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002 盗賊さん、野盗と遭遇する。
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パパに引き止められてた1週間で下調べは充分に済んでいたボクは、真っ直ぐ領都郊外にある乗合馬車停留所に行ってパパッと乗車手続きをした。
向かう先はここから1番近いダンジョンのある最寄りの他領地バーガンディ。到着までの日数は3日と割と短め。2番目に近いダンジョンを目指そうとするなら2週間は必要になるので、旅慣れないボクに他の選択肢はなかった。
乗車して2日、お尻が痛いのを気にしなければ旅程は問題なく消化されていた。
同乗している女の子とも仲良くなり、会話に花を咲かせて退屈することもなかった。
「ユーナちゃん、キャロブクッキー食べる?」
「食べるー」
「はい、どーぞ」
ボクらは並んでさくさくとクッキーを齧り、ささやかな甘味を楽しむ。
「ユーナちゃんのお母さんもどうぞ」
「あら、ありがとう」
微笑むユーナちゃんのお母さんに受け取ってもらうと、ボクは乗車席から乗り出して馭者席のおじさんにも声をかけた。
「おじさんも食べます?」
「いいのかい」
「えぇ、余らせてカビらせるのももったいないですし」
パパお手製のマジックポーチに入れておけば、カビることも腐ることもないけど、こうでも言わないと遠慮されちゃいそうだし、このくらいのウソなら吐いても罰は当たらないよね、たぶん。
「それじゃ、おひとつ頂かせてもらうよ」
「どーぞ、どーぞ」
他の同乗者とも似たやり取りをしてクッキーを配り、全員に行き渡ったところでユーナちゃんの隣に改めて腰を落ち着ける。すると急に馬車が停車して、つんのめった。咄嗟に床に手を着いて体勢を立て直し、乗車席から身を乗り出して馭者席のおじさんに質問を投げかけた。
「どーしました?」
「前走ってた馬車が止まったもんでね、ここからじゃ何があったのかまではわからんね。いや、これはいかん」
おじさんが険しい顔をしたのと同時に、前を走っていた馬車の方から激しく緊急事態を報せる鐘の音が鳴り響いて来た。
「襲撃だ」
そのつぶやきを合図にでもしていたかとも思えるタイミングで、前方の馬車を囲い込むように左右に広がる鬱蒼とした草木の合間から粗野な様相の男たちがわらわらと現れた。
前を走っていた馬車には護衛の冒険者たちが乗っていたはずだが、手慣れた野党が相手だったからか初動が遅かったために袋叩きにされいた。
馭者席のおじさんは馬車を方向転換させようと苦心していたが、野盗が投擲した石の直撃を受けた馬が暴れ出し、それどころではなくなってしまった。
このままでは馬車が横転しかねないと判断したボクは、即座にウエストポーチからナイフを取り出し、馬を繋ぐハーネスを手速く切断した。
馬は後脚二本で立ち上がり、激しくいななくと衝動に突き動かされるままにどこかへと駆け出してしまった。
「あの子、無事戻って来てくれるといいけど、今は目の前のことを片付けなきゃだよね」
乗車席から身を乗り出させていたボクは、馭者席を踏み台に外へと大きく跳躍して飛び出す。遅ればせながら背後からユーナちゃんの鳴き声を耳に届く。
「さて、どうしますかね」
ざっと見たところ野盗の人数は13人、3人いた護衛の冒険者は全員行動不能に陥っていて、不利を絵に描いたような状況だった。
でも、一見したところ野盗の中に魔力循環をして身体能力を向上させている者は見受けられない。野盗全員の天職が戦闘職ではないのならどうとでも出来そう。
幸いにもパパが用意してくれた物資の中に魔石もふんだんに有るし、ボクの劣化魔術だけでも充分駆除は可能な範疇のはず。
駆除対象の雑な戦力評価を下したボクは、全身を魔力循環で強化して通常の数倍になった脚力で地面を強く踏み締めるように蹴り、一気に野盗との距離を詰める。
ボクの急速な接近に一瞬だけ顔に驚きをにじませた野盗は、威嚇する獣のような吠え声を上げ、迎え撃つように剣を振りかぶった。
その動きはレッドグレイヴ領の精鋭騎士達の戦闘訓練を日常的に目にしていたボクからしたら余りにも緩慢だった。
剣が振り下ろされる前に野盗の懐にまでは踏み込んだボクは、水平に寝かせたナイフの刃を突き出し、肋骨を避けるようにして心臓を一突きで貫いた。
間を置かずにするりとナイフを引き抜き、絶命寸前の野盗に半身で体当たりし、身体の位置を入れ替えて背後からボクを狙って振り下ろされた斬撃の盾とした。
剣が骨を撃つ音を聴きながら後ろ手でウエストポーチから火の魔石を数個取り出し、最も術の発動時間の短いファイアブリッドを放った。
ちいさな火の弾丸は野盗を牽制し、次の攻撃を躊躇わせた。その隙を逃さず、ボクはナイフを投擲して2人目の野盗の首に命中させた。
喉元にナイフを突き立てられた野盗は声も出せず、首を掻き毟るようにもがくようながら倒れ伏した。
これでふたり。まだ残りは11人、油断しなければ問題なく処理可能な数だと自身に言い聞かせる。
今の挙動の間ずっと止めていた息を吐き、一瞬緩んだ気を引き締めるように短く息を吸った。
新たなナイフをウエストポーチから引き抜きながらボクは、再度目の前の戦闘に意識を没入させた。
向かう先はここから1番近いダンジョンのある最寄りの他領地バーガンディ。到着までの日数は3日と割と短め。2番目に近いダンジョンを目指そうとするなら2週間は必要になるので、旅慣れないボクに他の選択肢はなかった。
乗車して2日、お尻が痛いのを気にしなければ旅程は問題なく消化されていた。
同乗している女の子とも仲良くなり、会話に花を咲かせて退屈することもなかった。
「ユーナちゃん、キャロブクッキー食べる?」
「食べるー」
「はい、どーぞ」
ボクらは並んでさくさくとクッキーを齧り、ささやかな甘味を楽しむ。
「ユーナちゃんのお母さんもどうぞ」
「あら、ありがとう」
微笑むユーナちゃんのお母さんに受け取ってもらうと、ボクは乗車席から乗り出して馭者席のおじさんにも声をかけた。
「おじさんも食べます?」
「いいのかい」
「えぇ、余らせてカビらせるのももったいないですし」
パパお手製のマジックポーチに入れておけば、カビることも腐ることもないけど、こうでも言わないと遠慮されちゃいそうだし、このくらいのウソなら吐いても罰は当たらないよね、たぶん。
「それじゃ、おひとつ頂かせてもらうよ」
「どーぞ、どーぞ」
他の同乗者とも似たやり取りをしてクッキーを配り、全員に行き渡ったところでユーナちゃんの隣に改めて腰を落ち着ける。すると急に馬車が停車して、つんのめった。咄嗟に床に手を着いて体勢を立て直し、乗車席から身を乗り出して馭者席のおじさんに質問を投げかけた。
「どーしました?」
「前走ってた馬車が止まったもんでね、ここからじゃ何があったのかまではわからんね。いや、これはいかん」
おじさんが険しい顔をしたのと同時に、前を走っていた馬車の方から激しく緊急事態を報せる鐘の音が鳴り響いて来た。
「襲撃だ」
そのつぶやきを合図にでもしていたかとも思えるタイミングで、前方の馬車を囲い込むように左右に広がる鬱蒼とした草木の合間から粗野な様相の男たちがわらわらと現れた。
前を走っていた馬車には護衛の冒険者たちが乗っていたはずだが、手慣れた野党が相手だったからか初動が遅かったために袋叩きにされいた。
馭者席のおじさんは馬車を方向転換させようと苦心していたが、野盗が投擲した石の直撃を受けた馬が暴れ出し、それどころではなくなってしまった。
このままでは馬車が横転しかねないと判断したボクは、即座にウエストポーチからナイフを取り出し、馬を繋ぐハーネスを手速く切断した。
馬は後脚二本で立ち上がり、激しくいななくと衝動に突き動かされるままにどこかへと駆け出してしまった。
「あの子、無事戻って来てくれるといいけど、今は目の前のことを片付けなきゃだよね」
乗車席から身を乗り出させていたボクは、馭者席を踏み台に外へと大きく跳躍して飛び出す。遅ればせながら背後からユーナちゃんの鳴き声を耳に届く。
「さて、どうしますかね」
ざっと見たところ野盗の人数は13人、3人いた護衛の冒険者は全員行動不能に陥っていて、不利を絵に描いたような状況だった。
でも、一見したところ野盗の中に魔力循環をして身体能力を向上させている者は見受けられない。野盗全員の天職が戦闘職ではないのならどうとでも出来そう。
幸いにもパパが用意してくれた物資の中に魔石もふんだんに有るし、ボクの劣化魔術だけでも充分駆除は可能な範疇のはず。
駆除対象の雑な戦力評価を下したボクは、全身を魔力循環で強化して通常の数倍になった脚力で地面を強く踏み締めるように蹴り、一気に野盗との距離を詰める。
ボクの急速な接近に一瞬だけ顔に驚きをにじませた野盗は、威嚇する獣のような吠え声を上げ、迎え撃つように剣を振りかぶった。
その動きはレッドグレイヴ領の精鋭騎士達の戦闘訓練を日常的に目にしていたボクからしたら余りにも緩慢だった。
剣が振り下ろされる前に野盗の懐にまでは踏み込んだボクは、水平に寝かせたナイフの刃を突き出し、肋骨を避けるようにして心臓を一突きで貫いた。
間を置かずにするりとナイフを引き抜き、絶命寸前の野盗に半身で体当たりし、身体の位置を入れ替えて背後からボクを狙って振り下ろされた斬撃の盾とした。
剣が骨を撃つ音を聴きながら後ろ手でウエストポーチから火の魔石を数個取り出し、最も術の発動時間の短いファイアブリッドを放った。
ちいさな火の弾丸は野盗を牽制し、次の攻撃を躊躇わせた。その隙を逃さず、ボクはナイフを投擲して2人目の野盗の首に命中させた。
喉元にナイフを突き立てられた野盗は声も出せず、首を掻き毟るようにもがくようながら倒れ伏した。
これでふたり。まだ残りは11人、油断しなければ問題なく処理可能な数だと自身に言い聞かせる。
今の挙動の間ずっと止めていた息を吐き、一瞬緩んだ気を引き締めるように短く息を吸った。
新たなナイフをウエストポーチから引き抜きながらボクは、再度目の前の戦闘に意識を没入させた。
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