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057 盗賊さん、パパに質問する。
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話し合いを兼ねた晩御飯を片付けたボクらは、ホールで別れ、おやすみの挨拶とともにそれぞれの部屋に引っ込んだ。
ボクは部屋に戻るなり、1日の疲れを吹き飛ばそうとお風呂に入る。その際にプルも一緒に入りたがったので、浴槽に入れてあげると、ぷかりぷかりとお湯に浮かんで気持ちよさそうに漂っていた。
身体が温まり、溜まった疲れがすっかり体外に溶け出してしまったボクは、ポカポカとするプルを抱えてお風呂から上がった。
あくびを噛み殺しながら寝巻きに着替え、全身の筋肉を柔軟にするように身体をほぐす。それを真似るようにプルは、身体の形をふにゃふにゃと変えていた。
どこにも疲労による不具合がないと確認出来たボクは、木窓を開いて夜風を頰に感じながら、深呼吸を数度繰り返して肺の中の空気を新鮮なものにすっかり入れ替えた。すると眠気が少しばかり遠退いた。
頭の冴えを取り戻したボクは、ウエストポーチから[ジェミニタブレット]を取り出した。
盤面には、ボクが最後に記した一文の後にパパからのメッセージが何度か届いていた。それによるとボクが知らせた似非錬金術師の件は、既に片付いたらしかった。
ボクは専用の筆記具を手に、パパになにから訊こうかと書き記す文を考える。その様子を興味深いげにプルが見ていた。そんなプルを筆記具のお尻でつんつんと突いてやると、プルはくすぐったそうにぷるぷると身体を小刻みに震わせた。そんなプルの姿を目にしていたからか、最初の質問は魔物に関して訊こうと決めた。
『質問なのですが、魔物を使役してダンジョン外に連れ出すことが出来たという事例をご存知ないでしょうか』
前回の返信状況から今の時間なら執務もほぼ片付いているだろうから、そんなに待つことなく返答が期待出来るんじゃないかと、盤面をぼんやりと見ていた。すると期待通りにすぐにパパから返信があった。
『レッドグレイヴで、そういった事例は確認されていないね。それって集団暴走でダンジョンから溢れ出した魔物を捕獲して飼い慣らしたとか、そういう話なのかな』
ボクはパパにどこまで話して良いかしばし悩んで、今はそのときではないと盗賊スキル関連のことは伏せることにした。
『違いますよ。ただ最寄りのダンジョンに人懐っこいスライムがいましたので、飼えないものかと思っただけです』
『そういうことかい。情操教育の一環として生き物を飼うというのはいいかもしれないね。ただ魔物を飼うのは難しいと思うよ。彼らは魔力を持つ者を本能的に襲うように造られているからね』
『よく知っています。何度もダンジョンに潜ってましたから』
『だよね。それで本題はなんなのかな』
都合よくパパは解釈してくれたらしい。そうなって来ると次の話題を出したいところだけれど、なにを訊いたら今のボクにとって一番有益な情報が得られるだろうかと頭を捻る。深く考えた末にボクは、ひとつの質問を書き記した。
『この国の成り立ちを教えていただけませんか。魔術や戦闘技術の研鑽ばかりで、歴史などは一切教えてくださいませんでしたよね。なにか理由があるのでしょうか』
『そういう質問をするってことは、そっちの権力者層とのトラブルに遭ったのかな?』
『そうですね。ボクが作製したポーションが全て没収されてしまいました』
『どういった状況でのことかな』
『野外で薬草を採取して、その場でポーションを作製したのですが、それがよくなかったらしく、城門を通る際に没収されることとなりました』
『うちでも同じことをしているね。領内に質の悪い魔法薬を持ち込ませないのが目的でね』
『こちらでは不正に横流しされているようでしたよ。それに関して領主は黙認していました。しかも横流しされた品は、混ぜ物をされて品質の悪くなった物が、店頭に堂々と並べられる始末です』
『嘆かわしいね。トキナリ氏がご存命であれば、そのようなことは絶対になかっただろうに』
パパからバーガンディの錬金術ギルド創設者の名前が出てきたことに軽い驚きを覚えた。
『そのトキナリと仰る方は、バーガンディの錬金術ギルド創設者だったトキナリ・カネハ様のことですか?』
『そうだよ。ちなみにヒイロが習得した天職を必要としない錬金術の基礎を使ったのも彼だよ』
『その方のお膝共では、その技術は一切広まってないようですが』
『彼の研究資料なんかは、全部うちにあるからね。そっちだと利権だなんだと厄介なしがらみが多かったそうだから、レッドグレイヴで預からせてもらうことにしたのさ。うちは昔から魔術職に関することはどんな物でも集めてたから、破棄されることはないと踏んでの選択だろうね。そっちでは面倒を避けるために、マネイ・タイミーズなんて偽名を使って活動してたそうだよ』
どうやらラビィの推測は正しかったらしい。でも、なんでそこまでして、この土地に居座ってたんだろう。
『その話も気になるところですが、ボクの質問からは遠去かってますよね。意図的に話を逸らされているのでしょうか』
『この話も無関係ってわけでもないんだけどね。でも、順序立てて話した方がいいかな』
『お願いします』
『少し長くなるから、適宜合いの手を入れてもらえるかな。私のモチベーションの維持のためにね。[ジェミニタブレット]越しだと反応が見えないからさ』
ボクは苦笑しながら了解の返事を書き記してパパに送った。
ボクは部屋に戻るなり、1日の疲れを吹き飛ばそうとお風呂に入る。その際にプルも一緒に入りたがったので、浴槽に入れてあげると、ぷかりぷかりとお湯に浮かんで気持ちよさそうに漂っていた。
身体が温まり、溜まった疲れがすっかり体外に溶け出してしまったボクは、ポカポカとするプルを抱えてお風呂から上がった。
あくびを噛み殺しながら寝巻きに着替え、全身の筋肉を柔軟にするように身体をほぐす。それを真似るようにプルは、身体の形をふにゃふにゃと変えていた。
どこにも疲労による不具合がないと確認出来たボクは、木窓を開いて夜風を頰に感じながら、深呼吸を数度繰り返して肺の中の空気を新鮮なものにすっかり入れ替えた。すると眠気が少しばかり遠退いた。
頭の冴えを取り戻したボクは、ウエストポーチから[ジェミニタブレット]を取り出した。
盤面には、ボクが最後に記した一文の後にパパからのメッセージが何度か届いていた。それによるとボクが知らせた似非錬金術師の件は、既に片付いたらしかった。
ボクは専用の筆記具を手に、パパになにから訊こうかと書き記す文を考える。その様子を興味深いげにプルが見ていた。そんなプルを筆記具のお尻でつんつんと突いてやると、プルはくすぐったそうにぷるぷると身体を小刻みに震わせた。そんなプルの姿を目にしていたからか、最初の質問は魔物に関して訊こうと決めた。
『質問なのですが、魔物を使役してダンジョン外に連れ出すことが出来たという事例をご存知ないでしょうか』
前回の返信状況から今の時間なら執務もほぼ片付いているだろうから、そんなに待つことなく返答が期待出来るんじゃないかと、盤面をぼんやりと見ていた。すると期待通りにすぐにパパから返信があった。
『レッドグレイヴで、そういった事例は確認されていないね。それって集団暴走でダンジョンから溢れ出した魔物を捕獲して飼い慣らしたとか、そういう話なのかな』
ボクはパパにどこまで話して良いかしばし悩んで、今はそのときではないと盗賊スキル関連のことは伏せることにした。
『違いますよ。ただ最寄りのダンジョンに人懐っこいスライムがいましたので、飼えないものかと思っただけです』
『そういうことかい。情操教育の一環として生き物を飼うというのはいいかもしれないね。ただ魔物を飼うのは難しいと思うよ。彼らは魔力を持つ者を本能的に襲うように造られているからね』
『よく知っています。何度もダンジョンに潜ってましたから』
『だよね。それで本題はなんなのかな』
都合よくパパは解釈してくれたらしい。そうなって来ると次の話題を出したいところだけれど、なにを訊いたら今のボクにとって一番有益な情報が得られるだろうかと頭を捻る。深く考えた末にボクは、ひとつの質問を書き記した。
『この国の成り立ちを教えていただけませんか。魔術や戦闘技術の研鑽ばかりで、歴史などは一切教えてくださいませんでしたよね。なにか理由があるのでしょうか』
『そういう質問をするってことは、そっちの権力者層とのトラブルに遭ったのかな?』
『そうですね。ボクが作製したポーションが全て没収されてしまいました』
『どういった状況でのことかな』
『野外で薬草を採取して、その場でポーションを作製したのですが、それがよくなかったらしく、城門を通る際に没収されることとなりました』
『うちでも同じことをしているね。領内に質の悪い魔法薬を持ち込ませないのが目的でね』
『こちらでは不正に横流しされているようでしたよ。それに関して領主は黙認していました。しかも横流しされた品は、混ぜ物をされて品質の悪くなった物が、店頭に堂々と並べられる始末です』
『嘆かわしいね。トキナリ氏がご存命であれば、そのようなことは絶対になかっただろうに』
パパからバーガンディの錬金術ギルド創設者の名前が出てきたことに軽い驚きを覚えた。
『そのトキナリと仰る方は、バーガンディの錬金術ギルド創設者だったトキナリ・カネハ様のことですか?』
『そうだよ。ちなみにヒイロが習得した天職を必要としない錬金術の基礎を使ったのも彼だよ』
『その方のお膝共では、その技術は一切広まってないようですが』
『彼の研究資料なんかは、全部うちにあるからね。そっちだと利権だなんだと厄介なしがらみが多かったそうだから、レッドグレイヴで預からせてもらうことにしたのさ。うちは昔から魔術職に関することはどんな物でも集めてたから、破棄されることはないと踏んでの選択だろうね。そっちでは面倒を避けるために、マネイ・タイミーズなんて偽名を使って活動してたそうだよ』
どうやらラビィの推測は正しかったらしい。でも、なんでそこまでして、この土地に居座ってたんだろう。
『その話も気になるところですが、ボクの質問からは遠去かってますよね。意図的に話を逸らされているのでしょうか』
『この話も無関係ってわけでもないんだけどね。でも、順序立てて話した方がいいかな』
『お願いします』
『少し長くなるから、適宜合いの手を入れてもらえるかな。私のモチベーションの維持のためにね。[ジェミニタブレット]越しだと反応が見えないからさ』
ボクは苦笑しながら了解の返事を書き記してパパに送った。
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