天職はドロップ率300%の盗賊、錬金術師を騙る。

朱本来未

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020 盗賊さん、今後の方針を決める。

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「あぁ、そういうことなのか。それでもオレは知っておきたいと思うぜ。切り札があるのとないのとじゃ、危機に直面したときの心持ちが違ってくるしな」
「そうか。グレンがそういう方針で行くって言うんなら、教えても構わないよ。でも、その前にやってもらうことがあるよ」
「いいのか。んで、オレはなにすりゃいいんだ」
 どこか期待に満ちた目でグレンはボクの言葉を待つ。そんな彼にこれから告げることを考えると少し申し訳なる。
「魔術を使うに当たって、最も重要なのは呼吸だよ。だから最初にすべきことは心肺機能の強化だね。呼吸によって魔素を効率よく体内に取り込み、淀みない血流で全身に循環させることの出来る体づくり、それこそが魔術を使う者にとって1番の基本なのさ。自己強化系の魔術を使うならなおのことね」
「鐘ひとつ分の時間を走り回って、息上がっちまう今のオレにゃ、わかりやすい指標だな」
「それと並行して体内魔力の循環も淀みなく行えるようになれば言うことはないね」
「魔力の循環にも何か意味があるのか?」
「体内に蓄積された魔力を淀みなく扱うには、凝り固まった魔力を扱いやすい状態にする必要があるのさ。例えば金属を加工する場合に、加熱して柔らかくするだろう。あれと似たようなものさ。それと魔力循環には副次効果として、身体能力の向上がある。魔術を使わずとも魔力の流れには力が宿るからね」
 水流には物を押し流す力があるように魔力の流れも同様に力が生じる。だからこそ魔力循環を極めればそれだけで魔術に比肩しうる効果を発揮する。それは魔術を扱うものにとって基礎にして最大の奥義でもある。
「魔力循環を常時維持出来るようになれば、身体を鍛える効率も格段に上がると思うよ。それに付随してポーション作製技術も大幅に向上するんじゃないかな」
「そこにも繋がるのか」
「魔力循環に慣れれば、精密な魔力操作に関する感覚も掴みやすくなるからね」
「しかし、魔力循環っつってもなにをどうすりゃいいんだ」
「グレンは魔石を扱うとき、どうしてる?」
「なんかこう出ろって念じてるな」
「じゃあ、まずは自分の体の中を流れる血潮を感じ取ってみるところから始めようか。心臓が脈って、そこから全身に血液が巡っているのを感じ取れたら、そこにグレンの言った出ろって念じた力を載せるんだ。その力が心臓を起点として五体を順繰りに巡って行くイメージを維持しながら、血流に載せる力の数を増やしていけば、いずれは全身の魔力を滑らかに循環させられるようになるはずだよ」
 ボクの言ったことを早速実践しようとするグレンに待ったをかけるように、ボクは言いそびれていたことを付け加える。
「あ、そうそう、それをやるときは呼吸にも気を配ってね。まず背筋を伸ばして鼻からゆっくりと息を吸って、お腹を空気で膨らませるようなイメージかな。それから吸ったときの倍くらいの時間をかけて口から息を吐きながら膨らませたお腹をへこませるんだ」
 試しにやってみようとしたグレンだったけれど、どうにも感覚が噛み合わないようだった。
「歩きながらやるのは難しいな。それに魔力循環のイメージを意識し過ぎたら、呼吸はおざなりになっちまうしよ」
「かもね。最初は眠る前のリラックスした状態でやるのがいいんじゃないかな。慣れてきたら日常的にやってく感じでさ」
「あんまし時間はかけたくねぇが、焦ってもいい結果は出せなそうだしな」
「だね。グレンが魔力循環を意識せず自然体で行えるようになったらポーション作製に取り掛かるってことでいいかな。その段階まで進まないと素材を無駄にしちゃうことになるからね。それまではボクの方でポーションの素材を集めておくよ。試したいこともあるしね」
「試したいこと?」
「ちょっと薬草の栽培をやってみようかと思ってね。まともに仕入れられなくて、毎度採集に時間かけてもいられないからね。栽培出来れば鮮度を気にする必要もなくなるだろ」
「それはそうだろうが、成功したなんて話聞いたこともないぞ。失敗したって話は山ほど聞いたことはあるが」
「一応、レッドグレイヴでは成功例はあったよ」
「本当なのか、それ」
 驚きに目を見開き、グレンは詰め寄って来た。
「本当だよ。なんでも薬草を土ごと採集して、生育環境を再現したら収穫自体は出来たらしいんだけど。数回採取したら薬草からスキルが失われちゃったらしくてね。たぶん土壌に含まれる魔素が枯渇したのが原因なんじゃないかって言われてたんだ。それで豊富の魔素を溶液中に含有してる上級ポーションを栄養剤代わりに与えたら、またスキルを得たらしいんだ」
 ボクの話を最後まで聞いたグレンは、ガックリと肩を落とした。
「上級ポーション使って、下級ポーションの素材育てられたとしても割に合わねぇんじゃねぇか」
「そりゃそうさ。だからどうにか他の方法で多量の魔素を土に溶け込ませようって話さ。それまでは地下の工房に薬草の鉢植えでも並べておくさ」
「薬草、根こそぎ採って来ちまったら恨まれるんじゃねぇか」
「その辺りは調整するさ。それに人に知られてない採取場所に心当たりもあるしね」
 心当たりというのは城壁外でボクがゴーレムを崩して耕し固めた土壌のことである。あそこの土は豊富に魔素が含まれてるし、もしなにかしらの植物が芽生えていれば、確実にスキル持ちになるはず。
「ここに来たばっかだってのに、もうそんなとこ見つけたのか」
「まぁね。ただ最低でもあと2日か3日は待たないといけないだろうけどね。それまではダンジョン探索でもしておくよ。グレンの方は心肺機能の強化と魔力循環の鍛錬に費やしてくれ」
 ボクの提示した方針にグレンは眉根を寄せた。
「オレなんかより余程戦えるってのはわかってるんだが。その、大丈夫なのか、ひとりで」
「平気だよ、以前はひとりでよくダンジョンに素材採取に行ってたしさ。それにここでのダンジョン探索までの手順も今日一日で大体の流れは把握出来たからね」
「それならいいんだが」
「グレンは心配性だな。もっと気楽に行こうよ。それにボクが行くダンジョンは、今日行ったスライムのダンジョンだから危険なことはないよ」
 そう言いながらボクはグレンの肩を軽くポンっと叩き、絶対に大丈夫だと訴えかけるように彼の顔を間近で覗き見た。すると領都中央付近から鐘の音が鳴った。その数は14と完全にお昼を過ぎていた。
「それよりもご飯食べに行こうか。さすがにお腹空いたよ。どこか美味しいお店に案内してくれないか」
 冒険者ギルドで口にしたのは軽いものだったし、さすがにお腹の虫も鳴きそうだ。そんなボクの様子にグレンは、ふっと笑って硬かった表情を柔らかくした。
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