天職はドロップ率300%の盗賊、錬金術師を騙る。

朱本来未

文字の大きさ
上 下
17 / 118

017 盗賊さん、ダンジョン探索を開始する。

しおりを挟む
 冒険者登録とダンジョン探索の申請は、書類に不備がなかったこともあり、特に問題もなくすんなりと済んだ。
 冒険者証とダンジョン探索許可証を受け取り、ボクらは北地区にあるダンジョンに向かう。
「グレン、武器はどうする?」
「ダンジョン前で貸し出しやってるから、それを借りる感じだな。冒険者ギルドで既に借用申請も済ませてるし、問題ないぜ」
「そんなこともしてるんだな、冒険者ギルド」
「そういったところにも還元してかねぇと、新人が育たないからかもな」
「グレンもそうだったのかな」
「12になってすぐに登録して3年くらいやってたけど、伸びなかったな。錬金術の才能なかったから、せめて素材集めくらいでは貢献したかったんだけどよ」
「そのまま冒険者続けずに、なんでまた錬金術師を目指すように?」
「3年前に親父が病に罹ったのさ。薬師ギルドと確執があって薬も手に入んねぇから、自分でどうにかしようと思ってよ。バーガンディで手に入んねぇんならレッドグレイヴ行きゃ、どうにかなると思ってたんだよな。工房の下働きでもらった給金で、仕送りと一緒に薬送ってたんだが。今思うと、あの薬は真っ赤な偽物だったんだろうな」
 自身の過去を省みてグレンは、力なく笑った。
「親父はもう共同墓地に入っちまってるし、残ってるものなんて、錬金術ギルドだけなんだよな。だからあそこだけはどうしても守りてぇんだ」
 そう言葉を繋げたグレンは、決意に満ちた瞳で空を見上げていた。

 北地区にあるダンジョン入口は、あまり混んでいる様子もなく、手持ち無沙汰な門番が立っているくらいで閑散としていた。入口横にちいさな受付小屋があり、その中には壮年のギルド職員の姿があるくらいだった。
「あまり人気のないダンジョンなのかな」
「あぁ、階層も浅いし、出てくる魔物のアイテムドロップ率も低い上に価値もそれほどじゃねぇからな。丸一日潜っても入場料分の稼ぎも出せねぇんだ。だから損を覚悟で新人がダンジョンの入門場所として使ってるくらいだな」
「それなら誰かの邪魔になることはなさそうだね」
 グレンと共に受付に並び、ギルド職員にダンジョン探索許可証を渡す。するとギルド職員がボクの方をちらりと見て、グレンに視線を戻すと口を開いた。
「新人の育成かい」
「そんなとこっすね」
「あとは長剣のレンタルか。ちょっと待ってな」
 それだけ言い残したギルド職員は、小屋の奥から割と使い込まれた長剣を2本持って戻って来た。1本はグレンに渡し、もう1本はなぜかボクに渡された。
「無茶すんなよ、坊主」
「怪我しない程度にやりますよ」
 ギルド職員と軽いやり取りをしてから、洞窟めいたダンジョンに踏み入る。しばらくなにもない直線の薄暗く湿った通路が続き、やがて地下へと潜る長い石階段が目に入った。その石階段を降り切ると鋼鉄製の扉があり、ここから先が魔物の出現する区域になるようだった。
 重たい扉を押し開き、中に入ると階段の薄暗さが嘘であったかのように、天井から白い光が降り注いでいて明るかった。
 軽く見渡して目に入る通路は、綺麗に整えられており、上下左右どこもすっきりとしていて、床も壁も天井も全くと言っていいほどに凹凸のない平面だった。
 なんとなく壁に手を這わせる。その肌触りはよく、表面はかなり滑らかだった。
「綺麗なものだね。ボクの知ってるダンジョンとは大違いだよ」
「なんかここだけ雰囲気違ぇんだよな。他はどこも洞窟っぽい感じらしいぜ」
「ボクの知ってるダンジョンもそんな感じだったな」
 この無意味なまでに通路を整えられたダンジョンに興味を抱きながら周囲の気配を探る。付近に魔物の気配はなく、しんと静まり返っていた。
「とりあえず、スライムを探そうか」
「だな」
 長剣を振るのにも差し支えないほどに広い通路を適当に歩いていると、魔物の気配を複数感知した。
「あの角の向こうに何体か魔物がいるようだね」
「ここからよくわかんな、んなこと」
「魔物は魔素の塊みたいなものだからね。慣れればすぐにわかるよ」
「そんなもんなのか。そもそもオレには魔素だの魔力だのってのの違いがイマイチわかんねぇんだよな」
 バーガンディでは、その辺りのことは教えられてないのかな。隣がレッドグレイヴだし、魔術職は全部そっちに流れちゃうから魔術関連の情報が不足してそうではあるけどさ。
 レッドグレイヴ領って、昔からラーム王国全土から魔術職の人間に給付金や安定した職を用意して集めてるらしいからね。うちの使用人も全員魔術職だったしさ。魔術職ならレッドグレイヴで一生安泰だって噂されてたし、その話知ってれば余程地元に執着でもなければうちに来てたらしい。そんな領地がすぐ隣だと、その影響も大きいとみて間違いなさそうだ。
「魔力は魔素を肺から取り入れて、血中に溶け込んだものが全身に行き渡った先で変換された特殊な生命エネルギーみたいなものだよ。で呼吸をする生物は、総じて魔力を宿してるのさ」
「そんじゃよ、魔素の塊だっていう魔物は違うのか?」
「そうだね。魔物は魔力を宿していない。そもそも彼らは呼吸をしていないし、魔素を魔力に変換する機能が身体に備わってないんだ。それよりもスライムが来たよ。今はあれの対処をしようか」
 会話に意識を大きく割いていたグレンの注意を、角向こうから飛び出して来た不定形な粘体の魔物であるスライムに向けさせた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】初級魔法しか使えない低ランク冒険者の少年は、今日も依頼を達成して家に帰る。

アノマロカリス
ファンタジー
少年テッドには、両親がいない。 両親は低ランク冒険者で、依頼の途中で魔物に殺されたのだ。 両親の少ない保険でやり繰りしていたが、もう金が尽きかけようとしていた。 テッドには、妹が3人いる。 両親から「妹達を頼む!」…と出掛ける前からいつも約束していた。 このままでは家族が離れ離れになると思ったテッドは、冒険者になって金を稼ぐ道を選んだ。 そんな少年テッドだが、パーティーには加入せずにソロ活動していた。 その理由は、パーティーに参加するとその日に家に帰れなくなるからだ。 両親は、小さいながらも持ち家を持っていてそこに住んでいる。 両親が生きている頃は、父親の部屋と母親の部屋、子供部屋には兄妹4人で暮らしていたが…   両親が死んでからは、父親の部屋はテッドが… 母親の部屋は、長女のリットが、子供部屋には、次女のルットと三女のロットになっている。 今日も依頼をこなして、家に帰るんだ! この少年テッドは…いや、この先は本編で語ろう。 お楽しみくださいね! HOTランキング20位になりました。 皆さん、有り難う御座います。

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

外れスキル《コピー》を授かったけど「無能」と言われて家を追放された~ だけど発動条件を満たせば"魔族のスキル"を発動することができるようだ~

そらら
ファンタジー
「鑑定ミスではありません。この子のスキルは《コピー》です。正直、稀に見る外れスキルですね、何せ発動条件が今だ未解明なのですから」 「何てことなの……」 「全く期待はずれだ」 私の名前はラゼル、十五歳になったんだけども、人生最悪のピンチに立たされている。 このファンタジックな世界では、15歳になった際、スキル鑑定を医者に受けさせられるんだが、困ったことに私は外れスキル《コピー》を当ててしまったらしい。 そして数年が経ち……案の定、私は家族から疎ましく感じられてーーついに追放されてしまう。 だけど私のスキルは発動条件を満たすことで、魔族のスキルをコピーできるようだ。 そして、私の能力が《外れスキル》ではなく、恐ろしい能力だということに気づく。 そんでこの能力を使いこなしていると、知らないうちに英雄と呼ばれていたんだけど? 私を追放した家族が戻ってきてほしいって泣きついてきたんだけど、もう戻らん。 私は最高の仲間と最強を目指すから。

転生した体のスペックがチート

モカ・ナト
ファンタジー
とある高校生が不注意でトラックに轢かれ死んでしまう。 目覚めたら自称神様がいてどうやら異世界に転生させてくれるらしい このサイトでは10話まで投稿しています。 続きは小説投稿サイト「小説家になろう」で連載していますので、是非見に来てください!

システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。

大国 鹿児
ファンタジー
輪廻転生のシステムのバグで輪廻の輪から外れちゃった! でも神様から便利なチートグッズ(笑)の詰め合わせをもらって、 他の星に転生しました!特に使命も無いなら自由気ままに生きてみよう! 主人公はチート無双するのか!? それともハーレムか!? はたまた、壮大なファンタジーが始まるのか!? いえ、実は単なる趣味全開の主人公です。 色々な秘密がだんだん明らかになりますので、ゆっくりとお楽しみください。 *** 作品について *** この作品は、真面目なチート物ではありません。 コメディーやギャグ要素やネタの多い作品となっております 重厚な世界観や派手な戦闘描写、ざまあ展開などをお求めの方は、 この作品をスルーして下さい。 *カクヨム様,小説家になろう様でも、別PNで先行して投稿しております。

俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる

十本スイ
ファンタジー
俗にいう神様転生とやらを経験することになった主人公――札月沖長。ただしよくあるような最強でチートな能力をもらい、異世界ではしゃぐつもりなど到底なかった沖長は、丈夫な身体と便利なアイテムボックスだけを望んだ。しかしこの二つ、神がどういう解釈をしていたのか、特にアイテムボックスについてはバグっているのではと思うほどの能力を有していた。これはこれで便利に使えばいいかと思っていたが、どうも自分だけが転生者ではなく、一緒に同世界へ転生した者たちがいるようで……。しかもそいつらは自分が主人公で、沖長をイレギュラーだの踏み台だなどと言ってくる。これは異世界ではなく現代ファンタジーの世界に転生することになった男が、その世界の真実を知りながらもマイペースに生きる物語である。

スキルが【アイテムボックス】だけってどうなのよ?

山ノ内虎之助
ファンタジー
高校生宮原幸也は転生者である。 2度目の人生を目立たぬよう生きてきた幸也だが、ある日クラスメイト15人と一緒に異世界に転移されてしまう。 異世界で与えられたスキルは【アイテムボックス】のみ。 唯一のスキルを創意工夫しながら異世界を生き抜いていく。

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる 

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ 25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。  目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。 ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。 しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。 ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。 そんな主人公のゆったり成長期!!

処理中です...