魔王撃退を成したらしい。そのときだろうね、彼らは他者の上に立ち人間を統べることこそが、神から与えられた一族の使命だと思い込んでしまったようなんだ。彼らは魔王討伐後に王を名乗り出し、時を置かずにカーマイン領を支配して王都クリムゾンと改めさせた』
傭兵家業をしていた一族だけで領都を守護する兵士を全て相手取るのは無謀だとしか思えなかった。
『領地ひとつをクリムゾンの一族だけで落としたというのですか。いくらなんでも無理があるのでは』
『いや、落としたというか。支配したんだよ』
わざわざ言い換えられたことに疑問符を浮かべる。
『なにが違うんです』
『彼らは戦ってすらいないんだよ』
『戦ってすらいない?』
『クリムゾン家の人間は代々同じ天職を得るらしいんだけど、その天職というのか『君主』らしい。彼らは、その天職のスキル【支配】で他者を強制的に自身の傘下に加えることが出来るんだ。だから一度でもその力を使われてしまえば、無抵抗で敗北することになる』
パパの言っていることは無茶苦茶で、常識的にあり得ないと言っていい内容だった。
『本当にあり得るのですか? いくら強力なスキルだったとしても、魔力を宿した意思を持つ生命体には、必ず魔力抵抗が存在していて、外部から魔力的な干渉をすることは出来ないはずです。だというのに精神に直接干渉するだなんて』
『本来ならヒイロの言う通りだよ。でも、現実は違ったのさ。私達のご先祖様は、当然ながらクリムゾン一族に対して叛旗を翻した。その結果は、散々なものだったようでね。引き連れて行った大勢の兵士達が、【支配】を受けて一瞬にして敵にまわってしまったらしい』
パパの記した内容に引っかかるものを感じ、時間をかけて何度か読み返した後に、気付いた点を指摘した。
『味方の兵士が敵に回ったということは、ご先祖様は【支配】されなかったのですか?』
そんなボクの疑問は的外れではなかったらしく、パパから解答が出された。
『領地を管理運営させるには【支配】した状態では不都合があったんだろうね。おそらく支配下の人間に対して複雑な指示までは与えることが出来なんじゃないかな』
『それは今もそうなのですか? 一族の次世代が同じ天職とは限らないと思うのですが』
『残念ながらクリムゾン家の人間は、必ず『君主』の天職を得ているよ。彼らは外部からの血を一切取り入れず、近親間で子を成し続けているからか、他の天職が発現することがないらしい。親世代の天職が次世代に引き継がれる確率が高いのはヒイロも知っているだろう』
『ボクは違いましたけどね』
少し嫌味な書き方になってしまったかなと、思ったけれどパパはそれほど気にしていないようだった。
『仕方ないさ。レッドグレイヴ家は、長い時をかけてより強い魔術職の人間を生み出すために、近親間だけで子を成すのではなく、外部の優秀な魔術職の血も積極的に取り入れているからね。だからヒイロの天職が魔術職ではなかったのは、不自然ではないよ』
なぜレッドグレイヴ家は、そこまで魔術職の人間をあちこちから集めているのかと疑問を抱く。それも短い間のことで、今は知ったばかりの事実などと併せて考えたとき、なんとなくそれらしい答えとして思い当たるものがあった。
『もしかしてなのですが、レッドグレイヴ領に魔術職の人間を集めているのは、王家の特殊なスキルに対抗出来る者を生み出すためなのでしょうか』
『そうだよ。異質なスキルに対抗するなら、拡張性のある魔術に高い可能性をご先祖様は見出したようでね。実際にレッドグレイヴ家の人間は、代を重ねるごとに魔力が強まっているし、領内に多くの魔術職を抱え込むことで新たな魔術の研究も進んでいるからね』
『錬金術もそのひとつなのですね』
『そうなのだけれど、それに関してはトキナリ氏がほぼひとりで成果を出したようなものだね。彼は元々レッドグレイヴお抱えの錬金術師だったからね』
『そのような人物がなぜバーガンディに? しかもこちらでは錬金術は完全に衰退していますし』
『確か惚れた女性のためだそうだよ。その女性の故郷をどうにかしたいといろいろと手を尽くしたようだね。領の生活基盤を整えたりしてね。最終的にはラーム王国から独立させたかったようだけれど、王家の横槍が入ったのか、領の内側から立場を崩されたようだね』
薬師ギルドや領主の立ち回りなんかを考えると今もそれは続いているのかな。
『大体のことはわかりました。それで最後にひとつ質問なんですけれど、なぜ王家の方は『盗賊』を忌み嫌っているのでしょうか?』
ボクの質問に対して返信されるまで、しばしの間があった。
『確かに不思議ではあるね。単純に『盗賊』を毛嫌いしているというよりも、権力者層に『盗賊』が居ると不都合でもあるのかな』
国の成り立ちや王家の人間が使う不可思議なスキルの話を訊いたからか、パパの推測は当たらずも遠からずといったものなんじゃないかと思えてならなかった。
『どういうことです?』
『元々はラーム王国ではなく、その前身はラーム連合と呼ばれるダンジョンを中心に発展した11の都市国家からなる共同体だったんだ』
『王家はどこから出てきたんです。連合国のひとつが暴挙に出たのですか?』
『王家を名乗っているクリムゾン家の出自はわかっていない流浪の民だったという話だね。彼らはラーム連合を結成するきっかけとなった約300年前の大災厄の折に、傭兵としてカーマイン領に雇用されていたらしい』
『そこまでわかっていながら王家として祭り上げれた切っ掛けはなんなのでしょうか』
『大災厄の原因だと言われている大魔獣、今だと魔王と呼んだ方が通りが良いかな。それを討伐する際に、クリムゾン家の人間が授かった天職のスキルが、魔王撃退を成したらしい。そのときだろうね、彼らは他者の上に立ち人間を統べることこそが、神から与えられた一族の使命だと思い込んでしまったようなんだ。彼らは魔王討伐後に王を名乗り出し、時を置かずにカーマイン領を支配して王都クリムゾンと改めさせた』
傭兵家業をしていた一族だけで領都を守護する兵士を全て相手取るのは無謀だとしか思えなかった。
『領地ひとつをクリムゾンの一族だけで落としたというのですか。いくらなんでも無理があるのでは』
『いや、落としたというか。支配したんだよ』
わざわざ言い換えられたことに疑問符を浮かべる。
『なにが違うんです』
『彼らは戦ってすらいないんだよ』
『戦ってすらいない?』
『クリムゾン家の人間は代々同じ天職を得るらしいんだけど、その天職というのか『君主』らしい。彼らは、その天職のスキル【支配】で他者を強制的に自身の傘下に加えることが出来るんだ。だから一度でもその力を使われてしまえば、無抵抗で敗北することになる』
パパの言っていることは無茶苦茶で、常識的にあり得ないと言っていい内容だった。
『本当にあり得るのですか? いくら強力なスキルだったとしても、魔力を宿した意思を持つ生命体には、必ず魔力抵抗が存在していて、外部から魔力的な干渉をすることは出来ないはずです。だというのに精神に直接干渉するだなんて』
『本来ならヒイロの言う通りだよ。でも、現実は違ったのさ。私達のご先祖様は、当然ながらクリムゾン一族に対して叛旗を翻した。その結果は、散々なものだったようでね。引き連れて行った大勢の兵士達が、【支配】を受けて一瞬にして敵にまわってしまったらしい』
パパの記した内容に引っかかるものを感じ、時間をかけて何度か読み返した後に、気付いた点を指摘した。
『味方の兵士が敵に回ったということは、ご先祖様は【支配】されなかったのですか?』
そんなボクの疑問は的外れではなかったらしく、パパから解答が出された。
『領地を管理運営させるには【支配】した状態では不都合があったんだろうね。おそらく支配下の人間に対して複雑な指示までは与えることが出来なんじゃないかな』
『それは今もそうなのですか? 一族の次世代が同じ天職とは限らないと思うのですが』
『残念ながらクリムゾン家の人間は、必ず『君主』の天職を得ているよ。彼らは外部からの血を一切取り入れず、近親間で子を成し続けているからか、他の天職が発現することがないらしい。親世代の天職が次世代に引き継がれる確率が高いのはヒイロも知っているだろう』
『ボクは違いましたけどね』
少し嫌味な書き方になってしまったかなと、思ったけれどパパはそれほど気にしていないようだった。
『仕方ないさ。レッドグレイヴ家は、長い時をかけてより強い魔術職の人間を生み出すために、近親間だけで子を成すのではなく、外部の優秀な魔術職の血も積極的に取り入れているからね。だからヒイロの天職が魔術職ではなかったのは、不自然ではないよ』
なぜレッドグレイヴ家は、そこまで魔術職の人間をあちこちから集めているのかと疑問を抱く。それも短い間のことで、今は知ったばかりの事実などと併せて考えたとき、なんとなくそれらしい答えとして思い当たるものがあった。
『もしかしてなのですが、レッドグレイヴ領に魔術職の人間を集めているのは、王家の特殊なスキルに対抗出来る者を生み出すためなのでしょうか』
『そうだよ。異質なスキルに対抗するなら、拡張性のある魔術に高い可能性をご先祖様は見出したようでね。実際にレッドグレイヴ家の人間は、代を重ねるごとに魔力が強まっているし、領内に多くの魔術職を抱え込むことで新たな魔術の研究も進んでいるからね』
『錬金術もそのひとつなのですね』
『そうなのだけれど、それに関してはトキナリ氏がほぼひとりで成果を出したようなものだね。彼は元々レッドグレイヴお抱えの錬金術師だったからね』
『そのような人物がなぜバーガンディに? しかもこちらでは錬金術は完全に衰退していますし』
『確か惚れた女性のためだそうだよ。その女性の故郷をどうにかしたいといろいろと手を尽くしたようだね。領の生活基盤を整えたりしてね。最終的にはラーム王国から独立させたかったようだけれど、王家の横槍が入ったのか、領の内側から立場を崩されたようだね』
薬師ギルドや領主の立ち回りなんかを考えると今もそれは続いているのかな。
『大体のことはわかりました。それで最後にひとつ質問なんですけれど、なぜ王家の方は『盗賊』を忌み嫌っているのでしょうか?』
ボクの質問に対して返信されるまで、しばしの間があった。
『確かに不思議ではあるね。単純に『盗賊』を毛嫌いしているというよりも、権力者層に『盗賊』が居ると不都合でもあるのかな』
国の成り立ちや王家の人間が使う不可思議なスキルの話を訊いたからか、パパの推測は当たらずも遠からずといったものなんじゃないかと思えてならなかった。
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