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048 盗賊さん、報告する。
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成り行きでラビィを錬金術ギルドで引き受けることになった。それはそれでいいとして、話を戻すようにボクは改めて領主に話を切り出す。
「今後、錬金術ギルドで作製したポーションはこちらで引き取ってもらうってことでかまわないですか」
「あぁ、そちらでそのまま販売するのは難しいだろうからね」
「助かります。ギルドの運営資金をどうしようかと思っていましたので」
「こちらとしても助かるからお互いさまさ。レッドグレイヴ産のポーションと遜色のない品を、どうにか一般に普及させたいと思っていたからね。領主公認の魔法薬店を近いうちに出店させるつもりだよ」
「薬師ギルドとの折衝はどうされるのです」
「ポーションに関してだけは、あちらも口出し出来るような立場にはないからね。基準の品質に満たない品の販売を制限させるよ。そうなれば横流しされたポーションに混ぜ物をした品を店頭に並べられなくなる。それだけで充分に効果はあるだろうさ。元々ポーションの売り上げに頼らなくともギルドの運営に支障はないはずだから、割りに合わないとなるとポーション販売からすぐに手を引いてくれるだろう」
「これを機に横流ししていた衛兵の摘発もなさるのですか」
「そのつもりだ。長年見過ごしていたことで、強盗騎士のような輩を生み出すことになってしまったからな」
これまでの会話から暗にポーション作製出来る者が現れなければ、今後も見過ごしていたと言っているようなものだった。それに関してはボクがあれこれと口出しするようなことではないので、差し出がましいことは言わなかった。
ただ隣に座るラビィは、領主に対してなにか言いたげだったが、部外者であるボクがいる手前か、それとも父親に対して強く出られないのか、その場で噛み付くような真似は控えているようだった。そんな彼女は、手が白くなるほどに強く握り込んでいた。
「では、ポーション関連のことは全てそちらにお任せしますね」
「あぁ、任せておいてくれ。それと他になにか要求などはあるかね。出来る限り尽力させてもらうが」
これで錬金術ギルドに関わる内容はひと通りまとまった。ここで切り上げてもよかったが、新たに発見したダンジョンのこともあったので、報告を兼ねて話をすることにした。
「でしたら東門から南南東の森の奥に新たなダンジョンを発見しましたので、調査隊を送ってもらえませんか。枯れた湖の跡地にかなり深い縦穴があり、底の方にダンジョンにつながっているらしき、横穴が複数ありましたので」
それを聞いた領主は軽く腰を浮かせるように身を乗り出した。
「それは事実かね」
「えぇ、森の奥で魔草が群生した魔素溜りを見つけまして、そこから真っ直ぐに草木一本生えていない古い集団暴走跡がありましたので、それをたどった先で発見しましたから」
「そうか。では、近いうちに調査隊を送ることにしよう。ところで、そのダンジョンが再び集団暴走を起こすような兆候はあったかね」
「魔素濃度もそれほど濃くありませんでしたから、その心配はほぼないかと」
勝手に上層階を崩壊させて蓄えられていた魔素を拡散させちゃったし、あれだけダンジョン入口が深ければ簡単に魔物が溢れ出すことはないだろうしね。
「それだと時間的な余裕はありそうだな。調査隊を出す前に、冒険者ギルドに簡単な調査の依頼を出しておくか。それに開拓の人員募集もしなければならないな……」
ぶつぶつと今後の方針を煮詰めていた領主は、深みにはまる思考を一度切って、背後の執事に「冒険者ギルドに調査依頼の手配を頼めるか」と告げた。それを承った執事は、冒険者ギルドに依頼を出す手筈を整えるため、即座にその場を辞した。
「報告感謝するよ」
「いえ、たまたま発見しただけですから。それにまだそのダンジョンからどういった資源やアイテムが産出させるかもわかりませんし」
「まぁ、そうなんだがね。新発見のダンジョンとなると領都外からの人員流入も少なからず期待出来るので、こちらとしてはありがたいのさ。長いこと深層の攻略が滞っている領都内のダンジョンを、攻略してくれるような人材が現れないとも限らないからね」
ダンジョン深層でドロップするアイテムは特殊な効果を持った物は多いけれど、生活する上で役立つ物や資源は少ない。それに他領とやり取りすることを制限されているのに、深層のアイテムを求める意味はあるのだろうかと少し気になった。
「ひとつ質問なのですが、深層のドロップアイテムはどうされるのですか。他領との取引で使用することは出来ないのですよね」
「確かに他領とは取引することは出来ないね。だがダンジョン産のアイテムや魔獣の素材は、王家直轄の組織である冒険者ギルドに売却した総額で王家からの評価が下される。その評価によって領都予算が決定され、王都で発行されている貨幣が年間予算として配布されるのさ。他領と資源のやり取りをするにはどうしても貨幣が必要になってくるから、ダンジョンの攻略状況ってのは、そのまま領都経済に深く関わってくるんだよ」
「今後、錬金術ギルドで作製したポーションはこちらで引き取ってもらうってことでかまわないですか」
「あぁ、そちらでそのまま販売するのは難しいだろうからね」
「助かります。ギルドの運営資金をどうしようかと思っていましたので」
「こちらとしても助かるからお互いさまさ。レッドグレイヴ産のポーションと遜色のない品を、どうにか一般に普及させたいと思っていたからね。領主公認の魔法薬店を近いうちに出店させるつもりだよ」
「薬師ギルドとの折衝はどうされるのです」
「ポーションに関してだけは、あちらも口出し出来るような立場にはないからね。基準の品質に満たない品の販売を制限させるよ。そうなれば横流しされたポーションに混ぜ物をした品を店頭に並べられなくなる。それだけで充分に効果はあるだろうさ。元々ポーションの売り上げに頼らなくともギルドの運営に支障はないはずだから、割りに合わないとなるとポーション販売からすぐに手を引いてくれるだろう」
「これを機に横流ししていた衛兵の摘発もなさるのですか」
「そのつもりだ。長年見過ごしていたことで、強盗騎士のような輩を生み出すことになってしまったからな」
これまでの会話から暗にポーション作製出来る者が現れなければ、今後も見過ごしていたと言っているようなものだった。それに関してはボクがあれこれと口出しするようなことではないので、差し出がましいことは言わなかった。
ただ隣に座るラビィは、領主に対してなにか言いたげだったが、部外者であるボクがいる手前か、それとも父親に対して強く出られないのか、その場で噛み付くような真似は控えているようだった。そんな彼女は、手が白くなるほどに強く握り込んでいた。
「では、ポーション関連のことは全てそちらにお任せしますね」
「あぁ、任せておいてくれ。それと他になにか要求などはあるかね。出来る限り尽力させてもらうが」
これで錬金術ギルドに関わる内容はひと通りまとまった。ここで切り上げてもよかったが、新たに発見したダンジョンのこともあったので、報告を兼ねて話をすることにした。
「でしたら東門から南南東の森の奥に新たなダンジョンを発見しましたので、調査隊を送ってもらえませんか。枯れた湖の跡地にかなり深い縦穴があり、底の方にダンジョンにつながっているらしき、横穴が複数ありましたので」
それを聞いた領主は軽く腰を浮かせるように身を乗り出した。
「それは事実かね」
「えぇ、森の奥で魔草が群生した魔素溜りを見つけまして、そこから真っ直ぐに草木一本生えていない古い集団暴走跡がありましたので、それをたどった先で発見しましたから」
「そうか。では、近いうちに調査隊を送ることにしよう。ところで、そのダンジョンが再び集団暴走を起こすような兆候はあったかね」
「魔素濃度もそれほど濃くありませんでしたから、その心配はほぼないかと」
勝手に上層階を崩壊させて蓄えられていた魔素を拡散させちゃったし、あれだけダンジョン入口が深ければ簡単に魔物が溢れ出すことはないだろうしね。
「それだと時間的な余裕はありそうだな。調査隊を出す前に、冒険者ギルドに簡単な調査の依頼を出しておくか。それに開拓の人員募集もしなければならないな……」
ぶつぶつと今後の方針を煮詰めていた領主は、深みにはまる思考を一度切って、背後の執事に「冒険者ギルドに調査依頼の手配を頼めるか」と告げた。それを承った執事は、冒険者ギルドに依頼を出す手筈を整えるため、即座にその場を辞した。
「報告感謝するよ」
「いえ、たまたま発見しただけですから。それにまだそのダンジョンからどういった資源やアイテムが産出させるかもわかりませんし」
「まぁ、そうなんだがね。新発見のダンジョンとなると領都外からの人員流入も少なからず期待出来るので、こちらとしてはありがたいのさ。長いこと深層の攻略が滞っている領都内のダンジョンを、攻略してくれるような人材が現れないとも限らないからね」
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「ひとつ質問なのですが、深層のドロップアイテムはどうされるのですか。他領との取引で使用することは出来ないのですよね」
「確かに他領とは取引することは出来ないね。だがダンジョン産のアイテムや魔獣の素材は、王家直轄の組織である冒険者ギルドに売却した総額で王家からの評価が下される。その評価によって領都予算が決定され、王都で発行されている貨幣が年間予算として配布されるのさ。他領と資源のやり取りをするにはどうしても貨幣が必要になってくるから、ダンジョンの攻略状況ってのは、そのまま領都経済に深く関わってくるんだよ」
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