50 / 118
050 盗賊さん、危機感を煽る。
しおりを挟む
錬金術ギルドに戻ったボクらは、ラビィを介抱したのと同じ部屋に、骨折したラビィに擬態させた[シェイプシフター]をベッドに寝かせた。
「ひとつ聞きたいんだけど、この子はしゃべれるの?」
「大丈夫ですよ。私の記憶もきちんと模倣してるので、指示さえ与えてあげればその通りに行動してくれます」
「それなら2層でスライムに攻撃されたときのことを証言させるとして、この子にも認識阻害の腕輪を着けさせないといけないわけだけど。どうやって魔力供給させるかが問題だね」
ベッドに横たわる擬態した[シェイプシフター]は、マリアの姿をしている。認識阻害の腕輪を着けなければ困ったことになるのは明白だった。だけれど[シェイプシフター]は、あくまでもアイテムなので、自身で魔力を生成出来るわけじゃない。認識阻害の腕輪を着けさせたとしても効果を発揮させられないという問題があった。
「それなら私が彼女の手を掴んで、直接魔力を分け与えますよ」
「ふたり分の認識阻害を維持出来るだけの魔力はありそう?」
ラビィは任せてくださいとばかりに力こぶをつくって自信の程を示してみせた。
「今日は全然余裕なので、あと3人分くらい平気ですよ」
「それは頼もしいね」
バーガンディでボクの錬金術師としての知名度が高ければ、そんなことさせることなく、上級ポーションで治療したってことで話も通せるんだろうけど、出来ないことを考えても仕方がないね。
「ボクは冒険者ギルドに行ってくるから、ノックしたら[シェイプシフター]に着けさせた腕輪に魔力供給してくれるかな。それまでは無駄に魔力を消費する必要もないからさ」
ボクはウエストポーチから認識阻害の腕輪をふたつ取り出してひとつをラビィに預け、残るひとつをボク自身が身に着けてから、錬金術ギルドを【施錠】するなり冒険者ギルドを目指して駆け出した。
冒険者ギルドまでは全力で走り、わざと息が上がっているかのように振る舞いながら中に飛び込む。扉を壊しかねないような勢いで飛び込み、肩で息をする演技をしながら真っ直ぐに受付に進む。無駄に派手な音を立てて突入したからか、受付にたどり着くまでに不躾な視線が方々から絡み付いてくる。それらを無視してボクは受付の女性に息も絶え絶えといった様子で話を切り出した。
「すみません。責任者の方はいらっしゃいませんか。緊急でお知らせしたいことがあるんです」
鬼気迫るボクに最初こそ受付の女性はたじろいだけれど、表情をキリッとさせて応対を始めた。
「それが必要かどうかはこちらで判断しますので、その内容を話していただけませんか」
躊躇うように口を開いたり閉じたりと、少し迷った素振りを見せてから、ボクは意を決したように報告をする。
「先日、北地区のダンジョンの2層で両手脚を骨折させられた冒険者が目を覚まして、それで……」
「え、ちょっと待ってください。北地区のダンジョンってスライムのですよね。そこで両手脚を骨折ってなにがあったんですか」
「わかりません。ボクはうちに運ばれて来たそのひとを介抱しただけですから。ただ特殊な個体かなにか出たんだと思います。その冒険者のひとが言うには、もしかしたら集団暴走の兆候なんじゃないかって……」
いつの間にかギルドと、その隣に併設された飲食店は、しんと静まり返っていた。話を聞いていた受付の女性は背後を振り返って、別の職員に声をかける。
「ここ数日の利用者記録をお願い。負傷者が出てるんなら、その記録も残っているわよね」
よく通る声を耳にした別の職員が資料を探し始める。慌ただしく動き回る背後の職員と違って、落ち着き払った目の前の女性は、ボクに視線を戻した。
「他になにか聞いてない。その冒険者の名前なんかも教えてもらえると助かるのだけれど」
「名前はラビィリオ・ラビュリントスです。それと他に聞いたことと言ったら、すごい数のスライムが居たってくらいです。鐘ひとつくらいの時間でスライムが100匹以上出て来たとか」
「それが本当ならいくらなんでも多過ぎね」
口元に手を当てて深く考え込む女性の背後で声が上がる。
「副ギルド長、負傷者記録ありました。氏名もその子が言ってたのと一致してます」
「見せてくれる」
副ギルド長と呼ばれた女性は、手渡された分厚い資料をパラパラとめくって目を通しながら徐々に口元を歪めていった。
「直近90日間のダンジョン利用者数が延7人か。しかも2層まで入ったのは2人だけ、ここまで放置されてたとなると特殊個体が出現してても不思議じゃないわね。このまま放置してたら確かに集団暴走が起きる可能性は充分に高いわ。攻略難易度が低いダンジョンだからって、軽んじた扱いをして管理が不十分だったってことね」
ぱたんと閉じた資料をデスクの上に下ろした副ギルド長は、ふぅっと深く息を吐いてからぱしんと両の手を打ち鳴らした。
「ギルドから緊急依頼を出させてもらいます。内容はギルド専属冒険者とパーティーを組んでの北地区ダンジョン4層までのスライム殲滅。パーティーは全部で8つ。1パーティーにつき5名募集します。報酬はひとり金貨2枚です。最低条件は冒険者ランク3以上とします」
並べ立てられる依頼内容を聞きながら、冒険者ランクなんてものが存在していたのかと思ったけれど、それを聞けるような状況ではなかった。しかし、この様子なら[シェイプシフター]にラビィの擬態をさせる必要はなかったかな。そう思っていたのがいけなかったのか、目の前に立つ副ギルド長は、ボクを真っ直ぐに見据えて言った。
「悪いけれど、負傷したっていう冒険者のところまで案内してもらえるかしら」
「ひとつ聞きたいんだけど、この子はしゃべれるの?」
「大丈夫ですよ。私の記憶もきちんと模倣してるので、指示さえ与えてあげればその通りに行動してくれます」
「それなら2層でスライムに攻撃されたときのことを証言させるとして、この子にも認識阻害の腕輪を着けさせないといけないわけだけど。どうやって魔力供給させるかが問題だね」
ベッドに横たわる擬態した[シェイプシフター]は、マリアの姿をしている。認識阻害の腕輪を着けなければ困ったことになるのは明白だった。だけれど[シェイプシフター]は、あくまでもアイテムなので、自身で魔力を生成出来るわけじゃない。認識阻害の腕輪を着けさせたとしても効果を発揮させられないという問題があった。
「それなら私が彼女の手を掴んで、直接魔力を分け与えますよ」
「ふたり分の認識阻害を維持出来るだけの魔力はありそう?」
ラビィは任せてくださいとばかりに力こぶをつくって自信の程を示してみせた。
「今日は全然余裕なので、あと3人分くらい平気ですよ」
「それは頼もしいね」
バーガンディでボクの錬金術師としての知名度が高ければ、そんなことさせることなく、上級ポーションで治療したってことで話も通せるんだろうけど、出来ないことを考えても仕方がないね。
「ボクは冒険者ギルドに行ってくるから、ノックしたら[シェイプシフター]に着けさせた腕輪に魔力供給してくれるかな。それまでは無駄に魔力を消費する必要もないからさ」
ボクはウエストポーチから認識阻害の腕輪をふたつ取り出してひとつをラビィに預け、残るひとつをボク自身が身に着けてから、錬金術ギルドを【施錠】するなり冒険者ギルドを目指して駆け出した。
冒険者ギルドまでは全力で走り、わざと息が上がっているかのように振る舞いながら中に飛び込む。扉を壊しかねないような勢いで飛び込み、肩で息をする演技をしながら真っ直ぐに受付に進む。無駄に派手な音を立てて突入したからか、受付にたどり着くまでに不躾な視線が方々から絡み付いてくる。それらを無視してボクは受付の女性に息も絶え絶えといった様子で話を切り出した。
「すみません。責任者の方はいらっしゃいませんか。緊急でお知らせしたいことがあるんです」
鬼気迫るボクに最初こそ受付の女性はたじろいだけれど、表情をキリッとさせて応対を始めた。
「それが必要かどうかはこちらで判断しますので、その内容を話していただけませんか」
躊躇うように口を開いたり閉じたりと、少し迷った素振りを見せてから、ボクは意を決したように報告をする。
「先日、北地区のダンジョンの2層で両手脚を骨折させられた冒険者が目を覚まして、それで……」
「え、ちょっと待ってください。北地区のダンジョンってスライムのですよね。そこで両手脚を骨折ってなにがあったんですか」
「わかりません。ボクはうちに運ばれて来たそのひとを介抱しただけですから。ただ特殊な個体かなにか出たんだと思います。その冒険者のひとが言うには、もしかしたら集団暴走の兆候なんじゃないかって……」
いつの間にかギルドと、その隣に併設された飲食店は、しんと静まり返っていた。話を聞いていた受付の女性は背後を振り返って、別の職員に声をかける。
「ここ数日の利用者記録をお願い。負傷者が出てるんなら、その記録も残っているわよね」
よく通る声を耳にした別の職員が資料を探し始める。慌ただしく動き回る背後の職員と違って、落ち着き払った目の前の女性は、ボクに視線を戻した。
「他になにか聞いてない。その冒険者の名前なんかも教えてもらえると助かるのだけれど」
「名前はラビィリオ・ラビュリントスです。それと他に聞いたことと言ったら、すごい数のスライムが居たってくらいです。鐘ひとつくらいの時間でスライムが100匹以上出て来たとか」
「それが本当ならいくらなんでも多過ぎね」
口元に手を当てて深く考え込む女性の背後で声が上がる。
「副ギルド長、負傷者記録ありました。氏名もその子が言ってたのと一致してます」
「見せてくれる」
副ギルド長と呼ばれた女性は、手渡された分厚い資料をパラパラとめくって目を通しながら徐々に口元を歪めていった。
「直近90日間のダンジョン利用者数が延7人か。しかも2層まで入ったのは2人だけ、ここまで放置されてたとなると特殊個体が出現してても不思議じゃないわね。このまま放置してたら確かに集団暴走が起きる可能性は充分に高いわ。攻略難易度が低いダンジョンだからって、軽んじた扱いをして管理が不十分だったってことね」
ぱたんと閉じた資料をデスクの上に下ろした副ギルド長は、ふぅっと深く息を吐いてからぱしんと両の手を打ち鳴らした。
「ギルドから緊急依頼を出させてもらいます。内容はギルド専属冒険者とパーティーを組んでの北地区ダンジョン4層までのスライム殲滅。パーティーは全部で8つ。1パーティーにつき5名募集します。報酬はひとり金貨2枚です。最低条件は冒険者ランク3以上とします」
並べ立てられる依頼内容を聞きながら、冒険者ランクなんてものが存在していたのかと思ったけれど、それを聞けるような状況ではなかった。しかし、この様子なら[シェイプシフター]にラビィの擬態をさせる必要はなかったかな。そう思っていたのがいけなかったのか、目の前に立つ副ギルド長は、ボクを真っ直ぐに見据えて言った。
「悪いけれど、負傷したっていう冒険者のところまで案内してもらえるかしら」
0
お気に入りに追加
142
あなたにおすすめの小説
大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです
飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。
だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。
勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し!
そんなお話です。

【完結】あなたに知られたくなかった
ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。
5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。
そんなセレナに起きた奇跡とは?

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る
マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息
三歳で婚約破棄され
そのショックで前世の記憶が蘇る
前世でも貧乏だったのなんの問題なし
なによりも魔法の世界
ワクワクが止まらない三歳児の
波瀾万丈

少し冷めた村人少年の冒険記
mizuno sei
ファンタジー
辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。
トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。
優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。
[鑑定]スキルしかない俺を追放したのはいいが、貴様らにはもう関わるのはイヤだから、さがさないでくれ!
どら焼き
ファンタジー
ついに!第5章突入!
舐めた奴らに、真実が牙を剥く!
何も説明無く、いきなり異世界転移!らしいのだが、この王冠つけたオッサン何を言っているのだ?
しかも、ステータスが文字化けしていて、スキルも「鑑定??」だけって酷くない?
訳のわからない言葉?を発声している王女?と、勇者らしい同級生達がオレを城から捨てやがったので、
なんとか、苦労して宿代とパン代を稼ぐ主人公カザト!
そして…わかってくる、この異世界の異常性。
出会いを重ねて、なんとか元の世界に戻る方法を切り開いて行く物語。
主人公の直接復讐する要素は、あまりありません。
相手方の、あまりにも酷い自堕落さから出てくる、ざまぁ要素は、少しづつ出てくる予定です。
ハーレム要素は、不明とします。
復讐での強制ハーレム要素は、無しの予定です。
追記
2023/07/21 表紙絵を戦闘モードになったあるヤツの参考絵にしました。
8月近くでなにが、変形するのかわかる予定です。
2024/02/23
アルファポリスオンリーを解除しました。

システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。
大国 鹿児
ファンタジー
輪廻転生のシステムのバグで輪廻の輪から外れちゃった!
でも神様から便利なチートグッズ(笑)の詰め合わせをもらって、
他の星に転生しました!特に使命も無いなら自由気ままに生きてみよう!
主人公はチート無双するのか!? それともハーレムか!?
はたまた、壮大なファンタジーが始まるのか!?
いえ、実は単なる趣味全開の主人公です。
色々な秘密がだんだん明らかになりますので、ゆっくりとお楽しみください。
*** 作品について ***
この作品は、真面目なチート物ではありません。
コメディーやギャグ要素やネタの多い作品となっております
重厚な世界観や派手な戦闘描写、ざまあ展開などをお求めの方は、
この作品をスルーして下さい。
*カクヨム様,小説家になろう様でも、別PNで先行して投稿しております。
誰一人帰らない『奈落』に落とされたおっさん、うっかり暗号を解読したら、未知の遺物の使い手になりました!
ミポリオン
ファンタジー
旧題:巻き込まれ召喚されたおっさん、無能で誰一人帰らない場所に追放されるも、超古代文明の暗号を解いて力を手にいれ、楽しく生きていく
高校生達が勇者として召喚される中、1人のただのサラリーマンのおっさんである福菅健吾が巻き込まれて異世界に召喚された。
高校生達は強力なステータスとスキルを獲得したが、おっさんは一般人未満のステータスしかない上に、異世界人の誰もが持っている言語理解しかなかったため、転移装置で誰一人帰ってこない『奈落』に追放されてしまう。
しかし、そこに刻まれた見たこともない文字を、健吾には全て理解する事ができ、強大な超古代文明のアイテムを手に入れる。
召喚者達は気づかなかった。健吾以外の高校生達の通常スキル欄に言語スキルがあり、健吾だけは固有スキルの欄に言語スキルがあった事を。そしてそのスキルが恐るべき力を秘めていることを。
※カクヨムでも連載しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる