天職はドロップ率300%の盗賊、錬金術師を騙る。

朱本来未

文字の大きさ
上 下
9 / 118

009 盗賊さん、一仕事終える。

しおりを挟む
 他に取り立てて目につくものもなかったので、ボクは搬入作業が終わるまで休憩室を使われせもらうことにして、喪服の女性とは地下で別れた。休憩室に入るとソファの上に怠惰な青年が、いびきをかいて眠りこけていた。そんな彼を尻目に、ボクは空いた向かいの席に押しを下ろした。
 ボクにとって異質な地下の光景を思い返す。床に敷き詰められた砂の下に魔術的な作用をする物があるのだろう。それを調べさせてはもらえないだろうかと思案するも、首を横にふってすぐにその考えを捨てた。
 幼い頃から魔術の研鑽を積んで来たボクからしたら垂涎物の研究対象だけど、こればっかりは仕方ないかな。ここの人達にとっては古くから行われてきた当たり前の儀式なのだろうし、部外者がその在り方に干渉するようなことをすれば、不快な感情を抱かれるのは明白だろうしね。
 タラッサ聖教がどういった経緯で、ああいった思想に行き着いたのか、文化的な背景が気になるところだけど、その辺りのことは喪服の女性に聞けば教えてもらえるかな。今すぐ聞きたい気持ちもあるけれど、眠気が優っている。野盗襲撃後からずっと休む暇もなく、領都までゴーレムを走らせ続けていたので、肉体的にも精神的にも限界に達していた。椅子に腰掛けたままボクは、重たくなるまぶたを押し留めることも出来ずに、いつの間にか深い眠りに付いていた。

 ゆるやかに肩を揺すられ目を覚ます。
「目ぇ覚めたっすか。いま、まさかオレの方が起こすことになるとは思わなかったっすよ」
 のんびりとした青年の声を聴きながら目を瞬かせる。
「搬入作業は、終わったので?」
「みたいっすよ。さっきグレモリーさんが、そう言ってたんで」
 グレモリーというのは、あの喪服の女性のことだろう。
「あの方は、今はどちらに」
「いろいろと忙しい人っすからね、地下の作業を終えたら城壁内の教会に帰ったっすよ」
「もう城門が開くような時間になったのですか」
 いくら疲れていたとはいえ、かなり寝過ごしてしまったのかと少なからず焦る気持ちが湧く。
「あー、まだっすよ。夜間の通行許可証持ってるんすよ、グレモリーさん。ここのことがあるっすからね」
「そういうことですか」
 タラッサ聖教がバーガンディ領に深く根差しているのか、グレモリー女史が強い影響力を持っているのか、判断に迷うところだね。
「まぁ、何にしたって東の城門まで戻った方がいいっすよ。そろそろ夜も明けそうなんで」
「わかりました。行きましょう」
 休憩室を出ると馬車の側にキャメルスと呼ばれていた大柄な男が控えていた。ボクはひとりで搬入作業をやり切った彼に対して簡素な礼を述べた。
「ありがとうございました」
 すると男は厳しい表情のまま、ちいさく頭を下げた。
「キャメルスのダンナ、お疲れさまっす」
 ボクに続くように青年は労いの言葉を贈っていた。それを受け取った男は、再度頭を下げてから玄関扉の方に歩いて行ってしまった。その背を目で追っていると青年が急かすように口を開く。
「何してんすか、早く行くっすよ」
 青年は馭者席に座り、ボクにも早く来るように手でてしてしと座席を叩いた。すると大きな玄関扉が蝶番を軋ませながら開く。そちらに目をやれば、大柄な男が入口側の道具を操作して扉を開いたようだった。
 玄関扉の向こう側に目をやれば、共同墓地を囲う塀の門も開きつつあるようだった。
 遠隔操作で扉を開閉させる仕組みが気になりながらもボクはゴーレムを操って建物を出る。そのまま門まで馬車を進ませ、外へ。門を抜けるとそれほど間を置かずに扉は閉じられた。

「もう日が昇り始めてるっすね」
 東の空が赤く染まっていた。険しい山脈に遮られ、まだ太陽は姿を見せていないが、それも時間の問題だろう。
「開門は日の出からで?」
「開門は鐘が7つ鳴ってからっすね。今はまだ鐘5つくらいじゃないっすかね。朝、最初に鐘が鳴らされんのは6つ目からっすからね」
 それを聞き、ボクは本当に長いこと寝ていたのだと実感させられた。

 城門前に戻って来ると、昨晩はボクらしか居なかった馬車の数が増えていた。その荷台には野菜や穀類などが山となって積み込まれていた。
 それらの背後を通り、ボクと同じくレッドグレイヴ領から来た人達と合流しようと移動している最中に青年は馭者席を飛び降りた。
「んじゃ、オレはこの辺で失礼するっす」
 そう言うなり彼は人混みに紛れるように駆け去って行った。

「すいません、すべてお任せしてしまって」
 そう言ってボクを出迎えてくれたのは馭者のおじさんだった。その背後にボクの操る馬車に昨日同乗していた青年の姿もあった。
「問題ないですよ。それが最良の選択だったと思いますから」
 ボクの返答におじさんは困ったように苦笑していた。
「これとひとつ聞いておきたいのですが、この馬車はどうされます。乗合馬車の停留所まで運んだらよいのでしょうか」
「さすがにそこまではお手間を取らせられません。夜の内に衛兵さんを通じて組合に連絡を取ってもらいましたので、開門後に同僚がその馬車を引くための馬を連れて来てくれるかと」
「そうなんですね。でしたらどの辺りに馬車を置いておきましょうか」
「ここで構わないですよ」
「わかりました」
 ボクは馬車に繋いでいたゴーレムに対して奪取スキルを行使して、核として使った魔石だけを抜き盗った。すると土塊人形は、宿らされていた力を失ってボロボロと崩れた。
 崩れたゴーレムで馬車の前に土の山が出来てしまったので、手元の土の魔石で散らそうとして手の中の違和感に気付く。手を開き、その中に収まっていた魔石に目をやると、そこにあったのは複数の小粒な魔石ではなく、一塊となった大きな魔石だった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

母親に家を追い出されたので、勝手に生きる!!(泣きついて来ても、助けてやらない)

いくみ
ファンタジー
実母に家を追い出された。 全く親父の奴!勝手に消えやがって! 親父が帰ってこなくなったから、実母が再婚したが……。その再婚相手は働きもせずに好き勝手する男だった。 俺は消えた親父から母と頼むと、言われて。 母を守ったつもりだったが……出て行けと言われた……。 なんだこれ!俺よりもその男とできた子供の味方なんだな? なら、出ていくよ! 俺が居なくても食って行けるなら勝手にしろよ! これは、のんびり気ままに冒険をする男の話です。 カクヨム様にて先行掲載中です。 不定期更新です。

【完結】あなたに知られたくなかった

ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。 5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。 そんなセレナに起きた奇跡とは?

大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです

飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。 だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。 勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し! そんなお話です。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る

マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息 三歳で婚約破棄され そのショックで前世の記憶が蘇る 前世でも貧乏だったのなんの問題なし なによりも魔法の世界 ワクワクが止まらない三歳児の 波瀾万丈

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。

大国 鹿児
ファンタジー
輪廻転生のシステムのバグで輪廻の輪から外れちゃった! でも神様から便利なチートグッズ(笑)の詰め合わせをもらって、 他の星に転生しました!特に使命も無いなら自由気ままに生きてみよう! 主人公はチート無双するのか!? それともハーレムか!? はたまた、壮大なファンタジーが始まるのか!? いえ、実は単なる趣味全開の主人公です。 色々な秘密がだんだん明らかになりますので、ゆっくりとお楽しみください。 *** 作品について *** この作品は、真面目なチート物ではありません。 コメディーやギャグ要素やネタの多い作品となっております 重厚な世界観や派手な戦闘描写、ざまあ展開などをお求めの方は、 この作品をスルーして下さい。 *カクヨム様,小説家になろう様でも、別PNで先行して投稿しております。

[鑑定]スキルしかない俺を追放したのはいいが、貴様らにはもう関わるのはイヤだから、さがさないでくれ!

どら焼き
ファンタジー
ついに!第5章突入! 舐めた奴らに、真実が牙を剥く! 何も説明無く、いきなり異世界転移!らしいのだが、この王冠つけたオッサン何を言っているのだ? しかも、ステータスが文字化けしていて、スキルも「鑑定??」だけって酷くない? 訳のわからない言葉?を発声している王女?と、勇者らしい同級生達がオレを城から捨てやがったので、 なんとか、苦労して宿代とパン代を稼ぐ主人公カザト! そして…わかってくる、この異世界の異常性。 出会いを重ねて、なんとか元の世界に戻る方法を切り開いて行く物語。 主人公の直接復讐する要素は、あまりありません。 相手方の、あまりにも酷い自堕落さから出てくる、ざまぁ要素は、少しづつ出てくる予定です。 ハーレム要素は、不明とします。 復讐での強制ハーレム要素は、無しの予定です。 追記  2023/07/21 表紙絵を戦闘モードになったあるヤツの参考絵にしました。 8月近くでなにが、変形するのかわかる予定です。 2024/02/23 アルファポリスオンリーを解除しました。

処理中です...