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054 盗賊さん、薬草の栽培について語る。
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錬金術ギルドに戻ったボクは、グレンを迎えに地下工房へと足を運ぶ。壁に穴を開け、辺りを見回す。付近にグレンとプルの姿は見当たらない。耳を澄ますと、地下2階の方からグレンの声が耳に届く。それに導かれるように階段を降りていると「待ちやがれ」だとか「次はそっちの番だぜ」なんてグレンが言っているのが聞こえた。地下2階の大空洞が視界に入り、彼らの姿を見つける。グレン達がなにをしているのかと思ったら、どうやら追いかけっこのようなことをしていた。
グレンは魔力循環で身体能力を向上させ、あちこち飛び跳ねて逃げ回るプルを追いかけ、プルはプルで彼に合わせてわざと油断して捕まって立場を交代したりと、プルなりに楽しんでいるようだった。
ボクは階段を降り切ってからふたりに対して声をかける。
「ただいま。今帰ったよ」
そう声をかけるとプルがぴょこぴょこと跳ね寄り、ボクの胸元に飛び込んで来た。咄嗟にプルを抱え込むと、ぷるぷるとなでて欲しそうにしていたので、軽くなでてあげた。すると満足気に全身をへにゃりとさせてから定位置のボクの肩の上に移動していた。そこへ少し遅れるようにしてグレンが駆け寄って来た。
「早かったな」
「そうでもないよ。キミに地下へと入ってもらってから鐘みっつくらいは経ってるしさ」
「そんなにか」
「そうだよ。それにしてもグレン、かなり魔力循環に慣れて来たみたいだね」
「あぁ、そのスライムと遊んでるうちになんとなくコツが掴めてな」
グレンがボクの肩に乗るプルを指差すと、指差されたプルは不満気に身体をぶるんと波打たせた。その動作がなにに対して不満を抱いたのかと考えながら、グレンにプルの訴えを告げる。
「この子のことは名前で呼んでくれるかな。なんだか不満みたいだからさ」
「あー、そいつの名前ってなんだったっけか」
どうやらグレンはプルの名前を覚えてなかったらしく、申し訳なさそうに後ろ頭を掻きながら率直に訊ねてきた。
「プルだよ」
「プルか。よし、覚えたぜ。プル、オレの訓練に付き合ってくれてあんがとよ」
グレンがプルに対して、ぐっと拳を握って力強く礼を述べると、プルは胸でも張るように身体をぷくりと膨らませていた。
「それはそうと、ここいいな。それなりに広さがってよ」
「錬金術ギルドの敷地ギリギリまで広げてるからね」
「んで、ここはなにに使う予定なんだ」
「薬草栽培に使うつもりだよ。地上の庭先だけだと、栽培する種類も限られそうだし、日当たりや周辺住民の目が気になりそうだったからね」
「あぁ、確かにな。うちの庭だけじゃ、いろいろと育てるにゃ、ちょっと手狭だしな」
「それと、ここなら外の気温や天気に育成環境が左右されることもないから、安定して栽培出来るってのも強みだね」
「温室みたいなもんか」
「そうだね」
「でも、本当に栽培なんて出来るのか。薬草なんてよ」
「問題ないと思うよ。要は土壌に適切な量の魔素を混ぜ込めばいいんだからね。やり方はいろいろあるさ」
「あー、そういや上級ポーション使ったやり方とかあるって言ってたな」
「それもひとつの手だけど、砕いた魔石を土に混ぜても似たような効果を期待出来るんじゃないかな。あれも一応は魔素が結晶化したようなものだしね」
「どっちもかなり金がかかりそうだな」
「まぁ、ボクの場合はユニークスキルでどうにか出来るとは思うよ」
そう告げるとグレンは、一瞬ぽかんとしてからすぐに驚きに表情を塗り替えた。
「そういうことか。確かに【アイテムボックス】なら魔素と土を一緒に収納して中で混ぜ合わせられそうだな」
ボクはグレンの勘違いを利用して、彼の中では【アイテムボックス】を利用した合成だと思い込んでもらうことにした。
「うん。実際やってみたら出来たよ。他にもいろいろとね」
「すげぇもんだな」
「でも、それじゃダメなんだよね」
「ん、なんでだ」
「このやり方だとボクにしか栽培出来ないじゃないか」
「あー、そういうことか。そうすっとやっぱ砕いた魔石を撒くってのが一番無難なのかもな」
「それだと資金的に難しいから低確率なドロップ頼りになるだろうし、現実的じゃないよ。だから比較的入手が容易な別の素材を使うつもりなんだ」
「別の素材?」
心当たりがないらしいグレンは疑問符を浮かべた。
「グレンもさっき言ってただろう。上級ポーションを使ったやり方があるってさ」
「それは金銭的に無理だって話じゃなかったか」
「上級ポーションそのものを使うんならね。だからさ、上級ポーションに使われている素材の方を使うんだよ。上級ポーションが高価なのは、その素材を人体に害がないように処理するのに手間がかかってるのが1番の理由だからね」
グレンはしばし黙り込んで、ボクが口にした内容を頭の中で整理しているのか、どこを見るでもなく宙空に視線を向けていた。ほどなくグレンの中で結論が出たのか、ちいさく頷いた。
「要するにその素材が人間には害があっても、薬草には影響しないかも知れねぇってことか」
「そういうことだよ。そこまではレッドグレイヴでもわかってたけど研究が継続されなかったのは、単純に無駄だと判断されたからだね。そんなことをするくらいなら上級ポーションの素材にした方がマシだってね。他の素材はダンジョンでも手に入るから、向こうだと常にその素材だけが不足しがちだったからね。でも、ここバーガンディでは、上級ポーション作製擬術そのものが確立してないから、上級ポーションに使う素材の需要自体が存在してない。だから好きなだけ使えるって訳さ」
「んで、その素材ってのはなんなんだ」
ボクは一拍置いてから、その素材のことを口した。
「魔獣の血液だよ」
グレンは魔力循環で身体能力を向上させ、あちこち飛び跳ねて逃げ回るプルを追いかけ、プルはプルで彼に合わせてわざと油断して捕まって立場を交代したりと、プルなりに楽しんでいるようだった。
ボクは階段を降り切ってからふたりに対して声をかける。
「ただいま。今帰ったよ」
そう声をかけるとプルがぴょこぴょこと跳ね寄り、ボクの胸元に飛び込んで来た。咄嗟にプルを抱え込むと、ぷるぷるとなでて欲しそうにしていたので、軽くなでてあげた。すると満足気に全身をへにゃりとさせてから定位置のボクの肩の上に移動していた。そこへ少し遅れるようにしてグレンが駆け寄って来た。
「早かったな」
「そうでもないよ。キミに地下へと入ってもらってから鐘みっつくらいは経ってるしさ」
「そんなにか」
「そうだよ。それにしてもグレン、かなり魔力循環に慣れて来たみたいだね」
「あぁ、そのスライムと遊んでるうちになんとなくコツが掴めてな」
グレンがボクの肩に乗るプルを指差すと、指差されたプルは不満気に身体をぶるんと波打たせた。その動作がなにに対して不満を抱いたのかと考えながら、グレンにプルの訴えを告げる。
「この子のことは名前で呼んでくれるかな。なんだか不満みたいだからさ」
「あー、そいつの名前ってなんだったっけか」
どうやらグレンはプルの名前を覚えてなかったらしく、申し訳なさそうに後ろ頭を掻きながら率直に訊ねてきた。
「プルだよ」
「プルか。よし、覚えたぜ。プル、オレの訓練に付き合ってくれてあんがとよ」
グレンがプルに対して、ぐっと拳を握って力強く礼を述べると、プルは胸でも張るように身体をぷくりと膨らませていた。
「それはそうと、ここいいな。それなりに広さがってよ」
「錬金術ギルドの敷地ギリギリまで広げてるからね」
「んで、ここはなにに使う予定なんだ」
「薬草栽培に使うつもりだよ。地上の庭先だけだと、栽培する種類も限られそうだし、日当たりや周辺住民の目が気になりそうだったからね」
「あぁ、確かにな。うちの庭だけじゃ、いろいろと育てるにゃ、ちょっと手狭だしな」
「それと、ここなら外の気温や天気に育成環境が左右されることもないから、安定して栽培出来るってのも強みだね」
「温室みたいなもんか」
「そうだね」
「でも、本当に栽培なんて出来るのか。薬草なんてよ」
「問題ないと思うよ。要は土壌に適切な量の魔素を混ぜ込めばいいんだからね。やり方はいろいろあるさ」
「あー、そういや上級ポーション使ったやり方とかあるって言ってたな」
「それもひとつの手だけど、砕いた魔石を土に混ぜても似たような効果を期待出来るんじゃないかな。あれも一応は魔素が結晶化したようなものだしね」
「どっちもかなり金がかかりそうだな」
「まぁ、ボクの場合はユニークスキルでどうにか出来るとは思うよ」
そう告げるとグレンは、一瞬ぽかんとしてからすぐに驚きに表情を塗り替えた。
「そういうことか。確かに【アイテムボックス】なら魔素と土を一緒に収納して中で混ぜ合わせられそうだな」
ボクはグレンの勘違いを利用して、彼の中では【アイテムボックス】を利用した合成だと思い込んでもらうことにした。
「うん。実際やってみたら出来たよ。他にもいろいろとね」
「すげぇもんだな」
「でも、それじゃダメなんだよね」
「ん、なんでだ」
「このやり方だとボクにしか栽培出来ないじゃないか」
「あー、そういうことか。そうすっとやっぱ砕いた魔石を撒くってのが一番無難なのかもな」
「それだと資金的に難しいから低確率なドロップ頼りになるだろうし、現実的じゃないよ。だから比較的入手が容易な別の素材を使うつもりなんだ」
「別の素材?」
心当たりがないらしいグレンは疑問符を浮かべた。
「グレンもさっき言ってただろう。上級ポーションを使ったやり方があるってさ」
「それは金銭的に無理だって話じゃなかったか」
「上級ポーションそのものを使うんならね。だからさ、上級ポーションに使われている素材の方を使うんだよ。上級ポーションが高価なのは、その素材を人体に害がないように処理するのに手間がかかってるのが1番の理由だからね」
グレンはしばし黙り込んで、ボクが口にした内容を頭の中で整理しているのか、どこを見るでもなく宙空に視線を向けていた。ほどなくグレンの中で結論が出たのか、ちいさく頷いた。
「要するにその素材が人間には害があっても、薬草には影響しないかも知れねぇってことか」
「そういうことだよ。そこまではレッドグレイヴでもわかってたけど研究が継続されなかったのは、単純に無駄だと判断されたからだね。そんなことをするくらいなら上級ポーションの素材にした方がマシだってね。他の素材はダンジョンでも手に入るから、向こうだと常にその素材だけが不足しがちだったからね。でも、ここバーガンディでは、上級ポーション作製擬術そのものが確立してないから、上級ポーションに使う素材の需要自体が存在してない。だから好きなだけ使えるって訳さ」
「んで、その素材ってのはなんなんだ」
ボクは一拍置いてから、その素材のことを口した。
「魔獣の血液だよ」
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