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017 盗賊さん、ダンジョン探索を開始する。
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冒険者登録とダンジョン探索の申請は、書類に不備がなかったこともあり、特に問題もなくすんなりと済んだ。
冒険者証とダンジョン探索許可証を受け取り、ボクらは北地区にあるダンジョンに向かう。
「グレン、武器はどうする?」
「ダンジョン前で貸し出しやってるから、それを借りる感じだな。冒険者ギルドで既に借用申請も済ませてるし、問題ないぜ」
「そんなこともしてるんだな、冒険者ギルド」
「そういったところにも還元してかねぇと、新人が育たないからかもな」
「グレンもそうだったのかな」
「12になってすぐに登録して3年くらいやってたけど、伸びなかったな。錬金術の才能なかったから、せめて素材集めくらいでは貢献したかったんだけどよ」
「そのまま冒険者続けずに、なんでまた錬金術師を目指すように?」
「3年前に親父が病に罹ったのさ。薬師ギルドと確執があって薬も手に入んねぇから、自分でどうにかしようと思ってよ。バーガンディで手に入んねぇんならレッドグレイヴ行きゃ、どうにかなると思ってたんだよな。工房の下働きでもらった給金で、仕送りと一緒に薬送ってたんだが。今思うと、あの薬は真っ赤な偽物だったんだろうな」
自身の過去を省みてグレンは、力なく笑った。
「親父はもう共同墓地に入っちまってるし、残ってるものなんて、錬金術ギルドだけなんだよな。だからあそこだけはどうしても守りてぇんだ」
そう言葉を繋げたグレンは、決意に満ちた瞳で空を見上げていた。
北地区にあるダンジョン入口は、あまり混んでいる様子もなく、手持ち無沙汰な門番が立っているくらいで閑散としていた。入口横にちいさな受付小屋があり、その中には壮年のギルド職員の姿があるくらいだった。
「あまり人気のないダンジョンなのかな」
「あぁ、階層も浅いし、出てくる魔物のアイテムドロップ率も低い上に価値もそれほどじゃねぇからな。丸一日潜っても入場料分の稼ぎも出せねぇんだ。だから損を覚悟で新人がダンジョンの入門場所として使ってるくらいだな」
「それなら誰かの邪魔になることはなさそうだね」
グレンと共に受付に並び、ギルド職員にダンジョン探索許可証を渡す。するとギルド職員がボクの方をちらりと見て、グレンに視線を戻すと口を開いた。
「新人の育成かい」
「そんなとこっすね」
「あとは長剣のレンタルか。ちょっと待ってな」
それだけ言い残したギルド職員は、小屋の奥から割と使い込まれた長剣を2本持って戻って来た。1本はグレンに渡し、もう1本はなぜかボクに渡された。
「無茶すんなよ、坊主」
「怪我しない程度にやりますよ」
ギルド職員と軽いやり取りをしてから、洞窟めいたダンジョンに踏み入る。しばらくなにもない直線の薄暗く湿った通路が続き、やがて地下へと潜る長い石階段が目に入った。その石階段を降り切ると鋼鉄製の扉があり、ここから先が魔物の出現する区域になるようだった。
重たい扉を押し開き、中に入ると階段の薄暗さが嘘であったかのように、天井から白い光が降り注いでいて明るかった。
軽く見渡して目に入る通路は、綺麗に整えられており、上下左右どこもすっきりとしていて、床も壁も天井も全くと言っていいほどに凹凸のない平面だった。
なんとなく壁に手を這わせる。その肌触りはよく、表面はかなり滑らかだった。
「綺麗なものだね。ボクの知ってるダンジョンとは大違いだよ」
「なんかここだけ雰囲気違ぇんだよな。他はどこも洞窟っぽい感じらしいぜ」
「ボクの知ってるダンジョンもそんな感じだったな」
この無意味なまでに通路を整えられたダンジョンに興味を抱きながら周囲の気配を探る。付近に魔物の気配はなく、しんと静まり返っていた。
「とりあえず、スライムを探そうか」
「だな」
長剣を振るのにも差し支えないほどに広い通路を適当に歩いていると、魔物の気配を複数感知した。
「あの角の向こうに何体か魔物がいるようだね」
「ここからよくわかんな、んなこと」
「魔物は魔素の塊みたいなものだからね。慣れればすぐにわかるよ」
「そんなもんなのか。そもそもオレには魔素だの魔力だのってのの違いがイマイチわかんねぇんだよな」
バーガンディでは、その辺りのことは教えられてないのかな。隣がレッドグレイヴだし、魔術職は全部そっちに流れちゃうから魔術関連の情報が不足してそうではあるけどさ。
レッドグレイヴ領って、昔からラーム王国全土から魔術職の人間に給付金や安定した職を用意して集めてるらしいからね。うちの使用人も全員魔術職だったしさ。魔術職ならレッドグレイヴで一生安泰だって噂されてたし、その話知ってれば余程地元に執着でもなければうちに来てたらしい。そんな領地がすぐ隣だと、その影響も大きいとみて間違いなさそうだ。
「魔力は魔素を肺から取り入れて、血中に溶け込んだものが全身に行き渡った先で変換された特殊な生命エネルギーみたいなものだよ。で呼吸をする生物は、総じて魔力を宿してるのさ」
「そんじゃよ、魔素の塊だっていう魔物は違うのか?」
「そうだね。魔物は魔力を宿していない。そもそも彼らは呼吸をしていないし、魔素を魔力に変換する機能が身体に備わってないんだ。それよりもスライムが来たよ。今はあれの対処をしようか」
会話に意識を大きく割いていたグレンの注意を、角向こうから飛び出して来た不定形な粘体の魔物であるスライムに向けさせた。
冒険者証とダンジョン探索許可証を受け取り、ボクらは北地区にあるダンジョンに向かう。
「グレン、武器はどうする?」
「ダンジョン前で貸し出しやってるから、それを借りる感じだな。冒険者ギルドで既に借用申請も済ませてるし、問題ないぜ」
「そんなこともしてるんだな、冒険者ギルド」
「そういったところにも還元してかねぇと、新人が育たないからかもな」
「グレンもそうだったのかな」
「12になってすぐに登録して3年くらいやってたけど、伸びなかったな。錬金術の才能なかったから、せめて素材集めくらいでは貢献したかったんだけどよ」
「そのまま冒険者続けずに、なんでまた錬金術師を目指すように?」
「3年前に親父が病に罹ったのさ。薬師ギルドと確執があって薬も手に入んねぇから、自分でどうにかしようと思ってよ。バーガンディで手に入んねぇんならレッドグレイヴ行きゃ、どうにかなると思ってたんだよな。工房の下働きでもらった給金で、仕送りと一緒に薬送ってたんだが。今思うと、あの薬は真っ赤な偽物だったんだろうな」
自身の過去を省みてグレンは、力なく笑った。
「親父はもう共同墓地に入っちまってるし、残ってるものなんて、錬金術ギルドだけなんだよな。だからあそこだけはどうしても守りてぇんだ」
そう言葉を繋げたグレンは、決意に満ちた瞳で空を見上げていた。
北地区にあるダンジョン入口は、あまり混んでいる様子もなく、手持ち無沙汰な門番が立っているくらいで閑散としていた。入口横にちいさな受付小屋があり、その中には壮年のギルド職員の姿があるくらいだった。
「あまり人気のないダンジョンなのかな」
「あぁ、階層も浅いし、出てくる魔物のアイテムドロップ率も低い上に価値もそれほどじゃねぇからな。丸一日潜っても入場料分の稼ぎも出せねぇんだ。だから損を覚悟で新人がダンジョンの入門場所として使ってるくらいだな」
「それなら誰かの邪魔になることはなさそうだね」
グレンと共に受付に並び、ギルド職員にダンジョン探索許可証を渡す。するとギルド職員がボクの方をちらりと見て、グレンに視線を戻すと口を開いた。
「新人の育成かい」
「そんなとこっすね」
「あとは長剣のレンタルか。ちょっと待ってな」
それだけ言い残したギルド職員は、小屋の奥から割と使い込まれた長剣を2本持って戻って来た。1本はグレンに渡し、もう1本はなぜかボクに渡された。
「無茶すんなよ、坊主」
「怪我しない程度にやりますよ」
ギルド職員と軽いやり取りをしてから、洞窟めいたダンジョンに踏み入る。しばらくなにもない直線の薄暗く湿った通路が続き、やがて地下へと潜る長い石階段が目に入った。その石階段を降り切ると鋼鉄製の扉があり、ここから先が魔物の出現する区域になるようだった。
重たい扉を押し開き、中に入ると階段の薄暗さが嘘であったかのように、天井から白い光が降り注いでいて明るかった。
軽く見渡して目に入る通路は、綺麗に整えられており、上下左右どこもすっきりとしていて、床も壁も天井も全くと言っていいほどに凹凸のない平面だった。
なんとなく壁に手を這わせる。その肌触りはよく、表面はかなり滑らかだった。
「綺麗なものだね。ボクの知ってるダンジョンとは大違いだよ」
「なんかここだけ雰囲気違ぇんだよな。他はどこも洞窟っぽい感じらしいぜ」
「ボクの知ってるダンジョンもそんな感じだったな」
この無意味なまでに通路を整えられたダンジョンに興味を抱きながら周囲の気配を探る。付近に魔物の気配はなく、しんと静まり返っていた。
「とりあえず、スライムを探そうか」
「だな」
長剣を振るのにも差し支えないほどに広い通路を適当に歩いていると、魔物の気配を複数感知した。
「あの角の向こうに何体か魔物がいるようだね」
「ここからよくわかんな、んなこと」
「魔物は魔素の塊みたいなものだからね。慣れればすぐにわかるよ」
「そんなもんなのか。そもそもオレには魔素だの魔力だのってのの違いがイマイチわかんねぇんだよな」
バーガンディでは、その辺りのことは教えられてないのかな。隣がレッドグレイヴだし、魔術職は全部そっちに流れちゃうから魔術関連の情報が不足してそうではあるけどさ。
レッドグレイヴ領って、昔からラーム王国全土から魔術職の人間に給付金や安定した職を用意して集めてるらしいからね。うちの使用人も全員魔術職だったしさ。魔術職ならレッドグレイヴで一生安泰だって噂されてたし、その話知ってれば余程地元に執着でもなければうちに来てたらしい。そんな領地がすぐ隣だと、その影響も大きいとみて間違いなさそうだ。
「魔力は魔素を肺から取り入れて、血中に溶け込んだものが全身に行き渡った先で変換された特殊な生命エネルギーみたいなものだよ。で呼吸をする生物は、総じて魔力を宿してるのさ」
「そんじゃよ、魔素の塊だっていう魔物は違うのか?」
「そうだね。魔物は魔力を宿していない。そもそも彼らは呼吸をしていないし、魔素を魔力に変換する機能が身体に備わってないんだ。それよりもスライムが来たよ。今はあれの対処をしようか」
会話に意識を大きく割いていたグレンの注意を、角向こうから飛び出して来た不定形な粘体の魔物であるスライムに向けさせた。
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