天職はドロップ率300%の盗賊、錬金術師を騙る。

朱本来未

文字の大きさ
上 下
53 / 118

053 盗賊さん、新たなスキルを試す。

しおりを挟む
 ヒカリさんによるラビィに擬態した[シェイプシフター]への事情聴取は問題なく済んだ。その間、ラビィが余計なことをしないかとの不安もあったが、さすがに彼女も状況を弁えて、キリッとした表情で対応していた。
 両手脚を骨折した状態の[シェイプシフター]の様子から、ヒカリさんは錬金術ギルドに新たに所属した錬金術師が、ポーション作製するために城壁外に出ていたと勝手に解釈してくれていた。だからか冒険者ギルドからポーション作製に必要な素材である薬草を、相場よりも安く提供してくれるとまで言ってくれた。
 その心配りをボクはありがたく受けることにした。
 ヒカリさんから薬草の受け渡しは早い方がいいだろうと提案され、再び冒険者ギルドに戻ることとなった。
 ボクは念のためラビィに、そのまま待つように頼んでしっかりと【施錠】してから錬金術ギルドを離れた。

 そこからはなんの問題もなく、とんとん拍子にことは進み、ヒカリさんから薬草を受け取った。薬草の代金を支払いながら、ついさっき訪れたときとは打って変わって、がらんとした冒険者ギルドの様子にダンジョン対策は成功したのだと実感した。
「本当にありがとうございます。これでポーションをつくってもらえます」
「それはよかったわ」
 微笑むヒカリさんは心の底からそう思っているようだった。ボクは再びヒカリさんに礼を述べてから冒険者ギルドを辞去した。

 錬金術ギルドまでの道中で、再度薬師ギルドから襲撃者を送り込まれる可能性を警戒していたが、特に何事もなく帰り着いた。
 そのまま真っ直ぐにラビィを待たせた部屋に向かって、扉口で次に取るべき行動を彼女に告げる。
「ダンジョン関連の懸念事項は全て片付いたよ。あとはキミを領主邸まで送るだけなので、帰り支度してもらえるかな」
「えっと、それなんですけど。ひとつお願いしてもいいですか」
「なにかな」
「私をラビィリオとして、このまま錬金術ギルドのギルド員として置いて欲しいんです。私の身代わりは[シェイプシフター]にやらせれば問題ないですし」
「なんのためにそんなことを?」
「お父様の元にいてはひととしてダメになってしまいそうですし、時間が勿体ない気がするんです。既にここで学ばせていただく許可は得ているから大丈夫だと思うんです」
「それは不定期にボクから学ぶ機会を得る程度の意味だったんじゃないかな。領主様もそう解釈していると思いますよ」
「ですが、ここで学ぶことを許可していただいたのは事実です」
 ラビィの意思は固いようだった。なので別の方向から説得することにした。
「その領主様の動向を知る機会を失うのは、かまわないのですか」
「う、それは……確かにお父様が次になにをするのかわからないのは、よくない気がします」
「話は決着したようですし、領主邸に行きましょうか。これ以上遅くなると部屋を不在にしていることを不審に思われるでしょうから」
「……はい」
 しょんぼりとしたラビィは[シェイプシフター]を宝箱に戻して抱え上げた。それからボクらは夜の領都を足速に領主邸前まで駆け、メイドとしてのラビィが門番の許可を得て敷地内に足を踏み入れるのを見送った。
 踵を返そうとすると門番から「あんたも、あのメイドも、お嬢様に振り回されて大変だな」などと労いの言葉をもらうこととなった。
 どうやらラビィは領主邸で働く人達からしたら、かなりの悩みの種らしい。普通ならメイドがひとり日没後に街中を駆け回っていたら不審なんてものじゃないだけに、平然と門を潜らされていたので少し不思議だったが、前々からよくあったことなので、今ではなあなあで済まされているらしいと門番からの愚痴で察せられた。
「そちらも大変ですね。ボクもこれからは、その仲間入りすることになるみたいですけどね」
「気の毒なことだが、まぁ、がんばれよ」
「お気遣いどうも。では、ボクはこれで。お疲れ様です」
 短い会話で門番からの共感を得たボクは、彼に一礼してから領主邸を離れた。

 そのまま錬金術ギルドに帰ってもよかったが、ボクは遠回りするようにして薬師ギルド近くを通ってから帰ることにした。その際にボクは襲撃者が使っていたスキル【隠密】か【潜伏】と思われるものが、盗賊になったばかりの今のボクにも使えるのか試してみた。すると認識阻害の腕輪を付けたときと似たような、自身の存在感を薄れるような感覚が全身を包み込み、難なくスキルを発動させることが出来た。天職による知識で、それらのスキルは盗賊にも使えるらしいとは知っていても、使用法まではわからなかったので、どのような魔力操作をすれば発動させられるのか間接的に教えてくれた襲撃者には、感謝したいくらいだった。
 ボクは【隠密】を発動させた状態を維持したまま、隙間から光が漏れ出る薬師ギルドの敷地内に無断で侵入した。魔力循環で聴力を強化して聞き耳を立ててみると、中から苛立たしげな声が誰かを罵倒しているようだった。そのくらいのことは聴き取れるのだが、声の主が地下にでもいるのか音がくぐもっていて、ここからでは会話の内容まではわからなかった。しかし、声の調子から薬師ギルドの関係者が焦りを覚えているらしいと知れただけでも充分だった。
 新スキルのお試しを兼ねた雑な情報収集をこなしたボクは、静かに薬師ギルドを離れた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

母親に家を追い出されたので、勝手に生きる!!(泣きついて来ても、助けてやらない)

いくみ
ファンタジー
実母に家を追い出された。 全く親父の奴!勝手に消えやがって! 親父が帰ってこなくなったから、実母が再婚したが……。その再婚相手は働きもせずに好き勝手する男だった。 俺は消えた親父から母と頼むと、言われて。 母を守ったつもりだったが……出て行けと言われた……。 なんだこれ!俺よりもその男とできた子供の味方なんだな? なら、出ていくよ! 俺が居なくても食って行けるなら勝手にしろよ! これは、のんびり気ままに冒険をする男の話です。 カクヨム様にて先行掲載中です。 不定期更新です。

大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです

飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。 だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。 勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し! そんなお話です。

【完結】あなたに知られたくなかった

ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。 5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。 そんなセレナに起きた奇跡とは?

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る

マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息 三歳で婚約破棄され そのショックで前世の記憶が蘇る 前世でも貧乏だったのなんの問題なし なによりも魔法の世界 ワクワクが止まらない三歳児の 波瀾万丈

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

[鑑定]スキルしかない俺を追放したのはいいが、貴様らにはもう関わるのはイヤだから、さがさないでくれ!

どら焼き
ファンタジー
ついに!第5章突入! 舐めた奴らに、真実が牙を剥く! 何も説明無く、いきなり異世界転移!らしいのだが、この王冠つけたオッサン何を言っているのだ? しかも、ステータスが文字化けしていて、スキルも「鑑定??」だけって酷くない? 訳のわからない言葉?を発声している王女?と、勇者らしい同級生達がオレを城から捨てやがったので、 なんとか、苦労して宿代とパン代を稼ぐ主人公カザト! そして…わかってくる、この異世界の異常性。 出会いを重ねて、なんとか元の世界に戻る方法を切り開いて行く物語。 主人公の直接復讐する要素は、あまりありません。 相手方の、あまりにも酷い自堕落さから出てくる、ざまぁ要素は、少しづつ出てくる予定です。 ハーレム要素は、不明とします。 復讐での強制ハーレム要素は、無しの予定です。 追記  2023/07/21 表紙絵を戦闘モードになったあるヤツの参考絵にしました。 8月近くでなにが、変形するのかわかる予定です。 2024/02/23 アルファポリスオンリーを解除しました。

システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。

大国 鹿児
ファンタジー
輪廻転生のシステムのバグで輪廻の輪から外れちゃった! でも神様から便利なチートグッズ(笑)の詰め合わせをもらって、 他の星に転生しました!特に使命も無いなら自由気ままに生きてみよう! 主人公はチート無双するのか!? それともハーレムか!? はたまた、壮大なファンタジーが始まるのか!? いえ、実は単なる趣味全開の主人公です。 色々な秘密がだんだん明らかになりますので、ゆっくりとお楽しみください。 *** 作品について *** この作品は、真面目なチート物ではありません。 コメディーやギャグ要素やネタの多い作品となっております 重厚な世界観や派手な戦闘描写、ざまあ展開などをお求めの方は、 この作品をスルーして下さい。 *カクヨム様,小説家になろう様でも、別PNで先行して投稿しております。

処理中です...