天職はドロップ率300%の盗賊、錬金術師を騙る。

朱本来未

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050 盗賊さん、危機感を煽る。

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 錬金術ギルドに戻ったボクらは、ラビィを介抱したのと同じ部屋に、骨折したラビィに擬態させた[シェイプシフター]をベッドに寝かせた。
「ひとつ聞きたいんだけど、この子はしゃべれるの?」
「大丈夫ですよ。私の記憶もきちんと模倣してるので、指示さえ与えてあげればその通りに行動してくれます」
「それなら2層でスライムに攻撃されたときのことを証言させるとして、この子にも認識阻害の腕輪を着けさせないといけないわけだけど。どうやって魔力供給させるかが問題だね」
 ベッドに横たわる擬態した[シェイプシフター]は、マリアの姿をしている。認識阻害の腕輪を着けなければ困ったことになるのは明白だった。だけれど[シェイプシフター]は、あくまでもアイテムなので、自身で魔力を生成出来るわけじゃない。認識阻害の腕輪を着けさせたとしても効果を発揮させられないという問題があった。
「それなら私が彼女の手を掴んで、直接魔力を分け与えますよ」
「ふたり分の認識阻害を維持出来るだけの魔力はありそう?」
 ラビィは任せてくださいとばかりに力こぶをつくって自信の程を示してみせた。
「今日は全然余裕なので、あと3人分くらい平気ですよ」
「それは頼もしいね」
 バーガンディでボクの錬金術師としての知名度が高ければ、そんなことさせることなく、上級ポーションで治療したってことで話も通せるんだろうけど、出来ないことを考えても仕方がないね。
「ボクは冒険者ギルドに行ってくるから、ノックしたら[シェイプシフター]に着けさせた腕輪に魔力供給してくれるかな。それまでは無駄に魔力を消費する必要もないからさ」
 ボクはウエストポーチから認識阻害の腕輪をふたつ取り出してひとつをラビィに預け、残るひとつをボク自身が身に着けてから、錬金術ギルドを【施錠】するなり冒険者ギルドを目指して駆け出した。

 冒険者ギルドまでは全力で走り、わざと息が上がっているかのように振る舞いながら中に飛び込む。扉を壊しかねないような勢いで飛び込み、肩で息をする演技をしながら真っ直ぐに受付に進む。無駄に派手な音を立てて突入したからか、受付にたどり着くまでに不躾な視線が方々から絡み付いてくる。それらを無視してボクは受付の女性に息も絶え絶えといった様子で話を切り出した。
「すみません。責任者の方はいらっしゃいませんか。緊急でお知らせしたいことがあるんです」
 鬼気迫るボクに最初こそ受付の女性はたじろいだけれど、表情をキリッとさせて応対を始めた。
「それが必要かどうかはこちらで判断しますので、その内容を話していただけませんか」
 躊躇うように口を開いたり閉じたりと、少し迷った素振りを見せてから、ボクは意を決したように報告をする。
「先日、北地区のダンジョンの2層で両手脚を骨折させられた冒険者が目を覚まして、それで……」
「え、ちょっと待ってください。北地区のダンジョンってスライムのですよね。そこで両手脚を骨折ってなにがあったんですか」
「わかりません。ボクはうちに運ばれて来たそのひとを介抱しただけですから。ただ特殊な個体かなにか出たんだと思います。その冒険者のひとが言うには、もしかしたら集団暴走スタンピードの兆候なんじゃないかって……」
 いつの間にかギルドと、その隣に併設された飲食店は、しんと静まり返っていた。話を聞いていた受付の女性は背後を振り返って、別の職員に声をかける。
「ここ数日の利用者記録をお願い。負傷者が出てるんなら、その記録も残っているわよね」
 よく通る声を耳にした別の職員が資料を探し始める。慌ただしく動き回る背後の職員と違って、落ち着き払った目の前の女性は、ボクに視線を戻した。
「他になにか聞いてない。その冒険者の名前なんかも教えてもらえると助かるのだけれど」
「名前はラビィリオ・ラビュリントスです。それと他に聞いたことと言ったら、すごい数のスライムが居たってくらいです。鐘ひとつくらいの時間でスライムが100匹以上出て来たとか」
「それが本当ならいくらなんでも多過ぎね」
 口元に手を当てて深く考え込む女性の背後で声が上がる。
「副ギルド長、負傷者記録ありました。氏名もその子が言ってたのと一致してます」
「見せてくれる」
 副ギルド長と呼ばれた女性は、手渡された分厚い資料をパラパラとめくって目を通しながら徐々に口元を歪めていった。
「直近90日間のダンジョン利用者数が延7人か。しかも2層まで入ったのは2人だけ、ここまで放置されてたとなると特殊個体が出現してても不思議じゃないわね。このまま放置してたら確かに集団暴走スタンピードが起きる可能性は充分に高いわ。攻略難易度が低いダンジョンだからって、軽んじた扱いをして管理が不十分だったってことね」
 ぱたんと閉じた資料をデスクの上に下ろした副ギルド長は、ふぅっと深く息を吐いてからぱしんと両の手を打ち鳴らした。
「ギルドから緊急依頼を出させてもらいます。内容はギルド専属冒険者とパーティーを組んでの北地区ダンジョン4層までのスライム殲滅。パーティーは全部で8つ。1パーティーにつき5名募集します。報酬はひとり金貨2枚です。最低条件は冒険者ランク3以上とします」
 並べ立てられる依頼内容を聞きながら、冒険者ランクなんてものが存在していたのかと思ったけれど、それを聞けるような状況ではなかった。しかし、この様子なら[シェイプシフター]にラビィの擬態をさせる必要はなかったかな。そう思っていたのがいけなかったのか、目の前に立つ副ギルド長は、ボクを真っ直ぐに見据えて言った。
「悪いけれど、負傷したっていう冒険者のところまで案内してもらえるかしら」
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