天職はドロップ率300%の盗賊、錬金術師を騙る。

朱本来未

文字の大きさ
上 下
54 / 118

054 盗賊さん、薬草の栽培について語る。

しおりを挟む
 錬金術ギルドに戻ったボクは、グレンを迎えに地下工房へと足を運ぶ。壁に穴を開け、辺りを見回す。付近にグレンとプルの姿は見当たらない。耳を澄ますと、地下2階の方からグレンの声が耳に届く。それに導かれるように階段を降りていると「待ちやがれ」だとか「次はそっちの番だぜ」なんてグレンが言っているのが聞こえた。地下2階の大空洞が視界に入り、彼らの姿を見つける。グレン達がなにをしているのかと思ったら、どうやら追いかけっこのようなことをしていた。
 グレンは魔力循環で身体能力を向上させ、あちこち飛び跳ねて逃げ回るプルを追いかけ、プルはプルで彼に合わせてわざと油断して捕まって立場を交代したりと、プルなりに楽しんでいるようだった。
 ボクは階段を降り切ってからふたりに対して声をかける。
「ただいま。今帰ったよ」
 そう声をかけるとプルがぴょこぴょこと跳ね寄り、ボクの胸元に飛び込んで来た。咄嗟にプルを抱え込むと、ぷるぷるとなでて欲しそうにしていたので、軽くなでてあげた。すると満足気に全身をへにゃりとさせてから定位置のボクの肩の上に移動していた。そこへ少し遅れるようにしてグレンが駆け寄って来た。
「早かったな」
「そうでもないよ。キミに地下へと入ってもらってから鐘みっつくらいは経ってるしさ」
「そんなにか」
「そうだよ。それにしてもグレン、かなり魔力循環に慣れて来たみたいだね」
「あぁ、そのスライムと遊んでるうちになんとなくコツが掴めてな」
 グレンがボクの肩に乗るプルを指差すと、指差されたプルは不満気に身体をぶるんと波打たせた。その動作がなにに対して不満を抱いたのかと考えながら、グレンにプルの訴えを告げる。
「この子のことは名前で呼んでくれるかな。なんだか不満みたいだからさ」
「あー、そいつの名前ってなんだったっけか」
 どうやらグレンはプルの名前を覚えてなかったらしく、申し訳なさそうに後ろ頭を掻きながら率直に訊ねてきた。
「プルだよ」
「プルか。よし、覚えたぜ。プル、オレの訓練に付き合ってくれてあんがとよ」
 グレンがプルに対して、ぐっと拳を握って力強く礼を述べると、プルは胸でも張るように身体をぷくりと膨らませていた。
「それはそうと、ここいいな。それなりに広さがってよ」
「錬金術ギルドの敷地ギリギリまで広げてるからね」
「んで、ここはなにに使う予定なんだ」
「薬草栽培に使うつもりだよ。地上の庭先だけだと、栽培する種類も限られそうだし、日当たりや周辺住民の目が気になりそうだったからね」
「あぁ、確かにな。うちの庭だけじゃ、いろいろと育てるにゃ、ちょっと手狭だしな」
「それと、ここなら外の気温や天気に育成環境が左右されることもないから、安定して栽培出来るってのも強みだね」
「温室みたいなもんか」
「そうだね」
「でも、本当に栽培なんて出来るのか。薬草なんてよ」
「問題ないと思うよ。要は土壌に適切な量の魔素を混ぜ込めばいいんだからね。やり方はいろいろあるさ」
「あー、そういや上級ポーション使ったやり方とかあるって言ってたな」
「それもひとつの手だけど、砕いた魔石を土に混ぜても似たような効果を期待出来るんじゃないかな。あれも一応は魔素が結晶化したようなものだしね」
「どっちもかなり金がかかりそうだな」
「まぁ、ボクの場合はユニークスキルでどうにか出来るとは思うよ」
 そう告げるとグレンは、一瞬ぽかんとしてからすぐに驚きに表情を塗り替えた。
「そういうことか。確かに【アイテムボックス】なら魔素と土を一緒に収納して中で混ぜ合わせられそうだな」
 ボクはグレンの勘違いを利用して、彼の中では【アイテムボックス】を利用した合成だと思い込んでもらうことにした。
「うん。実際やってみたら出来たよ。他にもいろいろとね」
「すげぇもんだな」
「でも、それじゃダメなんだよね」
「ん、なんでだ」
「このやり方だとボクにしか栽培出来ないじゃないか」
「あー、そういうことか。そうすっとやっぱ砕いた魔石を撒くってのが一番無難なのかもな」
「それだと資金的に難しいから低確率なドロップ頼りになるだろうし、現実的じゃないよ。だから比較的入手が容易な別の素材を使うつもりなんだ」
「別の素材?」
 心当たりがないらしいグレンは疑問符を浮かべた。
「グレンもさっき言ってただろう。上級ポーションを使ったやり方があるってさ」
「それは金銭的に無理だって話じゃなかったか」
「上級ポーションそのものを使うんならね。だからさ、上級ポーションに使われている素材の方を使うんだよ。上級ポーションが高価なのは、その素材を人体に害がないように処理するのに手間がかかってるのが1番の理由だからね」
 グレンはしばし黙り込んで、ボクが口にした内容を頭の中で整理しているのか、どこを見るでもなく宙空に視線を向けていた。ほどなくグレンの中で結論が出たのか、ちいさく頷いた。
「要するにその素材が人間には害があっても、薬草には影響しないかも知れねぇってことか」
「そういうことだよ。そこまではレッドグレイヴでもわかってたけど研究が継続されなかったのは、単純に無駄だと判断されたからだね。そんなことをするくらいなら上級ポーションの素材にした方がマシだってね。他の素材はダンジョンでも手に入るから、向こうだと常にその素材だけが不足しがちだったからね。でも、ここバーガンディでは、上級ポーション作製擬術そのものが確立してないから、上級ポーションに使う素材の需要自体が存在してない。だから好きなだけ使えるって訳さ」
「んで、その素材ってのはなんなんだ」
 ボクは一拍置いてから、その素材のことを口した。
「魔獣の血液だよ」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】初級魔法しか使えない低ランク冒険者の少年は、今日も依頼を達成して家に帰る。

アノマロカリス
ファンタジー
少年テッドには、両親がいない。 両親は低ランク冒険者で、依頼の途中で魔物に殺されたのだ。 両親の少ない保険でやり繰りしていたが、もう金が尽きかけようとしていた。 テッドには、妹が3人いる。 両親から「妹達を頼む!」…と出掛ける前からいつも約束していた。 このままでは家族が離れ離れになると思ったテッドは、冒険者になって金を稼ぐ道を選んだ。 そんな少年テッドだが、パーティーには加入せずにソロ活動していた。 その理由は、パーティーに参加するとその日に家に帰れなくなるからだ。 両親は、小さいながらも持ち家を持っていてそこに住んでいる。 両親が生きている頃は、父親の部屋と母親の部屋、子供部屋には兄妹4人で暮らしていたが…   両親が死んでからは、父親の部屋はテッドが… 母親の部屋は、長女のリットが、子供部屋には、次女のルットと三女のロットになっている。 今日も依頼をこなして、家に帰るんだ! この少年テッドは…いや、この先は本編で語ろう。 お楽しみくださいね! HOTランキング20位になりました。 皆さん、有り難う御座います。

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

外れスキル《コピー》を授かったけど「無能」と言われて家を追放された~ だけど発動条件を満たせば"魔族のスキル"を発動することができるようだ~

そらら
ファンタジー
「鑑定ミスではありません。この子のスキルは《コピー》です。正直、稀に見る外れスキルですね、何せ発動条件が今だ未解明なのですから」 「何てことなの……」 「全く期待はずれだ」 私の名前はラゼル、十五歳になったんだけども、人生最悪のピンチに立たされている。 このファンタジックな世界では、15歳になった際、スキル鑑定を医者に受けさせられるんだが、困ったことに私は外れスキル《コピー》を当ててしまったらしい。 そして数年が経ち……案の定、私は家族から疎ましく感じられてーーついに追放されてしまう。 だけど私のスキルは発動条件を満たすことで、魔族のスキルをコピーできるようだ。 そして、私の能力が《外れスキル》ではなく、恐ろしい能力だということに気づく。 そんでこの能力を使いこなしていると、知らないうちに英雄と呼ばれていたんだけど? 私を追放した家族が戻ってきてほしいって泣きついてきたんだけど、もう戻らん。 私は最高の仲間と最強を目指すから。

転生した体のスペックがチート

モカ・ナト
ファンタジー
とある高校生が不注意でトラックに轢かれ死んでしまう。 目覚めたら自称神様がいてどうやら異世界に転生させてくれるらしい このサイトでは10話まで投稿しています。 続きは小説投稿サイト「小説家になろう」で連載していますので、是非見に来てください!

『おっさんの元勇者』~Sランクの冒険者はギルドから戦力外通告を言い渡される~

川嶋マサヒロ
ファンタジー
 ダンジョン攻略のために作られた冒険者の街、サン・サヴァン。  かつて勇者とも呼ばれたベテラン冒険者のベルナールは、ある日ギルドマスターから戦力外通告を言い渡される。  それはギルド上層部による改革――、方針転換であった。  現役のまま一生を終えようとしていた一人の男は途方にくれる。  引退後の予定は無し。備えて金を貯めていた訳でも無し。  あげく冒険者のヘルプとして、弟子を手伝いスライム退治や、食肉業者の狩りの手伝いなどに精をだしていた。  そして、昔の仲間との再会――。それは新たな戦いへの幕開けだった。 イラストは ジュエルセイバーFREE 様です。 URL:http://www.jewel-s.jp/

システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。

大国 鹿児
ファンタジー
輪廻転生のシステムのバグで輪廻の輪から外れちゃった! でも神様から便利なチートグッズ(笑)の詰め合わせをもらって、 他の星に転生しました!特に使命も無いなら自由気ままに生きてみよう! 主人公はチート無双するのか!? それともハーレムか!? はたまた、壮大なファンタジーが始まるのか!? いえ、実は単なる趣味全開の主人公です。 色々な秘密がだんだん明らかになりますので、ゆっくりとお楽しみください。 *** 作品について *** この作品は、真面目なチート物ではありません。 コメディーやギャグ要素やネタの多い作品となっております 重厚な世界観や派手な戦闘描写、ざまあ展開などをお求めの方は、 この作品をスルーして下さい。 *カクヨム様,小説家になろう様でも、別PNで先行して投稿しております。

俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる

十本スイ
ファンタジー
俗にいう神様転生とやらを経験することになった主人公――札月沖長。ただしよくあるような最強でチートな能力をもらい、異世界ではしゃぐつもりなど到底なかった沖長は、丈夫な身体と便利なアイテムボックスだけを望んだ。しかしこの二つ、神がどういう解釈をしていたのか、特にアイテムボックスについてはバグっているのではと思うほどの能力を有していた。これはこれで便利に使えばいいかと思っていたが、どうも自分だけが転生者ではなく、一緒に同世界へ転生した者たちがいるようで……。しかもそいつらは自分が主人公で、沖長をイレギュラーだの踏み台だなどと言ってくる。これは異世界ではなく現代ファンタジーの世界に転生することになった男が、その世界の真実を知りながらもマイペースに生きる物語である。

異世界から帰ってきた勇者は既に擦り切れている。

暁月ライト
ファンタジー
魔王を倒し、邪神を滅ぼし、五年の冒険の果てに役割を終えた勇者は地球へと帰還する。 しかし、遂に帰還した地球では何故か三十年が過ぎており……しかも、何故か普通に魔術が使われており……とはいえ最強な勇者がちょっとおかしな現代日本で無双するお話です。

処理中です...