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053 盗賊さん、新たなスキルを試す。
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ヒカリさんによるラビィに擬態した[シェイプシフター]への事情聴取は問題なく済んだ。その間、ラビィが余計なことをしないかとの不安もあったが、さすがに彼女も状況を弁えて、キリッとした表情で対応していた。
両手脚を骨折した状態の[シェイプシフター]の様子から、ヒカリさんは錬金術ギルドに新たに所属した錬金術師が、ポーション作製するために城壁外に出ていたと勝手に解釈してくれていた。だからか冒険者ギルドからポーション作製に必要な素材である薬草を、相場よりも安く提供してくれるとまで言ってくれた。
その心配りをボクはありがたく受けることにした。
ヒカリさんから薬草の受け渡しは早い方がいいだろうと提案され、再び冒険者ギルドに戻ることとなった。
ボクは念のためラビィに、そのまま待つように頼んでしっかりと【施錠】してから錬金術ギルドを離れた。
そこからはなんの問題もなく、とんとん拍子にことは進み、ヒカリさんから薬草を受け取った。薬草の代金を支払いながら、ついさっき訪れたときとは打って変わって、がらんとした冒険者ギルドの様子にダンジョン対策は成功したのだと実感した。
「本当にありがとうございます。これでポーションをつくってもらえます」
「それはよかったわ」
微笑むヒカリさんは心の底からそう思っているようだった。ボクは再びヒカリさんに礼を述べてから冒険者ギルドを辞去した。
錬金術ギルドまでの道中で、再度薬師ギルドから襲撃者を送り込まれる可能性を警戒していたが、特に何事もなく帰り着いた。
そのまま真っ直ぐにラビィを待たせた部屋に向かって、扉口で次に取るべき行動を彼女に告げる。
「ダンジョン関連の懸念事項は全て片付いたよ。あとはキミを領主邸まで送るだけなので、帰り支度してもらえるかな」
「えっと、それなんですけど。ひとつお願いしてもいいですか」
「なにかな」
「私をラビィリオとして、このまま錬金術ギルドのギルド員として置いて欲しいんです。私の身代わりは[シェイプシフター]にやらせれば問題ないですし」
「なんのためにそんなことを?」
「お父様の元にいてはひととしてダメになってしまいそうですし、時間が勿体ない気がするんです。既にここで学ばせていただく許可は得ているから大丈夫だと思うんです」
「それは不定期にボクから学ぶ機会を得る程度の意味だったんじゃないかな。領主様もそう解釈していると思いますよ」
「ですが、ここで学ぶことを許可していただいたのは事実です」
ラビィの意思は固いようだった。なので別の方向から説得することにした。
「その領主様の動向を知る機会を失うのは、かまわないのですか」
「う、それは……確かにお父様が次になにをするのかわからないのは、よくない気がします」
「話は決着したようですし、領主邸に行きましょうか。これ以上遅くなると部屋を不在にしていることを不審に思われるでしょうから」
「……はい」
しょんぼりとしたラビィは[シェイプシフター]を宝箱に戻して抱え上げた。それからボクらは夜の領都を足速に領主邸前まで駆け、メイドとしてのラビィが門番の許可を得て敷地内に足を踏み入れるのを見送った。
踵を返そうとすると門番から「あんたも、あのメイドも、お嬢様に振り回されて大変だな」などと労いの言葉をもらうこととなった。
どうやらラビィは領主邸で働く人達からしたら、かなりの悩みの種らしい。普通ならメイドがひとり日没後に街中を駆け回っていたら不審なんてものじゃないだけに、平然と門を潜らされていたので少し不思議だったが、前々からよくあったことなので、今ではなあなあで済まされているらしいと門番からの愚痴で察せられた。
「そちらも大変ですね。ボクもこれからは、その仲間入りすることになるみたいですけどね」
「気の毒なことだが、まぁ、がんばれよ」
「お気遣いどうも。では、ボクはこれで。お疲れ様です」
短い会話で門番からの共感を得たボクは、彼に一礼してから領主邸を離れた。
そのまま錬金術ギルドに帰ってもよかったが、ボクは遠回りするようにして薬師ギルド近くを通ってから帰ることにした。その際にボクは襲撃者が使っていたスキル【隠密】か【潜伏】と思われるものが、盗賊になったばかりの今のボクにも使えるのか試してみた。すると認識阻害の腕輪を付けたときと似たような、自身の存在感を薄れるような感覚が全身を包み込み、難なくスキルを発動させることが出来た。天職による知識で、それらのスキルは盗賊にも使えるらしいとは知っていても、使用法まではわからなかったので、どのような魔力操作をすれば発動させられるのか間接的に教えてくれた襲撃者には、感謝したいくらいだった。
ボクは【隠密】を発動させた状態を維持したまま、隙間から光が漏れ出る薬師ギルドの敷地内に無断で侵入した。魔力循環で聴力を強化して聞き耳を立ててみると、中から苛立たしげな声が誰かを罵倒しているようだった。そのくらいのことは聴き取れるのだが、声の主が地下にでもいるのか音がくぐもっていて、ここからでは会話の内容まではわからなかった。しかし、声の調子から薬師ギルドの関係者が焦りを覚えているらしいと知れただけでも充分だった。
新スキルのお試しを兼ねた雑な情報収集をこなしたボクは、静かに薬師ギルドを離れた。
両手脚を骨折した状態の[シェイプシフター]の様子から、ヒカリさんは錬金術ギルドに新たに所属した錬金術師が、ポーション作製するために城壁外に出ていたと勝手に解釈してくれていた。だからか冒険者ギルドからポーション作製に必要な素材である薬草を、相場よりも安く提供してくれるとまで言ってくれた。
その心配りをボクはありがたく受けることにした。
ヒカリさんから薬草の受け渡しは早い方がいいだろうと提案され、再び冒険者ギルドに戻ることとなった。
ボクは念のためラビィに、そのまま待つように頼んでしっかりと【施錠】してから錬金術ギルドを離れた。
そこからはなんの問題もなく、とんとん拍子にことは進み、ヒカリさんから薬草を受け取った。薬草の代金を支払いながら、ついさっき訪れたときとは打って変わって、がらんとした冒険者ギルドの様子にダンジョン対策は成功したのだと実感した。
「本当にありがとうございます。これでポーションをつくってもらえます」
「それはよかったわ」
微笑むヒカリさんは心の底からそう思っているようだった。ボクは再びヒカリさんに礼を述べてから冒険者ギルドを辞去した。
錬金術ギルドまでの道中で、再度薬師ギルドから襲撃者を送り込まれる可能性を警戒していたが、特に何事もなく帰り着いた。
そのまま真っ直ぐにラビィを待たせた部屋に向かって、扉口で次に取るべき行動を彼女に告げる。
「ダンジョン関連の懸念事項は全て片付いたよ。あとはキミを領主邸まで送るだけなので、帰り支度してもらえるかな」
「えっと、それなんですけど。ひとつお願いしてもいいですか」
「なにかな」
「私をラビィリオとして、このまま錬金術ギルドのギルド員として置いて欲しいんです。私の身代わりは[シェイプシフター]にやらせれば問題ないですし」
「なんのためにそんなことを?」
「お父様の元にいてはひととしてダメになってしまいそうですし、時間が勿体ない気がするんです。既にここで学ばせていただく許可は得ているから大丈夫だと思うんです」
「それは不定期にボクから学ぶ機会を得る程度の意味だったんじゃないかな。領主様もそう解釈していると思いますよ」
「ですが、ここで学ぶことを許可していただいたのは事実です」
ラビィの意思は固いようだった。なので別の方向から説得することにした。
「その領主様の動向を知る機会を失うのは、かまわないのですか」
「う、それは……確かにお父様が次になにをするのかわからないのは、よくない気がします」
「話は決着したようですし、領主邸に行きましょうか。これ以上遅くなると部屋を不在にしていることを不審に思われるでしょうから」
「……はい」
しょんぼりとしたラビィは[シェイプシフター]を宝箱に戻して抱え上げた。それからボクらは夜の領都を足速に領主邸前まで駆け、メイドとしてのラビィが門番の許可を得て敷地内に足を踏み入れるのを見送った。
踵を返そうとすると門番から「あんたも、あのメイドも、お嬢様に振り回されて大変だな」などと労いの言葉をもらうこととなった。
どうやらラビィは領主邸で働く人達からしたら、かなりの悩みの種らしい。普通ならメイドがひとり日没後に街中を駆け回っていたら不審なんてものじゃないだけに、平然と門を潜らされていたので少し不思議だったが、前々からよくあったことなので、今ではなあなあで済まされているらしいと門番からの愚痴で察せられた。
「そちらも大変ですね。ボクもこれからは、その仲間入りすることになるみたいですけどね」
「気の毒なことだが、まぁ、がんばれよ」
「お気遣いどうも。では、ボクはこれで。お疲れ様です」
短い会話で門番からの共感を得たボクは、彼に一礼してから領主邸を離れた。
そのまま錬金術ギルドに帰ってもよかったが、ボクは遠回りするようにして薬師ギルド近くを通ってから帰ることにした。その際にボクは襲撃者が使っていたスキル【隠密】か【潜伏】と思われるものが、盗賊になったばかりの今のボクにも使えるのか試してみた。すると認識阻害の腕輪を付けたときと似たような、自身の存在感を薄れるような感覚が全身を包み込み、難なくスキルを発動させることが出来た。天職による知識で、それらのスキルは盗賊にも使えるらしいとは知っていても、使用法まではわからなかったので、どのような魔力操作をすれば発動させられるのか間接的に教えてくれた襲撃者には、感謝したいくらいだった。
ボクは【隠密】を発動させた状態を維持したまま、隙間から光が漏れ出る薬師ギルドの敷地内に無断で侵入した。魔力循環で聴力を強化して聞き耳を立ててみると、中から苛立たしげな声が誰かを罵倒しているようだった。そのくらいのことは聴き取れるのだが、声の主が地下にでもいるのか音がくぐもっていて、ここからでは会話の内容まではわからなかった。しかし、声の調子から薬師ギルドの関係者が焦りを覚えているらしいと知れただけでも充分だった。
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