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042 盗賊さん、穴を掘る。

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 ボクはまず砕いたゴーレムを混ぜ込んだ土壌の様子を見に行った。
 あれから2日、なにかしら芽吹いていても不思議ではない。そんなボクの期待に応えるように、魔素を大量に含んだ土壌から芽吹いた物が、ふたつみっつと顔を覗かせていた。ボクはそれらを土壌ごと[アイテムキューブ]化して、ウエストポーチにしまい込む。その際に普段は後ろに回しているウエストポーチがお腹の方に回されていて、動作にちょっとした戸惑いが生じる。
 背嚢を背負っているんだからそっちに入れてもいいんだけど、わざわざ下ろすのも面倒だしね。
 第一目標を達成したボクは、そのまま普通に薬草を探すことにした。薬草を1束見つけられれば[アイテムキューブ]で複製出来るので割と気楽なものである。
 魔素の濃い方向へと足を進めると、街道を大きく外れた森の中に入ることとなった。
 獣道もない森の中を空気をナイフ型に圧縮して【施錠】した物を片手に藪を切り開きながら奥へ奥へと踏み込んでいく。時折、蛇が樹上や足元から飛び掛かって来る。魔獣でもなんでもないそれらを一振りで頭を落として黙らせ、その場に放置してさらに先へと足を進めていった。

 太陽が南天に差し掛かる頃、豊富な魔素を土壌に含んでいて樹々が根付けなかったらしき開けた場所に出た。そこはまだ誰も踏み入ったことがないとわかるほどに多種多様な魔草が自生していた。
 魔草は宿しているスキルによって、根や葉の形状それに茎の枝分かれの仕方などが決まる。それらの視覚的な情報はレッドグレイヴで、何度も何度も魔草の現物をスケッチさせられ、徹底的に叩き込まれたので大抵の物は判別出来るだけの知識はあった。
 最もわかりやすい【治癒】や【再生】スキルの薬草は言うに及ばず、【解毒】スキルを宿した毒消草や【安眠】スキルのヒツジ草など、生活の中で有用な物から優先的に根ごと採取して、ひとつひとつ[アイテムキューブ]に格納していった。
 めぼしい物をひと通り採ったボクは、【毒】や【麻痺】といった扱い方を間違えれば危険な物になり得るスキルを宿した魔草も念のために採取して保管した。

 簡単に素材は複製出来るので、それぞれ1本ずつ採取して早々に採取作業を終えた。城壁外に出てまだそれほど経っていないので、時間には充分に余裕がある。魔素が濃過ぎて魔草1本生えていない場所に背嚢を下ろし、空の薬瓶をいくつか取り出す。その中に[アイテムキューブ]で水と薬草を複製して放り込み、【奪取】を応用した擬似的な【合成】で魔素を含まない一般的な下級ポーションを作製した。
 完成した品は以前のように劣化しておらず、錬金術師がつくったものと比較しても遜色のない効果を宿しているのがわかる。これに関しては、わざわざ魔石を使って属性変換させるなどの工程をはさむ必要がなくなったというのが大きかった。
 この出来ならレッドグレイヴから密輸したポーションだと疑われて没収されても不思議はないかな。これをそれなりの数になるまで複製してやれば確実に城門で目を付けられるはず。
 あとはどの城門から戻るかだけど、交渉するなら顔見知りのいる東から行くのが無難かな。
 すぐに戻ってもいいけど、どこかで取引して来たと思わせるためにも、最低でも日没間近までは時間を潰したいところだね。ここに来るまでは道なき道を切り開くのに、それなりに時間をかけてしまったけれど、戻りは半分の時間もかからないだろうしね。
 作製したポーションを複製するのは、城門前に行く直前でいいからとりあえず[アイテムキューブ]に格納してウエストポーチにしまい込んだ。今複製して背嚢に詰め込んでも重いだけだしね。

 第二目標も達成して完全に時間を持て余したボクは、魔素溜りになっているここの近くに古いダンジョンがあるかもしれないと、大昔の集団暴走スタンピード跡を遡ることにした。
 草木1本生えていない乾いた土がむき出しの地面を踏みしめながら森の中を進んだ。そうして行き着く先には、巨大な蟻の巣といった様相の大きな穴がぽっかりと空いた底抜けの湖跡があった。
 お風呂の栓を抜いた後のような湖には、一切の水がなく、からからに乾いてひび割れた粘土質の土が露出していた。
 地盤が脆そうなので迂闊に湖跡へと足を踏み入れられない。ただ穴の奥にあるダンジョンで再び集団暴走スタンピードが発生しないとも限らないのが気になるところ。特にここは人里から離れていて魔素がほとんど消費されない環境が保たれているので、再発の可能性は高いと思われる。だったら魔素だけでも除去しておくべきかな。
 方針を定めたボクは、ウエストポーチからゴーレムの核として使ったことで大きな塊となった土の魔石を取り出す。それを一帯に満ちた高濃度の魔素を含んだ空気を利用して[アイテムキューブ]化する。出来上がった物に軽く魔力を流してみると、その属性変換効率は非常に高く力強さがあった。これなら大規模な魔術を行使しても問題ないと直感する。試すようにゆっくりと湖底全域に魔力を流し込み、かなりの余裕があったのでダンジョン奥深くにまで浸透するように意識すると[アイテムキューブ]化した魔石で変換された魔力は、抵抗を感じることなくするりと溶け込んでいった。
 次の段階としてダンジョンの壁や床などに含まれている魔素を魔術に利用するため、魔力を浸透させた全域を【解錠】した。すると支えを失ったかのようにダンジョンは崩壊の兆しを見せた。それを加速させるように、浸透させた魔力とダンジョン内部に蓄えられた魔素を消費し尽くす心づもりで、耕起魔術『プラウ』を発動させた。直後、崩壊の兆しを見せていたダンジョンは派手に耕されて崩壊した。
 通常であればこれだけ大規模な魔術を行使すれば魔石は消滅する。しかし、ボクの手の中には[アイテムキューブ]化された魔石が、その存在感を主張していた。それをウエストポーチにしまい込みながら崩壊したダンジョン跡を覗き込む。
 湖の中央にぽっかりと空いていた穴は、湖と同じ大きさにまで拡張され、深さ10数メートルの巨大な円筒形に変化した。ダンジョンに繋がる開口部が大きく広がったことで、地下に蓄えられていた魔素は空気中に拡散しやすくなったはず。
 しばらく穴の様子を窺っていると、穴の底の方で光の粒子が複数散るのが見えた。魔素濃度が急激に下がったことで魔物が身体を維持出来ずに消滅したらしい。この様子なら集団暴走スタンピードが起こる可能性はまずないはず。それを確認出来たボクは、太陽が西に傾きつつあったのでバーガンディに戻るべく、足早にその場を離れた。
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