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037 盗賊さん、契約を取り付ける。
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「事情は理解しました。その強盗騎士とやらにも心当たりはありますので、陰ながらボクも協力しますよ」
そんなボクの返答を聞いた少女は、なにかに気付いたように「あっ」と声を上げました。
「どうしました?」
「あ、いえ、強盗騎士をひとりで捕らえた方が、あなたと同じ赤錆色の髪に青銅色の瞳をされていたと聞いていたものですから、もしかしてそのご本人なんじゃないかと思いまして……」
「おそらくボクのことで間違いないかと」
隠す必要もないので少女の抱いた疑問を肯定すると、彼女はきらきらと瞳を輝かせていた。
「やはり、そうなのですね。たったひとりで危険を顧みずに強盗騎士に挑み、見返りも求めずに多くのひとを助けたと聞いています。その立ち回りは私の想像していたヒーローそのもので、お会いしたいと思っていたんです」
ボクにはそんな覚えなかったので、なにか勘違いされているとしか思えなかった。
「なにをどうお聞きになったのか知りませんが、ボクはそのようなことをしていませんよ。当時、護衛として同行していた冒険者の方々が襲撃当初に亡くなられてしまったので、誰かがその代わりを務めなければなりませんでした。ですからボクは、ただ自身の身に降りかかった火の粉を払ったに過ぎません。他の方が助かったのは、結果的にそうなっただけの話です。見返りを求めるというのがおかしな話でしょう」
「成したことに対して正当な報酬は受け取るべきだと、先ほどあなたはおっしゃいました」
確かにボクは先ほど、少女の抱いたヒーローなどという存在の在り方について苦言を口にしていた。その時の言葉が、図らずもボクは自身に投げ返されることとなった。
「そう言ったのはボクでしたね。でしたら強盗騎士に関する情報でも衛兵隊に要求でもしましょうか。彼らを捕らえたのはボクですしね。それよりもボクとしては彼らにポーションの件を、引き受けてくださるよう打診していただける方が助かりますね。それに乗客の方からは中級ポーションを報酬代わりに提供していただきましたから、無報酬だったというわけではありませんよ」
本当はグレンの治療のために提供してもらったのですが、今はそういうことにしておきましょう。少女はどこか釈然としないといった様子でしたが、概ねボクの発言は納得してくれたようでした。
「そういうことでしたら、それらのことも踏まえてグランツさんに話してみます。それとあなたは受け取っておられませんが、強盗騎士には領主から懸賞金がかけられていたのですが、どうされますか」
「被害に遭った他の乗客の方々に分配してください。その代わりに──」
そこで言葉を切って、ボクはウエストポーチから2本のポーションを取り出した。
「この2本のポーションを領主様にお渡しいただけませんか。レッドグレイヴの錬金術師資格持ちがつくったものだとお伝えいただければ助かります」
「ひとつは普通のポーションだと分かるのですが、こちらの発光している方はどういった代物なのでしょうか」
「最近作成に成功した特殊なポーションだとお伝えください。上級ポーション並みの効果は期待出来るはずです。これに関しては今のところこれ1本しか有りませんので、きちんと目利き出来る方か、ダンジョン産のアイテムで効能を確認してください」
「鑑定のアイテムならうちにあったはずですから大丈夫だと思います」
少女はもう正体を隠す気があるのか疑わしいほどに、ぽろぽろと自身の出自をほのめかすようなことを口にしていて、思わず苦笑してしまう。
「鑑定のアイテムがあるのでしたら、錬金術ギルドから衛兵隊に無償提供するポーションの品質も、一旦それで確認してから引き渡していただけるよう手配してもらえませんか。鑑定の有無で信用度は段違いでしょうから」
「わかりました。頼んでみます」
鑑定のアイテムがあるのに領主から注意を受けることなく、効果がまちまちな品を薬師ギルドが大々的に販売しているのは、領内に競合する相手がいないからでしょう。薬師ギルドからの供給がなくなれば、ここは大変なことになってしまうでしょうからね。他の水薬はともかくとして、ポーションの利権だけでも錬金術ギルドが取り戻せればいいのですが、所属している人員がふたりだけの現状ではそれも難しいでしょうね。
ひと通り話を取りまとめ、少女も充分に魔力が回復したようなので送り帰したいところですが、そのまま帰すのも心配でならない。表を出歩くにも彼女は正体を隠さなければならないでしょうから、また兎の仮面を着けることになる。この仮面は効果こそ強力ですが、強制的に魔力徴収するというアイテムの性質上、魔力枯渇を起こした人物が身に着けるには不安が残る。なのでボクからひとつ提案することにした。
「この仮面、別の形に加工しても構いませんか。認識阻害の効果は下がってしまうかも知れませんが、魔力消費量はかなり抑えられるようになるはずですから」
少女は少し迷ったようでしたが、ちいさく頷いてみせました。
「大丈夫だと思います。うちでも使われずにホコリをかぶってましたから」
了承を得たのでボクは兎の仮面に対して【奪取】を使用し、5つの腕輪として再構築し直した。少女から仮面を外す際に【奪取】で強制的に盗み取りましたが、アイテムの効果は失われていなかったので、問題なく作り直せるのは間違いないはず。仮面全体に付与されている認識阻害の効果を、アイテムの体積をちいさくすることで弱め、それと一緒に魔力消費量も抑えられていれば成功なのですが──。
完成した品を腕に装着すると、微量の魔力が奪われる。それと同時に自身の存在が薄くなるのを感じ取ることが出来た。アイテムの体積と効果が一致するなら、5分の1程度に魔力消費量も抑えられたことになるのかな。それに腕輪なら魔力が不足してアイテムの効果が薄れても、兎の仮面のように悪目立ちすることはないはず。
「ひとつだけて充分だとは思いますが、効果が薄いようでしたら必要に応じて身に着ける数を変えてください」
着けていた腕輪を外して他の物と合わせて差し出すと、少女はひとつだけ手に取って装着した。
「残りはあなたが持っててください。きっと役に立つと思います」
ボクの反応が悪かったからか、少女は言い訳でもするように言葉を付け加えた。
「えっと、そうですね。これは正当な報酬の前払いだと思っていただけると助かります」
そんなボクの返答を聞いた少女は、なにかに気付いたように「あっ」と声を上げました。
「どうしました?」
「あ、いえ、強盗騎士をひとりで捕らえた方が、あなたと同じ赤錆色の髪に青銅色の瞳をされていたと聞いていたものですから、もしかしてそのご本人なんじゃないかと思いまして……」
「おそらくボクのことで間違いないかと」
隠す必要もないので少女の抱いた疑問を肯定すると、彼女はきらきらと瞳を輝かせていた。
「やはり、そうなのですね。たったひとりで危険を顧みずに強盗騎士に挑み、見返りも求めずに多くのひとを助けたと聞いています。その立ち回りは私の想像していたヒーローそのもので、お会いしたいと思っていたんです」
ボクにはそんな覚えなかったので、なにか勘違いされているとしか思えなかった。
「なにをどうお聞きになったのか知りませんが、ボクはそのようなことをしていませんよ。当時、護衛として同行していた冒険者の方々が襲撃当初に亡くなられてしまったので、誰かがその代わりを務めなければなりませんでした。ですからボクは、ただ自身の身に降りかかった火の粉を払ったに過ぎません。他の方が助かったのは、結果的にそうなっただけの話です。見返りを求めるというのがおかしな話でしょう」
「成したことに対して正当な報酬は受け取るべきだと、先ほどあなたはおっしゃいました」
確かにボクは先ほど、少女の抱いたヒーローなどという存在の在り方について苦言を口にしていた。その時の言葉が、図らずもボクは自身に投げ返されることとなった。
「そう言ったのはボクでしたね。でしたら強盗騎士に関する情報でも衛兵隊に要求でもしましょうか。彼らを捕らえたのはボクですしね。それよりもボクとしては彼らにポーションの件を、引き受けてくださるよう打診していただける方が助かりますね。それに乗客の方からは中級ポーションを報酬代わりに提供していただきましたから、無報酬だったというわけではありませんよ」
本当はグレンの治療のために提供してもらったのですが、今はそういうことにしておきましょう。少女はどこか釈然としないといった様子でしたが、概ねボクの発言は納得してくれたようでした。
「そういうことでしたら、それらのことも踏まえてグランツさんに話してみます。それとあなたは受け取っておられませんが、強盗騎士には領主から懸賞金がかけられていたのですが、どうされますか」
「被害に遭った他の乗客の方々に分配してください。その代わりに──」
そこで言葉を切って、ボクはウエストポーチから2本のポーションを取り出した。
「この2本のポーションを領主様にお渡しいただけませんか。レッドグレイヴの錬金術師資格持ちがつくったものだとお伝えいただければ助かります」
「ひとつは普通のポーションだと分かるのですが、こちらの発光している方はどういった代物なのでしょうか」
「最近作成に成功した特殊なポーションだとお伝えください。上級ポーション並みの効果は期待出来るはずです。これに関しては今のところこれ1本しか有りませんので、きちんと目利き出来る方か、ダンジョン産のアイテムで効能を確認してください」
「鑑定のアイテムならうちにあったはずですから大丈夫だと思います」
少女はもう正体を隠す気があるのか疑わしいほどに、ぽろぽろと自身の出自をほのめかすようなことを口にしていて、思わず苦笑してしまう。
「鑑定のアイテムがあるのでしたら、錬金術ギルドから衛兵隊に無償提供するポーションの品質も、一旦それで確認してから引き渡していただけるよう手配してもらえませんか。鑑定の有無で信用度は段違いでしょうから」
「わかりました。頼んでみます」
鑑定のアイテムがあるのに領主から注意を受けることなく、効果がまちまちな品を薬師ギルドが大々的に販売しているのは、領内に競合する相手がいないからでしょう。薬師ギルドからの供給がなくなれば、ここは大変なことになってしまうでしょうからね。他の水薬はともかくとして、ポーションの利権だけでも錬金術ギルドが取り戻せればいいのですが、所属している人員がふたりだけの現状ではそれも難しいでしょうね。
ひと通り話を取りまとめ、少女も充分に魔力が回復したようなので送り帰したいところですが、そのまま帰すのも心配でならない。表を出歩くにも彼女は正体を隠さなければならないでしょうから、また兎の仮面を着けることになる。この仮面は効果こそ強力ですが、強制的に魔力徴収するというアイテムの性質上、魔力枯渇を起こした人物が身に着けるには不安が残る。なのでボクからひとつ提案することにした。
「この仮面、別の形に加工しても構いませんか。認識阻害の効果は下がってしまうかも知れませんが、魔力消費量はかなり抑えられるようになるはずですから」
少女は少し迷ったようでしたが、ちいさく頷いてみせました。
「大丈夫だと思います。うちでも使われずにホコリをかぶってましたから」
了承を得たのでボクは兎の仮面に対して【奪取】を使用し、5つの腕輪として再構築し直した。少女から仮面を外す際に【奪取】で強制的に盗み取りましたが、アイテムの効果は失われていなかったので、問題なく作り直せるのは間違いないはず。仮面全体に付与されている認識阻害の効果を、アイテムの体積をちいさくすることで弱め、それと一緒に魔力消費量も抑えられていれば成功なのですが──。
完成した品を腕に装着すると、微量の魔力が奪われる。それと同時に自身の存在が薄くなるのを感じ取ることが出来た。アイテムの体積と効果が一致するなら、5分の1程度に魔力消費量も抑えられたことになるのかな。それに腕輪なら魔力が不足してアイテムの効果が薄れても、兎の仮面のように悪目立ちすることはないはず。
「ひとつだけて充分だとは思いますが、効果が薄いようでしたら必要に応じて身に着ける数を変えてください」
着けていた腕輪を外して他の物と合わせて差し出すと、少女はひとつだけ手に取って装着した。
「残りはあなたが持っててください。きっと役に立つと思います」
ボクの反応が悪かったからか、少女は言い訳でもするように言葉を付け加えた。
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