天職はドロップ率300%の盗賊、錬金術師を騙る。

朱本来未

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049 盗賊さん、説得する。

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 領主の話を聞いていて、ふとスライムダンジョンの魔物出現エリアとの境目に設置された扉のことが脳裏に浮かんだ。あの扉は魔素の拡散を妨げることで、無理やりにダンジョンを成長させようと設けられた物なのかもしれない。そんな可能性が脳裏をかすめた。
 あのダンジョンに出現するのは、初心者でも討伐可能なスライムばかり。仮に集団暴走スタンピードを起こしても大丈夫だろうと高を括って、扉を設置したのではないかと思えたのだ。そう考えるに至ったのは、目の前の領主があえて不正を容認していたりなどの方針を、当たり前のように取っていたからだった。
 またポーション関係のことで、レッドグレイヴの錬金術師資格を持ったボクが現れた途端に方針を切り替えたことから、領主は代替となるものがあれば即座に方針を切り替えると思われる。だから新たなダンジョンが発見された今なら、スライムダンジョンの扉の撤去を進言してもするなりと受けられられるのではないかと、ボクは判断した。
「もしかしてなのですが、北地区にあるダンジョン入口に扉を設けられたのは、魔素の拡散を妨げることでダンジョン成長させるためなのでしょうか」
 ボクの質問に対して領主は理解者を得たとばかりに、にやりとした笑みを浮かべた。
「あぁ、そうすることで魔物の発生量や質が格段に向上するからね。攻略難易度の低いダンジョンには設置するようにしているよ」
「それですと集団暴走スタンピードの発生を誘発することにならないのですか」
「そのことなら心配ないよ。騎士を定期的に送り込んで、魔物の発生状況などをチェックさせているからね。危険なようなら魔物の数を減らすよう指示は出してある」
「そうなのですか? それはどの程度の頻度で行われているのでしょうか」
「大体半年から1年に一度だね」
 少し嫌な予感がした。ここは不正を容認されている領なのである。しかも近年は強盗騎士などといった輩を現れ、その対応に追われていた。まともにダンジョンの調査が行われていたとは思えなかった。
「昨今は強盗騎士の対応に苦慮されていたようですが、騎士にダンジョン調査を行わせるのは厳しかったのでは」
 ボクの言葉に対して苦笑する領主からは、明らかに不満が滲んでいた。
「確かにそうだね。だが前回の調査結果から比較的安全だと判断されたダンジョンを除外することで、どうにか対応しているよ」
 それを聞いてスライムダンジョンは集団暴走スタンピード一歩手前の状態にあると確信した。狩っても狩っても狩尽くせないほどに出現した1層のスライム。それに加えて2層に出現したスライムが、明らかに初心者では対応出来ないレベルの攻撃力を持っていたことから、より深層の魔物が魔素濃度が高まったことで上層にまで登って来たとしか思えなかった。
「その除外された中に北地区のスライムばかりが出現するダンジョンは含まれていますか」
「あぁ、あのダンジョンか。あそこは長いこと調査対象外だね。ドロップアイテムも価値が低く、魔物も容易に討伐可能なスライムしか出現しないからね」
 想定していたよりも最悪の返答に頭が痛くなった。
「でしたらもう扉を撤去してもよい頃合いかと。先日、探索に行った際に、集団暴走スタンピードの前触れなんじゃないかと思えるほどの数のスライムと遭遇しましたから」
「そうなのかね。だが、所詮はスライムだろう。集団暴走スタンピードが起こったとしても簡単に対応出来るのではないかね」
 魔物の知識がないのかと思えるほど安直な判断に閉口しそうになる。それでも魔物の危険性を伝えなければと言葉を重ねる。
「そうも言い切れません。2層に出現したスライムと遭遇した冒険者が、スライムの体当たりひとつで骨折するほどでしたからね。初心者とは言っても冒険者がそれほどの被害を受けるくらいですから、戦闘の心得もない一般の方ですとなおさら危険なのではないかと」
「そこまで仰るのでしたら念のために調査させましょう」
 領主は納得しかねるといった表情をしていたが、どうにか対応するとの言質を得られた。
「ありがとうございます」
 そこからは特に言及する話題もなく、取り止めもない言葉を交わすにとどまった。やがて冒険者ギルドに新規ダンジョンの調査依頼を手配しに行っていた執事が戻って来たところでお開きとなった。

 ラビィと連れ立って部屋に戻ると、彼女は部屋に入るなり[シェイプシフター]を使用した。それがマリアとしての彼女の姿を取ると、ラビィは[マルチクロース]でメイド服に早着替えするなり、血相を変えてこちらを振り向いた。
「ヒイロさん、今すぐあのダンジョンに行きましょう」
「どうしたの急に」
「さっきの話、嘘じゃないんですよね。集団暴走スタンピードが起こるかもしれないって」
「確証があるわけじゃないけど、その可能性は高いと思うよ」
「だったら早く対処しないと街が大変なことになっちゃいます」
 ラビィの焦り方からは、どこか確信めいたものを感じた。
「なぜそう思うの」
「あのダンジョンで身を持ってスライムの危険性を体感したからです」
「あぁ、それでなんだね。一応、ラビィを救出する際に、溜まっていた魔素をある程度は減らしておいたから、少しは時間的余裕あると思うよ」
「そう、なのですか。でも、あのお父様がすぐに動いてくれるとは思えません」
「そこまで心配なら今から冒険者ギルドに報告だけでもしに行こうか。ただ骨折が完治してるラビィの証言を信用してくれるか微妙なところだね。ここで手に入るポーションじゃ、骨折を1日2日で完治させるのは難しいからね」
「それなら[シェイプシフター]に骨折した私の姿を取らせましょう。それでギルド職員さんを錬金術ギルドに呼んで証言させるんです」
「わかった。それでいこうか」
 ボクが肯定の返事をするとラビィは「シェイプシフター]を宝箱に戻し、それを抱えると認識阻害の腕輪を着けた。
「さぁ、急ぎましょう」
 そう急かすラビィと連れ立って、ボクらは錬金術ギルドに急いだ。
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