天職はドロップ率300%の盗賊、錬金術師を騙る。

朱本来未

文字の大きさ
上 下
12 / 118

012 盗賊さん、ギルドに加入する。

しおりを挟む
「キミのお父さんがつくった蹄鉄の予備とかと残ってたりしないかな」
「どうかな。オレも帰ってきたばっかで、なにが残ってんのかわかんねぇけど、とりあえず工房探してくるわ」
 席を立つグレンに待ったをかけるようにボクを腰を上げる。
「地下の工房に行くんならボクも付いて行っていいかな」
「いいぜ、ただ大したもんねぇかもだけどな」

 先を行くグレンの後を追い、ひんやりとした空気の満ちた石階段を降りる。薄暗い階段の壁面には、淡く光る液体が満たされた瓶が一定の間隔で並んでいた。
「この光ってるものは?」
「グロウボトルってんだ。親父がつくったポーションの派生品で、稀少な光の魔石の代わりになるんじゃねぇかって期待してたらしいんだけど、明かりとして使うにゃ光量が足りなくてさ。あんま売れなかったんだよな、それ」
「薬草の代わりにホタル草でも使ったのかな」
「見ただけでよくわかるな」
「ポーションがどうやって魔法効果を発揮してるか知ってれば、ある程度はわかるはずだよ。レッドグレイヴの初級錬金術師の資格を持ってるなら知ってるはずだよね?」
「いや、オレはポーションの作り方以外なんも知らねぇぞ。資格取得試験の課題も最低限の品質を満たした下級ポーション作製が課題だったしな。世話になってた工房も初級試験を合格させるために実技一辺倒で、そういった理論やらなにやらの解説は聞かされてねぇな。座学とかなかったしよ」
 グレンの発言に首を傾げたくなったが、ボク自身はパパの強権で不正規に錬金術師免許を得てるだけに、本来どういった過程を経て資格試験を受験するのかわからない。だが、それ以上に彼の知識不足が気になった。技術指導を受けていたようだけれど、ほぼ実技だけという話からして、体のいい下働きとして使われていただけなではないかと邪推してしまう。
 そんな疑問に頭を悩ませていると工房の扉前にまで付いていたらしく、グレンが鍵束を取り出してかちゃかちゃとやっていた。だけどなかなか合う鍵が見つからないのか難儀していた。
「鍵、見つからないのかな」
「いや、合ってるはずなんだが開かねぇんだ。オレが出てる間に鍵付け替えられたのかも知れねぇ。親父の手紙にゃそんなこと一言も書いてなかったんだがな」
「ちょっとボクにも見せてもらえるかな」
 ボクは引っかかるものを感じ、グレンの前に出て施錠された扉に触れた。
「その鍵、貸してくれる?」
「あぁ、別にかまわねぇが」
 渡された鍵と扉の鍵穴付近に魔力を流し込み、それらが合致してるのを盗賊としてのボクが本能的に判断を下した。鍵穴の奥にはわからない程度に詰め物がされており、それが邪魔になって解錠を妨げているようだった。
 仕方なくボクは鍵をさすだけさして、盗賊の【解錠】スキルを試すついでに強引に工房の鍵を開く。鍵穴に残った詰め物は、一応【奪取】で取り除いておいた。
「鍵穴にゴミが詰まってたみたいだよ」
 ボクは手の中に握り込んでいたちいさな金属屑をグレンに見せた。
「ちゃんと掃除してなかったのかもな。親父が金属細工やるからか、金属屑やらなんやらでとっ散らかってたからな、うちの工房」
 勝手に納得するグレンの警戒心のなさに心配になる。
「まぁ、なんとか開いてよかったぜ」
 無造作に扉を押し開き、工房に踏み入ったグレンは、扉の横の壁をペタペタと探るように触れる。数秒経ち、室内がパッと光の魔石で明るく照らし出された。
 白い光で暗闇から洗い出された工房は、工房と呼べるようなものではなかった。
「全部引き払われているようだね」
 グレンは額と右目を覆い隠すように、右手のひらを当て俯く。
「悪い夢でも見せられてるみてぇだ。あいつら全く顔見せねぇから変だ変だとは思ってたがよ。親父が死んじまったらうちのギルドなんざ潰れようが、どうなろうが関係ねぇってか。退職金代わりかなんだか知らねぇが、うちの備品持ち逃げしやがって」
「訴えても薬師ギルドが横槍を入れてきそうな惨状だね。ポーション市場を独占してるんなら権力者に強いコネがありそうだしね」
「たぶんそうなっちまうんだろうな。親父がオレ宛にギルド設立証明書を送ってくれてなきゃ、ここの権利も全部持ってかれて更地にされてても不思議じゃねぇな」
「あちらさんは公的書類の偽造にまでは手を出してないようだね。やったのがバレたら極刑だから、そこまでの危険は冒さなかっただけなんだろうけどさ」
「なんかすまねぇな、せっかくうちまで足を運んでもらったってのによ。錬金術がどうこう以前の問題だったみてぇだ」
 ここまで徹底的にやられていると、グレンの乗った馬車が野盗に襲われたのも、なにか裏があるんじゃないかと疑いたくなってくる。
「気にする必要はないさ。それにこのなにもない状況は、ギルドを新生させるにはお誂え向きの環境と言えるんじゃないかな」
「こんなことになっちまってるってのに、オレに手ぇ貸してくれんのか」
「そう聞こえなかったかな?」
 自分の言葉不足を自覚しながら、茶化すようにそんなことを口にした。
「すまねぇな。本当にありがとう、ヒイロさん」
 ボクは人差し指を立てた手を顔の前に出し、左右に3度振ってグレンの口にした謝辞の受け取りを拒む。
「敬称は不要だよ。新生するギルドの同輩になるんだ。遠慮はなしで行こうじゃないか」
 そう言ってボクは立てていた指を折り、拳をつくってグレンの前に突き出す。ボクの意図を察したらしいグレンは、一瞬くしゃりと顔を歪め、泣き笑いを浮かべながらボクと拳同士を突き合わせた。
「これからよろしく頼むぜ、ヒイロ」
「もちろんさ、グレン」
 それがボクらのギルドが新たな一歩を踏み出す合図となった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです

飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。 だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。 勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し! そんなお話です。

【完結】あなたに知られたくなかった

ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。 5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。 そんなセレナに起きた奇跡とは?

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る

マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息 三歳で婚約破棄され そのショックで前世の記憶が蘇る 前世でも貧乏だったのなんの問題なし なによりも魔法の世界 ワクワクが止まらない三歳児の 波瀾万丈

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

[鑑定]スキルしかない俺を追放したのはいいが、貴様らにはもう関わるのはイヤだから、さがさないでくれ!

どら焼き
ファンタジー
ついに!第5章突入! 舐めた奴らに、真実が牙を剥く! 何も説明無く、いきなり異世界転移!らしいのだが、この王冠つけたオッサン何を言っているのだ? しかも、ステータスが文字化けしていて、スキルも「鑑定??」だけって酷くない? 訳のわからない言葉?を発声している王女?と、勇者らしい同級生達がオレを城から捨てやがったので、 なんとか、苦労して宿代とパン代を稼ぐ主人公カザト! そして…わかってくる、この異世界の異常性。 出会いを重ねて、なんとか元の世界に戻る方法を切り開いて行く物語。 主人公の直接復讐する要素は、あまりありません。 相手方の、あまりにも酷い自堕落さから出てくる、ざまぁ要素は、少しづつ出てくる予定です。 ハーレム要素は、不明とします。 復讐での強制ハーレム要素は、無しの予定です。 追記  2023/07/21 表紙絵を戦闘モードになったあるヤツの参考絵にしました。 8月近くでなにが、変形するのかわかる予定です。 2024/02/23 アルファポリスオンリーを解除しました。

システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。

大国 鹿児
ファンタジー
輪廻転生のシステムのバグで輪廻の輪から外れちゃった! でも神様から便利なチートグッズ(笑)の詰め合わせをもらって、 他の星に転生しました!特に使命も無いなら自由気ままに生きてみよう! 主人公はチート無双するのか!? それともハーレムか!? はたまた、壮大なファンタジーが始まるのか!? いえ、実は単なる趣味全開の主人公です。 色々な秘密がだんだん明らかになりますので、ゆっくりとお楽しみください。 *** 作品について *** この作品は、真面目なチート物ではありません。 コメディーやギャグ要素やネタの多い作品となっております 重厚な世界観や派手な戦闘描写、ざまあ展開などをお求めの方は、 この作品をスルーして下さい。 *カクヨム様,小説家になろう様でも、別PNで先行して投稿しております。

誰一人帰らない『奈落』に落とされたおっさん、うっかり暗号を解読したら、未知の遺物の使い手になりました!

ミポリオン
ファンタジー
旧題:巻き込まれ召喚されたおっさん、無能で誰一人帰らない場所に追放されるも、超古代文明の暗号を解いて力を手にいれ、楽しく生きていく  高校生達が勇者として召喚される中、1人のただのサラリーマンのおっさんである福菅健吾が巻き込まれて異世界に召喚された。  高校生達は強力なステータスとスキルを獲得したが、おっさんは一般人未満のステータスしかない上に、異世界人の誰もが持っている言語理解しかなかったため、転移装置で誰一人帰ってこない『奈落』に追放されてしまう。  しかし、そこに刻まれた見たこともない文字を、健吾には全て理解する事ができ、強大な超古代文明のアイテムを手に入れる。  召喚者達は気づかなかった。健吾以外の高校生達の通常スキル欄に言語スキルがあり、健吾だけは固有スキルの欄に言語スキルがあった事を。そしてそのスキルが恐るべき力を秘めていることを。 ※カクヨムでも連載しています

処理中です...