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040 盗賊さん、複製する。
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グレンがつくった料理でお腹を満たしながら、今後の方針をひと通り伝えた。
「そういうわけで、お試しとして衛兵隊にポーションを無償提供することになったんだ。これでうちのポーションの効果が公的に認められれば、薬師ギルドが強引な手を使ってくる可能性が高い。だから今後出歩く際は、なるべくこの腕輪を着けてくれるかな」
「この腕輪は?」
「認識阻害のアイテムだよ。ただ魔力操作が上手く出来ないと強制的に魔力徴収されるので、着けっぱなしにしてると魔力枯渇を起こす恐れがあるから、その辺りは自己判断で調整してくれるかな」
「話はわかったが、どうやってそんな話取り付けたんだ」
腕輪を摘みとりながら、グレンは困惑したように訊ねてきた。客観的に見たらウソくさい話だとは思うが、事実だからどうしようもない。
「今日、ちょっとしたトラブルに遭ってね。そのトラブルで衛兵隊の関係者と話をする機会があったのさ。ボクが捕らえた野盗の懸賞金なんかのこともあったからね」
「あぁ、その関係でか」
「そういえばグレン。キミを治療する際に使用したポーションに関する請求などされたりしたかな。あのときボクはそこまで頭が回ってなくてね。乗客のひとりに無理を言って譲ってもらってんだが」
「それなら問題ない。あの日の夜のうちに話は付いてたからな」
「そうか、それならよかった。昼間知ったばかりだが、どうにもここだとレッドグレイヴ産のポーションは稀少なようだからね。少し気になってたんだ」
「あー、ほぼ城門で没収されちまうからな」
「私的利用の範囲で所持は認められてると聞いてたんだが、違うのか」
「建前じゃそうらしいが、大抵はいちゃもんつけられてポーションを全て没収されちまうことがほとんどだな。あー、なんつったっけかな。確か自領の魔法薬生成技術を育成するため、他領からの魔法薬の持ち込みは禁止している。とかなんとかつってたかな」
「それで没収されたポーションはどうなってる」
「衛兵隊で保管してんじゃねぇか」
これは判断を誤ったかな。衛兵隊なら問題ないだろうと思っていたんだけど、彼らが薬師ギルドに没収したポーションを横流しなんてことをしていたら目も当てられないな。
最悪でもラビィが鑑定のアイテムでうちのポーションの効果を保証してくれるだけでも助かるけど、あの子に任せっきりだと厳しいかもね。かと言ってボクから正体を隠せてるつもりらしいラビィに連絡を取る手段はないし、どうにも困ったことになったね。
明日にでも衛兵隊の詰所に行ってみた方がいいかな。明日は城壁外に薬草を取りに行くつもりだったし、ついでに立ち寄るとしよう。懸賞金の話を出せば、軽く話すくらいは出来るだろうしね。
しばらく押し黙って考え込んでいたからか、何度かグレンに呼びかけられていたらしいのに、ボクはなかなか気付かなかった。
「なぁ、大丈夫か」
「すまないね。昨夜から一睡もしてなかったから、ぼんやりとしていたようだ」
「あー、それでか。そんなら今日は早く寝ちまえよ」
「そうだね。そうさせてもらおうかな」
本当は今夜のうちに鍵を一新させたかったけど、集中力が欠けて来てるし、明日の朝やることにしようと決める。
「そうしろそうしろ。片付けなんかは全部オレがやっとくからよ」
「ありがとう。夕食、おいしかったよ」
「そうかい。んじゃ、おやすみ」
「おやすみ」
そう口にすると急に眠気が襲って来て、思わず欠伸がこぼれた。ボクが思っていたよりも身体は睡眠を求めているらしい。ホールを後にして自室に戻ったボクは、短めにお風呂を済ませた。身体が温まったことで眠気は増し、今にも夢の世界に旅立ちそうになっていたボクは、ベッドに倒れ込むようにして眠りに落ちた。
翌朝、と言うには早過ぎる時間に目を覚ました。外は暗く、日の出はまだまだ先のようである。
「プル」
なんとなく名を呼ぶと、プルは作業机の上に置かれていたウエストポーチから這い出て来た。
「いつから隠れてたの」
明確な返答は期待出来ないとわかっていながらそんな質問をする。記憶を遡ってみると、グレンがプルに関して一切言及していなかったので、工房に入ったときにはウエストポーチに潜り込んでたのかな。
もしそうだとするとラビィを相手にしていたときに、ボク以外の人間に姿を見せると面倒なことになると学習してたのかもね。
プルの滑らかな身体をなでながら、ちょっと思うことがあってウエストポーチから劣化下級ポーションを1本取り出し、それを[アイテムキューブ]に格納した。
昨日、地下で実験していたときには思い至らなかったけれど[アイテムキューブ]の性質がどういったものであるのか、ちょっとした気付きがあった。
ボクはそれを確かめるように[アイテムキューブ]に魔力を流し込む。すると一定の魔力量を達したとき、ポーションが薬瓶ごと出現した。いきなり現れたポーションの中身を調べてから[アイテムキューブ]の中を覗き込む。その中にはきちんとポーションが格納されたままだった。
やはりボクが想像した通りに[アイテムキューブ]に格納された物は、魔力を注ぎ込むことで複製されるらしい。なんでか魔石は例外だったようだけれど、あれは魔素の結晶みたいな物だからなのかな。その辺りのことははっきりとわからないけれど、格納した物品を複製出来たのは事実に違いなかった。
また魔術を格納した[マジックキューブ]も魔力を注ぎ込むことで、同一の魔術を複製して発動させていたと考えるとしっくり来た。
「そういうわけで、お試しとして衛兵隊にポーションを無償提供することになったんだ。これでうちのポーションの効果が公的に認められれば、薬師ギルドが強引な手を使ってくる可能性が高い。だから今後出歩く際は、なるべくこの腕輪を着けてくれるかな」
「この腕輪は?」
「認識阻害のアイテムだよ。ただ魔力操作が上手く出来ないと強制的に魔力徴収されるので、着けっぱなしにしてると魔力枯渇を起こす恐れがあるから、その辺りは自己判断で調整してくれるかな」
「話はわかったが、どうやってそんな話取り付けたんだ」
腕輪を摘みとりながら、グレンは困惑したように訊ねてきた。客観的に見たらウソくさい話だとは思うが、事実だからどうしようもない。
「今日、ちょっとしたトラブルに遭ってね。そのトラブルで衛兵隊の関係者と話をする機会があったのさ。ボクが捕らえた野盗の懸賞金なんかのこともあったからね」
「あぁ、その関係でか」
「そういえばグレン。キミを治療する際に使用したポーションに関する請求などされたりしたかな。あのときボクはそこまで頭が回ってなくてね。乗客のひとりに無理を言って譲ってもらってんだが」
「それなら問題ない。あの日の夜のうちに話は付いてたからな」
「そうか、それならよかった。昼間知ったばかりだが、どうにもここだとレッドグレイヴ産のポーションは稀少なようだからね。少し気になってたんだ」
「あー、ほぼ城門で没収されちまうからな」
「私的利用の範囲で所持は認められてると聞いてたんだが、違うのか」
「建前じゃそうらしいが、大抵はいちゃもんつけられてポーションを全て没収されちまうことがほとんどだな。あー、なんつったっけかな。確か自領の魔法薬生成技術を育成するため、他領からの魔法薬の持ち込みは禁止している。とかなんとかつってたかな」
「それで没収されたポーションはどうなってる」
「衛兵隊で保管してんじゃねぇか」
これは判断を誤ったかな。衛兵隊なら問題ないだろうと思っていたんだけど、彼らが薬師ギルドに没収したポーションを横流しなんてことをしていたら目も当てられないな。
最悪でもラビィが鑑定のアイテムでうちのポーションの効果を保証してくれるだけでも助かるけど、あの子に任せっきりだと厳しいかもね。かと言ってボクから正体を隠せてるつもりらしいラビィに連絡を取る手段はないし、どうにも困ったことになったね。
明日にでも衛兵隊の詰所に行ってみた方がいいかな。明日は城壁外に薬草を取りに行くつもりだったし、ついでに立ち寄るとしよう。懸賞金の話を出せば、軽く話すくらいは出来るだろうしね。
しばらく押し黙って考え込んでいたからか、何度かグレンに呼びかけられていたらしいのに、ボクはなかなか気付かなかった。
「なぁ、大丈夫か」
「すまないね。昨夜から一睡もしてなかったから、ぼんやりとしていたようだ」
「あー、それでか。そんなら今日は早く寝ちまえよ」
「そうだね。そうさせてもらおうかな」
本当は今夜のうちに鍵を一新させたかったけど、集中力が欠けて来てるし、明日の朝やることにしようと決める。
「そうしろそうしろ。片付けなんかは全部オレがやっとくからよ」
「ありがとう。夕食、おいしかったよ」
「そうかい。んじゃ、おやすみ」
「おやすみ」
そう口にすると急に眠気が襲って来て、思わず欠伸がこぼれた。ボクが思っていたよりも身体は睡眠を求めているらしい。ホールを後にして自室に戻ったボクは、短めにお風呂を済ませた。身体が温まったことで眠気は増し、今にも夢の世界に旅立ちそうになっていたボクは、ベッドに倒れ込むようにして眠りに落ちた。
翌朝、と言うには早過ぎる時間に目を覚ました。外は暗く、日の出はまだまだ先のようである。
「プル」
なんとなく名を呼ぶと、プルは作業机の上に置かれていたウエストポーチから這い出て来た。
「いつから隠れてたの」
明確な返答は期待出来ないとわかっていながらそんな質問をする。記憶を遡ってみると、グレンがプルに関して一切言及していなかったので、工房に入ったときにはウエストポーチに潜り込んでたのかな。
もしそうだとするとラビィを相手にしていたときに、ボク以外の人間に姿を見せると面倒なことになると学習してたのかもね。
プルの滑らかな身体をなでながら、ちょっと思うことがあってウエストポーチから劣化下級ポーションを1本取り出し、それを[アイテムキューブ]に格納した。
昨日、地下で実験していたときには思い至らなかったけれど[アイテムキューブ]の性質がどういったものであるのか、ちょっとした気付きがあった。
ボクはそれを確かめるように[アイテムキューブ]に魔力を流し込む。すると一定の魔力量を達したとき、ポーションが薬瓶ごと出現した。いきなり現れたポーションの中身を調べてから[アイテムキューブ]の中を覗き込む。その中にはきちんとポーションが格納されたままだった。
やはりボクが想像した通りに[アイテムキューブ]に格納された物は、魔力を注ぎ込むことで複製されるらしい。なんでか魔石は例外だったようだけれど、あれは魔素の結晶みたいな物だからなのかな。その辺りのことははっきりとわからないけれど、格納した物品を複製出来たのは事実に違いなかった。
また魔術を格納した[マジックキューブ]も魔力を注ぎ込むことで、同一の魔術を複製して発動させていたと考えるとしっくり来た。
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